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chapter3 「友達をつくりましょう」 初等部二年生編 ⑦

現在、夏葵は千早にじりじりと詰め寄られていた。

「千早さん! 怖いです!」

「夏葵様、もっと詳しく的確にお教えください」

「言っていることはまともなのに、間合いの詰め方がおかしいです!」

笑顔なのにゆらゆらと揺れながら、夏葵のほうにむかってくる姿は亡霊のようだ。

「知らなかったんです! 知らなかったんです! 知らなかったんです! ざくろさんのお兄様が攻略対象者だったなんて!」

半分悲鳴に近い声が夏葵の口から飛びだしていた。



菜々月凛夜。

攻略時点では朝宮凛夜という名前らしい。

菜々月の姓でないのは大学進学前に父母が離婚しているから。

『チェトランガ』では隠し攻略キャラクターで、6人の攻略後、最後に攻略できる仕様らしく、このゲームでの立ち位置はチェスボードだ。



「チェスボード、ですか? あの駒ではなくてですか?」

「はい。6人の攻略キャラクターを支えているという表現で使われていました。朝宮家は菜々月蛍様の生家で、高宮東奥学園の実質的な経営者の一族です。攻略時は理事長代理でしたでしょうか」

「そうなんですか!?」

「夏葵様がそれを知らないのも無理はありません。朝宮家は名前をほとんど表には出しません。高宮東奥学園の経営も他家の名前を使っております。表に出ることを極端に嫌う当主様で、人付き合いもあまりしないと有名です。行哉様は興味のない家柄のことは夏葵様にはお教えになっておりませんから」

「あの、千早さん……離婚ってどういうことですか?」

「本日ご自宅に伺われた夏葵様なら、もう理由はわかっていらっしゃるかと思います」

そういえば、ガーネットが言っていたではないか。

祖母のことに関して父親と母親はよく喧嘩になっていると。

「ざくろさんの御両親は……離婚、されてしまうんですか?」

「わかりません。ゲームの設定と違うこともあるのは夏葵様がよくご存知のはずです。先のことは当人達同士でも予測のつかないものです」


千早の言う通りだ。

けれど、本当にゲーム通りに離婚してしまうのだとしたら?

ガーネットは兄の凛夜にとてもよく懐いていた。

離婚して母の姓を名乗るということは別々に暮らすということだ。

母親とはどうかわからないが、兄と引き離されるのはガーネットにとって悲しいことぐらい夏葵にだってわかる。


「夏葵様、どうにかされたいというお気持ちがおありでも、それは胸にしまっておかれるべきかと思います。個々の家の事情に口を出すのはいかがなものかと思います。菜々月柘榴石様のことを気にされていてもです」

他人が口を出したところで、どうにかなる問題でもないのかもしれない。

ましてや夏葵は子どもだ。

鼻で笑われるのがオチではないだろうか。

それでも、そんな時になって、なにもできない自身を恨むだけしかできないのだろうか?

「傍に寄り添ってくれるだけで気持ちが安らぐこともございます」

両手を組んで俯いていた夏葵に、千早は優しく諭してくれる。

「私は夏葵様にとって、そんな存在でありたいと思っております。菜々月柘榴石様には夏葵様がそんな存在になればいいのではないでしょうか?」

私が?

千早さんのように?

「私が……なれるでしょうか?」

真摯にそう千早に問いかけると、なぜだか無言の数分が過ぎ、千早はがっくりと膝から崩れ落ちた。

「恥ずかしい気持ちを堪えながら言った言葉を肯定されるセリフ……。真顔で返してくる可愛らしい質問……。夏葵様、大丈夫です! 夏葵様ならなれます! 天使に!」

「なれません! さっきの千早さんに対する感動を返してください!」


この先どうなってゆくのかはわからない。

でも、ガーネットの友達として傍に居続けられるようにしようと夏葵は決意した。






新学期が始まり、そんな決意の表れのせいなのか、夏葵はガーネットと行動することが前よりも多くなった。

前よりも幾分か縮まった距離感に心地良さを覚えていたが、問題が一つあって。


「夏葵ちゃんは今日はざくろと帰るの。家にお呼ばれしてるから」

ね? と同意を求められて頷けば奏多は面白くないと不満顔でガーネットを見る。

「僕も藤ノ百合さんの家に行ってみたいな」

「ダメ。そんなことしたら夏葵ちゃんは本気で紫陽宮君のこと嫌いになるから」

ええ。まったくその通り。

遊びにこられなんてしたら、あの父親に縁談を推し進められる未来が間違いなくおとずれる!

ガーネットの発言は的を射ていて、奏多は悔しそうに夏葵の腕を自分の腕と絡めているガーネットに鋭い視線を向ける。

そんな敵意のこもった視線など、なんのその。

ガーネットは夏葵と腕を絡めたまま歩き出した。

けれど、一旦立ち止まり後ろを向いたガーネットはべーっと舌を出した。

それに奏多だけでなく龍之介もムッとしたようで。


ガーネットとの仲がよくなった分だけ、奏多とガーネットの諍いが増えるばかり。

そして嫉妬の交じった女子達の視線が夏葵にだけでなく、ガーネットに向けられるのも正直嫌だ。

ガーネットの家柄と才能に怖気づいている女子はなにも言ってはこないが、やはり小さな被害はあったらしい。

過去形なのはその全部をすべてガーネットが叩き潰したからだ。

奏多のせいでノートが破られたり、物がなくなると言えば、奏多はそんなことをする子は嫌いだと宣言をして収束。弊害に数週間、学年にまたがり休む女子生徒が何名かいたらしい。

直接呼び出されればボイスレコーダーにその浴びせられた罵声を収め、呼び出した女生徒の家々に送り付け、尚且つ先生にも聞かせた。

一時、臨時役員会が開かれそうになったが、大事にしたくない家族が頭を下げてガーネットの家まで行き詫びたらしい。

親に恥をかかせた女生徒は、その後、数日は休み、出てきてからも塞ぎ込んでいるとか。

はっきりいって自業自得。

けれど、未だに懲りない人達は大勢いる。

学習してほしいと思う。

今度ガーネットになにかあれば夏葵自身が表に出ることを真剣に考えているし、そうなる可能性を考えないでことを起こせば、まあ後は夏葵の与り知らぬことになるだろうが。


ある意味で気が抜けない日々が続く中で、いきなり夏葵とガーネットは二人で職員室に呼び出された。

なにかしただろうか? と二人で色々と考えてみたものの思い当たる節がない。

そうして職員室まで行って学年主任から手渡されたものは劇の台本だった。



12月のクリスマス会で発表するという初等部二年全体の劇。


「二人の白雪姫」だった。







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