スイーツ
「お待たせしました。日替わりスイーツセットです」
碧さんが注文したものを持ってきてくれた。
ワンプレートに美しく飾られてるスイーツ達。
いい香りのする紅茶。
すごく美味しそう。
私には到底作れそうにないものである。
一度、碧さんに教えてもらいながら作ったにも関わらず、出来たのは黒焦げの謎の物体だった。
パウンドケーキを作るはずだったのに。
それには碧さんも首を傾げていた。
それはともかく
目の前のスイーツ達は本当に美味しそうだった。
双子達も嬉しそうにお皿を見つめている。
碧さんは柔らかな手付きでお皿を置いていく。
碧さんを見て、ふと思いついたことを聞いてみる。
「碧さん、この辺でバイトするならどこがいいと思いますか?出来れば、友達にバレなさそうなところがいいんですけど」
この町に関しては私より碧さんのほうが詳しい。
友達へのプレゼントに悩んだりした時は碧さんに相談したこともある。
「紗彩ちゃんがバイトするの?」
少し首を傾げて碧さんが私を見つめる。
だめなんじゃなかったっけ、と聞かれてる気がした。
親から反対されててバイト出来ないことを碧さんには愚痴ったことがあるのだ。
なので、首を横に振って否定しておく。
察しのいい碧さんはそれでわかったようだった。
「なら、ここはどうかな?人手あったら僕もありがたいし。紗彩ちゃんがここに連れてくるぐらいだから悪い人ではないでしょう?」
にっこりと笑った碧さんを双子達は目を丸くしてみていた。
多分、私も同じような顔をしていたに違いない。
そしてお互い顔を見合わせる。
「ここがだめなら残念ながら僕には紹介できるとこはないですね」
そう言って突然の申し出に呆然とする私達を見て苦笑する。
ゆっくり考えるように双子に言うと、碧さんは部屋から出ていってしまった。
「こた、どうするよ?」
「いいんじゃない?学校の人はあまりこないんでしょう?」
双子の内の1人と目が合う。
凛太郎のほうだろう。
名前を呼んでいなければ見分けはついてなかったにちがいない。
「うん、同じ学校の人見たことないよ。先生とかも知らないみたい」
実際、ここで学校の関係者を見たことがない。
変わった人なら見かけるのだが。
どこを旅して来たのだと思うような、よれよれの服に大きなリュックと旅行カバン引っさげてきた人。
着物を着こなし、ただならぬ雰囲気を醸し出している人。
シルクハットを目深に被りピシッとしたスーツの人も来ていたことがある。
もちろん多くはそんな変わった人ではない。
双子達には黙って置くことにしてスイーツを口に運ぶ。
その美味しさにとろけそうになりながら、真剣に相談し合う双子達を眺めていた。