異世界へ
鉱山の入り口に着いた俺達はアイテムポーチからランタンとつるはしを取り出し、採掘の準備に取り掛かる。
つるはしは採掘専用のアイテムであり、これが無いと採掘ができない仕様になっている。別段、レアアイテムではなく店売りのNPCからも購入できるアイテムである。
ランタンは光源を得るためのアイテムで、暗い所で重宝する。
もちろんモナカくんは明かりを得るための魔法を習得しているが、気分は炭鉱夫であり俺が
「ライトの魔法使えば?」と言ったら、
「ディオールさんはナンセンスですねwww」と言われてしまった。
ここにはトカゲの姿をした魔物のリザードマンが生息しているが、採掘に専念したいが為に、一定時間魔物が寄り付かなくなると言う比較的高価なアイテムを惜しげもなく俺達は使っている。
初心者には手が届かないアイテムでも上位ランカーの俺達からしたら、はした金である。
鉱山と言っても採掘できる場所は限られているので、アイテムの補助もあってか1時間かからずに採掘作業は終わってしまった。
「ディオールさん!! アダマンチウム鉱石ですよ!!」
はしゃいでいるモナカくん。それもそのはず、アダマンチウム鉱石が取れる確立は0.003%を切っている超レア素材なのだから、その喜びはゲームをやっているプレイヤーが理解できない訳がないのだ。
「おっ! やったね。羨ましいなー」
と言う俺。確かに貴重な素材だが、喉から手が出るほど欲しいかと聞かれたらそうでもない。
このアダマンチウム鉱石は魔法使いが触媒を製作するために使う素材であり、武器や防具も作れるがそれよりも高性能な装備をすでに俺は持っているからだ。
「でも、ディオールさんはあまり興味ないですよね~」とモナカくん やはり分かっていたか。
採掘場所も回り終わりギルドホームに帰ろうとした時に事件は起こったのだ。
モナカくんの足場の空間がなくなり落とし穴のトラップが発動したのだ。
俺は持ち前の俊敏を活かしてモナカくんの腕を掴み落とし穴から引き上げた。
「ふぅ~・・・危なかったです! 助かりましたディオールさん。それにしても鉱山に落とし穴を設置するなんて何処のプレイヤーでしょうか?」
とモナカくん。今発動したのは「奈落への穴」と言うトラップで、落ちてしまうとランダムでフィールドに飛ばされてしまうと言う悪質なトラップである。
高レベル帯の狩場にも飛ばされ、何よりトラップサーチのスキルを使っても反応しないと言う事で、初心者キラーなトラップとして攻略サイトやWikiでも注意を呼びかけているトラップである。
しかも高価な為このような場所で使うプレイヤーはいない筈なのだが、物好きなプレイヤーが居るようで困ったもんだ・・・・・・
「まぁ、物好きな金持ちプレイヤーの娯楽で」と言い終わるかと言うタイミングでトラップ「奈落への穴」が発動した。
どうやら二つ設置していたようで、今度は俺とモナカくん二人とも落ちてしまうのだった。これが異世界への扉とも知らずに・・・・・・
どうやら気絶していたようだ。
待てよ気絶!?
確かにこのVRMMOの中には気絶と言う状態異常が存在するが、それはあくまで状態異常:麻痺の下位交換バージョンであり数秒の間動けないと言うのが、状態異常:気絶である。
だから本当に「気絶」することはありえないのだ。
隣にはモナカくんが同じく「気絶」している。何故モナカくんが隣に居るかと言うと、それは
「奈落への穴」の特性であるパーティーメンバーと同時に穴に落ちた場合、同じ場所に転送されると言う効果が働いた為と考えられる。
俺はモナカくんを揺り起こす。
「う~ん・・・・・・」とモナカくん。
どうやら意識はある様で、数秒後に飛び起きたのだ。
キョロキョロと辺りを見回すモナカくんそして叫んだ。
「どこなんですかッ!!ココは!?」
目の前に見えるのは大きな湖だろうか?
その周りには森が広がっているのが見える。
今居る場所はその森の中の一角である。
しかしこのようなフィールドは見たことがないし、アップデートの情報にもこのようなフィールドが実装されると言うことはなかったと覚えている。
「モナカくん 落ち着いて! どうやら奈落への穴が発動して、二人とも何処かのフィールドに飛ばされてしまった様だ。 でもこんなフィールドは知らないし、多分テストサーバーに手違いで転送されてしまったに違いない。」
と俺 こんな時こそ冷静にならなければと思っているが、体温が低下しているのが感覚でわかる。
「とりあえずGMコールしましょうよ!」とモナカくん。
この「GMコール」とはGMと直接やり取りができるVRMMOの中の機能の一つである。主に違反者の通報の時に使用される物である。
俺には見えないが、モナカくんがディスプレイをタッチしているような操作が伺える。
しかし、事態は思ったより深刻だった・・・・・・
「ディオールさん・・・・・。 コールできません。 と言うかGMコールのボタンが消滅しているんですッ!!」
嗚咽交じりで答えるモナカくんの姿は今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「ログッ!・・・ログアウトもできませんッ!!!!」
遂に泣き崩れてしまったモナカくん。
最悪だ・・・・・・ログアウトさえできれば、現実世界で直接運営会社に電話して不具合を報告することも出来たが、その望みも絶たれてしまった。
その後10分間ぐらい男二人で大泣きした。
どうしようもない事態なのだ。メンタルの弱い俺の涙腺は直ぐに崩壊した。しかし泣いていても事態は良い方向に傾いてはくれない。残酷だ。
「モナカくん。 俺も全て投げ出してさぁずっと泣いていたいけど、そんなんじゃ駄目だろ? とりあえずこの森を抜けてみようよ? な?」
俺は優しく子供を諭すようにモナカくんに話しかけた。
「ヒグっ・・・わがりまじた・・・・。」なんやかんや素直なモナカくん。こう言う性格だからこそ色んな人に可愛がられるのだろうと一人納得してモナカくんの手をとり立ち上がらせた。
とそのとき風切り音と共に矢が近くの大木に刺さった。
俺はHPの比較的少ないモナカくんの前に出るよう動こうとしたが、威圧をこめた言葉にその行動は遮られてしまった。
「動くなッ!!」
と言う声の主は木の枝に乗って弓をつがえているエルフの女性であった。
見渡せば、他にもお仲間と思えるエルフが直ぐにでも俺達を串刺しに出来るであろう者が10人は居た。
「待っ「黙れッ!オーク!! 悪魔に魂を売っていないようだが、何の用があってこの森に来たのだ!」
俺が言葉を紡ごうとしたら、怒られてしまった。威圧をこめたその瞳で俺の後ろのモナカくんを見て叫んだ。
「お主はハイエルフだな? なぜオークをこの森に連れて来た!!」
と木の上から叫ぶエルフのお姉さん。
しかし当のモナカくんはお姉さんの威圧にやられて縮こまって居る様だったが、エルフのお姉さん方にも聞こえるぐらいの声量でこう言った。
「仲間だからだッ!」と。
いや~改めて言われると何だか照れるなwww
しかしエルフのお姉さんはさらに激昂したようで、モナカくんをさらに追い詰める。
「アホかっ! 貴様!! ココは神聖なるエルフの土地だぞ! よそ者を連れてきていいような場所ではないわッ!」
とエルフのお姉さん。
どうやらココはエルフの神聖なエルフの土地の様だ。そりゃぁ勝手に知らない奴、更に異種族が居たら怒るわな・・・・・・
モナカくんはまた泣いた。
いきなり知らない所に飛ばされたのだ情緒不安定だったのだろう。無理はない。
モナカくんに代わり俺はこう叫んだ。
「気づいたらこの場所だったんです! 俺達は奈落への穴に落ちたらこの場所だった! エルフの神聖な土地だとは知らなかった! 申し訳ない!!」
と俺は言い終わると同時にジャパニーズ土下座をした。土下座が通じるかは分からないが誠意や気持ちは伝わるだろうと思ったからだ。
これがイベントだとしてもこの様な対応が正解だろうと踏んだのもあった。
「奈落への穴だとッ・・・・!?」
先ほどまで威圧の色が見えていた瞳には今は驚愕の色が浮かんでいた。
俺たちの動きを観察していた他のエルフも騒ぎ始めた。
俺は、しまったと思ったがもう引き返せない所に来てしまった。
最悪、一斉に攻撃されてもトップランカーの俺とモナカくんが居るのだから迎撃は容易いはずだが、不安要素が残る。
ここはテストサーバーかもしれないのだ。
彼女たちのレベルが自分たちより遥かに高かったらどうだろう? 10対2と言う数字は絶望的に思える。
「貴様らは異世界人だと言うのかッ!」とエルフのお姉さんが叫んだ。
確かに別サーバーから来たのかもしれない俺達2人は異世界人なのかもしれない。
違うと言ったら、侵入者と思われて射殺されるかも知れないと思った俺は素直に
「そうだ」と答えた。
するとエルフのお姉さんが木から下りて来てこちらに向かってきた。
かなり警戒しているようだが、弓を構えていないところを見ると攻撃はしないのか?
と思っていると、2枚の黒いカードの様な物を取出しこちらに渡してきた。
不思議そうに俺といつの間にか泣き止んだモナカくんがソレを手に取り見ていると。
エルフのお姉さんの顔は青ざめていく。そして敬語になった。
「そのカードを手に取り念じてください。」なんかビクビクしているエルフのお姉さん。
なんか可愛いなwww
言われたとおりに俺とモナカくんはカードを摘み念じる。すると俺のステータスが赤い文字で浮かびあがった。モナカくんは青い文字で浮かび上がる。
それをエルフのお姉さんに見せると若干涙目になり跪いてしまった。そしてこう言ったのだ。
「申し訳ございませんッ!! 戦神様と魔導士様と気付きませんでした! 度重なる不敬お許しください!!」
俺達二人ポカーン・・・・・・
エルフのお姉さんは更に青ざめて
「お怒りをお静めください! 私のお命を差し上げますので、どうか里の皆には手を上げないでください!」
号泣しながら叫び腰からダガーを抜き自分の喉に当てたのだった!
ヤバいっ!この人 自刃する気だと思い俺とモナカくんで取り押さえると気絶してしまった。
周りを見渡せば十数人のエルフが跪いていた。
「お二人を里にご案内します!!」とエルフの男性。事態は急展開を見せるのであった。