6(完結)
玄関を出ると先に帰ったと思っていた藤崎が見えた。道路の向こう側、自転車を置いた傍に退屈そうに立っている。どうやら私と祥平を二人だけにし、待っていたらしい。
「丸く収まったわけ?」
「うん、まあ、そうだな」
祥平は気恥ずかしいのかそういって照れたように答えた。
「連絡、無視すんなよ」
「いや、それはごめん」
藤崎は祥平が休んでいた理由が分かっていたのだろうか。まだ付き合いは短いはずなのに本当によく分かっているんだなと感心する。
「じゃあ、また」
藤崎が自転車に跨り、来た道を戻っていく。逆方向なのにわざわざ祥平の家に来てくれたのか。自転車通学の許可が出ているということは学校からそれなりに遠いところに家があることになる。
「優しいね」
何気ない一言だったが、祥平は何のことを言っているのか分かったようだ。
「うん、なっちゃんは優しいよ」
遠ざかっていく彼の姿を二人で見つめていた。
彼の分かりにくい優しさにもなにか理由があるのだろうか、そう思った。
「じゃあ、私も帰るね」
「ああまた学校で」
「学校をずっとサボってた人が言うとなんかおかしいね」
そういうと苦笑された。
帰るといっても私の家は祥平の家の隣だ。
玄関のドアに手をかけ、入るときふと祥平の家を見てみると祥平はまだ私を見ていた。
その目がばっちりと合い、恥ずかしくなって私はあわてて扉を閉めた。
私にとって今日は特別な日になった。これから先のことについて不安になるのは私の悪い癖だ。楽しいこと、嬉しいことの他にも、悲しいこと辛いこともあるかもしれない。でも、すべてが祥平との思い出になる。
彼とこれから過ごす日々が幸せでありますように―――――そう私は願った。
これで完結です。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
藤崎夏樹、彼の優しい理由も書く予定です(多分)