始まり
今日も何でもない日のはずだった。
いや、何でもない日だと思っていた。
後から思いおこせばこれが始まりだったのかもしれない。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る。
「こんにちは。お隣に引越して来た高橋と言います」
訪ねてきたのはお隣に引越して来たと言う高橋一家。
真面目そうな旦那さんと優しそうな奥さん、そしてよく似た同じ歳ぐらいの男の子二人。
見分けられそうにないなぁと思った。
「あら、よろしくお願いします」
後ろから声がしたと思ったら様子を身に来た母さんだった。
楽しげに隣りの奥さんと話し始めた。初対面なのにすごいな、と我が母親ながら思う。
男の子を見るとにこと笑った。
だけど、なんだか違和感がある。双子なんて見るの初めてだからだろうか?
「女の子はいいですね」
「男の子だっていいじゃないですか」
「でもねぇ、かわいい女の子欲しかったわ。今からでも 二人目できるなら女の子がいいわね」
親達の雑談が終わりそうにないので、一礼して部屋に戻る。
あまり関わりたいことでもない。女の子なら仲良くなって遊べたかもしれないけど。
けれど、かもしれない、なんて意味ないから。
ベッドにごろんと横たわって目を閉じた。
次の日、いつもと変わらない朝、SH前。
けど、この日はいつもと違った。私の隣りに空机が二つ並んでいる。
それについていつもよりざわざわと喧しい教室内。
転校生が、それも二人来るのでは、と噂になっている。
昨日のこともあり、まさかな、なんて思うけど。
「おはようございます」
そう言いながら教室に入って来た先生は男の子二人を引き連れてきた。
噂は現実になってしまった。まあ、机の時点で予想は出来てたのだけど。
それも見覚えのある顔だった。昨日の高……高なんとかさんの息子の二人、だよね。
同じ歳だったのか、ってかやっぱり双子だったのか。
「高橋 瑚太郎です」
「高橋 凛太郎です」
「「よろしくお願いします」」
そう言って綺麗にそろって頭を下げた。
(ああ、そういう名前なんだ)
先生の案内により二人は空いた席に座る。
最後尾のため、皆が後ろをちらちら見てくる。
視線は二人に向けられているが、正直不快だ。
自分に向けられているわけではないので、文句を言うわけにはいかない。
双子達は気にしてないみたいだし。
授業の用意をしようと教科書やノートを机の上に出す。
今日はどこからだっけ、とか思いながら教科書を開くと、横から机の動かす音が聞こえてきた。
何だろうと思い、隣りの双子を見る。
双子達は机を引っ付けて一冊の教科書を肩を引っ付けるようにして見ている。
準備が間に合わなかったのだろうか?それとも買えなかった?
昨日、挨拶に来た時の様子からして、そんな風には見えなかったけど。
挨拶に、と持ってきたお菓子もデパ地下の有名な和菓子だったし。
朝ご飯に美味しくいただきました。
そうこうしている内に先生が来て授業が始まったので、深く考えずに黒板に意識を移した。
授業が終わる頃にはすっかりその双子のことを忘れていた。
どれだけクラスの子が騒ごうが私には関係ないし、関わることも少ないだろう。
興味があまりないのだ。
変に目立ってまで関わりたくはない。
一応、美形に入るのだろう双子の周りにいるだけでもうるさそうだし。
なのに、向こうから関わってくるとは思わなかった。
「あの、藤村さん?」
顔をあげると困ったような顔をした双子がこっちを見つめていた。
話しかけられる理由がわからなくて首をかしげてしまう。
昨日、挨拶に来たとはいえ話していないし、ほとんど初対面なはずなのに。
「ここの授業、前の学校より授業進んでいるみたいで。ノート貸してくれないか?頼む……」
二人して顔の前で手を合わせて頼んでくる。
やっていない所があるなら確かにノートは必要だろう。
でも、なんで私なのかな?
周りにもいっぱいクラスメート達はいるのに。
「いいよ。字が汚くてごめんね。」
首をかしげながら、ノートを二人に渡す。
私にとって見やすいようにまとめてても、双子にとってどうかわからないから、少し緊張してしまう。
私の頭は良くないし。
「そんなことないよ。ありがとう、借りていく」
パラパラとノートを捲った双子の片方が言う。
それを聞いて覗いた双子のもう片方は綺麗に纏めてある、と褒めてくれた。
お世辞とわかっていても嬉しいものである。
声をかけられた時、少し迷惑だと思ったことは心の中で謝っておこう。