強襲
一応5000文字ちょい何ですが短いでしょうか?
感想やご指摘待っております。
昨日の大騒ぎから一夜明けた早朝。
日は出ているがまだ薄暗い町の中を俺達二人は歩いていた。
今向かっているのは、冒険者ギルドの建物である。
昨晩彼女たちと明日は薬草採集の依頼を受けようと話していたからだ。
眠い目を擦りながら俺達はギルドの扉を開けた。
サラとユリは既に着いており、開口一番に文句を言われてしまった。
「ちょっと!遅いじゃない!!」
頬をフグの様に膨らませて怒るオレンジ髪の少女がサラ
ななめ後ろから姉をなだめているのが妹のユリである。
「ごめんな。 ちょっと遅れた」
「もう! 私たちはパーティーなんだからね! こういう事が戦闘に影響を及ぼすかもしれないのよ!?」
「まぁまぁ お姉ちゃん。 ディオールくんもモナカくんも反省しているようだし・・・」
妹のフォローに助けられた俺達は掲示板に貼られた依頼書を眺めた。
「今日はキルガ草採集の依頼ね。」
キルガ草とはアーゼル戦記内にも存在した、低位の体力回復ポーションの素材である
成長すると薬効のある小さな黄色の花を咲かせる
この町の近くに群生しているらしく、単体でも傷薬として販売しているらしい。
「報酬は銀貨1枚で、この籠一杯に摘んでくるようにだって。」
俺達二人は竹の様な植物で編んだ大きな籠をサラから受け取る。
「危険な魔物はいない様だけど、十分注意するように だってさ。」
町の周囲に群生しているので、今回の依頼は日中で終わるかと思えた。
町から出て10分程歩いたところに湿地帯があり、そこがキルガ草の群生地だ。
辺りに魔物がいないことを確認すると俺達はキルガ草を根元から引き抜き籠に入れる。
黙々と作業すること一時間。
モナカの籠は既に一杯で、モナカはそこらに生えている雑草で花冠を作って遊んでいた。
「えらい早く終わったみたいだな、モナカ。」
「えっ!? ぁ、あぁ! 凄いだろ!!」
なぜか慌てるモナカ 分かりやすい奴で籠の中を見ると他の雑草で“かさ増し”していた。
もちろんやり直しである。
半分以上は真面目にやっていたようで、俺達の籠が一杯になるのと一緒ぐらいにモナカの籠も満杯になった。
危惧していた魔物も現れずに本日一軒目の依頼は終了した。
町に戻ってくると時計の短針は9時を指していた。
露天商で焼き鳥に似た串モノを4人分購入し、俺達はギルドへ向かった。
ギルドの扉を開け、受付の茶髪の男性に依頼書とキルガ草の入った籠を渡し報酬の銀貨をうけとる。
勿論公平に4等分する。
「あぁ~・・・腰が痛いわね。 ねぇ日もまだ高いし、魔物の討伐に行かない?」
伸びをしながら討伐の依頼を受けようと誘うサラ。
確かに採取の依頼よりも討伐の依頼の方が報酬は高い。
それと同時に危険に遭う確立も高くなるのが討伐系の依頼の特徴である。
まぁ俺達Fランクの冒険者が受けられる依頼なんて高が知れているが・・・
「俺は構わないが、二人はどうだ?」
モナカは二つ返事で了解してくれた。
ユリの方も少し悩んだ素振りを見せたが、日も高いですしね。と了解してくれた
「よし決まりね! それじゃぁ何の依頼を受けましょうか?」
俺達が受けられる討伐系の依頼は以下のとおりだった。
・ゴブリン15匹の討伐 報酬:銀貨一枚とキルガ草3束
・ダーティーウルフ20匹の討伐 報酬:銀貨二枚
俺達は迷わずダーティーウルフ討伐の依頼を受注した。
キルガ草は1束10銅貨で手に入るし、またゴブリンかぁと思ったからだ。
ダーティーウルフはその名のとおり「汚い狼」である。
死肉をあさり、毒の牙で攻撃してくると言うアーゼル戦記内にも登場した魔物である。
町を出て一時間ほど歩いた所にある森に生息しているんだとか
馬を使うのもいいが、そこまで距離があるわけではない
しかも俺とモナカは乗馬の経験がない 現実世界ではもちろん仮想現実の世界でも「馬」と言う移動手段は存在しなかった。
馬に乗れないと言うとサラに少々馬鹿にされたが、最終的には俺達二人に合わせてくれた。
戦闘用の装備に不備がないかを確認すると俺達は町を出てダーティーウルフの討伐に向かった。
カシャンカシャンと鋼鉄製の鎧が音を立てながら歩くこと一時間。
遂に目的地の森が姿を現した
複雑にねじれた木や表面が顔の様に見えたりと、森と言うのはやはり何処も不気味だった。
ケモノ道が奥まで続いており、俺達を深淵へと誘っているようだった。
俺達は辺りを警戒しながら奥へと進む。
しかし一向にダーティーウルフの姿は見えず、森は静寂に包まれている。
「なぁ、群れで行動するんだしどっか他の場所に移ったんじゃないの~?」
モナカが退屈そうに呟く。
確かにダーティーウルフは群れで行動し、餌を求めて狩場を移動する。
しかし何処に移動するというのだ?
生き物がいるような所はこの森ぐらいで、いくらなんでも食い尽くすと言うことはないだろうと思った。
「おかしいなぁー。確かにこのも「静かに!!!!」
今まで黙っていたユリが姉の言葉を遮り前方を指差す。
目を凝らして前方を見ると大木があるだけだった
「どうしたのユリ? でかい木があるだけじゃない?」
一応ユリの忠告を守り小声で話しかけるサラ。
とそのとき今まで大木だと思っていたモノが動いた。
俺は直感でアレは老人が言っていた「アーマードボアー」だと確信した。
「おいアレ噂のアーマードボアーじゃねーの?」
俺がそう言うとサラとユリが頷いた。
どうやらアタリらしい。
ヤツの体躯はとにかく巨大で目測5メートルはあるかと思えた。
赤褐色の硬そうな毛皮をまとうその姿は正に樹齢何百年の大木の様だった。
「どうやらアイツのせいでダーティーウルフはこの森を出たのか、食われたんでしょうね。」
サラが冷静にそう判断する。
アイツは100パーセント草食じゃないし、食われたと言う説が濃厚だと思われた。
「帰ってギルドに報告しに行くか。」
俺はヤツに気付かれないように静かに呟いた。
俺とモナカなら難なく倒せるだろうが、ここでサラとユリを危険な目に遭わせる訳には行かない
「何言ってるの!? 名声を得るチャンスじゃない!!」
「馬鹿ッ!! そんな大きな声出すと!!・・・ほらな・・・」
俺はサラに忠告したが、時すでに遅し。
ヤツはこちらを向き、鼻の横から伸びた2本の白い牙をこちらに向けていた
「ほら奴さんもやる気みたいよ。おっさん!!」
サラが戦闘前にもかかわらず嬉しそうな顔を俺に見せる。
「はぁ~・・・分かったよ! モナカとユリは援護を頼む。
俺がヤツの気を引くから、サラがヤツの横っ腹に風穴開けるんだ いいな?」
「「「了解!!!」」」
そう言って俺達はバラける。
固まっているところに突進でもされたら堪ったもんじゃない。
モナカとユリはヤツの後方に回り、俺が少し前でサラが俺の斜め後ろと言う配置で正面から対峙する。
ヤツは強靭な足で地面を抉りながら俺に突進をする。
確かに速度は速いがその動きは単調すぎる。左にヒラリと避け、大剣で側面を切る。
流石「アーマード」の名を冠するだけあって皮膚は硬く、俺の攻撃は通らない。
俺の筋力を持ってしてでも傷をつけることが出来ないとなると、華奢なサラの攻撃が通るはずもなかった。
同じく攻撃を弾かれたサラは悪態をつく。
「なんでこんなに硬いのよ!!」
勿論ヤツはピンピンしていたし、余裕だかかってこい!と言っているようにも見えた。
ヤツが油断しているところに俺は再び正面から切りかかった。
「まぁこんな“なまくら”じゃ無駄だろうがな。 《骨断ち》!!」
俺はスキル《骨断ち》を発動させ、ヤツの牙を縦に切った。
《骨断ち》のスキルは大剣使いが初期に手に入れるスキルである。
文字通り低位の魔物なら一撃で骨まで粉砕するがヤツは違った。
牙の先端が欠けたところで、俺のバスタードソードは中ほどからポッキリと折れた。
しかしヤツも自慢の牙が欠けるとは思わなかったのだろう。
少し身じろいだヤツの眼球に、タイミングよくユリの弓から放たれた矢が突き刺さる。
ヤツは眼から血を流しながら豚のような醜い雄たけびを上げた。
もう片方の眼には、はっきりと怒りの感情が宿っていた。
「ユリちゃんナイス!!」
モナカがそう言うが、絶体絶命である。
俺の大剣は折れ、サラの攻撃は通らない。
そこに横から矢が飛んできて目を潰されたヤツのする行動は・・・
俺とサラ→ユリ ターゲットが変更された。
先程とは比べ物にならないようなスピードでユリへと牙をむけ突進した。
「「危ない避けろ(て)!!!!」」
無理だと判断したモナカがヤツの顔面に火の玉をぶつけたがビクともしなかった。
そのままヤツは突進し、ユリの腹を貫いた。
口から鮮血がこぼれ、足元は血の海になる。 そこは地獄絵図だった。
白い牙を赤く染め、首を振り強引にユリを引き抜きモナカの方に投げ飛ばした。
ケモノの表情なんて分からなかったが、ヤツは確実に笑っていたと思う。
俺は叫ぶ。「即死ではない」その可能性に賭けて。
「モナカァァァァァァ!!! 回復魔法ォォォ!!! 何でもいいユリを助けろ!!! 絶対死なせるな!!!」
「言われなくても分かってるッ!!!」
モナカは最上位の回復魔法をユリに施す。
サラは泣いたりしていない。ただ状況が理解できず突っ立っているままだ。
「サラ、俺は今から奴をぶっ殺す。 モナカァァァ!! 二重詠唱で最上級の防御魔法をかけろ!!」
「人使いが荒いなぁ、ディオールは・・・」
俺は回復魔法をサラにかけているモナカにさらに注文を追加する。
左手でサラの治療を行い、右手で最上級の防御魔法をかけるモナカ。
二重詠唱とは2種類の魔法を同時に詠唱する上級スキルである。
「なにすんのよアンタ!! 死んじゃうわよ!!!!」
正気を取り戻したサラが嗚咽交じりになりながらも俺に詰め寄る。
ユリがやられ、剣は折れている。
そんな状況でこんな言葉が出てくるのはイカレている。
「サラ、俺がお前達の無事を保障してやる。今から起こることは誰にも言うな。」
サラが何か言う前に俺は、意識を集中させアイテムポーチから一本のウォーハンマーを取り出した。
それは「ミョルニル」と呼ばれるマテリアルウェポンだった。
ミョルニルは雷神トールが持つヨルムンガンドを二撃で葬り去った北欧神話最強の鎚だ。
柄はかなり短いが、思う存分打ち付けても壊れることはなく自在に大きさを変えることができる特殊性能がついている特大武器だ。
「そんなつるはしで何が出来るのよ!!! 殺されたいの!?」
「まぁ見てろって。」
俺はミョルニルの特殊性能の一つである「巨大化」を使った
1メートル、2メートルと大きくなっていき、4メートルに達したときに巨大化は止まる。
先ほどまでは薄汚いつるはしであったが、それは紫電を纏った破壊鎚へと姿を変えた。
「随分と待たせてしまったな。」
強大な力を前にしても独眼の大猪はにげない。
いや、逆に闘志が沸いているようにも見える。
「死の恐怖」と言う者には誰も抗うことはできないが、戦場の兵士はそれをスパイスとするのだ。
俺はそんな大猪に敬意を払い、奴の渾身の力を籠めた突進に正面から対峙した。
奴の堅牢な牙と全てを砕く破壊鎚がぶつかる。
森には凄まじい衝撃派と雷が何本も落ちる。
木々は吹き飛び、衝撃地点にはクレーターが出来上がる。
モナカの防御魔法がかかっていなかったら皆即死だっただろう。
刹那、奴の牙は粉々になり、絶対強者と出会えたことに感謝し命の灯火は一瞬で消えた。
その死体は不思議と、どこまでも美しかった。
紫電を纏ったミョルニルを元の薄汚いつるはしの姿に変え、アイテムポーチにしまう。
「やってくれるねディオールは。まさか『ミョルニル』を使うとは思わなかったよ。」
「そんな事はどうでもいい。ユリは無事か?」
先程まで治療を行っていたモナカに俺がそう問うと、モナカは無事だよ!と嬉しそうにサムズアップをして答えてくれた。
その言葉を聞くと、サラは泣き崩れてしまった。
「ひぐっ・・・ユリが! 怪我じでっ・・・ みんな死んじゃうかと思っだ・・・」
こんな恐怖を味わったのは生まれて初めてなのだろうが無理もない。
Fランクのルーキーなのだから。
「ユリの方に行かなくていいのか?」
俺がそう言い、ユリを指差した。
流石、最上級回復魔法というべきかユリの意識はもうすでにはっきりとしていた。
「サラお姉ちゃん・・・?」
サラはユリのほうに駆け寄りその方を両の手で強く抱きしめた。
零れ落ちてしまわぬように。
「もう大丈夫だからね!大丈夫・・・」
そんな光景をしばらく俺とモナカが見ていると、落ち着いたサラに“アノ”質問をされてしまった。
「おっさん!! あの武器は何なの!? なんでそんな麻袋から出てくるの!?!?」
もう逃げられない。
下手な嘘は通用しない そう判断した俺はモナカを一度見る。
モナカはやれやれといった感じで両手を挙げている。
「詳しい事は帰ったら話してやる。」
俺はそうユリとサラに言った。