05話 兵士との戦闘
俺は楽園のしがない一般兵。
つい一月、兵士としての任を受けたばかりである。
堅物の同僚と共に、救世主様に与えられた命を全うするためこうして〝外〟に出てきたのだが……舐めていた。
暑過ぎる。
それだけじゃない、夜になれば凍えるような寒さに襲われる。
この温度差に、ごっそり体力を持っていかれるのだ。
外での仕事はとんでもなく過酷で、死者が出ることも珍しくないと聞いていたが、納得である。
正直、人間が生きていける環境とはとても思えない。
自分が如何に恵まれた環境に居たのかが、身に染みて分かった。
だからこそ、一つの疑念が湧いてくる。
「なぁマーク、本当にまだ奴ら生き残ってんのか? 全滅しちまったんじゃねえの?」
「仕事中だ。私語は慎め」
自分の後に続く同僚に声を掛けるが、さっきからずっとこの調子である。
真面目なのは結構だが、少し行き過ぎな気がしないでもない。
「けっ、またそれかよ……大体、最後に見つけたのが半年も前なんだろ? もう狩り尽くしただろ」
「救世主様が狩れと言うのなら、例え存在しないものでも狩る、それが我々の仕事だ……救世主様の言葉に不満があるのか?」
マークが咎めるような視線をこちらに向ける。
「そうじゃねえけどよお……」
言葉ではそう言ったものの、実際には不満が全く無いとは言えない。
当代の救世主様に代替わりして早二年。
明らかに狩りの頻度が多すぎる。
先代の救世主様は奴隷制を好まず、あまり狩りに積極的では無かったが、それを考慮しても異常だ。
一年足らずで殆どの連中を捕らえる、あるいは殺してしまった。
既に奴隷は十分な数が集まっている。
それでも止まることは無く、遂には俺のような新兵まで外に駆り出される始末である。
無論、経験の浅い俺達に見つけられるはずも無く、何日も無意味に彷徨うのみになっているのが現状だ。
「何かが居た痕跡すら見つからねえ。一体どうやって探せってんだ……」
せめて足跡でも見つかれば、そこから探し当てることも可能なのだが……。
「うだうだ文句を…………おい」
「あん? なんだ……ッ! あれは……!」
マークの指差す先にあるものを確認し、一瞬目を疑った。
距離にして約百五十メートル前方。
砂丘の奥から黒い影が飛び出した。
驚きにより二人で目を見合わせる。
「追うぞ!」
我に返ったマークに続き、ラクダを走らせる。
「俺が前に回って行く手を塞ぐ。お前は後ろからあいつの逃げ道を封じろ!」
「おうよ!」
数日間探し続けて気配すら感じさせなかった獲物を、まさかこんな形で見つけるとは。
最高についている。
この機会を逃すものか。
対象との距離を徐々に詰める。
いくら足が速かろうが、人間の足ではラクダを振り切ることは不可能だ。
「止まれ。抵抗すれば命は無いぞ」
大して時間も掛からずにマークが回り込む事に成功し、獲物が足を止める。
こちらも奴の背後から銃を構え、チェックメイトだ。
「随分探したぜぇ、苦労させやがって……っておいおい」
獲物の姿を見てついついにやけてしまった。
本当に、とことん運が良い。
「女、しかもガキとはな! 大当たりじゃねえか!」
「…………」
おまけに武器すら持っていない。
完全な丸腰である
しばらくこちらの出方を伺っていたが、逃げるのは無理だと悟ったらしい。
両手を上げた。賢明な判断だ。
「そのままこっちへ来い」
女がマークの言葉に従い、ゆっくりと歩き出す。
「へへっ、こりゃあすげえぞ……」
こんなガキなら巣の場所を吐かせることも容易だろう。
そうなれば、俺らの功績で一網打尽である。
褒美も選び放題……という訳だ。
女で子供、しかも丸腰ということもあり、油断も多分にあったのだろう。
すっかり妄想にふけり、ほんの一瞬……同僚がガキに手を伸ばした瞬間、銃口をずらしてしてしまった。
それがまずかった。
「隙あり」
「ぬおっ!?」
伸ばしたマークの手を逆に掴み返し、思いっきり引っ張った。
バランスを崩し、ラクダから転がり落ちる。
「なっ!? お前……!」
再び銃を構え直した時には、既に状況は一変していた。
背後から首を絞められる形で拘束されており、苦しげな表情を浮かべるマークと、それを盾にするガキ。
僅かな間に、形勢が逆転した。
「この野郎……! こんなことしてただで済むと思ってんのか!?」
「黙って。さっさとそれから降りて武器を置いて。この人、死ぬよ」
「ぐっ……」
マークの様子を見ていると、ハッタリとは思えない。
口からは泡を吹き、目があらぬ方向を向いている。
一体このガキのどこにこんな力が……。
「言う聞いてくれればこれ以上は何もしないよ」
「…………分かった! 分かったから早くそいつを解放してくれ!」
愛想も何もないつまらん奴だが、何かと面倒を見てもらった恩がある。
要求を呑まざるを得ない。
ラクダを座らせて飛び降り、銃と腰に下げている短刀を投げ捨てる
「そのままうつ伏せになって」
「……クソッ! これでいいんだろ!?」
言われたとおりにうつ伏せになる。
同僚の命が懸かっているという焦燥感と、たかが外のゴキブリ、しかもそのガキにいいようにされている屈辱で頭がぐちゃぐちゃになり、思考が定まらない。
「それでいいんだよ」
ガキがマークを放り捨てる。
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「こんのクソガキがああああああ!!!」
ガキに向かって全力で走る。
殺す。
滅茶苦茶に痛めつけて、犯して、最後にはバラバラに切り刻んでやる。
拳を振り上げ、澄ました顔に向けて思い切り叩きつけようとした。
だがしかし、その拳が届くことは無かった。
「がッ……はッ……!?」
鳩尾に強い衝撃を受け、何が起こったか理解する間も無く崩れ落ちる。
意識が暗い底へと落ちて行く。
最後に見たものは、無表情にこちらを見下ろす黒い髪の少女だった。