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第57代目勇者『不死身の勇者』

 今日は魔王を倒さんと奮起している勇者一行をどうにかして欲しいという魔王様のお願い──否、命令を聞かなくては。


 勇者一行を発見したので近づいてみるが、やはり警戒はしていない。それどころか村までの道のりを聞いてきた。まあ仕方のないこと、何故なら私は人間なのだから。


 無防備な勇者が目の前にいるので試しに人間の目には止まらぬだろう速さの手刀で勇者の心臓を15箇所ほど刺してみる。すると勇者は膝をつきはしたが「貴様、何をッ……」と言いながら立上がり剣を構えた。さすが第57代目勇者、別名『不死身の勇者』本当に不死身なのか? 私の先制攻撃は失敗に終わったので一先ず距離をとる。


 勇者一行が戦闘体制になった。先ほど心臓を15回刺されたはずの勇者が元気そうに剣を振り回しながら凄まじいスピードで私の目の前まで迫り、持っている剣で勢いよく斬りかかってきた。鋼が打ち合う音が響き、勇者の斬撃が火花を散らしながら私の手のひらで止まる。しかし剣が手のひらで止まっているのにも関わらず勇者の斬撃は止むことはなく、私の身体中(からだじゅう)から鋼が打ち合う音が計14回聞こえた。初撃を含めて15回、嫌な性格の勇者である。斬撃が終わると勇者は少しふらついたが「硬いな」と言い残し私から距離をとる。


 私は勇者の行動を振り返り分析、そしてどんな攻撃なのかが大体わかった。勇者は剣を振る動作で見えない刃を14発も飛ばし、その刃よりも早く距離を詰め、真正面から打ち合う事で私の動きを止め、剣を動かすこともなく15連撃を放った様に見せたのだ。悪くはない。しかし正面から動きを止めている以上、勇者は自分が飛ばした14発もの刃を身に受けているので諸刃の剣である。不死身の勇者だからといってやり過ぎ感を否めない。


 次はどうしようかと考えていると、攻撃を受け入れるというのだろうか、勇者が私に手招きをした。誘われたなら行くしかない。私も先ほど勇者が使った技のようなものを考えたことがある。通りすぎるだけで対象を切り刻むというものだ。私は先頭に立つ勇者ともう二人の横を人間には見えないであろうスピードで移動し、その時に発生した風を無数の刃に変える。自然と魔法を組み合わせた技、名前をつけるとすれば『滅びの風』だろうか。風を感じた部位は全て切り刻まれ肉塊と塵に化す。私の後ろには例外なく勇者たちの肉が転がっており、既に息はない。しかし目の前には一人まだ勇者の仲間が残っており、私の影に潜む形となり風の影響を受けていなかった。


 目の前に居るのは小柄ではあるが発育のよい身体をしている娘だ。様子を見ていると娘は状況を理解したのか慌てて私を包むように円形のバリアを張り、滅びの風で肉塊になった勇者達に魔法をかけ始める。私はバリアを壊そうと中から強めの魔法を撃ってみたが、バリアに魔法が触れた瞬間に跳ね返ってきた。それを避けてもまたバリアで跳ね返る。それだけではなく跳ね返る度に威力が上がっているようで、厄介なバリアである。仕方がなく私は自分の魔法をこの身で受けた。自分の攻撃とは言えど私の防御障壁を破り傷を負わせたのはこの娘が初めてだ。娘が作り出したバリアに感心している間に何故か勇者が生き返っている。この時、私は理解した。不死身の勇者はこの娘が為しているのだと、そしてこの娘が欲しいと心の底から感じた。


 すべての魔法を跳ね返すであろうバリアをどうしようか考えていると、娘が私に向かって爆破魔法を放ってきた。その爆発は外からバリアを通り抜け内側へ入ってくる。そして内側で爆発した魔法は跳ね返り永続的に威力を増し爆発し続ける。このままではいつか私は負けてしまうが、バリアなど持続型の魔法は常に術者の魔力で維持し続ける必要があるものが多く、このバリアもその一種であった。それは術者の娘の歪んでゆく顔を見ていたらわかる。私の体力を削るほどの威力を閉じ込め続けるバリアの維持など並大抵の実力では不可能だ。故にこの勝負は私が延々と続く爆発に飲み込まれ死ぬのが先か、術者である娘の気力が尽きバリアの維持ができなくなるのが先かで決まる。


 結果、バリアが消えた場所に私は生存していた。身体中から出る血飛沫が霧となり風と共に流れ、片腕が炭と化し、動こうとした瞬間に片足は千切れ地面に落ち、胴体は元の形がわからないほど焼きただれ、顔面の半分も崩れている。しかしこれは私の確定的な大勝利であった。


 疲れきった娘は頭を持ち上げる元気も残っていないのか下を向き息を切らしている。続いて魔法を使おうものなら発動する前に娘は気絶してしまうだろう。やっと頭を上げてこっちを見たかと思ったら、娘は何故か私に笑顔を向けてきた。それを見た私は少し焦る、娘を気にしていたせいで復活した勇者達の存在を忘れていたのだ。そして私は不意をつかれ勇者達に攻撃されてしまった。


 先程の娘が行った攻撃で私の防御障壁は消えており勇者の剣撃を防ぐことはできない。しかし癖だろうか、私は勇者の剣撃を残った手で止めようとしてしまい無惨に指先から肩までを真っ二つにされてしまった。しかし攻撃はそれだけでは終わらず、勇者の見えない刃が42発、私の体を切り刻んでゆく。そのあとすぐに頭上から飛んできた矢が私の脳天、両肩、みぞおち、太ももを貫き地面に固定される。そして最後に大空が赤く燃え上がり大きな岩が三つ、炎を纏いながら私に落ち、大きなクレーターを作った。


 しかし、その光景を見ていた娘の笑顔はいつからか恐怖へと変わる。勇者達は娘の目の前でクレーターというベッドの中で灰となり散ったのだ。


 私が娘の前まで行くと娘は私を絶望した目で見上げた。「私の一部を人間が取り込むと私の思うように幻覚を見せられる」これが娘に聞こえているのか聞こえていないのかは分からないが、私は娘に幻覚を見せ続ける事にした。私が勇者に見えるように。


 娘の顔には明るさが戻り、満身創痍の私を気遣った。そして数秒ほど目を合わせた後、娘は私の唇にキスをしてきた。勇者が大好きだったのであろうか。




 ここで今日の日記は終わりとする。

次回──不死と不老の魔女

投稿予定 2019年02月21日 19時


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