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異世界の黒砂糖 ~最初に出会ったのは死にかけの奴隷だった~  作者: tatakiuri
第一章 全ての孤独な人達は
10/55

10.解体屋



 兵長が、下っ端の一人へと呼びかける。

組合ギルドの方へ確認を取ってきてくれ」

 それに、

「了解です」

 と短い返事だけをして、下っ端はそのまま荷台から降りそそくさとこの場を去っていった。

 続いて兵長は相変わらず疑義を隠しきれない様子で俺の方へと向き直した。

「今ルチアーノ殿下に確認を取る。それまではここで待っていてもらうが」

「ふむ」

 後は、あの色男が事情を説明してくれればこの疑いも晴れることだろう。

 いや、疑いも何も実際問題俺は入都許可証なんてもの持っていないし、証明する身分もないということには変わりないのだが。

 それに、ルチアーノがこちらを騙していて、衛兵からの呼びかけに『知らぬ存ぜぬ』を繰り返したらいよいよ持って手立てがなくなる。

 ……まぁ、正直言ってあの男のことは嫌いだが、悪人でないのも確かだ。どうも俺を変に買いかぶっているところもあるようだし、いろいろと便宜を図ってくれるだろう。


 となれば、後は事が一段落するのを待つだけだ。

 その間待ちぼうけしているだけというのも時間を無駄にしているような気がするので、今のうちにやれることをやっておこう。

 今度はこちらの方から兵長に話しかける。

「ついでだから、解体屋を呼んできてくれないか。積荷から素材を剥ぎ取るなり、換金するなりしたいんだ」

「“解体屋”を?」


 ゼアの森でルチアーノも言っていたが、魔物というのは強靭な外皮や骨格などを持ち、それらは様々な用途に使われる素材となる。肉や内臓も場合によっては珍味や保存食の類として市場で高値で流通していたり、加工すれば道具になることもある。

 そのため再征者レコン依頼クエストで仕留めた魔物から必要な素材を剥ぎ取り持ち帰ったり、需要のある場所へ売り払って金にしたりする。

 が、巨大な魔物をいちいち解体するのはかなりの手間であるし、剥ぎ取った素材を市場を歩き回って売却するのも時間がかかる。

 そこで、仲介役となる者が重宝された。魔物の解体と素材の提供、そして市場における相場を調査して、最も利益の出る形で換金して再征者レコンに受け渡す。そうして自らもその利益の一部を報酬として受け取る。

 それが解体屋と呼ばれる者達だ。解体屋という名ではあるが、その実体は鑑定から解体、市場への売却までの全てを請け負う何でも屋である。

 さらに言えば魔物の解体だけでなく、それ以外の様々な雑事も頼まれているようだが。


 こちらとしても、そちらに今回手に入れた魔物の解体を頼むつもりだった。

 兵長はやはり憮然とした顔のまま、

「まだ疑いが晴れたわけではないが」

 それにこちらが

「呼ぶだけならいいだろ」

 と言い返すと、渋々納得したようだ。残っていた下っ端のもう一人へと声をかける。

「積荷はどうだ」

「《カーネイジウルフ》の死体があるだけですね。それ以外には何もない。武器や食料の類も……まぁ、あえて言うなら、《下級スレイブクラス》の再征者レコンが一人荷台に乗ってた程度ですかね。旅人にしてはどうも()()()()()()()気がします。魔物の方は腹から上の部分が丸々なくなっていて、残っている下半身も毛皮が一部が剥げたりしています。それぐらいでしょうか」

「その辺りの事情はこちらで聞いておく。解体屋を一人呼んできてくれ」

「分かりました」

 そう返事して、もう一人の下っ端もこの場から離れ、荷台には誰もいなくなった。


 そうして、

「ここに来るまでの経緯について、話を聞かせてもらいたい」

 兵長が改めて切り出してくる。

 こうなると、こちらも嘘八百を言うわけにはいかない。おそらく今頃はルチアーノから事情を聞いてる最中だろうし、後から俺が話した内容と照らし合わせるつもりだろう。

 となると、正直に全部話した方が良さそうだ。

 俺は、クロスロードに来るまでのことを詳細に説明した。

 少女を助けるために魔物を分解したこと。その際にルチアーノ達と知り合ったこと。

 そして一番肝心な俺自信が誰かということについては――こればかりはもう仕方がない。どうせあの色男も知らないことだ。

 名前もないような片田舎の村で生まれ、そこで一人寂しく魔術の研鑽を積み、一念発起して再征者レコンとなるべく中継都市にやってきた。といった具合にでっち上げることにする。

 はっきり言って、いろいろと穴だらけなパーソナリティではある。正直疑われたらどう誤魔化せばいいかも分からない。

 が、衛兵長はこちらの説明を特に詮索することもなく聞いた。

 ただ、こちらが使用した魔術、《肉体生成バースコントロール》についての話を聞いている時に、露骨に険しい顔をしていた。


 それにもある理由がある。

 《肉体生成バースコントロール》は大量の根源エーテルを消費し、場合によっては術者の死か、“事象の穴”の発生という最悪な結果をもたらす危険な代物だ。

 そのような魔術をそう簡単に何度も使われては、それこそ世界が滅びるような事になりかねないし、ゲルマニア王国としてもそんな愚を犯すわけにはいかない。

 そのためにどうすればいいかというと、単純なことだ。

 使わないように、あるいは使()()()()()()()してしまえばいい。

 このような危険な魔術は王国によって“禁忌指定魔術”として扱われ、国民には一部を除いてこれらの魔術を使おうとしても発動しなくなる特殊な封印術式が施されるという。


 で、俺はその禁忌指定魔術を使ってしまったわけだ。ゲルマニアの、というかどの国の国民でもないのだから、禁忌指定の封印もされていないので使おうと思えばすぐに使える状況だったのだ。が、それを王国の規律がそう簡単に許してくれるかどうか……

 これで益々こちらの状況が悪くなってしまう気がしたのだが、衛兵長がこの件に関して今この場では言及しなかったのは素直に助かった。

「――この際、その村がどこかということは聞かないでおく。そんな片田舎でどうやって、肉体をイチから生成するほどの魔術を会得したのか、ということもな。《下級スレイブクラス》を助けたというのも珍しい話だが、“人命救助”それ自体は尊いものだ。それが事実であるというのなら、貴方は少なくとも悪人ではないのだろう。後はルチアーノ殿下からの返答次第だ。どちらにせよあの方のご意向には、我々が異論を挟む余地はないしな」

 要は、あの色男からの返事待ちということか。それを聞いてひとまずは安心する。

 しかしどうも、こちらの事情など関係なし、ルチアーノの考えが第一という印象だ。あの男にどれだけの権限があるのかは知らないが、そこだけはどうも釈然としない。


 程なくして、先にこの場を離れた方の下っ端が戻ってきた。組合ギルドへの問い合わせが終わったようだ。

 そうして兵長に報告したその内容は、

組合ギルドを介してルチアーノ殿下に確認を取りました。その際の声明です。

『ヴィットリオ・ルチアーノの名において、ニイハラ タカヤ殿の身の潔白を証明する。入都を許可せよ。同行している《下級スレイブクラス》についても、ニイハラ殿に契約を移行するよう組合ギルドに手続きしてある。また、彼の者が発動した魔術についても人命救助におけるやむをえぬ使用と判断し、“事象の穴”がないこともこちらで確認しており、“特例禁忌指定魔術”に適応するものとして不問とする。以後、此度において彼の者に対する検問は不要とされたし』

――とのこと。《勇者ドレッドノート》による正式なご意向です」

「分かった」

 兵長が短く応え、再びこちらに向き直る。

「いらぬ手間を取らせたことを謝罪する。貴方がたのクロスロードへの来訪を歓迎しよう」


 これで一件落着か。分かってはいたことだが、無事お咎め無しになったことには素直に安堵する気持ちだ。

 いろいろと小難しい言葉が耳を通り抜けていったが、要するにもう大手を振って中継都市を歩き回れるようになったということだろう。

「こちらこそ、お勤めご苦労さん」

 気が緩んでついついそんな軽口が口をついて出てしまった。


 それに続くように、もう一人の下っ端も戻ってきた。その傍らには別にもう一人の男が連れられている。

「解体屋を連れてきました。事情聴取の方は……」

「ルチアーノ殿下からの下知だ。彼らの入都を許可する」

「そうですか」

 衛兵達のそんなやり取りを、解体屋の男は『何事か』と言った様子で眺めている。

 俺よりも少し年若く、短く切りそろえた髪がさっぱりした印象を与える男だ。

 衛兵達はしばらくあれこれと報告をし合ってから、

「それでは、我々はこれで失礼する。荷台はこちらで管理しておくのでこのまま繋留しておくように」

「小型だからって一緒に持っていくなよ。ここでは都市内部での馬車の移動は原則禁止されてるから。人の多い通りで好き勝手馬に走られたら迷惑だろ?荷馬車の同行には申請が必要なのでどうしてもっていうなら後で済ませておくように」

「そうわけなんで後は勝手にやってくれ。出口はあそこだから。諸々の申請もそこでできる」

 と口々に言い残してから去っていった。


 さて、衛兵は引き上げ今度は解体屋が相手だ。

 去っていく衛兵の背中をしばらく眺めてから、男が興味深そうに言う。

「一悶着あったみたいだなあ」

 が、具体的に何があったのかは聞かない。その辺りは仕事をする上での礼儀というものなのだろう。

 なのでこちらも余計なことは言わず、手早く要件だけ伝える。

「この荷台に積まれてある魔物を解体して換金して欲しい。ただ、肋骨だけは何本かこっちに引き渡してくれ。素材として使いたい」

「分かった。とりあえず、一度品物を拝見させてもらうよ。ハリボテの偽物だったりしたら困るからね」

 それにはこちらとしても異論はないし、別に見られてやましいものなどないので、

「好きにしてくれ」

 と応えておいた。

 それを聞くなり解体屋は荷台に飛び乗り、衛兵達がかぶせ直した葉の覆いを再び広げ、魔物を見定め始めた。

 それからほどなくして、むき出しの筋肉の切断面などにも躊躇なくベタベタと触れながら(俺には気持ち悪くてちょっとできないな)ふとこちらに振り返る。

「これ、魔術の材料にしたんだねぇ。攻撃用の魔術を生物の肉体から代用するのは効率が悪いし、燃費が良くて威力の高い魔術なんていくらでもあるから――……治療のためか」

 そうして、先の衛兵と同じようなことを言ってきた。この世界においては魔術が広く普及しているということは俺も把握している。魔物の死骸だけを見てどのような魔術を使ったのか見抜くというのも、そう珍しいことではないのだろう。

 それに、解体屋というのは再征者レコンが持ってくるありとあらゆるものを品定めする者達だ。()()()()()()()も何度も見たことがあるのだろう。


 と、そんな解体屋である男は、今度は俺の隣に立っていた少女の方へと視線を向けた。

()()()()()かい?」

「え?」

 突然声をかけられたものだから、拍子抜けしたように固まる少女。彼女に呼びかける男の声は、特別な理由もなくただ気の合う友人と世間話でもするような何気ない声音だった。

 しばらく眼を丸くして黙っていた少女は、怪訝そうに顔をしかめて応える。

「……そうだよ」

 それを聞いた解体屋はニカッと笑みを浮かべた。

「ははっ、そうかい。いい人に拾ってもらったんだな。《下級スレイブクラス》が魔術を使われてまでで助けられることって、世間じゃあ中々ないことだから」

 その顔には皮肉や侮蔑の念は一切なく、ただ純粋な好奇と賞賛だけを感じられた。

 俺がつい反射的に、

「おかしなことだと思うか?《下級スレイブクラス》を連れてるような客相手には真面目に仕事をしないつもりか?」

 と食いついても、朗らかにこう返してくる。

「まさか!お客さんを選り好みしていたら商売あがったりで餓え死にしてしまうよ。ワケアリのものでないちゃんとした品物を持ってきて依頼してくれたのなら、相手が誰であろうと僕は最大限の成果でもって返す。たとえこの魔物を、そこの女の子が仕留めて彼女ひとりで僕のところに持ってきたとしてもね」

「……」


 分かった。この男多分良い奴だ。

 ゲルマニアにいる市民が、誰もが皆こんな考えを持っているとは限らないだろう。彼はむしろ、どちらかと言えば希少と言える種類の好青年だ。

 俺も再征者レコンになったら、何度も解体屋の厄介になることだろう。

 そしてどうせモノを頼むのなら、こういう人間の方がこちらの気も楽というものだ。

 ……ここは一つ、今のうちに“コネ”を持っておくのもいいだろう。

「ニイハラ タカヤだ。あんたの名前は?」

 俺は、藪から棒ではあるが男の名前を問うた。

「あぁ~!そう言えばこっちも名乗っていなかった。いやいや、失礼なことをしてすまない。先に名乗ってくれるなんてしっかりしてるねえ、ニイハラさん」

 こんな台詞を、おべっかを使っているようにこちらに思わせずに言えるんだからやはり凄い男だ。

「ゲオルグ・リンゴォ。以後お見知りおきを」

 自らの名を名乗りながら、解体屋のゲオルグは荷台から下りた。品物の確認が終わったのだろう。

「品物自体は、まぁ問題はなさそうだね。依頼を請け負ったよ。よろしければ、今後ともご贔屓にしていただけると光栄ですねえ」

 そう言いながら、こちらに右手を差し出してくる。

 その手を握り返しながらこちらも応える。いやはや、この世界に来てからようやく初めてリラックスして人と話せた気がする。

「あんたがいいって言うなら、こちらこそよろしく頼むよ」

「ん。とはいえ、正直なことを言ってしまうとねぇ、身体の半分以上がなくなってるしで、素材としての価値は大分落ちてしまっている。特に“爪”や“牙”がないのがまずい、あれは武器の材料として重宝されてるからね。精一杯仕事はこなすけど、あまりいい結果は出せないものと思ってもらえると助かる」

 しかも正直者と来た。人間としては素晴らしいんだが、こういう人間はいざ仕事をしてみると苦労するんだろうなぁ。ちゃんと解体屋として食えているのか心配になってきた。

 まぁ、この魔物に大した価値がないことはこちらとしても百も承知だ、文句は一切ない。

「問題ない、そのあたりはプロであるあんたに委細任せるよ」

「よしきた!とりあえず魔物はこの関所においていってくれ。こっちで引き取る。荷卸の申請もしておくから。……後、《停滞ステイシス》もこっちで解除してもいいんだよな?《カーネイジウルフ》の肉はちょいと独特の臭みはあるが、珍味としての人気はある。そっちで劣化を抑えてくれて助かった。いやはやいいお客さんだねあんたは」

 褒め殺しのおだて上手かよ。衛兵共から優秀だなんだと言われても特に何も思わなかったのに、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ……

「あぁ。解除するタイミングもそっちに一任するよ」

「分かった。金と素材の受け渡しはどうする?必要なら指定した場所に届けることもできるけど……」

「いや、いい。確か組合ギルドの運営する取引所があったよな、そこに解体屋用の資材保管庫があるんだろ?そっちで受け取る。あんたの名前を出せば渡してくれるんだよな?」

「ん、じゃあそれで行こう。今から“五刻”あれば換金まで終わってるだろう。多少前後するかもしれないから、少し遅めに来てくれ。解体だけならもう少し早めに終わるから、肋骨だけなら先に渡せるけどね」


――またまた余談になるが、意外というか順当というか助かるというか、ゲルマニアには“時間”の概念があり、しかもそれは俺が知る、かつての世界のそれと非常によく似ている。おそらくこの世界は、我らが故郷である“地球”と似た気象をしているのだろう。

 太陽が昇り、沈み、また昇り来る。その周期は二十四の“日刻にっこく”に分割され、陽が昇っている間を半分である“表の十二日刻”、陽が沈んでいる間を“裏の十二日刻”と定義されている。

 要するに、午前(AM)一時は“表の一日刻”という具合なわけだ。

 もっとも、陽が地平線から昇ってくる時が表の一日刻となるので、日本人の感覚からすると四、五時間ほどの“時差”はあるが、まぁこれは大した問題ではない。

 日刻を計っているのは王都ジェリコにある天文台であり、それが王国における時間の基準となる。天文台からは特殊な魔術により電波のように現在の時刻が国土全体に送られる。その魔術を受ける魔道具である“日刻盤”(所謂時計だ)により、人は現在の日刻がいつのなのか、後どれぐらいで一日が終わるのかを知る。

 懐中時計ほどの小さな日刻盤もあり、それを見ればいつでも現在日刻が分かるのだが、生憎俺はそんなもの持ち合わせていない。が、クロスロードの中ならいくらでも日刻を確認する手段はあるだろう。というか、この検問所にも日刻盤はある。現在は“表の八日刻”。すでに陽が昇っている時間を半分過ぎ、昼頃に差し掛かっているようだ。

 そして最早言うまでもないが、この日刻がひとつ過ぎるまでの時間が“一刻”となる。

 となると、ゲオルグが指定した時間は五刻……およそ五時間ということだ。

 魔物の解体から市場との取引もあるので、相応に時間がかかるのだろう。この分だと金を受け取るのは夜中になりそうだ。


「分かった。先に素材だけ受け取りに、早めに伺うよ」

 と応える。

「ん。僕自身は現場にいないかもしれないけど、向こうの人間に声をかけてくれれば大丈夫だよ。

――ところで、ニイハラさんはこれからどうするんだ?」

 不意にゲオルグが聞いてきた。まぁ、これもなんてことのないただの世間話だろう。

組合ギルドの案内所に行ってくる。再征者レコンとして正式に登録してもらうんだ」

「だろうね、あんた正式な再征者レコンじゃないみたいだから」

 俺の返事に、ゲオルグは特に意外そうな素振りも見せない。俺が再征者レコンでないことは当人には分かっていたようだ。

 それにもやはり理由がある。再征者レコンである者を識別するための手段があるのだ。それは何も、先の衛兵のように生紋バイタルプリントを見るだけではない。もっと簡単な、誰もが一目見るだけで分かる方法だ。

 それについては、俺が実際に再征者レコンになった時に実体験できることだろう。


 再征者レコンでもない者が、本来再征者レコンが契約するはずの《下級スレイブクラス》を連れている。衛兵にも怪しまれたその事実であるが、ゲオルグは詮索しない。

「まぁ、いろいろ事情があるんだろうね……後はこっちでやっておくから、ニイハラさんももう行っていいよ。あんまりここに長居してると、衛兵に怒鳴られるからねえ」

 ただ、『事情』の一言で片付けつつ、そう催促してくるだけだ。

「あぁ。それじゃ、また取引所で」

 と、俺が別れの挨拶をすると、

「次に会う時はあんたも一人前ってわけだ。その時はまたよろしく頼むよ!」

 そうにこやかに返してくる。いやはやまったく人のよくできた奴だ。


――あ、いやちょっと待て。念のためにひとつ聞いておかなければならないことがあった。

 踵を返してゲオルグの方へと振り返る。

「その、ひとつ聞いておきたいんだが……もしやして再征者レコンになるのにも身分証明書の類が必要だとかいうことはないよな?」

 その問いを聞いたゲオルグはぽかんとした顔を浮かべた後、皮肉交じりに応えてくれた。

 皮肉を言われても嫌味を感じないのだから、この男とは話していて気分がいい。

「えぇ?自分のこれからなる職業について知らないなんて、ニイハラさんは気分で生きてるんだねぇ。再征者レコンは引く手あまただから、ゲルマニアの国外からも登録に来る人が沢山いるけど、別段身分証明が必要ってわけではないよ。なろうと思えば誰だってなれる。なんなら、出身地で犯罪を起こしていたとしても、こっちでは関係ない。ゲルマニアの国内で罪を犯してさえいなければね。まぁ、もちろん他国から身柄の引き渡しとかが要請されればそれには従うけど。

 要するに求められるのはその身と、王国に献身するその意志のみ!ってわけ。安心していいよ。金だって必要ない」

「へぇ、そうなのか」

 犯罪者であっても希望があれば受け入れるというのは意外だ。

 それだけ、再征者レコンというのは需要の多い職業であり、その気があるというのなら手放しで歓迎するというのがゲルマニアの方針なのだろう。

 細かい管理と制約は、実際に再征者レコンになった後にすればいいということだろうか。とにかく人手マンパワーを確保して、ひたすら働いてもらう。魔物から世界を取り戻すには、それしかないというわけか。

「まぁ何にせよ、それならよかった。実は俺()()()()なんだよな。お金持ってないんだよ」


「え?」

「へ?」


 ゲオルグだけでなく、少女も揃って素っ頓狂な声をあげる。

 しばらく固まった後、今度はさすがに快いとは言えないような口調でゲオルグが言う。

「言っとくけど、魔物がどんな値打ちになっても手数料は一定の額貰うからそのつもりでいてな。あんたの手取りがはした金になっても文句は言っちゃ駄目だよ」

「いいよ。最低限今日一日生きていける程度の小遣いが貰えればそれでいい。その後は再征者レコンとして稼いでやるさ」

「ホントかなァ~……」


 とりあえず最後に聞きたいことも聞いたし、今度こそ解体屋のゲオルグに一度別れを告げて、俺は少女を連れて検問所を後にした。

 さて、次に向かうのは組合ギルドだ。そこで俺は晴れて再征者レコンキスタドールになる。


 それでようやく第一歩。俺の“仕事”も始まるというわけだ。



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