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死んだ世界の救世主  作者: 豊山伽藍
1章 砂漠
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03話 名乗り

「……ごめんなさい! やっぱり話せないです……」

 

 相当悩んでくれたが、それでも駄目らしい。それ程までして隠さなければいけない身分とは一体何だろうか。

 少し考えてみるが、しっくりくるものが思いつかない。


 だが、ここまで頑なだとこれ以上の情報を得るのは難しそうだ。

 

「そっか、ならしょうがないね」

「……見逃して頂けるんですか?」


 そこまで話したくないなら無理に聞き出す必要は無いだろう。

 仮に楽園の関係者だとしても、自分にはどうでもいい話だ。


 それに、目の前の少女が私達に危害を加える様子はどうにも想像が難しい。


「どうしても話せないんでしょ? だったら別にいいよ。君、悪い事出来なさそうだし」

「えへへ~そんなことないですよぉ」

「褒めてないよ」


 こちらが身を引いたのに安心したらしい。

 少女の身体から目に見えて緊張が抜け落ち、先程までの調子に戻った。


 切り替えの早い奴である。


「いやぁ、本当にありがとうございます! てっきり『じゃあ吐くまで痛めつけてやる』とか言われてボコボコにされるのかと」

「私を何だと思ってるの?」


 いやまあ他の人間に拾われてたら有り得ない話では無い。

 そう考えるとかなり勇気が必要だったのだろう。

 

 だがしかし失礼な発言をしていい理由にはならないだろう。

 こんな調子でこれから生きていけるのだろうか。


 彼女の未来を憂いていると、ふと一つの疑問に行き着いた。


「そんなことより、君この後どうするつもりなの? 見た感じ行く当てがあるようには見えないけど」

「そうなんです!! 私、帰る場所が無いんですよ!」


 身を乗り出し、猛然と声を上げる少女。

 そりゃ帰る場所があればあんな場所で倒れてないだろう。


「いや~困ってるんですよねぇ。どうしようかな~このままだとまた行き倒れちゃいかもな~」


 何だこいつうぜえ。

 わざとらしくこちらをチラチラと見てくる彼女の顔は、明らかに何かを期待している。


「それは大変だね……さて」


 よっこらしょ、と老人臭いことを呟きながら立ち上がり、歩き出す。


「私はそろそろ村に帰るから。君も……うん、強く生きてね」

「ええっ!? 置いて行っちゃうんですか!? 『当てが無いならうちにおいでよ』って優しく受け入れてくれるパターンじゃないんですか!?」


「だって君ただの不審者じゃん」


 ガーン、と効果音が聞こえてきそうな顔のまま固まってしまった。

 同情だけで生きていけるほど砂漠は甘くはない。


「ま、待って下さい! 本当にピンチなんです! 一人の人間の命が尽きようとしてるんです!!」

「いや、だから……」


「お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛す゛ぅ゛!!! た゛す゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛ぃ゛!!!」


 目にも留まらぬ速さでこちらに近づき、号泣しながら足に絡みついてくる。

 

 あまりの必死な様子に、呆れを通り越して悲しみすら覚える。

 ていうか貴重な水分を無駄にするんじゃない。


「そうは言われてもね、私達の村だって余裕がある訳じゃないし」

「ただで置いてくれなんて言いません! 何でもします! 死に物狂いで働きます!」

「心意気があるのは良い事だけどね、具体的には何が出来るの?」

「え、えっとですね……とにかくやれることは何でもやります!」


 あっダメだこいつ典型的なポンコツだ。

 頭が痛くなってきた。


「一生のお願いです……どうかお慈悲を……」


 その一生さっき尽きかけてたじゃん、と言おうとしたが、遂に土下座を始めた少女を見て引っ込んでしまった。


 無駄に美しい土下座は哀愁を漂わせている。


「………はぁ………」


 今日何度目かも分からないため息をつく。

 

「分かったよ。取り敢えず連れてってあげるよ……」


 どうせこれ以上何を言っても無駄だろう。

 勝手に着いてこられるぐらいなら、まだ案内してやる方がましである。

 それに自分のせいで死なれても気分が悪い。


 少女の顔がパッと明るくなる。


「本当ですか!? ありがとうございます!! こんな世界にも救いはあったんだ……!」


 大げさにも天を仰いで喜びを噛み締めているようである。

 分かりやすい事この上ない。


「言っておくけど私は連れていくだけだからね。そこから先は君と長次第だよ」

「あぁお父様、私この世界を生き抜いてみせます!」


 そう、自分は連れていくだけだ。

 いくら自分が認めたところで、長が許可しなければ住む事など不可能である。

 

 肝心の本人は全く聞いちゃいないが。


「ほら、日が暮れたら困るから早く行くよ。」

「あ、待って下さい!」


 先を急ごうとする私に待ったがかかる。

 まだ何かあるのだろうか。


 少女は恥ずかしそうに微笑みながらこう続けた。


「まだお名前を聞いてませんでした。貴女、ってお呼びするのもアレですし……命の恩人のお名前も知らないなんて失礼ですよね」


 成る程、確かにごたごたしていたせいですっかり忘れていた。

 しかしこういうのって自分から名乗るものでは無いのか?


「名前を尋ねる時はまず自分からって」

「あわわ、すみません」


 こちらの指摘に慌てて謝罪する彼女の姿は、やはりどこか抜けている。

 言葉を選ばなくて良いならアホっぽい。

 

 ……実際アホであるのは否定できない。

 

「私はエリアーヌと申します。エリーって呼んでいいですよ!」


 何故か少女────エリーは胸を張り、ドヤ顔気味で答えた。

 その勢いで豊満なバストが縦に揺れる。


 流石に少し頭にきた。

 助けてやった相手にコケにされっぱなしなのも気に入らない。

 少しくらい意地悪したってバチは当たらないだろう。


「そう。千影ちかげだよ。よろしくねおっぱい」


「誰がおっぱいですか!!!」


 歩き出した私の背後からおっぱいの抗議が聞こえるが、知ったことではない。






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