第三十六話 薄目
今思い返してみると、アミラは船から降りた後、普段よりもよく喋っていた。
陸テンションとでも言うのだろうか、食事を摂っている時にしろ、ジバル氏との遭遇時、遭遇後にしても口数が明らかに多かった。
だからだろうか、その分だけ疲れが溜まった──肉体であるはずもなく、おつむの方──のかもしれない。
早めに夕食を摂ろうとしたおり、ジバル氏が行きたがった目玉のメニューが豊富な店に赴いた時にしても、出される目玉と視線を合わせず水ばかりを飲んでいた。
氷を過剰に出して魔力が枯渇した訳でもないのに、よくわからん体質である。
結果、その影響が尾を引いたのか夕暮れ近くになった今、アミラにはいつもと比べ覇気がない。
このくらい、ふんわりした状態が永遠に続けば良いのだが、どうにも頭が回っていなさそうなのが心配だ。
「軽くで良いから何か摘めよ? あと風呂入ったらすぐに寝るんだぞ?」
「うん」
「朝の九時だからな? 朝飯の後チェックアウトな? あ、歯も磨けよ?」
「うん」
「もし朝になってこの公園に俺が居なかったら、先に受付がある隣町に向かうんだぞ?」
「……わーった」
俺は母親かいな。
自分でもそう思うが、ついつい言葉が出てしまう。
案の定、アミラはしつけーよ、と言外に返事を返してくる始末だ。
それでもお母さんとしては心配な気持ちは拭えない。
くるりと踵を返し、気怠そうに片手を上げ公園の前から立ち去っていく娘の背を見送る。
ジバル氏と俺とで。
まだ居たのね。
「ジバルさん?」
「おん?」
「もしかして、今日はここで?」
「おう! オレも今日はこっちで一泊しようと思い直してな! 受付は三日後までなんだろ? なら、隣町のほら、アレよ」
「ダグダですよ」
「おう! それよ! そのダグダを目指すのも明日になってからでも遅くはねーだろ? たぶん」
たぶんて、あーた。
もしかして、地図読めない人ですか?
車を走らせても結構掛かるぞ、隣町といっても。
地図上では、この港町と隣町ダグダとの間は約八◯キロだ。
歩いて向かったとしても一日歩き通せば着く距離ではあるが、迷わずに不眠で尚且つ襲われずにという条件付きでの話だ。
まあ、そもそもそんな距離を何故歩く必要があるのかが一番の問題ではあるのだが。
その理由は簡単で、ここからはバスだの列車だの、ましてやタクシーなんてものを捕まえられないからだ。
普段であればそれら交通機関は運行されているのだろうが、この時期になると完全にそれらは運行を停止してしまう。
無認可で転がしている所謂白タクのような存在があれば良いのだが、どういう訳だか港に降り立って以来、車を一台も目にしていないので捕まえようもない。
やはり、当初の予定通りこの港町にはあまり長居はせず、明朝に隣町ダグダへと向けて出発するのが最良だ。
うん、ここまでは間違いはない。
あるとすれば、既に寝床をこしらえ始めているジバル氏の存在だ。
「もしかしてですが……明日も一緒に出発する感じですか?」
「あ? そのつもりだが? 迷惑か?」
「え」
この人、一応迷惑になるかもしれないとかそんな発想を持ち合わせているのか。
ポ◯チンをポロリしていたくせに?
嘘でしょ。
「俺達は全然問題ないんですが、よく絡まれますよ?」
「は? 何故だ?」
「俺はそうでもないんですが、アミラがあの見てくれですから。あいつ、見た目だけはそこらの女の子に見えなくもないですからね」
「ガキだからっつって絡んでくるような奴がいんのか? 何だそいつらは?」
「いや……俺に聞かれても……」
大きな鞄から、内容物不明のボトルをおもむろに取り出すジバル氏。
言葉を交わしつつも、それをあおり始める。
お酒かな?
「……んまー、あの嬢ちゃんは目立つ存在であるがよ。んだが、絡むってのがよくわかんねーな」
「ジバルさんはここまで来る間に絡まれたりしなかったんですか?」
「いいや? そもそも、オレは絡まれた経験っつーのがねーわ」
聞いた相手が悪かった。
お世辞にもこの人は金を持ってそうにも見えない。
どちらかというと、絡んでいく側に見える。
「そもそもよ、あの嬢ちゃん相当だろ?」
「……んなことないですよ。俺の方がかなり上ですから」
比べられるのにはあまり慣れていない。
ましてや比べられ、劣る方だと指摘されるのにはもっと慣れていない。
「そりゃねーだろ」
「ウンコしてきます」
「……ああ」
ジバル氏は既に出来上がりつつあるのだろう。
ボトルの中身は酒に違いない。
正常な判断力を失いつつあるのだろう、きっと。
ジバル氏の元を離れ、便所を探しがてら公園内をのんびりと歩く。
かなり大きな公園のようで、周囲の街並みが植えられた多くの木々によって遮られ、緑によって完全に囲われている。
しかし、ここを定宿としている人の姿は見受けられないのに違和感を覚える。
管理が行き届いているのか?
車やバイクの類を一度として目にしなかったことも含め、この港町は普通とはほど遠いのかもしれない。
ま、考えても答えに辿り着けそうにないか。
そんな調子で無為な思考に耽りつつも歩を進めていると、遠くに聞こえる連続した音を捉える。
そちらへと近づいていくと、連続した音は軽妙なリズムへと変化していく。
音源を辿りそちらへ視線を向ければ、夕陽に照らされ赤く染まった芝生の上で、よくわからんダンスに興じる若者たちの集団が目に止まる。
歩みを止め、彼らを眺める。
一見しただけではよくわからんダンスに見えたが、よくよく観察してみれば素人目にもお上手だ。
この音楽も良いのかもしれない。
問題があるとすればダンスはせずに休憩中なのか、幾人かの男女が飲み物を片手に談笑混じりにニタニタとしていることだろうか。
青春を謳歌しやがって、まったく。
「フンフンフフーン、フーン」
軽快なダンスミュージックが頭に残ってしまった。
公園の便所へと入っていく時も、個室で用を足す時も、お尻をふきふきする時も、リズムを奏でてしまう。
同時にあの若者達のニタニタ顔が脳裏に浮かんでくるのだが、出すもんを出すと苛立ちは覚えなくなっているという不思議を体験する。
手を洗い、ついでに顔も洗って口もゆすいで、小脇に挟んだままのセカンドバッグからブラシを取り出し歯も磨く。
歯磨き粉はもうないので調達しておかねば。
ま、無くても「くっさ」何て言いそうなのは一人しか居ないので、気にすることも無いがスッキリ感が違うので町を出る前に買おう。
「昨日からまた来てるみたいだな」
「あー、そうみたいね」
「この時期になると全部歩きになっちまうのがなぁ、めんどくせー」
先ほど見たダンサーか、とも一瞬考えたが声の主は違うようだ。
どう見ても踊れそうにないデップリとした腹を持つ二人。
加えて青春をニヤニヤするような年齢にも見えない。
よれよれのスーツに履物である靴の汚れも目立つ、まさにうだつの上がらない二人にしか見えない。
営業職なら失格だろうなーなんて考えつつ、歯を磨き続ける。
「また来週になれば元通りなんだろ?」
「だろーけどな」
会話しつつも小便を終えた片方が手を洗いに来る。
洗面台が一つしかないので場所を譲り、ぽけーっと後ろ姿を眺める。
くたくたのズボンのお尻で手を拭う姿にお母さんソウルが再燃する。
「……」
何故だか無言となる二人。
シャカシャカとブラシの音だけが鳴り響く。
二人目も手を洗い終え、便所から出て行くその後姿を見送る。
青春している若者達も羨ましく思えたけれど、日常の中にあるあのうだつの上がらないおじさん二人ですら輝いて見えてしまう。
もう俺はあっち側には戻れないのだろうか。
学校に通って就職して、やりたくもない業務に嫌な相手にペコペコ頭を下げる生活。
それらを想像して、羨ましく思えるのは、隣の芝生でしかないのかもしれない。
けれど、彼らを羨ましく思うこの感情は偽らざる本心だ。
「お? 何やってんだ?」
「……歯磨きですよ」
「ほーん」
不意にジバル氏が便所へ入って来て、声を掛けてくる。
そのまま個室へと入っていくジバル氏はポ◯チンはしっかりと収納している。
どうせなら便所では出せよと思うが、それは口にはせず飲み込む。
飲み込んですぐに気づく。
個室に入ったってことは……これはたまらん。
そそくさと便所を後にする。
今の時期は日が暮れるのは早く、既に公園内は夜の帳に覆われる寸前だ。
舗装されている園内の道に付設された照明が灯され始めているものの、その灯りは少々頼りない。
寝床とする場所としてベンチが理想だが、この公園に付設されているベンチはどれもが両端以外にも肘掛けが複数あるタイプで、その上では横になれないので寝床としては使えそうにない。
仕方がないので適当な場所を求め、歩きまわる。
完全に日が落ちてしまう前に、何とかあずまやのような用途不明の屋根有り壁なしのスペースを発見。
森の中であれば樹上にて休むことも考えるが、公園でそこまでする必要もない。
船上でも夜間はそれほど冷え込まなかったことを考えると、大丈夫だろう、たぶん。
凍死するほど冷え込むとは思えないし、仮に冷え込みが激しくなれば目覚めるはずだ。
最悪、湯たんぽ代わりにジバル氏の下へと……ねーわ。
それをするくらいなら朝までランニングでもしよう。
床を軽く払い、致命的な汚れがないことを確認。
大丈夫そうだ。
硬い地面に座って空を見上げれば、もうそこには星々が煌めいている。
一人には慣れているとは思っていたし、実際に一人の時間は苦痛に思ったこともない。
けれど、この巨大な夜空を見上げていると、どうにも孤独感に襲われてくる。
こんな時には酒にでも手を出せば良いのかもしれない。
呑めば少しは気が大きくなって……また何か過ちを犯しそうな気がしてならない。
いやいや、こういう時はさっさと寝てしまえば良いんだ。
そもそも自家製の睡眠導入剤を打ち込んでしまえば片がつくんだから、酒なんて勿体無い。
魔力が枯渇するまで体の中に流し続けるか、適当な石や枝でも拾って曲げては伸ばしを繰り返せば良い。
それに、この作業は魔力を伴う立ち回りにも役立つ。
最近は表現し辛いが、魔力の振幅とでも言えば良いのか、要するに体内を流れる魔力の“波”を掴めてきた。
以前であればとにかく魔力の出し入れの早さを最も優先していたが、今では魔力の波を体感し、尚且つその波が頂点に達する時を見計らう段階へと達している。
まだ家を放り出される前にユビさんや両親からその概念だけは聞かされていたのだが、しっかりと出来ているのかは不明だ。
半年ほど前にアミラに聞いてみたが、返答は「今更?」と一言だけであったのは記憶に新しい。
知ってたなら教えてくれよとは言わない。
あいつに普通を求めるのは酷だ。
「ふー」
色々と深みに嵌っていきそうだし、もう寝よう。
体内にゆっくりと魔力を行き渡らせ、転がし始める。
これ以上は無理、体がバイーンってなるってくらいに魔力を走らせる。
波打つ魔力の流れを掴みつつ、波の振幅に合わせて出力を上下させる。
徐々に魔力の枯渇を体が訴え始め、同時に睡魔の足音が聞こえ始める。
しばらくすると一線を超え、体から一気に力が抜けていく。
横合いに倒れこむ拍子に、硬質な床へと側頭部を打ち付け、これがトドメとなって思考が混濁する。
枕的な何かを置いておけよ、バカかよ俺。
混濁した思考の中でもそれだけははっきりと知覚していた。
「帰り、てーよぉ……」
普段は絶対に口にはしない。
でも、帰りたいという気持ちはずっと俺の中ではくすぶり続けている。
その思いは、たぶん……もう一度死ぬまで消えないだろう。
まどろみの中、自身の寝言なのかうわ言なのか不明の、たぶん願望を聞くこととなって目を覚ます。
日差しが受けて、空を見上げれば勤勉な太陽が今日もその顔を覗かせていらっしゃる。
たまには休めよと理不尽な悪態を心の中で吐いて、目元をこする。
「マ゛ーーーッ!」
良し。
声の調子からして風邪の心配はない。
体の方も大丈夫そうだし、魔力を引き出そうとすれば、ぷるんと即座に反応を示す。
だが、こめかみから頬の辺りに渡ってやや痺れを感じる。
手で触れてみると妙にざらついている。
幾つか小石が頬にめり込んだままであったようで、痕がくっきりとついている。
指先で頬に出来たくぼみをモニモニと触りつつ、用を足しに便所がある方へと歩み出す。
用を足し、顔を洗って歯を磨き、ベルトが随分とくたびれて来ている腕時計に目を落とす。
「あと二時間か……飯、どうすっかな」
「よう!」
「あ」
オイオイ、あんたもか。
随分前に見て、今でも鮮明に覚えている“それ”を手にしたジバル氏が昨日に続いて、再び便所に現れる。
「それ、朝飯ですか?」
「おう! 食うか?」
「……いえ、大丈夫です」
その紫色の物体の原材料は何なのか。
何故、その色なのか。
尚且つ朝からそれを食う神経は大丈夫なのか、心配だ。
「あ」
「ん? やっぱ食うか? ほれ」
ほれ、じゃねーから。
口に突っ込もうとするところまで同じかい。
「それって何て名前なんですか?」
「さあ? 知らん」
「え……じゃあ、どこでそれを」
「向こうにある市場で売ってたぞ? こいつの名前が知りてーのか?」
「いや、そういう訳でもないんですが……水も調達しておかなくちゃですし、俺も市場に行ってみますよ」
知りたくはないが、朝飯の調達に向かおう。
市場のある場所も昨日のうちにある程度は地図を頭に入れてあるのでわかる。
「おう! そうそう、九時までに入り口に行けば良いんだな?」
「はい、アミラが定時までに来るかはわかりませんが」
「嬢ちゃん、朝は弱いのか?」
「そうでもないんですが、わりと気まぐれですから」
会話の合間に、ジバル氏は何てことないという顔をして口の中に紫を放り込んでいく。
大きな口が開かれる度に、紫が次から次へと消えていく。
グロイ。
「ま、嬢ちゃんのことはカキに任せるわ」
「はい。では──」
市場は朝から結構な賑を見せている。
今日は終日歩き通しになりそうであるし、隣町のダグダまでの道中用に水と食料の調達もしておかねばならない。
特に水は大事だ。
俺一人であれば、一日くらい飲まず食わずでも平気だ。
だが、魔力が枯渇すれば勿論のこと、昨日の陸テンションが続いていれば、アミラが水を欲することが予想される。
常であればアミラも俺以上に飲まず食わずでも平気なはずだが、アレは体質が特殊だ。
とにかくペンタゴンシティーはそれなりに発達した街であったから、何につけても物の調達は金さえ出せば簡単だった。
でも、ここからはそうもいかない。
ダグダもそれなりに大きな町であるそうだが、行ってみないとわからない。
試験が始まれば飲食に関しても不明な点が多く、そもそも試験内容が毎年その様相を変えるのは有名で、準備するにも出来ないのが実情だ。
なので、出来る事をするしかない。
今は水と、あとは保存の利く食料を用意するくらいしか思い付かない。
予定通り、こちらではよく見かける飲料水のラベルの貼られたものを買い求める。
続いて、観光客相手なのかラベルが派手で値段も高い魚介系の缶詰を、忸怩たる思いで手に取り購入する。
父ラインから譲り受けた愛用のナイフはまだまだ現役であるので、缶詰でも大丈夫だろう。
最後の仕上げにと朝食用に重くて量のある肉を求め、市場を彷徨い歩く。
「坊主、ちといいか?」
「へ? 俺ですか?」
「おう。そうそう、お前だよ」
二人組の大小の男に不意に声を掛けられ、肉を求める歩みを止める。
最初に声を掛けてきた大の方の男にしても、小の方にしても着ている服がたるんたるんである。
観光客には見えない上に、冒険者を志してこの地へ赴いたようにも見えない。
その首を見れば一目瞭然だ。
ほっそい。
大小、どちらの男にしても、ほっそい。
船の上で見た男達のほとんどは冒険者を志すだけあって、一定以上の首の太さは有していた。
だが、この大小の男はそれらの基準を大きく下回っている。
冒険者を志しているとは思えない。
じゃあ、こいつらは何者だろうか?
見覚えはない。
「何か用ですか?」
「ちと、これ見てくれねーか?」
大の方が懐へと手を差し入れる。
手を差し入れる前から銃やらナイフといった武器を隠し持っている場合の特徴は見受けられなかったが、警戒度を最大化させて身構える。
「へへ、そんな身構えなくても大丈夫だって。ほれ、こいつの顔に見覚えあるだろ?」
だが、取り出されたのは一枚の写真である。
何かタネでもあるのかと考え、薄目でそれを眺める。
よぐわがんね。
しっかりと見るべきか否か、悩ましい。
「オイ、何してんだ? よーく見てくれよ」
「見たら取り込まれたりするんじゃ?」
「んなわけあるかよ。ほれ、頼むわ」
仕方あるまい。
最悪を考え左目を閉じ、右目だけで確認する。
「……誰ですか、このババァ」
「……へ? 知らねーのか?」
「どういうことだよ、オイ! お前、ウソ吐いてるんじゃねーだろうな?」
いやいや、知らんがな。
そう突っかかってくるな、小よ。
この写真に映る厚化粧のババァは見たこと……え、マジかよ。
あんまりな顔のインパクトにそちら側に意識が持って行かれていたが、オイオイ……こいつ日本人じゃないのか?
顔立ちからして、どう見てもそうとしか思えない。
日本人としての特徴を含んだ、ナチュラルなブスだ。
「この人の名前は? 名前を聞けば、思い出すかも」
「今はマリアと名乗ってるが、以前はナナコと名乗っていたな。正確にはナナコカドクラか。今はただのマリアだがな。何か思い出したか?」
ビンゴ。
こいつぁー、原産国日本のブスに違いない。
まだこっちに飛んできた奴が居るのか……いやいや、当たり前か。
自分も含め、あの野郎共だけが飛んできたと考える方がおかしい。
「全然」
「……そうか」
「チッ、またガセネタ掴まされたんじゃねーのか?」
小が盛大に舌打ちし、大の方へとその苛立ちを向けている。
「あのー、俺もう行っても良いですか? 早く朝飯買ってかないと、怒られるんで」
「あ、ああ。一応、これ渡しとくからさ、何か思い出したら連絡してくれよ」
「はあ……わかりました。じゃあ──」
あっさりだ。
そのあっさりさ加減が逆に疑念を抱かせる。
この名刺っぽい紙に何か仕掛けがあるのだろうか。
疑わしいので早々に捨てようかとも考えたが、何かに使えるかもしれないと考えなおし鞄に仕舞い込む。
そもそも、何故俺に聞いてきたんだ。
あの大小の二人組は。
市場を行き交う人々を無視して、明らかに俺に絞って声を掛けてきた風に思える。
普通、人探しをしているならもっとチラシなりを配って不特定多数に声を掛けるなりするだろう。
とすれば、俺が知っているという情報を得て、俺に聞いてきたのか?
いやいや、それにしてはやはりあっさりと引き下がり過ぎだろう。
これは何やら巻き込まれそうなニオイがプンプンする。
今度は同じ轍は踏むまい。
ちゃんとボスに相談しよう。




