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初めての町と冒険者ギルド

俺達2人はエルフたちの盛大な見送りを受けて、里を発った。



今から向かう所は商業国ミルチ領のサルヴァという町だ



ルチア曰くここで冒険者登録をしておくと、旅がし易くなるだろうとの事だった。



里から出ると回りは広葉樹林が茂っていた。


新鮮な森の空気を吸い、現実世界では滅多に見ることが出来ない光景だろうなと思った。



1時間ほど舗装されていない道を歩いているが、いまだに魔物の姿は見えない。



寝ているのだろうか?


それにしても不自然な森である。


魔物はおろか、鳥のさえずりすら聞こえないのだから。




「こんなに自然豊かなのに生き物がいないなんて変ですね。」





「あぁ おかしい。 何かあるのかもな?」





エルフに貰った木の実をポリポリと食べながら俺達はひたすら歩いていく。





「何で冒険者登録なんてしなくちゃならないんでしょうか?」





「そりゃぁ俺達は住所不定の怪しいハイエルフとオークだからな。 身分を証明する物が欲しいだろ?」




あぁ、そうですねー!と大げさに腕を組みながら頷くモナカ。




「他のギルドメンバーは今頃どうしてるんでしょうかね? いきなりギルマスとナンバー2が消えたんですから大慌てしてますよね。」




ニヤニヤするモナカに「今もレアモンスを狩っているだろうよ。」と俺は答える



とは言ったもののやはり心配である。



お袋は元気にしているだろうか?



捜索願を出されていないだろうかと不安になってきた。



俺一人でこの世界に来ていたら、悲しみや不安で押し潰されていた事だろう。




しかし今俺の隣には信頼できる仲間がいる 彼も俺と同じ不安を抱えているのだ。



そう思うと俺は無意識のうちに隣の金髪ハイエルフの頭に手を置いていた。



すぐにどけて平静を装ったが、首を傾げて不思議な顔をされてしまった。



どれだけ歩いたのだろうか?高かったお日様も傾いたところで、町の入り口であろう石造りの門が見えてきた。



門番に冒険者の登録に来たことの旨を伝えると、ようこそサルヴァへ!と歓迎してくれた。



門をくぐると露店や沢山の人で賑わっていた。



食料品を売る人。ポーションの類を売る人や武器や防具、あやしい壺を売る露天商もあった。




余程キョロキョロしていたのだろう。“おのぼりさん”だと見抜かれたようで、人間の老人に声を掛けられてしまった。





「おぬし達はは新米の冒険者か?」





「今から登録しに行くところですよ。」





「そうじゃったか。冒険者ギルドはあの建物で、宿はこの建物じゃ。」



老人は親切に宿の場所と冒険者ギルドの場所を教えてくれた。



モナカがありがとうと答えようとすると、老人は白くなったひげをしごきながら更にしゃべる。




「おぬし等も“アレ”を倒して名を上げに来たのじゃろう?」




「ご老人その“アレ”とは何ですか?」



老人は知らないのか?と言うと“アレ”について話してくれた。



“アレ”とは森の主の事であると言う。

森の生態系を壊し森の食物連鎖の頂点に立つ魔物なんだそうだ。




幾人もの冒険者が討伐に向かったが皆傷だらけになって戻ってくるらしい。



戻ってこないパーティーもいるらしく、ギルドも手を焼いているそうで

その魔物の名を「アーマードボアー」と言い、鎧の様な硬い皮膚を持つ獰猛なイノシシだということだ。




宿を先に取るとよいと言うので老人に礼を言い俺達は宿に向かった。




「ディオール? アーマードボアーなんてモンスターいたっけ?」




モナカは俺にそう質問してきた。




「いや聞いたことがないな。この間はバハムートを見たが、どうやらこの世界独特のモンスターがいるのだろうよ。」





「名声を上げれるってあの爺さん言ってたじゃん! 倒しに行こうよー」





「いや、今はやめておくべきだろう。そもそもそのモンスターのレベルが分からないのだから、未知のモンスターとの戦闘を今は極力避けるべきだと俺は思う。」




モナカはつまんないなーと呟いていたが、俺は思う。



仮に簡単に倒せたとしよう。いきなり現れたオークとハイエルフが森の主を討ち取ったなんて言う情報は直ぐに広まることだろう。



もしかしたら今後の旅に支障が出るかもしれないのだから。




宿屋と案内された建物のウェスタン風の扉を開けると、そこは酒場のようだった。



ちらほらと冒険者であろう人たちが酒を飲んでいた。




珍しいものを見るようで見られてしまった。老人が言ったようにハイエルフとオークの組み合わせは珍しいのだろう。




カウンターでコップを磨いている腕っ節の強そうなマスターに宿泊したいことを伝えると、1日2食付で20銅貨、酒は別料金だ。との事だった。





運よく奥の一室が開いていたようで、5日分の1銀貨を支払い宿兼酒場を出ようとした時に知らない大男とその取り巻きの3人がドスンドスンと入って来た。




大男はフルプレートメイルを着込み、背中ににツバィヘンダーを背負っている。



おそらく俺と同じ戦闘スタイルなのだろうと感じたが、取り巻きの男たちは軽装で見るからに弱そうだった。




すると俺とモナカを品定めするように見ると酒の匂いが混じった凄まじい口臭を吐き散らしながら俺達にイチャモンを付け始める。




「おうおう! 高貴なハイエルフ様がどうして汚らわしいオークなんかと一緒にいるんですか~?」





俺は呆れていた。



高慢なプレイヤーは今までにも見てきたが、ここまで小物臭のする奴は生まれて初めて見た。




「ゴルトさんはな~『D』ランクの冒険者なんだぜぇ~。」




「おいおい新人くんが萎縮してるじゃないか。 あんまり脅すんじゃねーよwww

ハイエルフの兄ちゃん、下を向いちゃったじゃねーかwww」




取り巻きの男の一人とゴルトと言う大男がコントを始めた




モナカはゴルトの言うとおり下を向いているが、怯えているわけじゃない。




こみ上げてくる笑いを必死で噛み殺しているのだ。




相変わらずいい性格してやがると俺は思った



面倒ごとはイヤなので、「スゴイデスネ」とおだてておいた。



酒も回っており上機嫌なのか



「そうだろ!そうだろ! キミ達も頑張りたまえよ。」


と言って俺達の隣を通りカウンター席にドスンと腰を下ろした。



愉快な奴(滑稽な奴)もいるもんだと思い今度こそウェスタン風の扉を押し開けて冒険者ギルドへ向かった。




外に出ると空は既に赤く染まっていたが、露天商はこの町に来た時間と同じように賑わっていた。




さすが商業国領の町と言ったところだろう。




宿を出ると笑いを堪えていたモナカが話しかけてきた。




「ディオールwwwあの3人超小物だったじゃんwww」




「そうだな。Dランクがどれほどの実力を持っているかよく分からないが、それなり腕が立つのだろうが、あの馬鹿は慢心している。 あれでは成長しないな。」




俺はそう答えた。




少し強いモンスターを倒しただけで慢心して俺達のギルドに宣戦布告してきた哀れなギルドがいたことを俺は思い出した。



もちろんボコボコにしてやったが、慢心している奴は一度痛い目に遭わないと分からないらしい。



少し歩くと、一際大きな木造の建物が姿を現した。


これがこの町の冒険者ギルドのようだ。


丈夫そうな扉を開けると奥のカウンターに若い女性が座っていた。

右手には丸テーブルと掲示板のような物があるだけだ。



迷わず俺達二人はカウンターに向かった。



「ようこそ冒険者ギルドへ! ご用件は何でしょうか?」



「こちらで冒険者の登録が出来ると聞いてやってきた。登録は可能か?」



「はい!当ギルドは優秀な冒険者を随時募集しております。 まず最初にギルドカードを作成するために、お一人様銀貨3枚頂いております。よろしいでしょうか?」



俺は分かったと言って麻袋から銀貨6枚を取り出し女性に渡すとカウンターの奥に消えて行き、2枚の紙切れを持って戻ってきた。


「はい!確かにお二人分の銀貨頂きました。ではこの紙にお名前をお書きください。」



言われたとおりに紙切れに用意された羽ペンを使いカタカナで名前を書き、彼女に渡す


彼女は後ろにいる他の職員に紙切れを渡し、再び俺達と向かい合った。



「今、ギルドカードを作成しておりますのでこの時間を利用して冒険者のシステムをご説明します。 よろしいでしょうか?」



「あぁ、頼んだ。」



「それではご説明いたします! 冒険者ギルドは冒険者にランク制度を設けておりまして、上からS、A、B、C、D、E、Fとなっております。 登録時はFからのスタートになりますが、昇格試験を受けていただくことによってランクが上がりより高報酬の依頼を受注することが可能になります。ここまではよろしいでしょうか?」



ウンウンと俺達は頷く。



「では次に依頼についてです。依頼の受注は基本的にギルドを仲介して行うことになります。ギルドを介さずに冒険者をご指名される依頼者も居りますが、その依頼中起きたトラブル・事故等は自己責任になってしまいますのでご注意ください。」



ここでモナカが質問する。



「あー・・・ギルドを介すことのメリットって何ですか?」



カウンターの女性はいい質問ですね!とモナカの疑問に答えてくれた。



「ギルドは持ち込まれた依頼を調査してから冒険者の皆さんに提供しております。

違法行為、犯罪ですね。そういった依頼はギルドの方であらかじめ破棄しています。

ギルドを介した依頼が全て安全かと申しますとそうとは言い切れませんが、犯罪の片棒を担いでしまった!という確立はグンと下がると言う事です。 次の説明に移りますがよろしいでしょうか?」



「「はい。お願いします」」



一気に喋ったからか女性はふぅと息を吐き説明を再開した。



「次に依頼の種類です。依頼には大きく分けて3種類ございまして、討伐系・採集系・雑事系の物となります。雑事系は子供のお守りや屋根の修理等です。冒険者の方からは人気がありませんが、町の人との友好を深める為の大切な依頼です。依頼には期限があるものもありますので注意してください。

依頼はそこの掲示板に張られている紙の中ならFランクの方でも受けられる物となっており、こちらに持ってきてもらえれば依頼開始となります。

Fランクの冒険者は一つ上のランクの依頼までなら受注することが出来ますが、Sランクの依頼は危険な物が多く、Sランク冒険者のみ受注可能となっております。

Dランク以上の依頼は窓口での提供となりますので、ご利用の際は私どもにお申し付けください。」



「最後に重要な話しをします。冒険者ギルドは魔物が町を攻めてきた等の有事の際、冒険者を強制的に招集する権利がございます。この招集に背いた冒険者には罰が科せられ、一度目は、罰金銀貨20枚 二度目になりますと冒険者の資格を永久に剥奪いたしますのでくれぐれもご注意ください。」



その話を聞いて俺は冒険者になったことを少し後悔した。

気楽に旅が出来る職業かと思ったのだが、強制招集なるものがあったのである。


しかし、この世界で生きるための身分証明書なのだと割り切った。



すると先ほど紙切れを持って奥に消えた男性の職員が戻ってきて、銅製のドッグタグの様な物を受付の女性に渡した。



「こちらがギルドカードになります。ランクが上がりましたら新し物を発行いたしますが、紛失した場合や盗難に遭った場合の再発行は銀貨3枚が必要になりますのでご注意ください。」



そう説明する彼女からギルドカードを受け取った。



ディオール

ランク:F


と彫ってあった。それを大事にズボンのポケットに俺達は入れると、再び彼女が話し始めた。



「説明は以上になります。いまからでも依頼を受注することは可能ですが、どうなさいますか?」



「うーん・・・もう外も暗いので、明日また来ます。ご丁寧にありがとうございました。」



モナカがそう言うので、今日は宿屋に帰ることにした。



「いえいえ、仕事ですので! ギルドは職員が交代制で24時間週末も開いておりますのでいつでもご利用下さい。

では、ディオール様とモナカ様に幸運がありますように。」


そういうと彼女は俺達の方を見て微笑んでくれた。


俺達も再び「ありがとう」と彼女に伝え、冒険者ギルドをあとにした。



ギルドを出ると外は真っ暗で人もまばらだったが、酒場のほうからは賑やかな喧騒が聞こえて来た。



予想通り俺達が泊まる宿の一階部分の酒場は冒険者で溢れ大繁盛していた。



こういう場所で有益な情報が得られることもあるのだ。


俺達は既に2人の冒険者が居るテーブルに相席さしてもらい情報料の代わりに酒を奢る。


既に出来上がっているらしく、ペラペラと話してくれた。



この町にはEランクの冒険者が多いらしい。その中で威張り散らしているゴルト一行はこの町の冒険者や町人に嫌われているらしいとの事だった。



他にも4人以上でを組んだり男女混合のパーティーは報酬の取り分等で揉めるらしいとか、この季節にしか取れない薬草の話もしてくれた。



俺達2人は軽く酒を呷り、魚のムニエルを食べた。


マスターから部屋の鍵を受け取ると、2階の奥の部屋に向かった。



「なぁーどんな依頼を明日受けるの?」



酒のせいか顔を赤くしたモナカが部屋の粗末なベッドに寝転がりながら聞いてきた。



「そうだなー・・・この町の周囲の偵察も兼ねて採集系の依頼を受けようかな?」



するとモナカは大げさに身振り手振りを着けながら俺に言った。




「えー! なんかディオールらしくないよ~! もっとこう・・・巨大な敵を一刀の元に切り捨てるって感じの依頼がしたいなぁ。」



「あのなぁ・・・町に着いたときにも言ったろ?目立った行動は取れないって。

あの受付の姉ちゃんが言うように、ランクが上がればそんな依頼も受けられるようになるだろうよ。」



そうやって俺はベッドの上のモナカに言ったが既に夢の中だった。



「酒、弱いくせに飲むからだよ。俺も明日に備えなきゃな」



俺はそう一人呟きわらの上にシーツを張っただけの粗末な木のベッドに身をゆだねた。

移動の疲れもあってまぶたが自然に下がっていった。




心の中で明日から冒険者か・・・と呟くと、俺の意識はまどろみの中に消えていった。


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