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chapter2 キング&ルーク 初等部一年生編 ④

ゲームの通りに不仲になろうが、もう結構!

そんな気持ちでお見舞いした一発にとてもスッキリして、夏葵は次の日を迎えた。


「おはようございます。夏葵様」

「おはよう。千早さん」

「旦那様はもうお出になられました」

「いつものことだからわかっているわ」

朝早くに出勤した行哉のことを千早から聞かされて、あんなに仕事をしてなにが楽しいのかと疑問に思うことが何度もある。

朝は夏葵よりも早く出て行き、帰ってくるのは深夜を回る時もある。

一緒に食事の席についたのは、はたしていつだっただろうか?

夏葵が中等部に上がる頃には還暦をむかえる歳になるというのに、家族を顧みず仕事をする父親が哀れにも思えてくるから不思議だ。それとも仕事をしていれば、子どもには見えないなにかが大人にはあるのだろうか?

いや、生活のために働くのは当然としても、仕事が命! みたいな父親だ。

それを基準に大人を図ってはいけないのかもしれない。

まるで他人を観察しているようだ。

それだけ情が薄いのだろうと理解している分だけ、失笑が込み上げてくる。



朝食を終え、玄関ホールへと向かいながら、そっと右頬をさする。

そこには昨日、花蓮から扇で叩かれたさいにできた痣があるためガーゼを貼っていた。

「痛みますか?」

千早に事情を説明して手当てしてもらったものだった。

「大丈夫です。それよりも大きなガーゼなので気になってしまうだけです」

「二、三日で消えると思いますので、それまでご辛抱ください」

頷くと、千早は外に続く扉に手をかけて、いつもと同じように開けてくれた。


「おはよう。藤ノ百合さん」


いるはずのない人物達を見た瞬間、自分でも信じられない早業で扉を閉めていた。

両手で扉を抑えて、今見たものを脳がなかったことにしようとしている。

「……夏葵様、今聞き覚えのある声がしたようなのですが」

「していません! するはずがありません! ありえません!」

「確認いたします」

夏葵の制止よりも先に扉を再度開けた千早の先に見える人物達。

「二度目だけど、おはよう」

「おはよう」

朝からキラキラと輝いて、花をしょっている一人とライオンと夏葵が頭の中で変換してしまっている一人。

「おはようございます。紫陽宮奏多様。神津龍之介様」

手を上げてにこやかな笑顔の奏多と、その隣で笑顔もなく立っている龍之介。

共に左頬には夏葵よりも大きなガーゼを貼っていた。




学園まで送ると言われて拒否したものの、ひかない奏多にこれでは遅刻してしまうと諦めて、夏葵は千早とともに紫陽宮家の車に乗り込んだ。

いやに大きな車だと思ったけれど、乗り込んでみて納得した。

くつろげるスペースがあり、飲み物が人数分置かれていて、車の中とは思えない装飾に一瞬逃げ出したくなってしまう。

藤ノ百合家もこういうお金持ち用の車は持ってはいるが、父が使用するだけで夏葵は使ったことがない。というか、使う気すら起こらない。

それに乗り込まなければいけない苦痛をなんとか押し殺してシートに座れば、車はゆっくりと動き出す。


「あまりにも強引だと思いますけれど、なにかお話がおありなんでしょうか?」

昨日のことでとはあえて言わない。

叩いたことを謝る気はないし、悪いことをしたとも思っていない。

「昨日のことだよ。……昨日は本当にごめんね。僕はずいぶんと思い上がった考え方をしていたなって思ったよ。藤ノ百合さんの言う通り、一番悪いのは僕だったって気づいた。だから、花蓮姉さんにも酷いことを言ってすみませんと謝ったよ。好きになれないのは変わらないと釘は刺したけれどね」

「俺もすまなかった。奏多を止めるどころか、奏多の後押しをしてしまった。よく考えれば非常識だと思ったが、全てが片づいた後に思ってもしょうがない」

「謝罪はお受けします。けれど、私は叩いたことは謝りません。間違っていたとは思っていませんので」

「うん。わかってる。間違っていたのは僕らだから」

「お話はそれだけでしょうか?」

「ううん、もう一つあるんだ。藤ノ百合さんは僕のことをどう思ってる?」

「キラキラ……ごほん。華のある方だと思っています」

わがままな性格なんじゃないかと思ったが、争いの火種は起こすものじゃない。

「でも、いい印象は持ってはいないよね」

「昨日の今日でそれを尋ねられるのですか? 答えはわかりきっているでしょう」

「だよね。でもね、悪い感情を持たれたままでも伝えたいと思ったんだ。藤ノ百合さん、僕の婚約者になってくれないかな」

「は?」


この人はなにを言っているのでしょうか?


ぽかんとしている夏葵をよそに、話の流れ的に予測していた千早と奏多から聞かされていた龍之介は動じることがなかった。

「僕を正してくれた時に、ああこういう人と付き合いたいなって思ったんだ。あ、友人としてじゃないよ。彼氏彼女として。どうかな?」

唖然としていたが、答えは決まっていた。

「お断りします」

「うん。その返事も予測済みだから。でも、諦めないって宣言しておくね。僕の初恋なんだ。叶えてみせるよ」

堂々と宣言した奏多にこめかみがぴくぴくと動く。


この男、傲慢なところがなにも変わっていない!

叩き損!


でも、なによりも先にすべきことは……。


隣で笑いを必死に堪えている千早を叱ることだろうと夏葵は現実逃避をして現状から目を逸らした。






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