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『少女との質疑応答録』

 神速の少女はその名の通り……ではないが、神にだけ許されているかの様な技を持つ少女であった。強い人間は魔王様の驚異であり殺しの対象であるが、この少女の心までをこちら側に引き込めたのなら。そう思ってしまう私は所詮人間という事だろうか。そして、できるのなら仲間、否、下僕にして欲しいという魔王様のお願い、否、命令を聞かなくては。



「あのッ──」と無断で話そうとするのはこの少女の性格なのか、余裕があるのか、もう五回目だ。あの日、私に殺されかけたのにも関わらず、私と二人っきりの状況に耐えられるだけの度胸はあるようだ。少し前から落ち着きがないが、それくらいは度胸に免じて許してやっている。もてなす必要もないが黄色い果実を搾っただけの飲み物は十分な量を用意しており、美味しそうに何杯も飲んでいたので満足しているはずだ。まだまだ子ども、ということか。私はこちらの質問だけに答えろとだけ言い、少女をもう少し観察した。少し頬が赤いが熱があるのだろうか? あとで娘に様子を見させる、しかしそれはここを出られたらの話だ。ちなみに、ここで許可なく時を停める技を使った事がわかった瞬間に首を絞めて殺すと言ってある。そして今日も娘は魔女のところに置いてきた。



/* プロテクト

 では能力の事を聞こう。時を停める能力の詳細を。

「その前に、能力の話はここだけの話にして欲しくて……」


 広まればそれだけリスクが大きくなる、当たり前か。知るのは私だけだと言い、話すよう促す。日記への記述もこの部分は私だけにしか見えない様にプロテクトを施しておく。



「時間を停めているのは結果にすぎないのです」

 何かをしているときにそうなるわけだ、時を止めてくださいとでも神に祈ってるのか。

「やはりスゴい……神に祈りを捧げる言葉を発している時だけ時間が停まってくれます」

 本当に神がいると思うのか。

「うん……じゃなくて、はい! それがどんな存在かはわからないですけど……」

 で、他には。

「祈りを捧げてる間の私という時間を神様に捧げている感じなんです」

 そう感じる根拠は。

「祈りを捧げている最中に暴力的な事をしてしまうと祈りを捧げ終えた時にひどい頭痛がして、血を少し出させただけでも気絶したほどだった……らしいので、ちゃんと神に見られていて罰を下されているのだと、思います」


 ? 気絶したほどだったらしいとは何なのか。

 まぁいい。

 

 だから攻撃する直前には姿を表す、と。

「はい」

 では祈りを捧げる時間をやろう。

「?」

 そして祈っている時に私の手を叩け。

「ぇ──いやです、あの痛みをまた──」

 やれ。

「ぅ……ぅうぅうう……でも叩くくらい、なら……でも……ぅうう」


 唸るように渋った少女。

 そして手を叩かれる感覚がした瞬間。


「!! 痛いぃだイ!! 痛ッ──がァッっ!

 ──ぬッ死ぬッァああッっ!! ぐガァ──

 ァあ! 痛い! いた……ッイ痛い痛ッい!!

 ごめン……ッ──なッ……ざぃッ! ッ……うッッ!

 ──ッぃ、ダい! ッッ……無理ィ──ッッ?!

 いダ、イぃッ──イッ……だい! 痛い、ッ!

 嫌ッ! ィダ……ッ! あッ……ぢぬゥ……ッ!

 いタイッ! ッ──痛ッ!! イだぃ痛い!!

 …………ッ…………ハァ、はぁ……ッは……ハッッ──」

 なるほど、叩いただけでこれか。

 ならもう一度、次は出血──

「ヒィッ……ご、ごめンなざぃ、デキまぜん……ゆるジでッ──」


 うそでは、なさそうだ。

 そしてこの少女は漏らすのが好きらしい。

 いや、それほど痛かったということか?

 子ども、だな。


 下を脱げ、水で洗い流す程度はしてやる。

「は、はひぃ────あッ! ひァ……ッ! ぅうあァ……」

 後ろを向け。

「ぅうッ──きゃゥ……ッ──ゃァ……見られてる、グスン──もぅお嫁に行けなィ……ぁ、でもそっか! えへへ……」



 椅子も床も水で流し、そのまま椅子に座らせる。

 炎だけ近くに出現させておけばいいだろう。

 聞き取りを続ける。

 

 死ぬ気になれば誰であれ一回は殺せるわけだな。

「……できません」

 何故だ。

「したくないからです」

 もう一度聞く、出来るということだな。

「できません……」

 ふざけているのか。

「ちがうんです、死ぬくらいならできます……でも、たぶん何かを意図的に殺したら死ぬなんて生優しいもんじゃない気がするんです……」

 根拠は。

「ない、です……」

 …………。


 まぁ、わからないでもない。

 私は推論学者ではない、がしかし少しの疑問くらいは持つ。

 命を奪った罪は最終的に命を奪われる事で完結する、はたしてそうなのか? 誰が決めたルールなのだろうか? きっとそれは生き物が自分達の力で出来る最大限の罰だからなのではないか? もし魂なるものが存在しそれを自分達の力で隔離でき、更には自分達にプラスになる結果を及ぼしてくれるとなると、殺人の罪は死のその先にまで延びる可能性は十分にあり得るのではないか。

 もし、もしも少女が言うように、仮にシステム的にでも、少女の世界という限定的な場所だけだとしても、そこに神が存在し、罪を観測、罰を与えているのだとすれば、私は──



 ────知りたい、故に人体実験だ。

「ぇ? 人体、実験って?」

 ここにナイフがある。

 祈りを捧げながら、私を傷つけろ。

「!! イっ、ぃヤですッ──」

 …………。

「──ィヤだ嫌──ッづ、もぅ痛ィのシタくなィっ……ッ!」

 したくない、ではなく──


 少女は椅子から立ち上がり、後ろに下がろうとして腰を落とす。


 ──私は君にお願いをしているんだ。

「ゅるジ──ッ、他のごどナら……ッッ! 何──もッ!」

 許すもなにも、君は悪いことなどしていない。


 私が立ち上がると少女は尻餅をついたままの姿勢で壁まで下がった。せっかく乾きそうだった少女の下半身の肌がまた濡れる。壁まで追い詰めると、少女は泣きながら私の顔を見つめる。睨んでいる顔ではない。敵意はなく、ただの恐怖か。



 ……ただ私が知りたいだけだ。ワガママを許してほしい。許して、くれるか。

「…………」


 私はあの日の表彰式と同じか、それ以上のほほえみを見せる。そして怯える少女の頬を片手で優しく撫で、もう片方でナイフを差し出す。


 これは命令ではない。ただのお願いだ。もし他の人へ、同じように私からお願いをしても、みんな私から逃げ出してしまうだろう……。やはり君も私から逃げてしまうのだろうか。

「────なィ……ッ」


 私がそう言いナイフを持った手と頬の手を下げようとすると、少女はどちらの手もガッチリと掴み引き寄せた。


 して、くれるのか? こんな私の馬鹿げたお願いを聞いてくれるのか?

「……きく、私は逃げッ……なィ」


 聞かないのであれば、また首を絞めて死か痛みかを問うていただけだ。ナイフを持った少女の手はこれでもかと言うほど震えている。少し危ないか、と思ったがそこでふと思い出した。

「血を少し出させただけでも気絶したほどだった……らしい」

 普通に考えれば気絶したのは痛みの最中、体が耐えられなくなった事で起きたのだろうと。しかし途中で気絶できる痛みなら罰は一律であるといってもいい。そんな優しいのか? 可能性として罪が重いと気絶してから痛みを感じるのではないか。そして、もしそれが痛みを感じる夢のような世界であるなら、そこで私の幻術は有効なのか? ただ疑問から生まれた知的好奇心。

 ただ痛みが強すぎて気絶するだけなら意味はないが試してみよう。私は少女からナイフを取り上げ、自分の手を斬り血を出す。そして少女に血を飲ます。


 口を開けて飲め。

「ァむッ──ずちゅぢゅッ……コクッゴクッ──これ、は……?」

 戦った時のように、君の中に行き寄り添うくらいは出来るかもしれない、痛みを感じている時にどうして欲しいか、何て声をかけて欲しいかを考え続けるといい。

「お優しいです」

 ……もっと吸って飲め。

「はむっッ……ちゅずゅッ──ンむッッ、ンっ……あッ──」

 もういいだろう。

「──はい……」

 …………。

「わかりました」

 ……。

「あなたの為に」

 ……。

「大丈夫です」


 もう少女は幻術の世界だ。少し早すぎた。ナイフで斬られるまでは幻覚と私を同調させておかないといけない。


 …………。

「では一緒に──」


 そう言って刺された腕は結構な深傷。

 幻覚と少しズレた様だ。

 大丈夫かと心配した瞬間に、少女は倒れた。


 少女は息をしていない。


 心臓の音も聞こえない。


 目に光もない。


 死んでいる。少女は確実に死んでいた。

 しかし、三十秒経っただろうか?

 急に少女は復活し、私の胸に抱きついて号泣した。

 何があったのか、は大体予想はできる。


*/

 どうした。何があった。

「イたぐて、ながぐテッ──ッッ」

 どれくらいの長さだった。

「三日……? いっじゅう、がん……? わが──なひッ……!」


 死んでいたのはわずか数十秒。その中で少女は長い時間を過ごした。と言うことは、命を奪った場合はどれ程長くなるのだろうか? 戻った時には廃人になっているかもしれない。

 もうひとつ、私の幻術はどうなのか。


 私は側に──

「ぃデぐれッ……だッ! ──ぎッ! すきィっ!」

 ──そうか。


 罰を受けている空間で私の幻覚が見えたのなら、まだ研究できる予知がありそうだ。この少女は大切にしてみよう。



「……ガンバった……ご褒美、キヅじで! キッ──!!」


 大切にすると思った矢先、子どものおねだり。フンッ。

 私は少女の後頭部と腰に手を当て強引なキスをした。

 泣いていたので少女の鼻は詰まっている、少女はしゃべっている最中だったので空気も薄い、がそんなのは関係なく少女の息が続かなくなっても止めない一分五秒のキス。

 窒息死、二度目のトラウマになればいい。



 少女が落ち着いた所で、話の終わりを告げる。


 終わりだ。まずは学園生活に戻り、卒業しろ。

 こっちに来るのはそれからだ。

 あとここで待っていろ。

 娘に着替えを持ってこさせ、一応治療もさせる。

「はい」


/* プロテクト

 席を立とうとした私はまた思い出した。

 血を少し出させただけでも気絶したほどだった……らしい

 この言葉に何か引っ掛かる。そして、わかった。


 少女以外の他の誰かが関わっている。

*/


 まて、能力の事を詳細に知っているやつは私以外に、誰だ。

「……私、です」

 もう一人は、誰だ? 複数人か?

「……………………一人の幼馴染みです」

 そうか、あの村にいるお前の幼馴染みだな。

「はぃ……」

 始末しておこう。

「ッ……幼馴染みは見逃して欲──」

 私との結婚か、幼馴染みの命か、どちらかを選べ。


 こんな問いは意味がなかったか。

 人間であるなら最初から答えは決まっている。



「──優しく殺してあげてください……」


 ……予想外であり、実に嬉しい反応であった。

 後戻りができないのは良いことである。


 わかった。優しく殺すと約束しよう。

「……ありがとうございまず」


 少女は笑顔で泣いていた。

 これは喜びか、悲しみか、それとも──。


 少女の心が涙で溺れ死に、少しずつ闇へと染まって行く。

 将来が楽しみである。


 

 ここで今日の日記は終わりとする。

次話───『勇者の村』


更新不定期ですが、

どうぞよろしくお願いいたします

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