表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の黒砂糖 ~最初に出会ったのは死にかけの奴隷だった~  作者: tatakiuri
第三章 叡智と狂気が相見え
53/55

53.新しい居場所へ



 それから、再征者レコンとしての職務をこなしていたある日のこと。


 ニイハラはひとり、組合ギルドにある集会所を訪れていた。しかし今回の用事は依頼クエストの受注ではない。ある人物と会うためだ。

 というのも、ゲオルグに頼んでいた屋敷づくり、それと並行して使用人として雇う人材探しもしてもらっていたのだが、その目処が立ったようなのだ。ニイハラのお眼鏡に叶うであろう人材が見つかりひとまずの交渉も済んだので、一度実際に会って面接してみることにした。

 その面接場所が、この集会所だった。


 すでにゲオルグから相手方への連絡もしてある。しばらく待っていれば向こうも来てくれるだろう。……などと思っていた矢先だった。

 集会所の一角にあるテーブルの前、ソファに腰掛けて待っていると、一人の女性が席に近づいてきた。知り合いではない、初対面だ。

 黒く長い髪が美しい女性だった。が、その無表情な顔にはいささか冷淡さのようなものを感じる。当人には失礼だが、ニイハラは脳裏で「なんかフレデリカとキャラが被ってるな」などと考えてしまった。第一印象においてはそんな女性だった。というかフレデリカの方にも失礼な話だが。


 が、そんな第一印象に反して、ニイハラの前に立った女性は丁寧に頭を下げ挨拶をした。その声音は抑揚のないものだったが。

「はじめまして、ニイハラ タカヤさん。シルヴレット・キーディスと申します。ゲオルグさんからお話は聞いていますね?」


 勿論聞いている。

 シルヴレット―――彼女が今回の面接の相手だ。

 彼女がこれから、こちらのお世話係になってくれる(かもしれない)のか。そんなことを考えると、面接する側のニイハラが逆になんだか緊張してきた。


「あ、あぁ。よく来てくれた、とりあえず座ってくれ。それに、そんな畏まった態度でなくていいんだ」

「失礼いたします」

 そう返事しニイハラの対面に座ってから、シルヴレットは言う。

「そのようなわけにもいきません。今後こちらの雇い主になり得る方に対しては、相応の礼儀が必要なものと存じております」

「いや、まだそうと決まったわけではないんだが……、まぁいいや、あんたがそれでいいならそうするといい。ここに来てくれたということは、ゲオルグから提示された条件を、そちらで飲んでくれてるということだよな?向こうからはどういう仕事内容か聞かされているか?」

「はい。雇い先における家事全般。必要に応じて再征者レコンとしての依頼クエストへの同行。それとは別に、随時新しい仕事が指示される場合もあると聞きました」

 要するに『なんでもやれ』ということだ。我ながらなかなか過酷ブラックな内容だとニイハラも思うが、シルヴレットはそれにも同意してくれているらしい。

 勿論それ相応に向こうからも雇用による報酬を申し出てきたようだが、その金額はそこまで法外なものではない。先の《ロックアイランド》討伐の報酬を抜きにしても、再征者レコンとして箔が付きはじめ充分な収入もある今のニイハラなら問題なく払えるだろう。


 それにしても、ゲオルグには再征者レコンとしても使える人材を要求してはいたが、彼女の胸元に示されている《誓約術式コヴェナントプログラム》は《騎士ハイランダー》のそれだ。

 なんと《騎士ハイランダー》がこちらの使用人として働いてくれると申し出てくれているのである。有り難いと思うよりも前に、ニイハラとしてはむしろ不思議だった。

 そのため、ついこんな質問をしてしまう。


「あ~……、さて。あんたにここに来てもらった以上、俺はあんたの人となりを判断させてもらわなければならないわけで、いくつか質問をさせてもらいたい。

 まずひとつなんだが、あんたほどの再征者レコンがどうして使用人として他人に雇用されることを望んだんだ?」

「はい。趣味だからでございます」

「 し ゅ み 」


 そうだ、思い出した。

 先にこちらに連絡を寄越してきたゲオルグは、シルヴレットのことを『人に奉仕することが趣味の変わり者』だと評価していた。その上で腕は立つと。

 以前から彼女は、再征者レコンでありながら他の再征者レコンに従属して身の回りの世話をしていたらしい。そうして雇い主が活動地を大きく移すか、部隊クランに所属して個人的な契約が出来なくなるか、あるいは死ぬかなどして雇用を解除されると、また別の者に雇われるというのを繰り返していたという。

 まぁ、本人がそれでいいというのならこちらも言うことはない。むしろ好きでやっている相手ならば、ニイハラとしても遠慮する必要がなさそうで助かるというものだ。


 とはいえ、ただ家政婦さんとして働いてくれる()()では不足だ。

 ニイハラはシルヴレットの人間性をさらに見極めるべく、質問を続ける。

「なるほど、面白い人だな。ならもう一つ聞きたい。こちらの方がさっきよりも重要な質問になる。

 例えばだが、俺が今何らかの隠し事をしていて、それを後々あんたに明かしたとしよう。その隠し事がどんな内容だったとしても、決して俺の許可なく他言はしないと誓えるか?もし仮に秘密を知った後のあんたの選択によってこちらに不利益を生じる結果になった場合―――いや、そうなるかもしれないと予感しただけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 この質問はつまるところ、ニイハラの“正体”に関するものだった。

 《騎士ハイランダー》となり、このゲルマニアでそれなりの地位を獲得したニイハラとしては、世界を守るためにそろそろ本格的に行動を開始しようと考えていた。

 その次の段階となるのが、協力者を増やすこと。彼が神より使命を受けた転生者であり、世界の危機を救う者だということを知った上で力を貸してくれる者を集めることだ。

 ゆくゆくは“移ろいの民”やゲオルグ、そして勿論エリナにも正体を教えるつもりではあったが、その前にもう一人自分と目的を共有した上でいろいろと動いてくれる人間がいてくれると、ニイハラとしては助かった。

 つまりそれがこれから使用人として雇う者であり、その第一候補がこのシルヴレットなのだ。

 彼女がそれだけの信頼に足る人物か、というのはしっかりと見極めなければならない。万が一のことがあれば、ニイハラの正体に関して余計な騒ぎがゲルマニアで起こってしまうかもしれない。なにせ神様からの使命を受けて戦う者、少なくとも自身でそう名乗る者の存在など、世界にとっては異端だろう。

 彼としてはそのようなリスクは出来る限り防ぎたかった。


 真剣な眼差し、あえて脅すように厳しく問うたニイハラに、シルヴレットはその厳かな鉄面皮と氷面ひものような声のままに応えた。

「全面的には同意いたしかねます」

「……『全面的には』?」

「語弊のある言い方をして申し訳ございません。正しくは、二つお聞きされた問いに関して、“前者”に関しては同意いたしかねます。と言いますのも、わたくしめは雇用主様の命に従って働く者ではございますが、また一人の個人への敬意と信頼に従う者であります。それに値しない方に対し、この生命をあずけるわけには参りません。もしニイハラ様が悪を成さんという魂胆をその胸中に隠匿なさるのでしたら、わたくしめはそれを容赦なく糾弾するものでございます。

 それを踏まえまして、不躾ながらわたくしめもニイハラ様にどうかお願いしたいことがございます」

「……悪を成さない人間でいろと?」

「その通りでございます。そして、“後者”に関しては概ね同意いたします。ニイハラ様が正しく健全な精神性でもって生きる方なのでしたら、わたくしめの行動が貴方様の不利益となり、貴方様の怒りを買うことになったのでしたら、容赦なく殺してくださって結構でございます。ただし、そこに合理性を見出すことが出来なければ、不肖ながらわたくしめも抵抗させていただきますが」


「……」

 ()()()()()。ニイハラは思わずそうつぶやきそうになった。

 あの脅しに全面的に従うような者だと、逆に信用しなかったところだ。むしろ彼女の方が逆にこちらに釘を刺してきた。雇用主の反感を買いかねないこの発言が、逆に意志の強さを実感させるようだ。

 シルヴレット。彼女は人に従うということにおいて、とても実直で誠実な人間だ。趣味だからこそ本気になれるというわけでもないだろうが、彼女の言葉には一切の嘘偽りは感じられなかった。


「……つまり、俺が正しい人間であれば、仮に俺があんたに『死ね』と命じれば死んでくれるのか」

「それがこのゲルマニアという国、そしてそこに住む人々の利益になるのでしたら、そういたします。あなた様に、同じく死を覚悟して事を為さんとする意志があれば、なおのこと良いでしょう」


 決まりだ。信頼という一点において言えば、彼女以上の人材は他にはなかなかいないだろう。

 こうも実直な性格なら、あのクソ真面目なユスティーナ辺りとはきっと気が合うだろうな。などということをふと考えてしまう。

 こうまで言ってのける人間をにべもなく突き返すわけにもいかないだろう。

「分かった」

 彼女のことを信頼し、ニイハラは雇用を決定することにした。

「あんたのような人が来てくれて、本当に助かる。ありがとう、これからよろしく頼むよ。今後のことについては、またゲオルグに追って連絡させる」

 そういって、右手を差し出す。

 それをシルヴレットは両手で丁寧に握り返してきた。

「ありがとうございます、雇用主様」

「(……本当に筋金入りだな)」



        ※



 それからさらに数日が経ち、屋敷の方も晴れて建造が終わったようだ。ゲオルグに依頼してからまだ一週間も経っていない。そんなに早く家の一つや二つが建てられるのだろうかとも思ったが、この世界には魔法がある。それこそ一週間と言わず、土地と建材さえあれば一日であろうと建てられてしまうものなのだろう。


 さて、建物が出来たのならすぐに移住だ。

 ニイハラ達は今まで借りていた宿舎を早々に出て、完成した屋敷に向かうことにした。

 貸し主が仕切りに出発を思いとどまるように言ってきたが、最初にエリナに対し白い眼を向けたようなヤツだ。

 そんなヤツに、先の依頼で多大な戦果をあげた《騎士ハイランダー》が滞在しているという形で自分の宿の売名に利用しようとしている魂胆がありありと見えて、『はいそうします』などと返事するわけがない。

 最早一言も発することなく滞在費だけ叩きつけて、ニイハラ達は出ていった。



 そのまま彼らが向かった先は、クロスロードの南西方向、十番の門に繋がる大通りからやや外れた場所だ。そこに完成した屋敷は建っている。

 メインストリートからは少し離れているが、それぐらいの方が周りも静かなので逆に助かる。


 竣工する以前から、ゲオルグから件の立地についていろいろと話を聞いたのを思い出す。


 曰く、そこには三つの部隊クランが立て続けに拠点を設置していたらしい。

 しかしそのいずれも、建物が出来上がりそこに滞在し始めた直後から、依頼によって全滅したと言う。そんなことを三度も繰り返したものだから土地そのものに妙なジンクスが出来上がって、誰も所有しない空き地になったそうだ。

「まぁでも、ニイハラさんにはそんなこと関係ないですよね!」

というのがゲオルグの談である。

 まぁ、確かにニイハラはそんなことは気にしない。いや、まったく気にならないというわけでもないが、仮に本当にその土地になんらかの呪いのようなものがあって人を殺しているとしても、そんなもの軽く跳ね返してみせなければ世界を救うことなど出来ないだろう。

 それに、エリナにもこのことを伝えたところ、

「知らないよそんなの」

と一蹴された。


 むしろそのようないわくつきの土地なものだから、格安で買い取ることが出来た。この辺りはゲオルグの手腕に感謝だ。


 そんなことを考えていると、いつの間にかそのいわくつきの土地とやらの前まで到着した。

 場所が場所なものだから、周りの住人も怖がって近づかないのかもしれない。周囲に他の建物は少なく、なかなか落ち着いた立地だ。

 そしてそんな中で静かに佇む屋敷。その外観を眺めて、ニイハラは思わずつぶやいた。

「……デカすぎじゃね?」


 それは最早、屋敷というよりは少し小さな城のようだった。自分の背丈の何倍かの高さがある格子状の門の向こうには小さな庭(荷馬車などの通路や係留所を兼ねたものだろう)があり、さらにその奥には冷然たる威厳をたたえたレンガ造りの館が見える。

 いや、まぁ実際のところ正真正銘の城塞と見比べれば大したことのない大きさなのかもしれないが、生まれて(そして一回死んで)この方自宅マイホームなど夢にも見たことのないニイハラからすれば、いきなりスケールが大きくなりすぎて途方に暮れるのだ。


「こ、ここに今から住むのかぁ、エリナと二人で」

 そんなニイハラの言葉に、エリナが応えた。

「二人じゃないでしょ」


 それに、どこからともなく聞こえてきた別の声が続く。

「わたくしめを頭数に入れていただいて、感謝いたします」

 その声の方向に眼を向ける。

 言うまでもない。そこにはシルヴレットがいた。彼女もこの屋敷にやってきたようだ。


「あんたも来たのか。ゲオルグから連絡を貰ったんだろうが、それにしても早い到着だな」

「行動は迅速に遂行するというのは使用人の原則でございます」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ