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chapter3 「友達をつくりましょう」 初等部二年生編 ⑧

白雪姫はわかるけれど「二人」って……。


それが劇の台本を先生から手渡された時に、すぐに思ったことだった。

声に出しそうになるのをなんとか必死に堪えたが。


「白雪姫が二人? 先生、台本のタイトル間違い」

けれどガーネットはスッパリと言い切った。

言われた先生も苦笑している。

「間違ってないんだよ。劇の脚本はオリジナルで白雪姫が二人いるんだ。で、その主役を藤ノ百合さんと菜々月さんにお願いしたいんだよ」

「嫌」

考慮する余地などないと言わんばかりの即答。

「ヴァイオリンの練習時間減らすなんて嫌」

「私も色々と習い事をしていますので難しいです。他の方を探してはもらえないでしょうか?」

ガーネットに賛同する夏葵に、先生は「できるものなら……」と零した。


クリスマス会で劇をやることは半年前からの決定だったらしいが、面白がって脚本を書いたのが学園の理事長だったらしい。

理事長が書いた脚本をやらないわけにもいかなくなり、白雪姫は男子生徒からアンケートをとればいいんじゃないかという、これも理事長の提案から行われたアンケートの結果が呼び出された夏葵とガーネットということだった。

もしかしたら理事長はガーネットが男子の人気が高いのを知っていて、そんな提案をしたのではないだろうか。

「……叔父様……動けないようにしてくる……」

話を聞き終えた瞬間に地を這うような声で出て行こうとしたガーネットを先生となんとか押し止めた。

行事ごとだからなんとか諦めてもらえないかとガーネットに懇願する先生が哀れになって、夏葵が引き受けると、ガーネットもしぶしぶ受け入れた。


けれど、この後、引き受けたことをとてもとても後悔する羽目になってしまう。


「ああ、それと王子役も女子生徒からのアンケートで決まっているから、よろしく頼むよ」


女子生徒のアンケートで王子役が決定?


冷や汗が背中をつたう。

もしかして、もしかしなくても。



そして、劇の稽古が始まった初日に笑顔で夏葵の前に現れたのは予想していた人物。

「やあ、藤ノ百合さん。練習頑張ろうね」

嬉しいのを隠そうともせずに、今日もキラキラしている奏多を見て、引きつった笑みしか零れない。

「……ストーカー……」

ぼそりとガーネットが呟いた言葉に奏多は真っ先に反応した。

「聞き捨てならないな。僕は藤ノ百合さんと菜々月さんと同じようにアンケートで決まったんだよ。僕はなにも操作していないよ」

ええ、そうでしょう。

もう諦めるしかないと悟りをひらいていて、ふと夏葵は集められた配役をぐるりと見渡した。

「夏葵ちゃん?」

「あの、王子役は紫陽宮様とどなたなんですか?」

正直、女子に人気のある男子生徒などわからないが、白雪姫と王子、そして七人の小人役は全員、教室の前方に集められている。奏多以外に女生徒に人気と言われるような外見をした男子は見当たらないし、人数も足りない。

「聞いてない? 王子役は僕だけなんだよ」

「は?」

ガーネットと同時に声を出してしまっていた。

「最初は二人選ぶつもりだったらしいんだけど、票が僕に集中したらしくて。そしたら理事長先生が王子は一人でいいんじゃないかって言ったらしいよ。その方が面白いだろうからって」

慌てて配られたばかりの台本の最後に目を通せば、王子が最後に選ぶ白雪姫は一人で、残りの一人は永遠に目覚めないと書いてある。


こんな白雪姫があるか!!


全力で叫びたいのを夏葵は堪えたが、ガーネットは限界だったらしい。

「夏葵ちゃん。安心して。今すぐ叔父様のところに行ってくる。息の根を止める」

「ざくろさん! 落ち着いて!」

「我慢できない。止めないで」

「止めます! 本当に落ち着いてください!」

格闘数十分……。

なんとかガーネットは止められたものの、次はこの劇のことをぐるぐると考え込んでいた。

こんな劇を認める先生達も先生達だ。

頭痛を覚えて頭を押さえてしまう。

「大丈夫だよ。藤ノ百合さん。僕が選ぶ白雪姫は藤ノ百合さんだけだから」

「黙っていてくださると、とても助かります」


奏多を王子役に据えれば、この劇の最後などわかりきっている。

どうしてそもそも理事長はこんな劇の提案を?

ガーネットを選ばないと堂々と宣言している奏多を、たった一人の王子役にして。


「大丈夫だよ。さすがにこれじゃああんまりだから、今先生達が台本の手直しをしてるって。選ばれるのは一人でも、選ばれなかった方も小人達と幸せに暮らしましたっていう最後になるらしいよ」

だから、稽古初日だというのに、先生達が数人を除いていないのか。

今から台本の書き換えをしていれば、それは遅くもなるというもの。

でも、それじゃあ結局この劇の最後は……。

「紫陽宮様、たかだか劇なので、ここは理事長先生の顔もたててざくろさんを選ぶのはいかがですか?」

「無理だね」

「嫌。たとえ夏葵ちゃんを助けることでも」

ガーネットからも一刀両断されて、夏葵は項垂れた。

ガーネットが恐ろしいほど嫌がる顔をしているので、お願いなんてできるはずもない。

と、奏多に気付かれない小声でガーネットが、そっと夏葵に耳うちした。


「思い通りにはさせないから。平気」



その真意を知るのは、本番当日。劇の真っ最中だった。







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