初依頼とパーティー結成
今日の朝はモナカに起こされた。
既にモナカは着替えており、寝癖一つなかった
彼は旅行先で早起きしてしまうタイプなのだろうと思った
粗末なベッドのおかげで少々腰が痛む。
ウィンドウを開くと時刻は8時をちょうど回ったところだった。
ウィンドウ内の時計の設定は変更することが可能だったので、いまこうして時間が分かるわけだ。
俺も着替えて部屋を出る
底が抜けるんじゃないかと言う階段を下りて朝食を食べにいく。
一階の酒場に行くと宿泊客であろう冒険者が黙々とスープとパンを食べていた。
マスターに2人分の食事を貰うと空いているカウンター席に腰を下ろした
隣の席で硬いパンをかじっているモナカに俺は話しかけた。
「とりあえず今日は採集系の依頼をこなして時間に余裕があるようならば、討伐系の依頼もやってみようと思う。 どうだ?」
「やっぱりディオールも暴れたいんだよね~!! おつかいみたいな依頼なんて早く終わらして、バッサバッサ魔物を倒そうよ!」
朝からテンションが高い奴だ
そんなモナカを横目に見ながら、少々濃い味付けのスープを俺は飲み干した。
着替えるので先に部屋に戻っていることを伝え、俺は階段を上り奥の部屋の扉を開けた。
誰も部屋に居ないことを確認しウィンドウを開く
勿論他人からウィンドウは見えないが、空中をみて手を左右に動く様を見られては怪しまれてしまうからだ。
俺は、アイテムポーチ内のアイテムを低いレア度順に並び替えしていた
派手な行動は慎めとモナカに言っている手前、俺自身が人目を引く格好は出来ない。
レア度が比較的低く、物理防御力に優れた「鋼鉄」シリーズの防具を選択し、アイテムポーチから取り出し装備していく。
俺の今装備している防具は同じ鋼鉄製のフルプレートメイルと違い、関節に隙間が空いている機動性を重視した物だ。
武器は同じく鋼鉄製で防御にも使える肉厚の大剣「バスタードソード」を装備する。
よし!準備完了!!と思ったとき、扉が開かれモナカが入ってきた。
「普段もその格好なら威圧感があって、絡まれる事もないのに。」
「蒸れるし、動きにくいだろうが!」
モナカに昨日の出来事をからかわれ、俺達はいったん宿を後にし冒険者ギルドに向かった。
朝早くにもかかわらず、広場は大勢の人で賑わっていた。
野菜や肉、食べ物を売る露天商の主人の声が四方八方から聞こえる。
人だかりを上手く避けて俺達は冒険者ギルドの建物の前にやってきた
ギルドの中は様々な冒険者で賑わっていた。
パーティーの勧誘を行う者、アイテムを売買する物、作戦を立てている者が大勢いた。
きのう受付のお姉さんに説明された依頼の紙が貼り付けてある掲示板に向かおうとした時一組の女性に声を掛けられた。
「あなた達まだフリーでしょ?」
振り返るとオレンジ色の髪を後ろで結んだ少女と黒髪ショートボブの少女が立っていた。
年は16ぐらいだろうか?
どちらの少女も皮の鎧に鉄の手甲をはめていた。
武器はオレンジ色の髪の少女が長槍、黒髪の少女がコンポジットボウを装備していた。
「まぁ・・・フリーだけど?」
「今から私達はゴブリンの討伐に行くの。 一緒にどう?」
「いや、遠「はい!是非ご一緒させて下さい!!」
モナカが俺の言葉を遮るように自分の主張を強引に通した。
ふざけるな好色ハイエルフが! ボロが出たらどうする!?
俺はモナカの襟首を掴み一旦その場を離れる。
「いたいな~ 何するんだよディオール!」
「馬鹿か!なに快諾してるんだよ!!」
「えー!でもあの2人可愛いじゃん?」
「まぁ確かに可愛いが、俺達は異世界人なんだぞ? 変に勘ぐられるかもしれないんぞ?」
「う~ん・・・確かにそうだな。ごめんなさい。」
「あのさぁ~ 相談は終わった?」
後ろを振り向くとオレンジ髪の少女が腕を組んで俺達の相談を待っていた。
「あ~・・・俺達はFランクだしゴブリンはちょっと難しいかな?」
俺が作り笑いをしてやんわり断った。
するとオレンジ髪の少女はイジワルな笑みを浮かべて俺達にこう言った。
「なに?ビビッてるの?」
「あぁ?」
「だから、ビビッてるのかって聞いてるの。」
「「ビビッてる訳ねーだろ(ないでしょ)!!!!!!」」
「じゃぁ決まりね!!」
「「あっ・・・」」
まんまと彼女の作戦にはめられてしまった。
俺達二人のプライドは山の様に高くたかが小娘に馬鹿にされるのは耐えられなかったのだ
やっちまったと思ってる俺達に黒髪の少女が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「ごめんなさい。サラお姉ちゃんはちょっと強引なところがあって、パーティーを組んでくれる人が居なかったの」
「ちょっとユリ!恥ずかしい事言わないでよ!」
「「へー そうなんすかwww」」
「ちょっとなにアンタ達笑ってんのよ! 腹立つわね!!」
「お姉ちゃん!! この人たちは私たちの依頼に協力してくれるんだよ!! ケンカしちゃだめでしょ?」
「そうだけど・・・うぅ・・・・」
妹に負ける姉の姿は少々可哀想だったので俺がフォローを入れる。
「まぁケンカはそこまでにしといて、依頼の詳細を教えてくれ。」
妹のユリのほうがニコリと笑い、俺達二人に依頼の詳細を教えてくれた。
なんでも街道沿いの森にゴブリンの集団が集落を作って生活しているそうだ
弱い魔物が集団で生活することはよくあることだが、中にはタチの悪い魔物もいる。
それがゴブリンだ。
奴らは多少知恵があり人間の武器を真似して作ったり、家畜を集団で襲ったりする。
依頼は商人組合からで、三日前組合の人間の馬車がゴブリンに襲撃されたらしい。
大事には至らなかったが、商人たちは頭を抱えているとの事だった。
報酬は銀貨2枚だそうだ。
「ギルドの情報によるとゴブリンの数は多くて15匹程度らしいです。」
妹はしっかり者で姉は破天荒な性格なんだなぁと俺達は思った
「私達もFランクだけど、アンタは立派な大剣持ってるじゃない。腕はそこそこ立つんでしょ?」
「装備だけで相手の力量を判断しないほうがいい。それで今から行くのか?」
「当然でしょ!!時間が勿体無いじゃない!」
なんやかんやで初の依頼は採集系の依頼ではなくゴブリンの討伐になってしまった。
「じゃぁ、準備はいい?」
「「あぁ、いいぜ(いいよ)」」
俺達はサルヴァの町を出てゴブリンの集落がある森を目指している。
道中は他愛もない会話4人で楽しんだ。
もちろん自分たちが異世界人であると悟られないように
あそこの宿の料理が美味しいとか、どこどこの露天商の店主はケチだとかそう言う会話だ。
ちなみにモナカは彼女たちのことを○○ちゃんと呼んでいる。
サラは俺のことを「おっさん」と呼び、モナカは「モナカ」だ
しっかり者のユリはちゃんと名前で読んでくれる。
何故俺が「おっさん」なのかと言うと、黒髪オールバックは老けて見えるとの事だった。
結構お気に入りだったので余計傷ついた。
冒険者の過去等を聞くのはタブーとされており、変に詮索される事はなかった。
しばらくすると問題の森が見えてきた。
森に入ると、日中でも薄暗くここならゴブリンが身を隠すには最適だなと思った。
しばらく森の中を歩くと、前方から強烈なケモノ臭が漂ってきた。
俺が3人に姿勢を低くし隠れるよう指示すると、20メートルほど先にゴブリンが10匹程度いるのが確認できた。
「それにしても酷い匂いね。鼻がひん曲がりそうだわ」
「確かに臭いですね・・・」
冒険者と言えど女の子二人にはこの匂いは強烈なのだろうが仕方ない。
ここで珍しくモナカの頭が切れる。
「ユリちゃんは弓を撃ちゴブリンの集団をかく乱して下さい。
サラちゃんとディオールは混乱に乗じて目に付くゴブリンを片っ端からぶった切って下さい。
僕は魔法で援護しつつ取りこぼしを殲滅します。 よろしいですか?」
非常にシンプルな作戦だが、この人数で相手はたかだかゴブリンだ。
十分だろうと俺は思った。
「「「分かった(ました)」」」
姉妹は納得してくれたようで各々戦闘準備に入った。
ユリはコンポジットボウに矢をつがえ、ゴブリンに標準を合わしている。
俺も抜き身のバスタードソードを右手で構え、腰を落とした。
「いきますよ?《スパイラルアロー》!!」
驚いた、この世界の住人はスキルも使えるんだと
当初スキルが使えるのは自分達だけかと思ったが、そうではないらしい。
これで心置きなく俺達もこの世界でスキルが使えると思った。
ユリの矢は螺旋状の風のエフェクトをまとい、一番手前のゴブリンの頭を吹き飛ばしその先のゴブリンの胸に突き刺さる。
ゴブリンたちが何事だ!と慌てふためいているのがよく分かる。
しかしそんな隙を俺達は見逃さなかった。
俺とサラはゴブリンの集団の前に躍り出た。
ゴブリン達は慌てて腰のこん棒を手に取るが、すでに遅かった
目の前のゴブリンの胴をバスタードソードで右から左へと切り裂いた。
上半身が地面にボトりと落ち、下半身の切り口から鮮血が噴水の様に噴出す
続けざまに左足でゴブリンの足を踏み砕き、腹に剣を突き刺す。
横を見るとサラが長槍でゴブリンの首を薙ぎ、鋭利な剣先で数匹のゴブリンを貫いていた。
「なかなかやるじゃないか!サラッ!」
「おっさんも凄いじゃない! よくその大剣を片手で振り回せるわね!・・・えいッ!!!」
後方からの援護で火の玉や矢が飛んでくる。
ゴブリンが燃え盛り、脳天を矢が貫く。
ゴブリンも負けじと反撃するが、もう半数がやられてしまっていた。
こん棒の一撃を肉厚の剣の腹で受け止め、小柄なゴブリンのあごに蹴りを入れる。
あごを砕かれたゴブリンは、地面を転げまわり口から血を吐く
足に剣を突き刺し、動けなくなったところで頭骨を鋼鉄の足甲で砕く。
俺は久しぶりの戦闘に興奮していた。
仮想現実とは違う100パーセントの痛み
濃厚な血の匂いに俺の体は更なる敵を要求していた。
俺はモナカの言う通り大暴れしたい戦闘狂タイプなのだろう。
「最後の一匹ッ!!!」
最後に残ったゴブリンの腹をサラの長槍が貫いたところで、虐殺は終了した。
剣の血糊を拭き取り、背中に帯刀すると後方から援護をしてくれた二人がこちらに駆け寄ってきた。
「いやー ディオールの姿は正に鬼神の様だったね! 勿論サラちゃんも動きの一つ一つにキレがあって、目を見張るものがあったよ!」
モナカがニコニコしながらそう言った。
勿論コイツは嘘を言っていないが、なかなかどうしてこんなにペラペラ言葉が出てくるのか不思議だった。
しかし妹のユリの方は何処か怯えているようだった。
さすが姉と言うべきか妹の表情の変化に直ぐに気付き、「どうしたの?」と声を掛けた。
「ディオールくんの戦ってる姿を後ろで見ていましたが、とても怖かったです。」
そう言われてしまった・・・・・・
正直、なぜユリが俺に怯えているのかの自覚はある。
後半は笑っていたし、何より俺が殺したゴブリンの大半は原形を留めていなかった。
「そうよおっさん! これじゃ半分が回収できないじゃない!!」
「何それ?」
「素材よ! そ・ざ・い! コイツの耳を切り取ってギルドに持って行くと、一つ10銅貨と交換してくれるのよ! それに討伐系の依頼の達成には証明品が必要なの!」
「あぁー・・・申し訳ない。」
正直そんな話は今聞いたし、ギルドの姉ちゃんも説明しなかったはずだ。
でも悪いのは俺なので素直に頭を下げておいた。
ダガーを使い倒したゴブリンの耳を削ぎ落として麻袋に突っ込む
先ほどの戦闘で何か吹っ切れた物があったのか嫌な顔一つせずサラとユリは黙々と作業を続けた。
「ふぅ・・・これで回収終了ね!」
「あぁ、もう日もだいぶ傾いてきた。 早いところ森を抜けたほうがいいだろう。」
気付けば空は赤く染まり、日中でも暗かった森は夕焼けに照らされその不気味さを増していた。
足早におれたちはサルヴァの町へと帰っていった。
町に帰ってくると一目散に冒険者ギルドへ俺達は向かった。
お日様はとっくの昔に沈んでいたが、酒場のほうからは明かりと喧騒が聞こえてきた。
ギルドに付くと、俺達は依頼達成の報告をした。
証拠品の耳が入った麻袋を渡し、十数匹いたが半分は回収できり状態ではなかったことを受付の若い茶髪の男性に伝えた。
通常報酬と耳の追加報酬が合わさり、合計で銀貨2枚と銅貨60枚になった。
報酬の配分はきちんと4等分にした。
報酬をサラから受け取りギルドから出ようとした時にサラとユリに引き止められた。
「「待って(ください!!)」」
まぁ 大体予測は付いたが俺達は黙って次の言葉を待っていた。
「「私たちと正式にパーティーを組んでください!」」
俺達二人は快諾した。
俺達には秘密がある。
しかし秘密と言うのはいつかはバレてしまうものだ。
だったら、すこしは信用できる奴がいい。そう考えたからだ
安易かも知れないが、俺達なら何とかなると言う自信があったし今ここでバラす訳じゃない。
この世界の常識の分からない俺達にとって彼女たちは貴重な存在、仲間になるだろう
その夜は酒場で大はしゃぎするオークの大男と金髪のハイエルフが人間の女の子と楽しく酒を飲む姿が多くの冒険者に目撃されたらしい。