第1話
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。
ああ、夢見てるんやな。
あるある。妙にリアルな感じ。
「マー、マー、何で、何で・・・」
ああ、これは由美の声やね。何か怒ってないか?
まあ、夢ではよく怒られるよな。
「ほんまやで、大うそつきや!こら、まっちゃん!
ひどすぎるわ!」
ん?これは百合子さんか?
めずらしいなあ、百合子さんまで怒ってるぞ。
へへ、夢で浮気でもしたか、俺。
いやいや、夢でも半殺しはごめんやね。
「何で、先に死んじゃうんよ、私を見送るって約束したやん、
結婚するって約束したやん・・・」
由美が泣いてる?先に死ぬ?俺が?
また縁起でもない夢やな。こら、さっさと目覚めた方がええね。
で、目が覚めた。はずだった・・・
いや、確かに目が覚めたのだ。
しかし、そこに見えた光景はとんでもないものだった。
由美や由美の親友、百合子さんやらが俺を見下ろしてる。
その上、ついさっきまで夢の中で聞いてたことを泣きながら
叫んでる。
えええ?まだ、目が覚めてないのか?
と、思った瞬間、体がふわっと浮いた。
すると、さらにとんでもない光景となった。
なんと、そこは俺の葬式会場だったのだ。
俺が棺おけに横たわり、皆が最後のお別れというわけで俺を
覗き込んでいる。
ぐるっと見回すと俺の遺影が花に包まれ、にやついている。
待て待て、俺、死んだのか?
いつ?何で?
こんなこと考えてる俺はなんなの?
幽体離脱?いやちがうな。魂?
なんで?なんで?
「ま、最初は誰でもそうです」
棺おけを取り囲む人の方向からではなく、真後ろから声が聞こえた。
振り向くと、スーツを着たセールスマン風の初老の男性が立っていた。
いや、宙に浮いていた。
「だ、誰ですか。あなたは」
「お迎え担当です」
お迎え?またわかりやすい。
「て、天国ですか?地獄ですか?」
つまらんことを尋ねる自分が情けない。
「行けば分かります。下界では一般的に天国と呼ばれてはいますがね。」
「何か微妙ですね」
「微妙ね・・下界では相変わらず言葉が乱れてますねえ。なげかわしい。
いい大人が使う表現ではありませんよ。直したほうがいい。」
「す、すいません」
なんで誤まってるんだ。
「それより、俺は死んだのですか。」
おそるおそる尋ねた。
「そうですよ」
無碍もない。
「いつですか?なんで?」
「覚えてないんですね。あなたは、建設中の建物から転落したんです。
即死でした。楽だったはずですよ。」
「転落?いつですか?」
「3日前です。あなたは、由美さんと会う約束をしていた。
いよいよ、結婚を間近に控え、新居に会う家具などを見に行く予定だったのです。
ところが、急に入った連絡で新築ホテルの現場に寄ったあなたは事故に
合ったというわけです。」
「由美は・・・」
「ずっとあなたから連絡がないため、不安になった由美さんはあなたの会社に電話したんです。
それは気の毒でみていられませんでしたよ。」
そりゃそうだろう・・・なんてことだ・・・
「俺は、これから・・・」
「そうです。私がご案内します。」
下では由美が泣いている。百合子さんが怒りながら泣いている。
こうして俺は天国に導かれ、星となって由美を見守ることとなった・・・
とは程遠い、とんでもない死後を送ることになったのだ。