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chapter3 「友達をつくりましょう」 初等部二年生編 ④  

ガーネットと友達になり、学園で行動をともにするようになると、千早の言っていたことがおのずとわかってくる。

学業も行事も誰かと一緒にいるということが、一人よりも楽しいことなのだと実感する。

不思議な言動が多いガーネットだが、夏葵は不快になることはなかったし、ガーネットの言葉の一つ一つに意味があるとわかって見出せば、その答え探しも楽しいものだった。

ガーネットも夏葵のどこを気に入ってくれたのかはわからないが、同じように楽しそうな顔を見て嬉しい気持ちになって、それがまたくすぐったかった。


夏休み前、お互いの家に遊びに行く約束を交わしていると、奏多が現れて去年のように赤い薔薇を三本、誕生日プレゼントと言って渡してきた。

去年と同じ「僕の気持ちだから」という言葉つきで。

クラスメイトの女子や廊下にいる野次馬まで悲痛な面持ちで騒いでいる。

この薔薇を捨てないのが付き合っていると誤解されている要因なのか。

けれど、捨てるなんて恐ろしいことができるわけがない!

相手は紫陽宮家の子息。

そして、夏葵は藤ノ百合家の息女。

失礼な行為をすれば、子どもの問題だけではすまなくなってくる部分もある。

夏李は典型的にそれをやって自爆しているようだが。


薔薇を持ったまま黄昏るしかない夏葵に「燃やしてくる」と薔薇を横から掻っ攫って、焼却炉に行こうとしたガーネットは勇者だと思ったが、全力で止めた。

そのせいで余計に奏多とガーネットの仲は険悪になったようで。

来年以降大丈夫だろうか? と不安になってくる。






むかえた夏休み、夏葵は緊張を隠そうと努めて息を大きく吸い込んだ。

菜々月家自宅前。

藤ノ百合家よりも大きくはないが、一般家庭の家よりはかなり豪華で広い敷地を誇る家の前で、持ってきたお茶菓子の袋の紐を強く握る。


ついにこの日が来てしまった!

初めて訪れる友達の家。

粗相をしないか心配だが、千早に大丈夫だと太鼓判を押されてやってきた。

後はインターホンを押すのみなのだが、勇気が中々出ない。

意気込みがまだ足りなかったかと、もう一度息を吸い込もうとした時、いきなり前触れもなく玄関の扉が開かれ、門前に走ってくる人影がある。

「夏葵ちゃん!」

「ざ、ざくろさん!? ど、どうされたんですか!?」

「早目の行動する夏葵ちゃんが時間よりも先にくると思って待ってたのに来ないから。どうしたの? そんなところで」

「い、いえ……その……」

勇気を出さないとインターホンが押せそうになかったなんて恥ずかしくて言えない。

しどろもどろ言い訳を口にしようと濁しているうちに、ガーネットに手を引かれて家の中へと招かれていた。

「早く! 夏葵ちゃんにおばあ様に会ってもらいたいの」

「そ、そんなに急かさないでください」

一時も待てないというように夏葵の手をひいていたガーネットだったが、いきなり立ち止まった。

呼びかけるよりも先に届いたのは、ガーネットの声ではなく。

「まあ、いらっしゃいませ! 藤ノ百合夏葵さんね! 初めまして!」

艶やかな黒髪をなびかせて優雅に笑いかけてきたのは、派手な見た目の美人な女性だった。

一目で、ガーネットの母親なのだろうとは首や指を彩る装飾品の煌びやかさでわかったが、似ていないというのが夏葵の第一印象だった。

「初めまして。藤ノ百合夏葵と言います。菜々月さんとは親しくさせていただいております。菜々月さんのお母様ですか?」

「なんてご立派な挨拶なのかしら! ええ、わたくしはガーネットの母で菜々月蛍です。こちらこそ娘がお世話になっているようで恐縮ですわ」

ざくろではなく、菜々月さんという呼び方は割とすんなりと口からでた。

なんとなくだが、ざくろの話から推測してざくろの母親の前では「ざくろ」と呼んではいけない気がしたのだ。

けれど「ガーネット」なんて呼ぶのは慣れていないし、本人が嫌がるだろう。

「……お母様、今日は演奏会の打ち合わせじゃないの?」

ガーネットは若干トーンダウンした声で話すが、母親は気づいていないのかニコニコと笑っている。

「早目に切り上げたのよ。だって藤ノ百合様の娘さんが来られるのだから、母親として挨拶をと思ってね」

「……いらないのに」

「さあさあ上がってください。藤ノ百合様のご自宅に比べたら狭い家ですが、ご遠慮なさらないで」

ぼそりとした呟きは母親には聞こえていただろうに、あっさりと無視して夏葵を家の中へと促す。

「夏葵ちゃん、先におばあ様のところへ行こう」

「おばあ様って、駄目よ! お養母様のところへ藤ノ百合様を連れていくなんて!」

「おばあ様に会わせるって約束してる。だから、嫌」

「ガーネット!」

母親を無視して行こうとするガーネットを母親が無理矢理押し止める。

それに不快だと声には出さなくても顔には出して、無言で通り過ぎようとするが阻まれる。

それを数度繰り返して、とうとうガーネットの堪忍袋の緒が切れたのだろう。

「邪魔」

たった一言だったのに、その一言には強い怒気が孕んでいた。

一度も聞いたことのないガーネットの怒りの声に夏葵は驚いて、母親は顔色を赤く染める。

「ガーネット! いい加減になさい!」

こちらも怒りに火がついてしまったのだろう。

どうしたらいいのかわからずに、困惑していると、ガーネットと母親の前を一人分の体が遮った。

「ただいま戻りました。母さん。どうしたんですか? ガーネットも」

「兄様……」

安心した声をだしたガーネットに、優しく微笑みかける青年はガーネットの母親にそっくりの派手な見た目をした金髪の美形で、涼御河学園高等部の制服を着ていた。







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