第3話
「でかいな」
俺は思わずつぶやいた。
「こっちは人口が増えるばかりですから」
黒服がすかさず答える。
「そうか・・・こっちでは人が亡くなって人口が減ることがないもんな」
「いや、そういうわけでもないんです。」
「?じゃ、こっちでも寿命があるのか?」
「いや、そういうわけでもないんです。」
そのまま続きがあるのかと、待っていたがそれ以上何も言ってくれなので
文句を言おうとしたら、ロビーの受付みたいな所に来てしまっていた。
そこには、受付嬢がおり、
「ようこそ」などと言う。
まるっきり下界と同じだ。
「こちらに名前を書いて下さい。」
差し出されたペンを受け取り、分厚いノートに名前を書く。
妙な感じだ。
知った名前がないか、ページをめくってみようかと思ったが
すぐに閉じられてしまった。
「ここでは、個人情報保護が下界よりも厳しく徹底されております」
黒服が表情を変えずに言った。
「へえ。そうなんや。」
それより、次の展開だ。
「これから俺はどうなるんですか?」
おずおずと尋ねるとにべもない。
「来ればわかります。」
「おたくね、もう少し死人に優しくできないかな」
「いちいち優しくしてたら仕事が滞りますので。
ビジネスライクにさせて頂いています。」
「はあ。そうですか。」
とか何とか言ってるうちに、受付を離れて4階に上がる。
もちろんエレベーターだ。
「やっぱり、4階なんや。」
「何がです?」
黒服の表情に少し変化があった。
「いや、死人が行くんで、4階」
黒服が鼻で笑った。
「やっぱり、あなたも同じこと言いますね」
少し悔しい。で、気を取り直してもう一度尋ねた。
「これからなにがあるんですか?」
今度は答えてくれた。
「面接です」
「誰と?」
「移民局です。」
「俺は移民なんですか」
「そういうことです。
これからあなたが、どこに住み、どんな仕事をし、その結果どう生まれ変わるのかを
説明されるのです。」
生まれ変わる?
「生まれ変われるんですか?ほんまにあるんや」
少し黒服の口の端があがった。
「あるんですよ。うれしいですか?」
「いや、うれしいというか微妙な感じですけどね。
でも、とりあえずまた戻れるんですよね。」
黒服の口の端がさらにあがった。
「戻れますよ。さあ、着きました。
このまままっすぐに廊下を行きますと、ドアが二つあります。
あなたは、その右側のドアを開いて中にお入り下さい。
面接官がいますので。では。」
黒服はそのままエレベーターからもおりずに、そのまま1階に下りて行ってしまった。
仕方ないので、言われた通り、廊下を歩いて右側のドアを開いた。
真っ白な壁と床のこじんまりとした部屋だった。
そこには向かい合わせで座るように机と椅子があり、向こう側に面接官が座っていた。