『不死と不老の魔女』
魔女は不老であるが不死ではない。この世で一番魔法に長け、自ら新しい魔法を生み出す魔女の魔法を駆使しても不死は発生しない。しかしある魔女は不老不死だと言われている。どういう事なのか、今日はその調査をして欲しいという魔王様のお願い──否、命令を聞かなくては。
先日手に入れた娘を連れて噂の魔女の元へゆく。誰かと共に行動するのはいつぶりの事か。そんなことより魔女の噂が本当であるなら、この娘の実力は魔女の足元にも及ばないだろう。しかしそれは私にも言える。何故なら"不死身の勇者になった"からと言っても娘ありきであり、私もこの娘も不死ではないからだ。不死とはそれだけで何者以上にもなる特別で暴力的な力である。
調査する為に不老不死の魔女に会いに行くことを娘に伝えると、娘は顔を赤らめ体を捩らせながら上目遣いで「また……いくの?」と返してきた。魔女が居なくなったという報告がない以上、あの勇者一行で挑み軽くあしらわれたという事だろう。娘の様子が少しおかしいのでこのままここに残るよう促してみると「……勇者がいくなら私もいく」と言う。何かトラウマがあるのだろうか?
目の前に居るのがおそらく噂の魔女。私は見るのが初めてだが、娘が「あらあなた、また来たのね?」と話しかけられている所を見ると間違いないだろう。私の後ろに隠れながらヒョッコリ半身だけ出し魔女を覗いている娘は怯えているというよりは何故か恥ずかしがっている。念のため聞いた不老不死の魔女なのかという問いには予想通りの返事であった。であるならと不死の方を教えてもらおうとする、がやはり丁寧に断られてしまう。
こうなると手段は一つしかない。そう思い終わった時には既に魔女の先制攻撃も終わっていた。「分かりやすい子は好きよ?」微かな殺気も見逃さないというのか、私はこの魔女を少しなめていた様である。そして魔女の先制攻撃は当たり前に魔法であった。何かをされたというのは分かるが何をされたのかまでは解らない。状態異常だろうか? 私は防御障壁で多くの攻撃を防ぐことができるが、娘はトロンとした目になり息も荒々しく体が火照って暑いのか服をはだけさせ始めた。これはもしかしてと感じ、それはすぐに娘の言葉で正しいことが証明される。「ねェ……勇者も早く脱いでよぉ! また二人で気持ちよくなろう?」娘は発情していた。私は娘に見えない様、すぐにフードで自分の顔を隠す。何故なら精神支配は精神支配で破られてしまうからであり、発情と同時に娘に対する私の幻術が解かれた可能性があるからだ。
発情、これは状態異常ではあるが精神支配がもたらしている可能性が高い。であるなら私にも対処はできる。娘は膝をついて口で親指をしゃぶっては抜き、しゃぶっては抜きを繰り返しながら上目遣いで大きく口を開けてくる。私はその物欲しそうな口に血が滴る私の人差し指を突っ込むと娘の舌が絡み付き血を舐め取る。それだけではなく口内の空気を無くすように吸引、行き場をなくした娘の舌が私の指の下側で蠢く。娘は幸せそうな顔をしているが血はこのくらいでいいだろう。唾液で抜けやすくなっている私の指を口から抜くと同時に娘に再度幻術をかけた。
魔女がかけた発情効果を消し去ったと同時に娘にいつも通りの幻覚を見せ、ついでに魔女の見え方も変える。娘は我に戻ったあと恥ずかしそうに服を整えるが魔女のほうを見た瞬間にすぐに顔を怖ばらせ、すぐさま魔女に円形のバリアを張り爆発魔法を放った。予想以上の反応で躊躇のない攻撃、私はそれほど嫌われているのだろうか? 私も娘に合わせ魔女の影に向かってナイフを投げ突き刺す、短い間だが対象の動きを止める影縛りである。そして魔女は私の思惑通り簡単に灰となり散った。その時に少し気になったのは魔女の後ろにある家で皿の割れる音がしたことだろう。
本当に不死なのだろうか? それもこれで分かるだろうと軽く考え殺しにかかったのが間違いであった。魔女だった灰が一ヶ所に集まり人の形を作り出し魔女は復活したが様子が少し違う。先程は少しの殺気も感じられなかったが復活した魔女からは殺気しか感じられなかった。怒らせてしまったという事だろう、当たり前か。不死が本当とわかった所で勝敗は決まった。私はこの場から逃げ出そうと娘を抱き寄せ転移魔法を使おうとしたが、それも既に遅かった様だ。
「人間風情が、逃げられるとでも?」その言葉の意味する所、魔女と出会った時からこの場所は気にならない程の大きなバリアで包み込まれていた。そしてそのバリアは私と娘を囲う程度の大きさまで縮み、魔女は躊躇うことなく黒く細い光線を放ってきた。圧縮された高威魔力体だろう。それを見た娘はバリアに向かって爆発するような特性の魔法を発動させた。その爆発は白く透明で触れるとふわふわと優しい感覚、これは回復魔法である。魔女の光線は威力を増しながら私と娘を幾度も貫くが、それ以上に回復の効果が高くなっていく。発情している時の娘はどうかと思ったがこればかりは助かった。それに気づいたのか魔女はこちらに手をかざし握力で握り潰す動作をし始める。何をし始めたのかはすぐにわかった。私の周りの空間が圧縮されミシミシと音を立て潰れていく。光がオーロラのようにネジ曲がっており、既に周りの景色を正しく見ることはできない。娘もこれはどうしようもないのか「ごめん勇者、これは……無理」と泣きそうな顔で私にしがみついてきた。そして魔女が一気に握りつぶした瞬間、魔女の後ろにある家の扉が勢いよく開いた。
そこには十歳ほどの男の子がおり、出せるであろう限界の声量で男の子は叫んでいた。「人は殺しちゃダメ!!」その声が聞こえ終えた時には私と娘が魔女の居た地点に立っており、元居た場所には魔女の肉塊、後ろには男の子の肉塊が転がっている。どういう事かと思っていると男の子だった肉塊が動きだし徐々に男の子の姿へと戻っていった。そして少し遅れてもう一つの肉塊も動きだし魔女の姿へと戻る。魔女がどう頑張ろうと魔法で不死は発生しない、であるなら魔女と一緒に居るこの人間の男の子は何なのか? なぜ肉塊から元に戻ったのか、答えはひとつであった。
復活した魔女は私と娘を気にも止めず男の子の所まで飛んでいき「け、怪我はないか? 体は大丈夫か? すまん、二度も痛い思いをさせたな」と必死そうに男の子を気遣った。先程の殺気に満ちた魔女は何処へ行ったのか。男の子を見ていると「もう……解ったでしょう?」と魔女が不機嫌そうな顔をこちらに向けて言う。そして男の子もこちらを向き悲しそうな顔をし「メイサをいじめないで」という。吹けば転びそうな奴だが、私と娘の命があるのはこの男の子のお陰である。そして主導権は魔女ではなくこの男の子にありそうだ。私は男の子に「すまない、助けてくれてありがとう」などと普段言わない事を言う。少し声が震えていたかもしれない。しかし言わないわけにはいかない。私はこの二人を放っておくことにし、その場を離れた。
一緒に居る男の子が不死で、魔女はただただ強い魔女であった。魔女は二つの生体を連動させるような魔法を生み出し、不死の男の子と自分を結びつけたのだろう。生体リンクというところか。これで不死と不老の魔女が出来上がるという訳だ。同時に不老と不死の男の子も出来上がる。私ではこの二人をどうこうできる訳もなく、不死の正体とその方法が解っただけでも今回は十分な調査だったのではないかと思う。そしていつぶりだろうか、この日は生き残ることができた嬉しさを感じた日であった。
ここで今日の日記は終わりとする。
次回──『神速の少女と私の失敗』
よろしくお願いします