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第5話 「番宣での大ピンチ」

 本日は、県外の多目的ホールにて総合格闘技のイベントがある。イベントって言うか、つまり試合だ。オープンフィンガーグローブをはめて、急所攻撃以外のなんでもありって言う、キックボクシングに組み技と寝技を足した物だ。


この間のバレーボールの試合が行われていた程度の施設を想像していたのだが、収容人数一万人を超えるかなり大型のホールには驚いた。テレビで試合はよく見ていたが、実際はこんな大きな場所でやっているんだな。


 今回の仕事内容は番宣だ。つまり、番組宣伝。俺達が今出演しているドラマの宣伝をする事になっている。つっても、バレーの時と同じく、ドラマに出ている時の制服を着て応援するだけで良いはずだ。ラウンドや試合の合間に、その様子をテレビカメラがそれとなく映してくれる事が大きな宣伝となる。


 番宣メンバーは三人。俺、金髪眉無しの工藤君。そしてもう一人、無礼なアイドルの畑中楽斗だ。一番後に名前を出したが、畑中楽斗がいなきゃ始まらない。このドラマは、主演の尾上M男と……、もとい、尾上武と畑中楽斗で持っているような物だから。



「ちぃーっす」


「こんばんは、和海君」


「…………うす」


 ドラマ用制服に着替えて控室に行くと、意外に畑中楽斗は早めに来ていた。バレーの時は大物風を吹かせてか、遅刻ギリギリに来たくせによ。おまけに、今日は聞こえるような声で挨拶を返してきやがった。機嫌が良さそうだが五百円玉でも拾ったのか? 


とりあえず俺も荷物を置いて空いている椅子に腰を下ろす。ここはテレビ局では無いので、三人とも同じ控室で待つことになっている。


「何それ?」


「見る?」


 俺は工藤君が読んでいた雑誌を受け取った。どうやら畑中も同じ物を読んでいるようだ。


「さっきもらったんだけど、この団体が発行している雑誌みたいだよ」


「へー。この団体の事は知ってたけど、雑誌出してたんだ。格闘技は好きだけど、雑誌を買う程までじゃないからさ、俺」


「格闘技好きなんだ。和海君って可愛い系なのに、本当に中身は男っぽいよね」


「可愛い系を演じるのは、カメラの前だけですよん」


 雑誌を読んでいると、中ほどに館長の紹介があった。(いの)(また)()()(ろう)。虎と戦って名を馳せた空手家だったってのは俺も知っていた。そして、雑誌には日本一の空手家で伝説になりつつあると書かれてある。


体はでかく、顔もいかつい。さすがの親父もこんな化け物と戦ったら負けるだろう。親父も日頃、「わしよりも強い男など山ほどいる」と言っている事だしな。年齢は48歳か。親父よりは五つ上で、それほど歳は離れていないんだな。


他にも館長が瓦を三十枚も割っている写真が載っていた。親父は大工と言う職業柄、瓦を割ることは無い。石はチョップで輪切りにするけどな。瓦割りの方が多分すごいんだろう。


更に、八十キロもの特製サンドバッグをキックで大きく揺らす館長の写真もある。……結構、自分大好きな人なのかもな。館長の紹介なんてそんないらないだろ。


 心の中で突っ込みながら雑誌を読んでいると、スタッフらしき人が呼びに来た。俺達は椅子から立ち上がると、畑中を先頭に控室を出る。ちなみに、当然だが歩くときは畑中を必ず一番前にする。



 スタッフの人の誘導に従って白い通路を進んで大きな扉を開けると、車でも通れるんじゃないかと言う広い通路に出た。聞こえていた歓声がますます大きくなる。そして、通路の先はまぶしく輝いており、俺達はそこへ向かう。恐らく出た所は……。


 ――まさに、耳をつんざく声援だった。


 開かれた扉から出た俺達は、格闘家達がリングに向かう時に歩く花道を歩かせてもらう。畑中が来ることが知らされていたからか、かなり女性ファンも入っているようで、大きな歓声が上がっている。『極悪先生』は男子校と言う設定なので、共感した男からの人気も掴んでいるらしく、男の吠える声も聞こえてくる。


「きゃぁぁぁ! 楽斗く~ぅん!」


「和海くぅーん、かわいいぃぃ!」


 意外に黄色い声の中に俺の名前も入ってて驚いた。おまけに……


「和海っ! ラブ! 和海っ! ラブ!」


 と、叫んでいるのは暑苦しい男達だ。花道の下から投げキッスまで飛ばしてくる。それを俺は上半身を反らして避けまくる。


「やけに人気だなぁ! オゥオゥ!」


 そんな俺の胸ぐらを工藤君は掴んでくる。それと同時に辺りから観客の悲鳴が上がった。


「やめとけ! 今日はそんなんじゃねぇ!」


 工藤君と俺の肩を叩いた畑中は、前を向き直ってまた歩き始める。それを工藤君は唾を吐く真似をして付いていき、俺も制服のシャツを直しながら慌てたように追う。


 三人とも俳優モードだ。俺はやんちゃで可愛い男の子。工藤君はヤンキー。畑中はリーダーシップを取るクールでちょい(わる)な男。実際の俺達と違いすぎる所はご愛嬌。これが芸能界ってもんさ。


 指示された席に俺達は座った。アナウンサーのような人の隣は畑中だ。こいつは俳優モードの時はかなりおしゃべりになるので、アナウンサーが振ってくる話題の八割がたを任せることが出来る。


「本日はありがとうございます。みなさん、格闘技はお好きですか?」


「めちゃめちゃ好きっす。極悪先生をぼこぼこにする時の参考にさせてもらいまっす!」


「へっ! 今日出る奴よりも、俺の方がつえーぜ!」


「僕も楽しみにしてたんですけど、怪我しないように頑張って欲しいです!」


 ちなみに、畑中、工藤君、俺の順で答えている。


 本当のところは、


「……別に……どうでも……」


「今回の経験をもらさずに学習して、今後に生かしたいと思います」


「おらぁ! ぶっころせぇ! 血ぃ出せ! 血ぃ!」


 って、とこかな。



 試合が始まるまでの場つなぎに、アナウンサーの人がドラマの話題を振ってくる。さすがに畑中は慣れたもので、ドラマの雰囲気を損なわない答え方で返す。やはりトップアイドルなんだな。


 アナウンサーが話している最中にも頻繁に腕時計を見始めた頃、放送席の前に一人のでかい男が立った。それに気が付いた会場は静まり返る。


空手着を着たその男は、俺の顔をじっと見つめていた。そして、口元を緩ますと、俺に言ってくる。


「なんだ、女みたいな奴だなぁ!」


「……っ!」


 俺は立ち上がり、放送席から出るとその男の前に立った。


「僕は男だよっ!」


 そう叫びながら、空手着の男の尻を蹴り上げる。するとその男は、わざとらしく尻を押さえながらぴょんぴょんと跳ね、リングの中に入って行った。そして中央でマイクを持ち、話を始める。


「ようこそっ! Xファイトへ! 本日は高校生の元気な少年も三人みえているようで……」


 空手着の男は、この格闘技団体の館長であり、プロモーターでもある(いの)(また)()()(ろう)だ。伝説の空手家に蹴りを入れたとの事で、俺の名前はまた有名になるかもしれない。まあ、ドラマの番宣としては上々か。


「ったく、台本に無いことは勘弁してほしいぜ……」


 俺がそう呟きながら座ると、工藤君はもちろん、畑中まで苦笑いをした。


「よく反応出来たね。僕ならあんな場面で動くことが出来たかどうか……」


 小声で言ってくる工藤君に俺は言う。


「だって、あの言葉言われたら、俺は誰であろうと尻を蹴りあげるキャラだもんよ……」


「ドラマの売りの一つだからな。良くやったよ」


 そう言ったのは畑中。珍しく褒めてきやがった。いや、業務連絡以外で初めて話したかもしれない。


 俺達以外には会話は聞こえていなかったはずだが、アドリブを要求されたアクシデントで少し素が見え始めてきた俺達をフォローしようと思ったのか、アナウンサーの人が話しかけてきた。


「いやぁ、すごいですねぇ! 虎狩りの伝説、猪俣館長のお尻を蹴っ飛ばすなんてっ!」


「え……エヘヘ。熊みたいな人と良く戦っているので……」


「熊並みに目力がある、極悪先生の事ですねっ!」


「そうです!」


 分かっていると思うが、もちろん本当は(うち)の親父だ。




 館長の挨拶の後、第一試合が始まった。会場上部に設置されている液晶ビジョンによると、全10試合らしく、そのほとんどが外国人選手の名前だ。今行われている試合も大きな黒人どうしが組み合っている。


 俺は試合に熱中しながらも、いつカメラに映像を抜かれても良いように時折顔をしかめたりしておびえた様子で観戦する。もちろん血はたぎっているので、足は貧乏ゆすりのようにガタガタと揺れている。畑中は冷静に試合を見ており、工藤君は時折マイクを振り回して応援している。


 ラウンドの合間、試合の合間に、俺達はアナウンサーとのトークと言う自分たちの仕事をこなす。無料で特等席に座って格闘技の試合を見られると気楽に思っていた俺だったが、やはりプライベートで来た方が楽しいだろうって事が分かった。



 午後六時から始まった格闘イベントは、俺達に渡された台本通りの午後九時に遅延無くメインイベントが行われる事になりそうだった。その最終試合を務めるのは、日本を代表する格闘家の『小次郎』と、人類最強と言われる『ベルトルド・シュバルツ』の対戦だ。


 俺と畑中は、メインイベントの一つ前の試合が終わったらすぐに用意を始める。今から試合に挑む小次郎を、高校生代表として激励しに行かなければいけない。


この場所に一人残る工藤君が俺に小声で言ってくる。


「出来るだけ早く帰って来てくれよ。不良キャラでいつまで持たせられるか……」


「OK~」


 俺の返事を聞いた後、工藤君は大きな声で「俺が行ったら喧嘩になっちまうからなっ!」と言って笑った。



 俺と畑中は連絡通路に戻ると、待ち構えていた穂乃花さんに花束とフルーツ盛り合わせを渡された。硬派役な畑中が渡すよりも、俺がプレゼント類は全部渡して畑中が言葉をかけると言う図式だ。


「えーっと……この通路をまっすぐ行って……左……だったかな?」


「どっちだよ、穂乃花さん」


「だって、畑中君のマネージャーさんが教えてくれると思ってたからぁ……」


 首を傾げている穂乃花さんの傍で、俺と畑中は顔を見合わせる。畑中のマネージャーは何か急な用事でもあったのか、今ここには来ていないようだ。


「まあ良いや。適当に扉を開けて行けば、そのうち分かるだろ。その部屋にいた人に聞いてもいいしよ。行こうぜ畑中……くん」


 一応奴は俺よりも五こ上の二十一歳だ。敬語はともかく、敬称くらいは入れておかないとな。


 歩いて行こうとしたところ、フルーツの軽さが気になった。よく見ると異様に艶がある。


「何これ? 偽物?」


 穂乃花さんに突き出して見せた所、偽物の方がカメラの映りが良いからと言われる。花の方は造花では無く本物みたいだ。


 決まり事として相手には伝わっているからと教えられ、俺と畑中は穂乃花さんに教えられた通路を進む。途中、聞いていない分岐もあったが、俺と畑中は目くばせをしながら雰囲気で進んだ。通路の突き当たりが現れると、どうもその左側が大きな控室に見えた。


「ここかねぇ?」


「……さぁ」


 ぶっきらぼうな返事だが、畑中の気持ちも分かる。そんなもん、俺も畑中も分かるはずが無い。俺もなぜ確認を求めたのか不思議だが、人間ってこんなもんだよな?


 体育館にあるような鉄の扉を開けると、中はジムのような感じだった。壁には鏡、床には軽い運動器具が置いてある。つりさげ型のサンドバックも一つある。


 視線を感じると、そこらかしこに置いてある低いベンチシートに座っていた男達の目が俺達に向いていた。黒人に白人。全員見覚えがある。今まで行われた試合に出ていた奴らだ。興業が終わっての、最後の挨拶の時間まで待機しているんだと思う。


「えっと……小次郎さん……は? ……と」


 畑中と二人で中に入ると、後ろで閉まった鉄の扉の音に俺は体を震わせた。なんか……猛獣の檻に足を踏み入れた気がした。


 ぱっと見、日本人っぽい人はいなかった。外国人風の奴らが、あ、全員マジ外国人か。そんな奴らが十五人程俺達を見ている。


 ふと照明が陰った気がしたので横を見ると、先ほどはドア傍の椅子に座っていた白人が、立ち上がって俺を見下ろしていた。


「白い巨神兵、セイム・シューマッハ。身長216センチ。体重140キロ……」


「えっ?」


 ぼそぼそと細かい情報を口にした畑中に俺は聞き返す。


そのセイム・シューマッハ?を見上げる畑中の目はキラキラと輝いていた。そりゃ、俺も試合の前に名前は聞いたけど、いちいち全員の名前なんて覚えていない。ましてや、身長や体重なんてもっと無理だ。ひょっとして畑中って……格闘マニアか? 


そんな事を考えて首を捻っていた俺の腰に、長い白人の手がかかる。


「ベリープリティガール。アイム、ハッピーよ」


 その白い巨神兵は俺の腰に手を回したかと思うと、軽々と自分の胸に俺を抱え上げた。 


「ちょっ! やめろっ! 離せっ!」


 俺が足を振って暴れると、巨神兵は目を細めて俺の髪の毛を撫でてきた。


「こらっ! 俺はガールじゃないっ! 男だ! ボーイだ、ボーイ! プリティだけど、ボーイだって!」


 なぜこいつらはいきなり俺の事を女と思ったかと言うと、今までの経験を絡めると理解出来た。紺のスラックスに白いYシャツと男子学生の制服を着ている俺だが、この外国人どもにはそんな制服効果なんて通じていないようだ。服装から男子高校生って先入観が働かなければ、俺は女にしか見えないはずだ。


「プレゼント? ユー、プレゼント?」


 他の格闘家達も近づいてきた。俺がプレゼントな訳が無いだろっ! それはジョークなのか? もう全然わかんねーし、試合後だからこいつら超汗くせぇし!


「ちょっと、セイムにマイクに、ビアンキもやめてくれよ。俺達はドラマの番宣で……うわっ!」


 次々と名前を呼んで見せた畑中だったが、そのビアンキが軽く押すと五メートル程吹っ飛んで行った。


「お前ら、よくトップアイドルにそんな事を……って、こいつら日本の役者とかアイドルも良く知らないんじゃ……」


 一人が俺から花束とフルーツ籠を取り上げてテーブルの上に置いた。親切なのかと思った俺だったが、次の瞬間、他の外人が俺の胸元を指先で広げて中を覗き込もうとしてきた。 


「触んな、ひげ野郎!」


 頬にコークスクリューパンチを叩きこもうとした俺だったが、そいつは試合で瞼を腫らしているくせに、悠々と俺の腕を掴んだ。


「や……やべぇ。こいつら次元が違う……」


 片手で俺の両腕を後ろ手で固定すると、そのビアンキって黒人は俺のシャツのボタンを外しにかかってきた。おいおい、セクハラって枠を超えてんぞっ!


俺は後方に体重をかけると、セイムの腕の中で後ろ回りをした。腕の中から零れ落ちるように脱出した俺に、ビアンキは諦め悪く手を伸ばして俺の胸元を掴んだ。


[ビッ …………ビリビリビリ]


 中に着ていたTシャツは、落ちた自分の体重と、ビアンキの怪力によって正面から裂けた。


「くそっ! マジかよ!」


 床に膝立ちで着地した俺は、ボタンが全て吹っ飛んだYシャツを手で閉じて、中のさらしを見せないようにする。そんな俺を見ている外人選手どもの目が、上に半月のいやらしい目に変わっている。なぜだ?


―パラリ―


 なんかふわふわした柔らかい物が落ちた感触がしたので下を見ると、白い布上の物が俺の腰に巻き付いていた。まさか、これは……さらしでは?


 胸の前で腕を十字にしてシャツの前を閉めていた俺だったが、少し力を抜いて腕の間から中を見る。見事な白いお山が二つほど……


「OH! 巨チチガールね!」


「爆チチガール!」


「フジヤマ! フジヤーマ!」


 俺の腕に力がこもった。まずい……一瞬だったと思うが、全開で乳見せ宙返りをしてしまったようだ。


しかし、こいつらは日本を代表するアイドルグループに所属している畑中の顔も知らないような外国人だ。俺が男の俳優だって事も当然知らないだろうから、乳があろうと何も不思議に思わないだろう。それよりも、そこで寝ころんでいる畑中にだけは俺が女だと知られる訳にはいかない。


 その俺の後ろで人が起き上がる気配がする。


「いたた……」


 畑中の声だった。顔だけで振り返ると、奴は額を押さえながらよろよろと立ち上がる。怪我は無いようだ。


「畑中ぁ! ……(くん)!」


「えっ? なんだよ」


 顔を向けてきた畑中から、俺は絶対に胸を見せないように隠す。今の俺は、魅惑のノーブラ白Yシャツ状態だ。


「か…館長を呼んできてくれ!」


「……はぁ?」


「この馬鹿外国人共は、虎殺し館長に指導してもらうしかねぇ! 俺はここから出してもらえそうに無いから、あんたが出て言って館長を連れて戻って来てくれ!」


「何言ってんだ。お前も連れて出なきゃ、危ないだろ?」


 そう言いながら近づいてきた畑中は、俺の横に立つと腕を引っ張って立たそうとする。


「やめろっ! 乳がこぼれ…じゃなくてっ! 俺は男だから何かされる訳無いだろっ! とりあえず、ここから出ていけ! ……もう頼むから出て行ってくれ! 後、触るな寄るな、正面に回るなっ!」


「は……はぁ?」


 するなと言われたからか、畑中は余計俺の体を覗き込もうと視線を下げる。そんな奴の足を俺は右足で払った。


―ズデンッ―


「早く去れ! 消えろっ! 消えろっ!」


 俺は、腕を広げてうつ伏せで床に顔をぶつけた畑中の背中をゲシゲシと何度も蹴る。このトップアイドルに女ってばれた日にゃ、ツイッターでつぶやかれて一日で何十万人と言うフォロワーに知られてしまうだろう。……ツイッターやってるかは知らないけどな。


「痛ってぇ……。神野、お前よく俺にこんな事を……」


「うるせぇ! 早くいけっ!」


―ぷす―


「うぉぉぉ!」


 顔を上げて俺を見た畑中の目に、俺は目つぶしを決めた。奴は顔を押さえながら床を転がっている。 


「お前……俺は畑中だぞ……。ジーニーズのSTORMのメンバー相手によく……」


「行けっ! はよ行け! エロっ! 早く行け、行けまくれっ!」


「分かったよ! まったくっ! ……なぜエロ?」


 一つ引っかかったようだが、畑中は立ち上がると目をこすりながら扉へ向かった。俺は止めとばかりにその背中に向かって言う。


「後ろ振り返んなよ! バーカ!」


「うるせぇ! バーカ!」


 しかし、そんな畑中の前には白い巨神兵こと、セイム・シューマッハがいる。奴は誰もこの部屋から出す気は無いように、ドアの前に立ちふさがっている。


「必殺! 手ブラっ!」


 そんな二メートルの巨人に向かって俺はYシャツをはだけると、右手で右乳、左手で左乳を隠してみせる。途端にセイムの口がぽっかり開いて、前のめりに俺に近づいてきた。


 その巨人の脇をするりと抜け、畑中はドアを開けると急いで出て行った。


「ふう。前回の女の時に考えた必殺技だったが、こんな所で役に立つとは……」


 息をついた俺の辺りが暗くなる。見ると、膝立ちの俺の周りを取り囲むように筋肉で覆われた化け物どもが立っている。


「和海君、大ピンチだぜ」


 俺がヤバさのあまり笑ってみせると、獣たちの顔が赤くなった。


 ――よし、火に油を注いでしまった!

 

俺はかがんだまま少しずつ後ろに下がっていくと、すぐに冷たい壁に背中が触れた。





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