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第9話 「予想以上の訪問者」


「いつ、いらしたのですか?」


「ん? 今日の午前中だ。お前こそ何してんだ?」


「私は毎年この時期に別荘があるこの島へ来ております」


「へー。別荘ねぇ……」

 俺は普段のように洵花と会話を続ける。しかし、まさに背水の陣だ。洵花にだけは水の中にある女の体を見せる訳にはいかないのに、奴は陸に立っている。後ろは海。俺はこれからどうしたら良いのか微塵もわからない。


「でも和海様、同じクラスの皆さんで旅行へ行くのでしたら、私も誘って頂きたかったですわ……。もしかして私は嫌われて……」


 洵花は砂山の隣で寂しそうな顔をしてうつむいた。


「いやっ……違うんだ。嫌いとかじゃなくて……」


 水着で泳ぐから、俺の事を男だと思っているお前は海の席へは呼べない……、それはもちろん洵花には言えない。でも……、お前の足の下には正也と松尾が埋まっていて、今悶絶しているぞ……、これは言っても良かったが、俺はやはり言わなかった。


 言葉に詰まっている俺の代わりに、千夏が洵花に答えてくれる。


「違うの。一年生の時に同じクラスだったメンバーだけで今回は来ているの」


「どうしてですか?」


「えっと……仲良しだから…」


 千夏が口にしたその理由だと弱いと思ったのか、久美が二人に割って入る。


「私達、一年生の時に色々やったから、それの反省会を兼ねているの。ほら、二年生の今のクラスで私達ちょっと浮いているでしょ? だから、もう少しなじめるようにって」


 俺達が浮いているのは全員個性が強すぎるからだけど、ここは久美に任せてみる。


「色々って……どのような事をやったのでしょうか?」


「えっ……。洵花ってば、今日は突っ込んでくるね……。た…例えば……」


 久美は、視線を泳がせている最中に地面に埋まっている正也が視界に入ったようだった。すると、思いついたように勢いよくしゃべり出す。


「正也がさぁ! 一年生の時のスキー合宿でやった事とかっ! ……ねっ?」


 久美は俺に顔を向けると、片目をつぶってウィンクしてきた。


「そっ……そうそう。こいつったらよぉ……」


 俺は久美からのパスを受けて話を続ける。洵花の視線が俺に向くと、久美はその後ろで口をぱくぱくさせて、俺に何かを伝えようとしている。口の動きからすると、「あれ、あれ」と言っているようだ。……そうか、あれか!


「正也の奴、俺……じゃなくて、ある女子の裸を見たんだ。あの乳は一生忘れないとか言ってさ、困ったやつだぜ!」


 俺が言い切ると、久美の奴は口をあんぐりさせている。……違ったのか?


「まあ、なんて人! 常々あの方は不埒で軽薄な男性だと思っていましたが、そんな事まで……許せませんわっ!」


 洵花は超ど級に憤慨した。その後ろでは久美が「こくはく、こくはくのほうよ」と言う口の動きをさせているが……もう遅い。


「正也さんに次会ったとき、私が息の根を止めて差し上げますわっ!」


 洵花は両手の拳を握りながら、足を踏み鳴らして怒っている。


「あの……今……息の根が止まりそうみたいなんだけどよ……」


 俺がそう言った瞬間、洵花の下で砂から首だけを出して苦しがっていた正也だったが、その力が抜けてかっくんと首を折った。


 さようなら正也。お前の事は忘れない。……多分。



「と…ところで和海様、先ほどから遠くて話し辛いのですが……浜にはお上がりにならないのですか?」


 洵花はついに聞いてきた。俺と洵花の距離は十五メートルくらいで、しかも、俺は何をする訳でも無く海に浸かっているだけだ。


「いや……今から海で泳ごうかな……っと……」


 正面を洵花に塞がれているため、俺は後ろの水にしか逃げ場が無い。何とか丘にいるメンバーが洵花をどこかに連れて行ってくれない事には……。


 すると、千夏が動いた。


「洵花ちゃん、私達近くのログハウスに今日は泊まるの。今から遊びに来てくれない?」


 千夏は洵花の手を引き、ログハウスがある方向を指差した。とたんに洵花の顔は俺の距離からでも分かるほど嬉しそうになった。


「本当ですかっ! では、後ほど伺わせていただきます!」


「後ほど……。今からじゃダメ?」


 千夏が聞くと、洵花は千夏に頭を下げながら言う。


「ごめんなさい。今から海でトレーニングをしますの」


「え……え……。あの……その……」


 これには千夏も参ったようだ。久美に顔を向けると、久美も言葉に詰まっている。俺はもうここで日が暮れて暗くなるのを待つしか無いのか? ふやけるし、さすがに夕方は寒そうだ……。


 そんな時、防波堤の上にしゃがみ込んでこちらを見ている男に俺は気が付いた。この島の住人にも若い男がいるんだなって思った時、そいつは立ち上がって俺達の方へ向かって手を振った。


「和海じゃないかぁ!」


 浜にいるみんなもその声の主を振り返って見る。


「なんでこんなところにいるんだぁ? 和海ぃー!」


 そいつは防波堤から飛び降りると、海に向かって砂浜を歩いてくる。


「きゃぁぁぁ!」


 声を上げたのは久美だ。腰を抜かしてへたり込んだ。少し遅れて千夏と洵花が口に手を当てて驚いた顔をする。


 俺は目を回しそうになった。将棋で王手をされて困っているのに、さらに横から別人に王手をされた気分だ。


(はた)な…」


畑中(はたなか)楽斗(がくと)だぁ!」


 俺の言葉を打ち消して、久美が大声で叫んだ。


 畑中楽斗。日本中で知らぬ者はいないだろうジーニーズ事務所の超アイドルグループSTORMのメンバーの一人。ややロン毛で美形。初対面では礼儀知らずな奴だと思ったが、実際はただの超めんどくさがり屋で自分が喋りたく無い時は本当に何も喋らないと言う若干変人だ。俺とはドラマで共演をし、他の仕事も一緒に何度かこなして今では普通にメール友達だ。


「お前、泊まりかぁ?」


 畑中は波打ち際で止まると、俺に向かって唐突にそんな事を聞いてきた。相変わらず世間話などを(あいだ)に挟もうとせず、自分の聞きたいことを率直に切り出す奴だ。こいつは小学校の時にすでに事務所に所属していたらしいし、それが関係あるのかも。浮世離れしたアイドルだからって言えばそれで説明出来そうだな。


「泊まりだよ。それよりお前は何で…」


「そうかぁ! 助かったぁ。じゃあ今晩はよろしく頼むなぁ。スタッフやマネージャーと一緒の宿なんてつまらなくてよぉ!」


 俺の言葉はろくに聞かずに一方的に話をしてくる畑中。でも、なんとなく分かった。奴はこの島で何かの仕事があったのだろう。奴も泊まりって事は、仕事は夕方の船の便が出る時間よりも遅くまでかかるって事なのか。


「和海、どこ泊まってんのぉ?」


 畑中は聞いてくるが、俺はこれ以上災いを呼び込むつもりはない。


「馬鹿! 来るなこのやろ…」


「すぐそこのログハウスですぅ!」


 尻尾を振って答えたのは久美だ。こいつ、俺の体の事よりもアイドルが俺達の宿に遊びに来てくれる方を選びやがった……


「分かった。また後でなぁ!」


 畑中は俺にそう言うと、腕時計を確認して島の中へ戻って行った。休憩中に少し島内を散歩している時に俺を見つけたのか……。しかし、なんなんだ俺のこの運の悪さは。天中殺って奴か?



「待てよ……。これでログハウスの中にやばいメンバーが二人増えて……」


「和海様。一緒に泳ぎましょう」


「うわっ!」


 新たに乱入してくる畑中の事を考えていたせいで、洵花が目の前にまで来ていた事に気が付かなかった。洵花の足止めをすべき千夏と久美は、畑中の話で盛り上がっているのか二人して浜で喋っている。


「待て! お……俺の泳ぎはハードだから、付き合わない方がいいぞ……。別々にだな……」


 俺は洵花に顔を向けながら、海の深い方へ立ち泳ぎで後ろに進む。


「まぁ! ダイダラ流の特訓ですか? 是非私にも稽古をお願いします」


 洵花は俺に向かって平泳ぎでゆっくりと近づいてくる。日は昼を過ぎたと言う事で斜めになっており、水面の光の乱反射で俺の体は見えていないようだ。しかし、泳いで逃げれば俺の背中が晒されて、上のビキニの紐が見えてしまう。


 ――そうだっ!


 俺は腕を背中に回すと、ビキニのホックをはずした。そしてわざと腕を激しく動かして水しぶきを盾にしながら、さっと水着を取ってしまった。


「じゃあ……俺はひと泳ぎしてくるからっ!」 


 そう言うと、俺は体を反転させて洵花からクロールで遠ざかる。背中が見えているだろうが、上はもう何も着ていないので男と女の区別は無い。下は女の水着のままだが、見えたとしてもブーメラン型の男性水着だと思ってくれるだろう。……思ってくれるか? いや、思ってくれるさっ!


「私も行きます、和海様」


「はっはっは。ついて来られるかな?」


 取り外した上のビキニを下の水着に挟んで、全力でクロールをして逃げる。俺は三度の飯よりもプールが好きなだけあって、ちょっと水泳には自信が……


「はっ……はえぇ!」


 息継ぎの瞬間後ろを見ると、洵花がダイナミックなフォームでのクロールで、徐々に差を詰めてきているようだ。


「くそっ……。男の時よりもスピードがでねぇ! ……乳が水の抵抗を受けてスピードが出ないのか? いや、それなら洵花も胸にロケットを装着しているから条件は一緒のはず。ならば……」


 俺は日本男児憑依モード、宇喜多秀家を発動した。この人は大坂夏の陣の際に八丈島から大坂まで泳いで戦に参戦したと言う……って、説明している暇がねぇ!



 俺と洵花の上げる水しぶきは、まるでシャチが二頭で必死に餌を追いかけているように見えたと言う。




 俺は島をほぼ一周して洵花を撒き、皆がいる浜とは別の小さな浜から陸に上がった。ふらふらになりながらもログハウスに戻り、急いでさらしを体に巻きつけてTシャツを着た。下は水着の上からハーフパンツを穿いて完了……と。


[バタッ]


 俺はそのままフローリングの上に倒れこみ、休憩することにした。一体何キロ泳いだ? 十年分は軽く超えた気がする……



 少しの間寝てしまっていたようだった。人の声で目を覚ますと、丁度千夏達が帰って来た所だった。帰りに雑貨屋に寄ったようで、飲み物をたっぷり持って帰っている。


「あれ? 和海、帰ってたのかよ」


 正也はテーブルに買ってきた飲み物を乗せた。


「なんだ、正也と松尾は解放されたのか」


 俺が笑うと、それには久美が答える。


「だって、荷物持ちがいるじゃない」


「なるほどな」


 久美は冷蔵庫に飲み物を入れ、中に入っていた肉などのバーベキュー用食材を取り出す。これは予約人数に合わせてあらかじめ用意されていた物だ。


 俺は壁にかかっている時計を見た。俺の腹時計は午後七時だが、実際の時刻はまだ午後四時だ。慣れてない俺達なら今からバーベキューの用意をしても、食べるのは一時間後くらいになるから始めるには丁度良い時間かもしれない。街灯も多くないし、専用の照明があるわけでもないこの辺りでは、暗くなる前にバーベキューを終わらすのがベストだ。


「洵花は?」


 俺が聞くと、千夏は首を傾げた。


「結局和海君と一緒で戻って来なかったよ。もう、心配したんだからね!」


「島一周でもしてたの?」


 久美が肉の皿を運びながら、俺に笑顔でそう言った。


「もうちょっとで一周だったんだけどな」


「……出来るのが和海君や洵花のすごい所なのよね」


「へろへろぴーだけどな」


 俺達は十五分程で食材と器具を庭に並べる。テーブルの上には肉や皿、その隣にはバーベキュー用コンロだ。燃料は炭。もちろん火を熾すのは男子の仕事だ。


「中々火がつかないな……」


「着火剤があったんじゃないか?」


「どこ? ……和海ぃ、手伝ってくれよぉ」


 テーブルに座って談笑タイムだった俺に正也が声をかけてきた。俺は、千夏と久美と一緒にジュースを飲んでいる。


「それは男子がする事だ。俺は今日、なんだかもう疲れた。閉店だ」


「和海も男子だろぉ?」


「体は女子だ」


「女子ってなんですか?」


「おわっ!」


 俺は声の主がすぐに分かったので、驚いてテーブルに置いていたジュースをこぼしかけた。振り返ると、やはり洵花が庭の入口に立っていた。手に発泡スチロールの箱を持っている。


「お…おお、洵花。元気だったか?」


「和海様を途中で見失ってしまいました。さすがダイダラボッチ流水泳術。エンジンが付いているのかと思いましたわ」


「俺の方は、お前の事がホオジロザメにしか見えなかったけどな」 


 洵花は持っていた箱を地面に置いた。覗き込むと、なんか赤茶色のような灰色のような緑色のような、形容しがたい色と形の物が入っている。


「えーと……何これ?」


「あ、和海クン、これってアワビだよ! サザエも!」


 千夏が手に取った平べったい貝を俺も見る。これがアワビと言うものか。実際には初めて見たな。確かに裏返すと、料理番組で見た事がある形だ。殻が付いていると言う噂だったが、こんな形だったとは。てっきりアサリやシジミみたいなのだとばっかり思っていた。ちなみに俺の家ではその二つしか食卓に出ない。


「で、どうしたんだこれ?」


「和海様を見失ってしまったので、それから潜って獲ってきました。皆様のお土産にしようかと思いまして」


「へぇ。こんな島に来ると、アワビとかサザエみたいな高級食材が簡単に獲れるのか。まだまだ自然が残って…」


「ほんの十五メートルほど素潜りしたら沢山いますわ。ただ、百キロ程の重さの岩を動かし、その裏にですけど」


 笑顔の洵花を俺達は全員で苦笑いをして見る。さすがすさまじい身体能力だ。良く俺は逃げ切れたな……



 せっかくだからと、肉を焼く前にまずアワビとサザエを焼くことにした。ご飯までのおやつ代わりって感じかな。まだ時間は午後六時にもなってないし。



「……じゃあ、こっちに泊まって行けば良いんじゃねーの?」


「本当ですかっ!」


 目を輝かせた洵花は俺に抱き付こうとしたが、その腰にタックルをした千夏に阻まれた。


 聞くと、洵花は家族でこの島に来ていると言う。猪俣虎太郎とその奥さん、娘の洵花の三人だ。一週間ほど別荘に連泊しているらしいので、今日くらいは両親を二人でゆっくりさせてあげたいらしい。


「こっちのログハウスは一棟丸ごとで料金払っているから問題ないだろ」


「和海クン、アワビ焼けたみたいだよー」


 千夏から声がかかり、俺は自分の皿にアワビを乗せてもらう。アワビはあらかじめ身をスライスして、そこにバターと醤油を入れてアワビの殻を使って焼き上げた物だ。


「うまっ! 何これ、すっげーうまいっ!」


 俺はアワビを口に入れた瞬間、脳を経由せずにそんな言葉が出ていた。


「どこがカタツムリの親玉だよ。超絶旨いじゃねーか……」


 アワビを食べる芸能人をテレビで見ていた時、隣にいた親父が「あれは演技だ。カタツムリの親玉が旨い訳が無い」と幼い俺に言った。あの山育ちの野人め……、やっぱり適当だったんだな……


「でも、カタツムリも美味しいよね。エスカルゴ」


 久美が俺に向かってそんな事を言い出したので、俺は笑い飛ばす。


「わはは。そんな嘘にもう騙されるもんか! カタツムリなんて食った事ねーくせに!」


 しかし、そんな俺をみんなは無言で見つめている。……もしかして、全員本当に食べた事あるんじゃ? 千夏も久美も正也も松尾も洵花も……全員上級階級のご子息だ。


 そんな時、鉄で出来た格子状の塀の外から俺に声をかけてくる男がいた。


「お前もそこそこ給料もらってんだから、ちょっとは良い物を食べろよ。今度俺が連れて行ってやるよ」


 そいつが塀にもたれて立っている(さま)は、ドラマのワンシーンのようだ。


「うっせーな。じゃあ今度奢れよな。……入ってこいよ、畑中」


 畑中が入り口を回ってくる間に、久美が話しかけてくる。


「本当に来たっ! 社交辞令じゃなかったんだっ!」


「俺は一応友達だぞ。友達に社交辞令は無いだろ」


 庭に現れた畑中は、手に持っていたスーパーのレジ袋をテーブルの上に置いた。その中には缶ジュースとつまみが入っているようだ。


「悪いな、ろくな差し入れが無くて。まあこれでもスタッフ達から無理やり奪い取って来たんだけどな」


「あっ! 酒だ!」


 正也が手にしたのは有名な梅酒だ。他にもカクテルのような物も入っている。しかし、畑中はすまなさそうな顔で正也から梅酒を取り上げた。


「これは俺の。高校生はノンアルコールの方をよろしくな」


「えー」


 不満そうに声をもらした正也の頭を久美が殴った。


「当たり前でしょ! もしこの場で高校生がお酒飲んでいるのがマスコミにばれたら、楽斗さんにどれだけ迷惑がかかると思ってんのよっ!」


 はっとして、「すんませーん」と頭を下げた正也を畑中は笑った。



 何年かに一人は喫煙や飲酒で謹慎処分となる未成年の芸能人がいる。俺と千夏は法律を順守するタイプなので間違いは起こさないが、芸能人となった今、周りにも気を配らないとな。


 ちなみに俺はいつもタメ口だが、畑中は四つ上の二十一歳だ。酒は飲めるしタバコも吸える歳だが、タバコの方はアイドルとして歌う事もあるのでやらないらしい。その代り、酒はかなり飲むぜ、と言っていたのは本当のようで、レジ袋の中に焼酎のボトルも入っている。



「それじゃ、皆そろったところでかんぱーい!」


 久美の合図で、俺達の食事会は始まった。





「うぃー。もっと飲めよぉ和海ぃ」


「俺の酌が受けられないってのかぁぁぁ?」


 始まって三十分。正也と松尾に俺は絡まれた。もちろん奴らは酒など飲んでいない。旅行効果で、奴らは天然であのようになっているんだ。さすが『箸が転げても可笑しい年頃』な、だけある。まあ本当に酔ってはいないから、俺の事を女だと畑中や洵花の前で言い出す心配は無いだろう。



「ぐふふふふ……。ぐふふふふ……」


 一人で酒を飲みながら、うつむいて怪しい含み笑いをしているのはトップアイドルの畑中だ。からんで来たり、泣いたりはしないが、ある意味これだけでも迷惑な奴だ。こいつは三十分でチューハイ五本を飲んでしまい、今は焼酎を手酌している。こいつに友達が少ないのが分かってきた。問題は昼間じゃなく、夜にありそうだ……



「千夏っ! それ焼けてる!」


「あっ! 本当だっ!」


「なーんて、その隙にこっちの脂がのってそうな肉をゲットぉ!!」


「きゃぁ! それ私が育てていたお肉でしたのにぃ!」


 女達三人は色気のない戦いをしている。まあ食べ盛りの高校生なので、色気よりも食い気ってのは良く言われる事だ。



 俺はどうしているかって言うと、四個目のアワビを丸かじりだ。千夏や久美、洵花はアワビをたまに食べていると言う事で、目から鱗を噴出させていた俺に自分達の分をくれた。あまりにも旨すぎるから、今度母さんにも買ってやろう。親父にはアワビの中に入っているこの緑色の部分で十分だな!




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