06話 強奪
「うわぁ……」
ついついそんな声が出てしまった。
いやいやしかし、これは仕方の無い話なのだ
誰だって、こんな光景を目の当たりにすれば似たような反応になるだろう。
少女が、倒れている男達の身ぐるみを淡々と剝がしている光景を目にすれば。
千影さんが私の制止を振り切り、楽園の二人組の方に向かって行った時のことである。
慎重に距離を詰めていた千影さんだったが、ある程度近寄った所で、唐突に明後日の方向へ走り出したのだ。
当然二人組に追いかけられる。
後ろで冷や冷やしながら見守ることしか出来なかった私だけが、状況についていけずその場に取り残されてしまった。
追いかけて助太刀した方が良いのか、だが千影さんは大人しくしていろと言っていたし、待つべきなのか。
そんなことを延々と考え、ようやく助けに行く決心が固まり、現場に急行してみればこれである。
女の子に下着姿にされつつある男達。
字だけで見たらとんでもない犯罪臭である。
「あのー千影さん……一体これはどういう状況なんですか?」
「追い剥ぎしてる」
「それは見れば分かりますよ! いやそれについても気になりますけど! どうしてこの人達が伸びてるんですか!?」
おまけに一人は顔面が見たこと無いになっている。
人間ってあんな色になるんだ。
「こっちのは殴ったら気絶した。あっちのは首絞めたらああなったよ」
「…………まじですか」
要するに千影さんがやったらしい。
確かに説明は求めたが、こうもさらっと言われるとは思わなかった。
信じられない話だが、確かにそれ以外にこの状況を説明出来そうに無い。
「千影さん、こんなに強かったんですか……」
「これぐらい出来ないと生きていけないよ」
「ハードルめっちゃ高いですね」
大人の男二人をボコボコに出来ないと生きていけないのか。
なんと過酷な世界なのだろう。
私が行き倒れるのも当然である。
「で、さっきからまとめてるその荷物は……」
「これ? この人達が持ってたのとラクダに積んであった荷物全部だよ。大漁だね」
完全に賊である。
勿論、ここまでしなければならないのは理解している。
だが何も服まで奪うことは無いんじゃないか。
襲ってきた相手が悪い、と言われればそれまでだが。
「良かったねエリー、ラクダが手に入ったから歩かずに済むよ」
「ハハハ、そうですね……」
清々しいまでの鬼畜っぷりに乾いた笑いしか出ない。
パンツ一丁で砂漠真ん中に置いていかれる男達の未来を思うとちょっと泣けてきた。
似たような経験をした身としては、ほんのちょっとぐらい情けを掛けても良いような気がする。
そもそもこの人達ちゃんと生きてるんだろうか。
この人のことだから、うっかりやり過ぎちゃったりしてそうだ。。
「ていうかこの人達大丈夫なんですか? 特にそっちの人とか……」
紫色の人を指差す。
さっきから時たま痙攣しているので一応生きているみたいだが、正直先が長そうには見えない。
「うん?……確かにちょっとやばいかもね」
千影さんが近寄って確認する。
どう見てもちょっとじゃなくかなりやばいと思う。
「一回起こしとこうか」
「ええ!? 危ないですって!」
いや、確かに心配はしたけれども。
安易に起こして良いのだろうか。
相手は楽園の兵士なのである。
危険なことに変わりはない。
「大丈夫大丈夫……ほら、目を覚ましなよ」
男の顔を持ち上げ、ビシビシと引っ叩き始めた。
徐々に赤くなり、腫れていく男の顔。
私があんな起こされ方しなくて良かったと心から思う。
「ぐ……はっ!? 貴様! 何をして」
「おやすみ」
「うぐおッ……!?」
目を覚ました男の意識が、千影さんによる顎への蹴りによって再び刈り取られた。
「これで死にはしないよ」
「あなた鬼ですね」
血の通った人間のやることじゃないと思う。
こう、良心の呵責とか無いのだろうか。
無いのだろう。
ここまでの仕打ちをしておいて最後は砂漠に放置である。
敵ながら不憫でならない。
せめて服ぐらいは着せてやりたい。
「あのですね千影さん。私、流石に可哀想だと思うんですよ。彼らも一応人間ですし。だからですね、どうせ放置するなら服ぐらいはいいんじゃないかなーって……」
「ん? 何言ってるの?」
嗚呼、すまない。やはりダメみたいである。
私の力不足を許してくれ……
「置いていく訳ないじゃん。持って帰るよ」
「そうですよねー……って、え?」
当たり前だろう、とでも言いたそうな顔をしながら千影さんが告げる。
何故?
楽園の情報でも喋らせるのだろうか。
あるいは奴隷として働かせるか。
後者は正直あまり良い気がしないが……環境が環境だ。
仕方ないのかもしれない。
しかし、どうも何かが引っかかる。
その何かを詮索しているうちに、千影さんの言葉を思い出した。
〝持って帰る〟
連れて帰る、じゃなくて?
ふと、一つの仮説を思いつき、とてつもない悪寒が背中を走る。
いや、まさか、いくら何でもそれは無いだろう。
頭の中で必死に否定するが、疑念が膨らむばかりだ。
嫌な予感が離れてくれない。
そうだ。
千影さんに確認すればいい。
きっと私の考えてることなんて、馬鹿らしいと証明してくれるはずだ。
「あの……この人達、連れて帰ってどうするんですか?」
私の懇願も込めた問いに対し、当然のことのように千影さんが答えた。
「どうするって、食べるに決まってるじゃん」