担当患者様と指導看護師との板挟みに涙する看護学生
実習服に身を包み病院の廊下を歩く。
凛とした空気が流れる。緊張した面持ちの私達看護学生。
それぞれの診療科に分かれ配属先の病棟へ向かう。
賑やかな声が響く病棟に足を踏み入れる。
『あたらちい かんごちちゃんきたぁ』
『かんごちちゃん、いっぱいきたぁ』
可愛らしい子供たちの声に迎えられ小児外科系病棟で勉強させていただく。
子供たちが、ナースステーションまで案内をしてくれる。こんなに歩き回って良いんだろうか?
案内してもらってナースステーションに着いた看護学生。
子供たちの目線に会わせるためしゃがんで目を見てお礼を伝える。
『わぁーい、かんごちちゃんが ありがとちてくれたぁ』
と満面の笑みで応えてくれました。
ナースステーションで学生ひとり一人に指導看護師が付きインターンシップの始まりです。
私の指導看護師は看護師歴8年の三田舞子さん(仮名)でした。そして担当患者様は
星川裕哉君(仮名) 7歳 小学校の帰り道、自転車と衝突。右腕の骨折と擦り傷多数。元気な男の子でした。
『裕哉君、こんにちは』
声をかけると
『ひろで良いよ。みんなそう呼ぶんだ』
『ひろ君、菜須よつ葉です。よろしくね』
ひろ君は嬉しそうに笑ってくれた。
『よつ葉ちゃん、算数得意?』
ん? 私、小学生にも三歳児にも「よつ葉ちゃん」って呼ばれるんですけど、どういうこと? 私、幼い?
『高校で理数クラスだったから得意だよ。点滴計算もバッチリだよ』
と言うと、ひろ君は
『よつ葉ちゃん、夏の生活の算数のページ教えて』
可愛い!夏の生活かぁ……懐かしい。
『それじゃあ、指導看護師の三田さんに確認してからお返事でも良いかな?』
と言うと、ひろ君は
『みたっちが先生なの?』
えっ? みたっち? ふふっ。後ろから視線を感じる。たぶん、みたっち。いやいや三田指導看護師。
『ひーろーくーん、算数がどうしたのかなぁ??』
三田指導看護師の登場です。
『うわぁ、みたっちも来た! よつ葉ちゃんに算数教えてもらっていーい?』
ひろ君が三田看護師にお願いをしている。
『回診と身体拭きしてお昼までの時間なら良いよ』
三田看護師から快諾してもらい嬉しそうな、ひろ君。
主治医の回診が終わり、清拭の時間になりタオルを持って行くと
『よつ葉ちゃんがするの?』
ひろ君からの質問に
『そうだよ!』
と伝えると
『えぇー、よつ葉ちゃんに裸見られるの恥ずかしいよ』
あらぁ。可愛い。いやいや、看護師さん否、看護学生だから大丈夫。って何が大丈夫なんだ?
『じゃあ、三田看護師さんにしてもらおうか?』
と言うと、ひろ君は
『いつも、みたっちだから良いよ』
無理矢理するわけにもいかず三田看護師に事情を話と三田看護師が、ひろ君の清拭をササッと終わらせる。
三田指導看護師に、呼ばれて注意を受けた。子供が嫌だと言ったら全て要件を飲むのかと言われました。確かに、いちいちその都度交代していたらチームのペースを乱してしまう。
『申し訳ありませんでした』
素直に謝る看護学生。
『確認に来るのは大切なこと、でも納得させるのも看護師の大切なこと。今回は清拭の拒否。清拭じゃなく処置や治療だったらどうしていたの?』
『治療や処置は、患者様自身に必要なことなのできちんと説明しながら受けてもらいます』
『それと同じよ。今日の担当は私以外居ないのよ。と説得を心がけないと担当患者さんになめられるわよ』
私のとった行動は、いけないものでした。ひろ君を中心に考えていたのです。これでは、他の看護師に迷惑をかけてしまいます。看護学生の陥りやすい患者様中心に考えての行動。私も例に漏れず失敗してしまいました。
反省です。
三田指導看護師、今日はご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。そして教えていただきありがとうございました。
落ち込んだ状態でも患者様は待ってくれない。清拭終わったら夏の生活の算数を教えることになっている。
患者様の前で落ち込んだ姿は見せられない。よつ葉、頑張りどころ。
算数を教えるのは大丈夫でした。私、教師もできるんじゃない? と勘違いしてしまいそうでした。
『よつ葉ちゃん、算数すごいね。天才』
何このべた褒め。いやいや、大学生だからね。普通にわかるよ!
『ありがとう』
無事に算数の時間を終えて、お昼の時間。その間に配薬をする。
指導看護師の三田さんに着いて色々と教わる。
午後から安静タイムの時間があり子供たちは各病室で過ごす。その間に看護師は色々と仕事がある。
そして休憩中の看護師さんたちのあれやこれや……。ん? 白衣の天使さんが白衣の悪魔さんに見えます。
ここに書いたらいけません。皆様の夢が壊れてしまいます。
ナースステーション奥の休憩所に集まりひとときの休憩時間の看護学生達。うまくいかない自分自身の看護に涙が溢れる。
『よつ葉ちゃん、私もいつも怒られてるから一緒に頑張ろう』
『よつ葉ちゃん、ひろ君に笑われるよ』
同じ小児外科病棟で学んでいる仲間達に支えられて涙を拭いて休憩後のインターンシップに臨む涙の看護学生よつ葉。
難しい問題に悩み立ち止まる。それでも患者様は、待ってくれない。
看護学生、小学生のひろ君に勉強させてもらったし泣かされました。
看護学生の挫折? 否、何もできなかった後悔。が大きく心にのしかかる。
今回のインターンシップは、色々と学んで泣いて忙しかった1日でした。