01話 二人の出会い
今日はつくづく運の無い日だ
ただただ広いだけの砂の海で立ち止まってそんなことを考えていた。
そもそも今日は特に予定も無く、のんびりと過ごすはずだったのだ。
それが朝は爆睡中に叩き起こされるわ、長に村から遠く離れた廃村の調査を命じられるわ、苦労して来てみたは良いものの目ぼしい物は何一つ見付からないわ、散々である。
これだけの不幸に見舞われたのだ、この後ちょっとした幸せの一つや二つはあっても良いだろう。
そうやって可能な限り思考をポジティブに切り替え、拠点への帰路を歩み出して直ぐのことである。自分の考えの浅はかさを呪った。
少女が仰向けに倒れている。
別に死体に出会うのは珍しくない。恐らく元は人間だったであろう干物が落ちている事など日常茶飯事だ
だが、これは胸がが上下に動いており、時々眉を顰めて呻いているので、どうやらまだ息はあるようだ。
いっそのこと死んでいてくれたら何の躊躇も無くスルーかましてやるのだが、生きているのなら無視をする訳にはいかない。廃村について情報を持っている可能性もある。
とは言え、一先ずは観察である。こんな所に倒れているのだ、碌でもない奴の可能性も十分に有り得る。何事も様子見から、これが行動を起こす上での定石である。
少女を改めてじっくりと見る。髪は自分と同じく腰に届く程長いが、色は全く異なる。こちらが黒なのに対し、太陽光を集めたかのように金色に輝いている。
顔立ちは、均衡が取れているが幼さが残っており、美しいと言うよりも可愛いと言った表現の方がしっくりくる。年齢は同じぐらいだろうか。
最後に……認めたくは無いが、ゆったりとした服の上からでもしっかりと確認できる程の豊満なバストをお持ちである。
視線を下にずらす。似たような衣装を着ているはずなのに、何故か膨らみがない。助ける気が少し失せた。
「うう……」
何時まで放置する気だ、という抗議の混じった様な呻き声を聞き、考察を中断する。取り敢えず声でも掛けてやったほうが良いのだろうか。しかし、この状況で何と言えばいいのか。
「……君、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
「だろうね」
そんなもの見れば解る。大丈夫であればこんな場所で倒れて無いだろう。まあ聞いたのは自分だが。
「み、水とご飯を……後出来れば日の当たらないとこまで連れてって介抱して下さいぃ……」
「死にかけてるのに図々しいね君」
「どうかお願いしますぅ……もう3日も飲まず食わずで、このままだと本当に死んでしまいま……あぁ……」
何とか起き上がろうともがいていた少女だったが、最後まで言い切る事無くパタッと動かなくなってしまった。
死んだか? いや、よく目を凝らしてみれば指で砂に「おねがい」と書いているのが見えた。可愛らしい文字だ。実はまだ余裕あるんじゃないか。
「置いてく、ってのはやっぱ駄目だよね」
これだけ頼まれて捨てていったら化けて出てきそうだ。それはそれで困る。
少女の隣まで歩み寄り、勢い良く肩に担ぎあげた。
何か大きくてとても柔らかい2つのモノが背中に押し当てられる。成る程、実際に触れてみると見る以上に自分との差がよく分かる。百見は一触に如かずという訳だ。うるさいわ投げ捨ててやろうか。
「ほら、しっかりしなよ、連れてってあげるから……取り敢えずあそこの日陰でいいか」
自分の背丈の数倍はありそうな岩に向かって早歩きで進む。揺れが激しい為か、時折「お˝っ˝」とか「う˝え˝っ˝」とか聞こえてくるが知ったことではない。
「はぁ……今日はつくづく運の無い日だよ……」
先程からずっと思っていた事を零し、砂を踏みしめて目的地へと急いだ。
、
「んっくっ……ぷはぁ! あぁ~生き返りましたぁ!」
空になった水筒を高く掲げ、死の淵から生還した喜びを噛み締める。食料と水が完全に無くなって実に3日、久しぶりに生を実感する。
やっとの事で人のいそうな場所を見つけたと思ったら既に廃村と化してた時は、この世の全てを呪ってやろうと思った。まじで。
だがしかし、捨てる神あれば拾う神あり。少し離れた場所に座ってこちらを睨んでいるこの少女こそ、私の命の恩人である。
この方に拾ってもらえなければ今頃パッサパサになって砂漠の一部に成り果てていただろう。考えるだけで恐ろしい。感謝してもしきれない。
「全部飲んだんだね……」
「ああっ、すみません! さっきまでいつ死んでもおかしくない状況だったのでつい……えへへ」
とはいえやはりこちらも人間である。いくら恩があってもこの状況で水の我慢など出来るはずもない。有難く全部頂きました。めっちゃ美味しかったです。
少女は呆れたような顔をしているが、その顔ですら今の私には女神の微笑に見える。恩人フィルターってすごい。
「……まあ、元気なったみたいだし、良かったよ」
「はい! 本当にありがとうございます! 感謝の言葉も無いですぅ!」
「感謝の言葉出ちゃってるね」
何か変なこと言っただろうか、諦められてしまったような気がする。
「いいけどさ別に……そんなことより」
少女の声色が変化し、こちらへ視線を向ける。
その時、空気が変化したのを確かに感じた。目の前の少女の表情は先程と何ら違わない。だが、間違いなく〝変わった〟
まるで小動物を狙う肉食獣のような威圧感を、自分と年の変わらない少女が放っている。全く動くことが出来ない。
「君、一体何者なの?」