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chapter3 「友達をつくりましょう」 初等部二年生編 ⑥

一時間ほどガーネットとガーネットの祖母と話をして、あまり長話は体調にひびくかもしれないと、凛夜が二人を連れだって部屋を後にした。

ガーネットはまだ話したりなそうだったが、それでも祖母の具合を考えて、すぐに諦めたようだ。

ガーネットの自室に通されると、ガーネットらしい可愛らしい内装に自然と心が和んでくる。

シンプルな夏葵の部屋とは大違いだ。

もう少し部屋を飾って見ては? と千早が夏葵に言うのも頷ける。

初等部二年生の部屋ではないほど、必要最低限なものしか置いていないのだから。

ガーネットの部屋には、すでにお茶菓子が用意されていて三人分のカップが置いてあった。

「兄様。兄様も一緒にいて」

「僕も? どうして? お友達とゆっくり話をするのに僕は邪魔じゃないかな?」

「兄様がいれば母様はこない」

「堂々と可愛い妹に盾扱いされていると悲しいなあ」

そうは言いながらも、ガーネットの提案を断る気はないらしい。

「夏葵ちゃん、いい?」

「私はかまいません。それにお邪魔しているのは私なんですから気にしないでください」

「大人っぽいね。夏葵ちゃん? って呼んでも大丈夫かな?」

「はい」

頷けば優しく微笑まれる。

本当の本当に見た目とのギャップがある人だ。

「ざくろとは正反対のように見えるけど、ざくろが友達になりたいって言ったのかい?」

「うん。ずっと友達になりたいって思ってたから」

椅子を薦められて座る間もガーネットと凛夜は仲が良さそうに会話をしている。


羨ましいと素直にそう思う。

夏李とはこのままどこまで行っても平行線のままの予感しかしない。

それが変わっていかないかという馬鹿げた望みに、いつも自嘲してしまう。


掬子が言ったではないか。

今すぐには諦めるのは無理だと。

でも、燻り続けるどうしようもない気持ちが、早く消えてくれはしないかと願ってしまう。

なのに消えては嫌だと叫んでいる時があるのだ。

心の奥底のもっと奥。

夏葵自身が見えない深淵の淵から叫ばれている。


なんて滑稽で、愚かで、惨めなんだろう。


夏葵は自分に対しての評価を、そう捉えている。

千早に言えば叱られるだろうことはわかっていても、いつも思ってしまうのだ。


自分に対して。


滑稽だ。


愚かだ。


惨めだ。


と。


「夏葵ちゃん?」

考え込み過ぎて、目の前にいるガーネットと凛夜の存在が気薄になっていた。

しっかりしろ! と胸の内に喝を入れる。

「すみませんでした。あまりにもざくろさんとざくろさんのお兄様の仲がよろしかったので、割り込んではいけない気がしてしまって」

「凛夜でいいよ。『ざくろさんのお兄様』なんて呼びにくいでしょ」

「気にしなくていいのに。夏葵ちゃん、色々気、使いすぎ。夏葵ちゃんの悪い癖?」

「気を遣い過ぎていると言われたことはありませんね」

問いかけに苦笑して返せば「でも、そうだよ」と断定される。

どうぞと勧められて紅茶を一口飲んだ時、ガーネットがなにかを聞きたそうに夏葵を見ていることに気づいた。

いつもはストレートにものを言うガーネットが珍しいなと思いながら、夏葵は笑う。

「どうかしましたか? 聞きたいことがありますと顔に書いてありますよ。ざくろさん」

「うん。聞きたい。でも、聞いてもいい?」

こんなに迷っているガーネットも珍しい。

それだけ聞きにくいことなのだろうかと思って、ああと、すぐになにを聞きたいのかわかってしまった。

「私の家族のことですか?」

「どうしてわかったの?」

「色々周囲が噂しているのは知っていますから、ざくろさんの耳に入っていてもおかしくはないと思っていました」

離婚して出て行った母のこと。

醜態を晒す夏李のこと。

噂にならないはずがないではないか。

夏李だって、父が見捨てたとは言っても藤ノ百合家の血を継いでいるのだから。ある意味では価値のある存在なのだ。藤ノ百合家と縁を結びたい家にとっては。

まあ、今の夏李のままであれば、どこも嫌がるだろうが。

「夏葵ちゃんのお母様ってどんな人? 夏葵ちゃんとそっくりの妹もいるって聞いた」

「ざくろ。あまり人様の家のことを聞いてはいけないよ」

凛夜がざくろに注意するが、凛夜はすでに高校生だ。

ざくろよりも色々なことを知っているのだろう。

だから止めるのだろうが、別に夏葵は気になどしない。

「かまいません。私は気にしていませんので。どんな人、ですか……。そうですね……」

一言で二人を例えるなら。


「醜い、でしょうか」


息をのんだのは凛夜だったが、ざくろは意味を理解できなかったようだ。

「みにくい? 夏葵ちゃん、視力が悪いの?」

「そちらの『見にくい』ではないですね」

吹き出してしまった夏葵にざくろはクエスチョンマークだらけの顔をしている。

「簡単に言ってしまえば、気持ち悪い。見ていられない。同じ人間とは思えない。頭がおかしい。愚かしい。こんな感じでしょうか」

「ざくろのお母様より大変そう」

「まあ、もう関わることもありませんから」


嘘だ。

乙女ゲームのストーリー通りなら、この先関わることはわかっている。


けれど、あえて夏葵はそう口にした。

なんでもないと笑いながら。

愚かしいのは自分も同じだと思いながら。


凛夜の視線が悲しそうに向けられているのを、見ないふりをしながら。







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