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死んだ世界の救世主  作者: 豊山伽藍
1章 砂漠
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08話 村

「…………」

「…………」


 洞窟に潜り三十分程経過しただろうか。

 普段ならとっくに到着しているのだが、エリーとラクダを気遣ってゆっくりと進んでいるため随分と時間が掛かっている。

 彼女は相変わらず私の袖を握りしめたまま、無言を貫いている。

 距離が近くなれば自然と空気が良くなると思ってた。

 そんなことはなかった。


「……あの、まだつかないんですか」

「もうすぐだよ」


 この洞窟、内部が異様に広い。

 入って直ぐに様々な方向へ枝分かれしており、一度道を誤れば元の場所に戻るのに相当の時間を要する。

 その上、光源が所々天井に空いている小さな穴ぐらいしか無く、視界が極めて悪い。

 何の情報も持たずに通り抜けるのは不可能に近いだろう。


「ほら、あそこが村の入口」


 立ち止まり、洞窟の一点を指差す。

 暗闇の中で、その場所から光が広がっている。

 

「あれが……」

「さ、行こう」

 

 光に向かって進もうとする。

 が、小さな抵抗を感じて足を止めた。

 振り返り確認してみると、理由が分かった。

 エリーがその場で俯いたまま動こうとしていないのだ。


「エリー?」

「…………」

 

 呼びかけても反応は無い。

 

 数十秒の間を置いてようやく顔を上げた彼女は、目からボロボロと涙を流し、こちらの胸が痛くなるような表情だった。


「千影さん……私、この先に行くの、怖いです……」

「怖い?」

「分かってるんです……生きる為には仕方無いって……でも、やっぱり、怖いんです……!」


 強く目を閉じ、絞り出すように続ける。


「もし、私が砂漠の人間じゃないって知られたら、私、どうなっちゃうんですか……? それに、例え受け入れてもらえても、私……」

「……」

「ごめんなさい……私、やっぱり人間は、食べれないです……! ごめんなさいっ……!」


 それだけ言ってしゃがみ込んでしまった。

 無音だった洞窟内に、今はただエリーのすすり泣く声だけが響く。

 

 少し後悔していた。

 自分の言葉で彼女をここまで追い込んでしまうとは思っていなかった。

 それとも、彼女にとって食人行為とはそれ程までに許されないことなのだろうか。

 自分の感覚では分からない。


「……いきなり襲われるような事は無いし、人ばっかり食べる訳じゃないよ。取り敢えず、行こう。疲れてるでしょ?」


 気の利いたことを言えれば良いのだが、うまい言葉が見付からない。

 だがしかし、一応は聞き入れてくれたらしい。


「……はい……」


 泣いたままだが、ゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ行くよ」

「…………」


 少々ふらつき気味のエリーを支えながら、再び光へと向かって歩き始めた。






「……!」

 

 洞窟を抜けた先で見た光景に、思わず息を呑んだ。

 

 周囲を岩山で囲まれ、隔離された空間。

 その中に、この砂漠に来て初めて、生きている集落を見た。

 中央には存在すら疑っていたオアシスがあり、それを囲むように数十のテントが並び立っている。

 全く出会うことが無かった他の人間も、何人か確認できた。

 挿絵(By みてみん)

「こんな場所があったなんて……」

「ここが私たちの村だよ。出入口はここしかないんだ」


 千影さんが後ろの洞窟を向きながらそう答える。

 道理でどれだけ歩いても人に会わない訳だ。

 このような秘境を私一人で見つけ出すのはまず不可能だろう。


 今まで見たことの無い景色を半ば放心気味で観察していると、一人の女性が走り寄ってくるのが見えた。

 反射的に千影さんの後ろへ身を隠す。


「千影ちゃん! おかえりなさい……ってその荷物どうしたの!?」

「帰ってくる途中にばったり連中に会っちゃってさ。せっかくだから持ってきた」

「せっかくだから、って……一人の時は避けなさいっていっつも言ってるでしょ!?」

「細心の注意払ってるから大丈夫だよ」


 笑顔で近づいてきた女性だったが、千影さんと話すうちにプリプリと怒りだしてしまった。

 

「もう! そういう問題じゃ……ってあれ? その子はどちら様?」

「あっ……えっと……」


 柔和な表情で「初めまして」と挨拶されるが、どうしても恐怖心が勝ってしまい、返事を返すことが出来ない。

 女性が小首を傾げる。


(こずえ)、ちょっとこっち……」

「え? な、何どうしたの!? ちょっと!」


 梢さんと呼ばれた女性が、千影さんに引きずられるようにして私から離れる。

 姿が豆粒ぐらいの大きさになったぐらいの距離で、何やら話を始めた。


「…………、……………………」

「……………………、…………………………!」


 会話の内容は聞き取れない。

 言いようのない不安に襲われる。


「……私、これからどうなっちゃうんだろう……」


 また涙が出てきそうになる。

 泣いてばかりの自分が情けなくてしょうがない。


 自己嫌悪に陥りそうになるが、千影さん達の方向を向いて、思考が中断された。

 様子が変だ。


「……! …………!! …………!?」

「……」

「……!! …………!!」


 女性が千影さんを責めているように見える。

 対する千影さんはばつの悪そうにこちらをちらちらと窺っている。

 やがて話が終わったのか、女性が一目散にこちらへ走ってきた。


「はぁ……はぁ……待たせてごめんなさいね! じゃあ、行きましょうか!」

「え? あのどこへ……」


「梢、私も一緒に」

「千影ちゃんは先に荷物の整理と報告!! ちょっと反省してなさい!!」

「はい」


 遅れてきた千影さんを一喝して黙らせた。

 怖い。


「エリー……また後でね」


 悲しそうな顔をして去っていく千影さん。

 まさか……私置いて行かれた?


「心配しないでも大丈夫だからね。ささっおいでおいで」

「……はい」


 ウインクしながら私を呼ぶ女性に、着いて行くことしか出来なかった。

 


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