1話 プロローグ
「助けてくれなのじゃ!」
この真っ白な空間にたたずんで、1秒も経っていない。
それなのにカナトの胸の中に小さな少女が飛び込んできた。
カナトは思わず抱き留める。
少女のフワッとした重たさが、両腕に伝わってくる。
毎朝、仕事へ行く途中にコンビニで寄るのが習慣になっていた。
そこへ車が飛び込んできた。
窓際の通路を歩いていたカナトは何もできかなった。
車が腹に突き刺さったまま、壁まで吹き飛ばされて即死した。
一ノ瀬奏斗35歳の人生は、この時点で終わりのはずだった。
しかし、気が付けば、真っ白な空間で、美少女がカナトの胸にしがみついている状態。
混乱するなというほうが無理があるだろう。
「ぼーっと立っていないで、早く私を助けるのじゃ」
白髪の美少女は顔を真っ赤にして、カナトを急かすが、何から助けていいのかもわからない。
怯えたように、しがみついて大声で急かしてくる。
少女を放置しておくわけにもいかない。
しっかりと少女を抱きしめて、落ち着かせる。
突然、前方から大きな怒鳴り声が聞こえた。
「こらダメ神。そんな奴を召喚したのか。ただの人間ではないか。そんな人間で我から逃げられるか」
体長3mを超える巨漢の大男が髪を逆立てて迫ってくる。右手にはこん棒のようなメイスを持っている。
巨大なメイスで叩かれれば、普通の人間は即死コース確定だろう。
大男の目は真紅に染まっていて、本気の怒り狂っているようだ。
「創造神様に向かって無礼ですよ」
カナト達と巨漢の大男の間に、スラリとした銀髪の美女が両手を広げてたちはだかる。
その美貌はまさに天女と言っていいほど整っている。
手には細い杖が握られている。
美女は大男を前にしても一歩も怯んだ様子はない。
「天神、ゼパスよ。創造神様をいじめるのをやめなさい。創造神様は私達の親も同然なのですよ。もっと敬いなさい」
「うるさい。創造神と言っても、神を創造する力しかないではないか。実質、天、地、海を支配しているのは我ら3兄弟なのだぞ。我らが最高神を名乗って何が悪い。地上でも信仰されているのは我等ではないか」
「それは創造神様には名がないからです。地上の民達の伝承でも創造神としか知られていないから、信仰が集まるはずはありません。しかし、私達を生んだのは偉大な創造神様です」
「もう創造神の時代は終わったのだ。我等3大神で、これからは神界を支配する。創造神は邪魔だ」
銀髪の美女はクルリと体を反転させ、カナトにしがみついている少女の前にひざまずく。
体のすべてから神々しいオーラが輝いているように美しい。
「創造神様、私では天神ゼパス、地神ナディア、海神オリュポスを説得できません。誠に申し訳ありません。人間よ。これからは創造神の守護を頼みます。あなたには私の神としてのスキルを与えます。名は何と言いますか?」
「俺の名はカナトだけど……」
「幸運の女神フォルナの名によって命じます。カナトに無限の幸運を与えます。」
その言葉を聞いた時、カナトの頭の先から、つま先まで電流が走ったように何か不明な力が伝わってきた。
幸運の女神フォルナから、無限の幸運を与えられた結果、カナトの全身が青白く光り輝く。
すると今までカナトの胸の中で怯えていた少女が、熱のこもった目で見つめてくる。
そして小さな可愛い唇から言葉が発せられる。
「創造神の権能により、今、1人の神を創造する。創造神の守護神。名はカナト」
カナトの心の奥から、体の奥から力がみなぎり、全身が光り輝いて、全てが作り替えられ創造されていく。
強制的に人間から神へと作り替えられているらしいが、本人は気づいていない。
自分の体が光輝いている。
思わず両手を見て驚く。
「その手があったか! お前達の思い通りにはさせん!」
巨漢の大男、天神ゼパスは両腕で巨大なメイスを空中へ向けて振る。
するとメイスの先から雷鳴がとどろき、稲妻が天空を走る。
そして真っ白な空間にヒビが入り、稲妻が当たった部分に大穴が開いた。
「創造神よ。お前は神界から追放だ。出ていけ」
急に真っ白の空間に突風が吹き荒れ、カナトと少女の体が突風で浮きあがり、天空にできた大穴へ向
かって飛ばされていく。
眼下を見下ろすと、銀髪の女神フォルナが胸の前で両手を握って、心配そうにカナト達を見ている。
「カナト……あなたは創造神の守護神となりました。必ず創造神を守ってください」
急に守護神になったと言われても、理解を超えている。
現在、何が進行されているのか、カナトには全くわからない。
ただ、わかるのは大穴から外界へ放り出されるということだけ……
カナトは両手でしっかりと白髪の少女を抱きしめる。
神界の大穴から放り出され、カナトは創造神の美少女をギュッと抱きしめながら、大空を落ちていく。
外界は夜で、地上は全く見えない。
「いったい何が起こってるんだ―――?」
どれだけの高さから落ちているのか判然としないが、このまま地上に落ちれば確実に死ぬだろうと
カナトは悟る。耳元では「ゴ――」という、自分達が空を落ちていく音しか聞こえない。
カナトは必死に抱き留めている、少女が助かる方法を考える。
どうしても助かる方法が思いつかない。
《創造神様、カナト様、大丈夫です。私達が守ります》
カナトのすぐ耳元で小さな声は聞こえる……姿は全く見えない。
《私達はこのカルデナ世界に充満している魔素です。創造神様に協力いたします》
カルデナ世界? 魔素?
声は聞こえてくるが、内容を理解することが全くできない。
しかし、助かったという思いがカナトの心に芽生える。
それだけで気が楽になり、そのまま空中で気を失った。
新作を投稿いたします(*^▽^*)