場所移動
違う場所に移ろうと言われたけど、彼らにいい場所は浮かばなかったみたい。
図書室棟の裏に行ったものの、そこは部活を行う運動部で溢れていた。
「…………えと、学校以外でいいなら静かで話すのにいい所知ってるけど?」
人が溢れかえる様子を見て呆然とする双子にそう声をかける。
双子が肩を落とす姿になんだか申し訳なくなったのだ。
この学校は、放課後になると外は運動部で、教室内はで使用される。
得にブラスバンド部が各パートに分かれて違う教室で練習しているため、空き教室はほとんどない。
それを知っていたのにのこのこと、ついて行った私も悪い。
転校したてで知らないことが多いのだから、私が案内するのが筋である。
「………頼む」
双子は項垂れながらも頷いた。
「ここだよ。」
私が案内したのは喫茶店だった。
路地裏にある、小さな看板だけが目印の小さな喫茶店。
偶然、ここを見つけた私は、一度来てすっかりここを気にいっていた。
常連と言ってもいいほどだろう。
「いらっしゃい」
古い木のカウンターと、テーブル席。所々に花や観葉植物がある、落ち着きのある店内。
魅力はいくつもある。
その内の1つがこのマスターだろう。
おそらく20代、それも前半だろうと思う。
整った顔で優しく微笑むこの人は、見かけ通り物腰柔らかく接してくれる。
「こんにちは、碧さん。」
女の人にも見間違えそうな中性的な顔立ち、優しい性格。
モテるんだろうなと思うが女の人に囲まれているとこは見たことがない。
それでも、このマスター目当てに通っている人も多いはずだ。
「珍しいね、紗彩ちゃんがお友達連れてくるの」
ふんわりと微笑んだ碧さんは後ろの双子を見て言う。
双子達は物珍しそうにあたりを見回していた。
「まあね。碧さん、部屋を借りるね」
部屋とは、この店唯一の座敷のことである。
出入口は障子で仕切られているため、個室になっているのだ。
その部屋を他の人が使っているのはみたことがない。
頼めばいつでも空いていた。
「紗彩ちゃんの好きなアレ、出しておいたよ」
「ありがとう、碧さん!」
碧さんの言葉を聞いて部屋に早速向かう。
そこは6畳の和室で、真ん中には掘りごたつがあった。
靴を脱いで、一段高くなってる部屋に入る。
一目散に掘りごたつに足をいれた。
電源を入れていてくれたのかすごくぬくい。
続いて双子達も向かいに座り、こたつに入った。
「珍しいね、喫茶店に和室なんて」
「でも、落ち着くでしょう?人も少ないし」
双子は頷く。
普段、ここを誰かに教えることはないのだけど。
彼らには教えてしまった。
なんでだろうな、と思いながら二人を見つめながら思った。