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FLEX  作者: 石油肉
第三章
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第三十四話 コアラこわい

 こちらの世界でのコアラは元の世界のコアラとは少し違う。

 年中ウトウトしながら葉っぱをハムハムしている元の世界のコアラとは違って、こちらのコアラは非常にアクティブだ。

 何故なら、こちらのコアラは葉の代わりに、猿を好んでよく食べるのだ。


 とくに猿の頭は好物であるらしく、樹上にて猿の頭蓋をハムハムさせている姿には、一切の可愛らしさはない。


 体格差なんてほとんどなく、素早く木の上を飛び回る猿を相手にコアラはその頭脳で以って捕食する。

 こちらの世界の人間の起源はコアラなのではと思えるほど、コアラは手先が器用で罠を作ったりもする。

 なんでも、コアラは生物学的にも脳量が猿よりも大きく、素早く、力も強い猿を知略を以って捕食するそうだ。


 森のハンターといえばコアラ。

 この事を知ったのは、船上の客室に備え付けのテレビで動物番組がやっており、その中でコアラ特集をしていた為だ。

 それでも、前の世界とこちらの世界でのコアラに関しての共通点はある。


 いや、コアラだけじゃない。

 それは動物全般、生物の全てにいえる事だ。

 こっちでもやっぱりオスとメスは交尾をする。


 知能の発達した生物になればなるほど、子孫を残すという意味での交尾よりも、快楽を得る為に交尾をするというのも同じく普遍だ。

 コアラと同様、それは人間や魔物を含めた生物全てにあてはまる原理原則。


 ちなみにコアラってすげーんだなと、アミラに話をふってみた所、意外と興味を示した。

 しかし、人間と同様で頭が良くて猿をたくさん捕食する甲斐性のあるコアラがハーレムを築いて酒池肉林を謳歌しているという生態は話していない。

 だからだろうか、些か消化不良を感じている今日この頃である。


「ハァ……コアラ、か」


 一度でいいからコアラのボスのようにに乱交プレイをしてみたい。

 その思いは強くあれど、今の俺はまだ勃ち上がれない。

 あと一年か二年もすれば肉体の成長に合わせ、勃ち上がるはずだが、様子を見て早いうちに医者に相談する事も考えよう。

 記憶が確かであれば、前の世界での俺は十二、中学生の頃には勃っていたはずだ。


 まあ、とにかく乱交は是非とも行ってみたい。

 この想いは口にはしてはいけない。

 言葉にしてしまうと、叶わないような気がするから……。


「くふっ」


 我ながら随分と乙女な考えをするなと、噴出してしまう。

 奇妙な笑い声を聞かれたのかもしれない。

 近くで俺と同じく手摺に手を掛けて、空を見ていたおじさんの視線を感じる。


「よお、何か面白いもんでも見えんのか?」

「……え、いやー、あの雲がコアラっぽいなぁっと」

「おー……確かに、だな。コアラに似てんな」


 一応の警戒はしつつも、適当に言葉を返す。

 一見すると単なる小汚いおじさんではあるが、よくよく見れば顔はそこそこハンサムだ。

 残念ながら前歯の一部がないので、口を開くと台無しではあるが。




 最初は一定の距離感を保ちつつ互いに言葉を交わしていたが、時間が経つにつれ話が噛み合い始めた。

 どうでもいいコアラの話を取っ掛かりとして、他愛もない話をする内に互いの人間性も見えて来たんだろうか。

 話の内容が次第にゲスイ方向へと流れていく。


──男の人生とはまさしくポコ〇ンの歩みである


 前の世界でいう所の火野〇平的な思想の持ち主が残した、こちらの世界では有名な格言。

 おじさんはこの言葉が好きなようで、この格言を残した人物について熱心に語り始める。

 途中、何故かポコ〇ンとスポーツを同一のものとして語るおじさんが少し心配になった。


 更におじさんがポコ〇ンと政治を同一のものとして語り終えた後、今更感が強い事実を告げられる。

 おじさんは冒険者試験を受ける予定ではなく、帰路に着く途中であるらしい。

 何故、この船を選んだのか。

 

 おじさん、心配です。


「港、見えてきましたね」

「お! あいつ出迎えに来てくれたか」

「……」


 船が徐々に港へと近づくにつれて、港で出迎える人や作業する人達の姿が確認出来る。

 おじさんの視線が動き、一点を見詰めて止まる。

 その対象は港で出迎える者が少ないからか、すぐに分かる。

 

 おじさんの視線の先にはおっぱいの大きな女が一人。

 おそらく俺やアミラよりも三つか四つ上くらいだろうか。

 まだまだ幼さと切なさと愛しさを残すティーンだ。


 間違いなく、ティーンだ。

 何度見ても、ティーンだ。

 変わる事のない、ティーンだ。


 そんな、ティーンな彼女がおじさんへと笑顔を向けて手を振る。

 ふむふむ。

 なるほど、なるほど。


 間違いがあってはいけない。

 確認しておこう。


「あの手、振ってる女の子──」

「おう、三番目の女房だ。いやーまさか出迎えに来てくれるとはな。先月、ガキ産ん──」


 とりあえず、おじさんのポコ○ンは捻じ曲げてしまおう。

 対象となる部位へと向ける俺の視線に、おじさんは気づいた素振りはない。

 今ならば赤子の手を捻るが如く……おじさんのポコ〇ン人生にピリオドを打てる。


 ニギニギさせた右手に並々ならぬ魔力が凝縮したのを感じて、我に返る。

 ダメだ。

 おじさんの横顔はすごく幸せそうで、目の端にはうっすらと涙を浮かべている。


 こんな表情を見せるおじさんのポコ〇ンを曲げてしまうのは俺には出来ない。


 嫉妬に狂った劣情を抑えこみ、おじさんの背には性病になれとだけ願い、呪詛を貼り付ける。

 汽笛が鳴り響く中、胸の奥にジリジリとした痛みを覚える。

 握りしめた掌を解き、最後にティーンのおっぱいを拝んでおじさんに別れを告げる。




 おじさんと別れてしばらく。

 すぐに下船はせず、甲板の上から港に降り立つ人々を眺める。

 そこには大きな荷物と武装の類を担ぎ持つ、集団が出来上がりつつある。


 大半が冒険者志望者だと思われる、むさ苦しい野郎共に違和感を覚える。

 その原因として、まずは彼らの服装だ。

 おおよそ八割を超える驚異的なタンクトップ率の高さは既に致死量を超えている。


 彼らの多くが携帯する武装は多種多様であるのに、どういう訳かタンクトップ率が高い。

 ついでに黒が多いのも不明な点だ。

 色黒で顎髭まで備えた者は極僅かであるのが救いかもしれない。


「降りない?」

「混んでるしなー。人が減るの待とうぜ」


 船の売店で購入したのは確定的にあきらか。

 水兵帽を頭に乗せた亀のマークの入った日傘を差し、アミラが降りないのかと聞いてくる。

 俺はおまえに聞きたいよ。

 そのセンスはどういうことだと。


「カキ」

「何?」

「緊張? あー……怖い?」

「はっ! んな訳! いや、んー……怖いってのはないけど、下調べもほとんど出来なかったし、楽しみ半分、緊張半分って感じ」


 やや弱音に近い俺の答えにアミラは顔をニヤつかせている。

 ニヤつきフェイスのまま亀のマークの日傘をくるりんと一回転させる。

 それにどういう意味があるのかはわからない。

 聞こうとも思わない。


「そっちこそ、どうよ」

「気持ち悪い」

「は? 何が?」

「アレ」

「……なるほど。アミラもアレはナシって思えるんだ」


 日傘によって影になった部分から、ひょこっと白い指を突き出すアミラ。

 その指の先に映るはむさ苦しいタンク勢。

 稀に見る意志の共有である。


「殺したくなる」

「殺すなよ」

「……」


 返事はない。

 ただの殺し屋の目をしている。

 そんな思いを抱いたのと同時。

 唐突に殺し屋の日傘が視界を覆う。

 近くで見る日傘の生地の目は結構粗い。


 相変わらず初動が見えない。

 まあ、ピキピキとTPOを無視して凍らせる発作は起さないだけ、こいつも多少は成長したのかもしれない。


 はて?

 目の粗い生地の奥でアミラが緊張した表情を見せている。


「君達はまだ降りないのかい?」

「……」

「知り合い?」


 アミラの一部になりつつある日傘が俺の質問に対して、首を振って否定する。

 目の粗い日傘の生地越しに見える、俺達に話し掛けて来た男。

 んー、俺も初めて見る顔だ。


「ボクはエンゾ。よろしくね」

「……カキ」


 何故にアミラが俺の名を名乗るのか。

 前言撤回。

 こいつは相変わらず成長を見せない、特にコミュ能力に関しては絶望的だ。 


「へぇ、変わった名前だね。後ろの君は?」

「えっと……ハ、ハンバーグです」


 急な展開に咄嗟に偽名で答える。

 そもそもこれは名前になるのかすら怪しいが、ドイツっぽいので大丈夫だと信じたい。

 こっちにドイツなんてないけれど。


「これまた変わった名前だ。美味しそうでイイ名前だね」


 そりゃそうだろう。

 こっちでもハンバーグはある。

 材料は少し違うようだけれど……ま、知らなくてもいい事実は考えないようにしよう。


 とにかく、ハンバーグについてはひとまず置いておこう。

 いい加減に鬱陶しい日傘を手で退け、男をまじまじと見る。

 ふむふむ、高身長に高顔面。


 しかし、装いだけはいただけない。

 一見しただけでは分かり辛いが、小奇麗なシャツやズボンはサイズがやや合っていない。

 おまけに足元の靴のつま先が赤黒く染まっている。

 左右で大きさの違うその染みはデザインではなさそうだ。


「エンゾさんは降りないんですか?」

「用も済んだし、これから降りるつもりだよ。まあ、せっかくだから君達も一緒にどうかと、ね」


 何がせっかく何だろうか。

 爽やかな笑顔を張り付かせ、今から飲みに行こうぜみたいな軽いノリで言われても困る。

 きっぱりと断るべきだろうか。


 だが、口からはすぐに拒絶の言葉が出て来ない。

 船にもうしばらく残る理由として、んー思いつかない。

 ここはとりあえず話題を変えてごまかそう。


「あの、やっぱりエンゾさんも冒険者志望ですか?」

「まあね。君達もだろ?」 

「ええ、一応……」

「今回は港への到着が遅れなかったようだから、急ぐ必要もあまりなさそうだけれどね」

「へぇ、今回が初めてじゃないんですか?」


 おや。とそんな表情を一瞬浮かべたエンゾ。

 俺は頭の出来はよろしくはないと自認しているが、会話の流れからそれくらいはすぐに把握出来るぞ。

 もしかして、俺の顔や見た目はバカっぽく見えるんだろうか。


「それ。しまって」


 何かしらお願いの言葉を述べる前に、アミラは突起のある物を人の顔に向けるのは辞めた方が良い。

 何より、主語が抜けている。


「おっと、ごめんよ」


 何がごめんなのかがわからない。

 勿論、何をしまったのかもわからないし、いつしまったのかえさっぱりだ。

 もしかして、アミラには受信可能な人殺し電波でも出していたのだろうか。


「今年は面白くなりそうだよ」

「……」


 エンゾが誰に言うでもなく言葉を発する。

 その整った顔面に気持ちの悪い笑みを張り付かせている。

 アミラもエンゾのその仕草を確認したのだろう、小さな眉間に皺を寄せている。




 船から降りるとすぐにエンゾとは別れた。

 別れたというより一緒に下船しただけで、彼はすぐに用があるんだと言い放ち、去っていった。

 結局、彼は何がしたかったんだろうか。


 ま、一言二言話しただけの彼は早々に忘れてしまっても問題ないだろう。

 とりあえず、まだ日程には余裕があるし、これからの事を考えよう。

 宿を取ろうかとも頭に過ぎるが、まずは飯にしようとアミラに提案する。


 すんなりとアミラも同意したので店を探す。

 港のすぐ傍、鳥っぽい絵が描かれた看板を掲げた店に二人で入る。

 他には港町らしく魚介系をメインにしたような店が多かったので、この店を見つけ出すのに少し時間が掛かった。


 店の自慢は鳩らしい。

 すぐに出して欲しいと店員に告げる。

 二羽の丸焼きの鳩にアミラと共にかぶり付く。


 咀嚼するうちに心が満たされていく。

 途中、野菜の盛り合わせがテーブルに運ばれてくる。

 どうやらアミラが追加で注文していたようで、少し鼻につく。


 何を今更、女の子っぽさを演出しているのか。

 馬鹿げている上に、野菜って何。

 意味なくない?


「何?」

「……何も」


 追加の鳩を頼み、野菜を視界に入れたくないので視線を店内へと向ける。

 あまり趣味の良くない店の壁には“来たれ冒険者”と受付要項などが書かれたポスターが貼られている。

 若く美しい男女が希望に満ち満ちた表情を浮かべ、手に手を取り合う。


 ポスターに描かれているような“美しい”女性の姿なんてのは船上では確認出来なかった。

 はて、何故だろう。

 一人、二人くらい存在してもいいのではないか。


 このポスターが理想の姿を描いているだけなのは理解出来る。

 でも、ここは現実であって現実ではない。

 何者かによって作られた世界であるらしいのだから、非現実的な理想も含まれているはずである。


 目の前の草食動物に成り下がった少女にしてもそうだ。

 この細腕にゴリラパワーが宿っている時点でファンタジーだ。

 アミラが特異な存在であって、他が違うとは言わせない。


「なぁ」

「何?」

「あのババァ以外でこいつには敵わないって奴、今までに居た?」


 フォークで刺したプチトマトを口に運ぶのを止め、アミラが首を傾ける。

 どうやら過去の記憶を辿っているらしい。


「……うん」

「へぇー、何か意外」

「さっきのあいつ」

「へ?」

「あいつ、強い」


 意外な事実がここに来て判明。

 そんなに強いのか、あのー、名前が思い出せないハンサム野郎は。

 いやはや、この世界は化け物だらけだ。


 いや、待てよ。

 いくらアミラだからって戦う姿すら見ていないのに強いかどうかがわかるのか?


「えーっと、何で強いってわかったん?」

「ニオイ」

「ニオイ?」

「うん」


 アミラの言葉を待つ。


「……」


 いや、続きを言えよバカ。


「……うん、で? ニオイで強さがわかんの?」

「なんとなく、わかる」

「なんとなく……ね。アレか、あのーほら、血のニオイがするとか例のやつか?」

「は? なにそれ」


 こいつ何言ってんだという視線をこちらに向けるアミラ。

 いやいや、オメーにそんな視線を向けられる筋合いはねーよ?

 その意思がアミラに届いたらしい。


 食事する手を止め、テーブルの脇に置いてあるセカンドバッグに手を差し込むアミラ。


──ゴト


 皿の横に無機質なフォルムの黒い物体が置かれる。

 グリップ部分に添えられた白く小さな手を注視する。


「ここでは止めて下さい」

「……」


 自分の発した声が震えているのを自覚する。 


「すいません」

「ハァ」


 肩をすくませ、やれやれという仕草を取って小さな溜息を吐くアミラ。

 その後、食べた鳩の味はよくわからなかった。



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