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第10章 家庭教師と料理

第10章 家庭教師と料理


11月8日(水)

大学の授業も休講がちなので、家庭教師を頼むことにした。テヘラン国際見本市に住倉商事のブースでコンパニオンをしてくれていた、テヘラン大学の女学生である。いわゆるペルシャ美人であるが、気さくで明るい性格で楽しく勉強が出来そうだ。ひょっとして気が散って勉強にならないかの懸念もやや有るが、ケセラセラだ。

今日、初めてアパートにやってきて第1回目のレッスンをして貰った。英国製のミニクーパーに載って我がアパートにやってきた。良家のお嬢さんのようだ。部屋で二人きりになると、なんだか気恥かしいような、わくわくするような変な感じであるが、勉強の方はそれなりに教え方も上手で、かなり中身の濃い良いレッスンだった。彼女が帰ってしばらくすると、隣のユーゴスラビア人の奥さんがやってきてこう言うのだ。

“絶対に手を出してはいけないよ。手を出したら、結婚をしないといけなくなる。もし結婚をしないと彼女の父親に殺される”。 怖い話だがイランでは普通の話らしい。注意・注意!!!


11月17日(金)

イランは今は平穏だ。と言うのは新聞が無いし、ニュースでは治安に関する事は何も言わないので様子が分からないだけなのだが? テヘランの南の方は危険で会社の運転手も様子を見に行くのを嫌がっているので、せいぜいテヘラン大学周辺までしか僕も様子を見に行っていない。要するに僕の情報が得られる範囲や行動範囲の中では平穏だが、それ以外では何が起こっているのか分からない。マシャッドやコーラムシャ―では200人死んだとか色んな噂が有りどれが本当の事なのか分からない。折角2週間分の食料を買い込んだのに何も起こらないでは少しつまらない(これは不謹慎な発言だった)。料理のレパートリーもだいぶ増えてきた。カレー、シチュー、ステーキ、野菜炒め、焼き魚、オムレツと言ったところだ。ただ問題は見た目の悪さと味の悪さだ。

会社は“緊急事態対応策”という小冊子を社員全員に配り、社長も日本に出張し今後どうするか協議中である。僕の身の振り方も人事部長と相談してくるそうだ。イランが危ない場合はロンドン大学かパリ大学で勉強を続けたいとお願いをして置いたが、どうなるのだろう? 駐在員の家族は全員日本へ帰国する事が決定された。


11月21日(火)

久しぶりに紅忠と五井物産の留学生とテニスをした。3人の中で僕が一番下手なので苦労をしている。恰好悪いというか----早く上手くなりたい。力が入りすぎたようで、テニスの後に行った日本食レストランで箸が上手く持てなかった。


11月22日(水)

妻から来た手紙に書いてあった茄子の煮物を作った。思ったより上手く出来たが、イランの茄子は大きくて(日本の3~4倍くらい)、皮も厚いので、皮をむいた方が良かったようだ。やっと“煮る”という事が分かってきた。

自分ひとりで料理を作って、一人で食べて後片付けをするのは凄く侘しいものだ。然し寒くて暗いのに一人でタクシーに乗って外出し、一人でレストランで食事をする(イランではレストランの客は殆ど家族連れ)のも余計に侘しいし、帰りもタクシーを拾って帰る事を考えるとやはり自炊をしてしまう。でも昼は外食なのでなんとか飽きずにやっている。

 戒厳令下のテヘランでの楽しみと言えば

1)妻からの手紙やTEL。

2)その手紙を酒を飲みながら読む事。

3)親しい人たちとの食事。

4)テニス

5)ペルシャ語の勉強が順調に進んでいる時。

6)ペルシャ語のニュースが番組が理解出来た時。

7)面白い小説や漫画を読んでいる時。


これからはスキーも楽しみである。テヘランの北方に連なるエルボルズ山脈はもう3周間前から真っ白で、北の方を眺めると、信州の松本か長野にいるようだ。

最近の日課は、午前中2時間会話学校、午後はアパートに家庭教師に来てもらい2時間勉強。1日4時間勉強すると、その予習・復習でけっこう忙しい(予習と復習で更に4時間も勉強するのだ)。こんなに勉強するのは、高校3年の秋ごろの受験勉強の時以来だが、結構楽しいものだ。

今週の金曜日はイラン人の友達がサッカーチームに入っているので、僕も参加して試合に出ることになっている。久しぶりのサッカーだ。


11月25日(土)

今日は久しぶりに駐在員の家でおでんを御馳走になった。夜間外出禁止令が9時からなので8時にはもう帰らなければならないので、ゆっくりは出来ない。その後テヘランは平穏だ。然しテヘラン南部や地方では何が起こっているか分からないがアパート周辺は平穏である。12月までは何も起こらないだろうが、12月2日からイスラム暦のモッハラム月

が始まり騒動が起きそうだ。特に12月10-12日は最悪の事態も起こりそうである。案外何も起こらないかもしれないが内乱状態になるかも分からない。

 今の気持ちは早く安全な日本に帰って妻の顔を見たい気持とテヘランに残りまさに“歴史的な激動の時代”を見詰めていたい気持とせめぎ合っている。


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