呼び出しの理由
「失礼します。」
碧さんが入ってきて、温かいお茶と小さなケーキを机に置いていく。
「ご注文お決まりになりましたら、呼んで下さいね。それと、試作品のケーキになってます。よろしければご感想を後ほどいただければ嬉しいです」
にっこりと微笑んで碧さんが言う。
ここでは、お冷の変わりに温かいお茶と小さなお菓子が出てくるのだ。
もちろん、夏は程よく冷えたお茶にしてもらえる。
「じゃあ、私は日替わりスイーツセットで!」
スイーツセットなんて言いながら他のスイーツより安いそれは、試作品のセットである。
ワンプレートに4つものスイーツが乗り、さらに紅茶かコーヒー、またはジュースの内のどれかが付くのだ。
最後にどれが美味しかったか、言うだけで安いのだから
これを選ばない手はない。
双子達も悩んだ挙句、そのセットにすることにしたらしい。
ただし、紅茶を選んだ私とは違ってコーヒーを選んだみたい。
試作品のケーキを食べてみる。
一口サイズのケーキの中にはとりどりのフルーツ。
クリームとすごくマッチしている。
生地はタルトっぽい固めの生地。
なのでクリームが本当にたっぷりなのだ。
「そうだ、何で呼び出したの?」
お茶で一息ついて、双子達に問う。
双子達は言い辛そうに目を逸らす。
本当にいったい何の用なんだろう?
「あの……お昼休みのこと、人に言わないで欲しい」
お昼休みのこと……図書館棟の裏でご飯を食べていたことだろうか?
言わないでって言われなくても言うつもりはなかったけど、なんでわざわざ呼び出してまで言うのかな?
「……2人で1つのお弁当を食べてるなんておかしいだろ?」
そういえば、そんなことしてたなぁ。
おかしいとは思わなかったけど、知られたくないのか。
確かに、なんで2つお弁当を持ってこないのだろうか?
いいお母さんに見えたのに。
お母さんがお弁当を作るなら普通は二つ作るのではないのだろうか?
気にはなるけど、私には関係ないことだろう。
双子も踏み込んで欲しくないだろうし。
「言わないよ?2人もここのことは秘密ね」
そういうと双子は目に見えて明るい表情になり、頷いた。
そんなに隠したいことだったのか。
「あ、後……この町を案内、というか、教えてもらえると嬉しいんだけど。特にバイトとか出来そうなとこ」
「バイトは学校の許可がないとできないよ?」
学校に申請書を出して認められないと、バイトは出来ない事になっている。
とはいえ、内緒でバイトしている人など、いくらでもいるのだけど。
双子達によればバレなさそうな所とか教えて欲しいということだった。
でも、残念ながらそれには協力出来そうにない。
私にもわからないのだ。バイトしたことないから。
「友人に聞いてみるよ。それでもいい?」
「「ああ、ありがとう!」」
嬉しそうに双子は笑った。
面倒だなぁと思ったけど、これだけ嬉しそうに笑われたら協力するしかないじゃないか。
スイーツ大好き紗彩ちゃん。