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第12話 「一時の休戦」

すみません。連載を落としたわけではないのです…。予約掲載を8/3ではなく、8/4にしていました…。

《では次のゲーム! トランポリンで跳ねて高得点を狙ってもらいます!》


「やるぞぉ、和海くーん」


「おー!」


 俺達は二人一緒にこぶしを突き上げる。



《何か、更に仲が良くなりましたね?》


「だってぇ、二人とも体を動かす事が大好きだからぁ」


「そうそう! 楽しみだねー」


 俺はじゃれあうように水沢さんの腰に抱きついた。そして、小声で聞く。


(水沢さん、トランポリンの経験は?)


(まったく無い)


(第一に、絶対に真ん中を踏む。第二に、地面でジャンプするよりも、ワンテンポ遅く跳ねる。しっかりと沈みこむのを意識して!)


(了解)


(健闘を祈る)


 俺達は別々の部屋に連れて行かれ、ジャージに着替えさせられた。戻ってくるとすぐにゲームが始まる。




《水沢沙織さんからのチャレンジです。一発勝負なので気をつけて!》



 水沢さんはアップで顔を抜かれても、超真剣な顔をしていた。多分ファンはその顔が更に萌えなんだろうけど、今の彼女はそれを計算でやっていない。狙うは肩こり解消マットレス。最終に控えるゲーム時に商品を獲得するには、それまでのゲームで得点を稼げるだけ稼いだ方が確率が高まる。


 ゲームは単純。走ってトランポリンで跳ねて、正面にある壁に印を付けてくるだけだ。高い所ほど高得点となる。



 水沢さんは走り出した。運動はあまり得意じゃないようで、ドタドタと大きな胸を揺らして走っている。片足で踏み切ると、両足をトランポリンにつく。


「――っ! タイミングが早い!」


 水沢さんはトランポリンの返りを待つことが出来ず、早めに飛び上がってしまった。



《残念! 50点です!》

 

 水沢さんは舌を出しながら俺のところまで帰ってきた。俺の肩を叩いておどけて見せる中、「ごめん」と悲壮な声を出した。


「任せてください」


 俺は手の中のキャラクターを確認する。これを総マジックテープ張りのあの壁の一番高いところに貼り付けてきてやる。



《女の子みたいと言われる和海君ですが、現役高校生の男子! 運動能力はいかにっ!》


 俺はゆっくりと走り出した。早すぎたら横に進むベクトルが大きくなりすぎる。しかし、ある程度スピードがあるほうがトランポリンにかかる体重が大きくなる。これのベストの配分を本能で計算し……


「とぉっ!」


 俺は完璧な角度で飛び上がった。トランポリンの潜在能力を余す事無く引き出したはずだ。ミスは無い。目指すは300点!


 しかし、俺の背が低いからか、体重が軽すぎたのか、300点まで一メートルほど足りそうに無かった。俺の頭に先ほどの沈痛な表情の水沢さんがよぎる。


「うにゃぁぁ!」


 俺はキャラクター人形を貼り付ける手を止め、更に上を目指して壁を強く蹴る。


[ドサッ]


 俺はマットの上に落ちた。すぐに顔を上げ、壁を見る。観覧している客の騒ぐ声が聞こえた。



《おおっ! 久しぶりに出ました! 最高得点、300点ですっ!》


 俺は腕を突き上げた。それを見ている水沢さんも飛び跳ねて喜んでいる。




《次のゲーム。光に合わせてリズミカルに叩きましょう!》


 セットが変えられた。第二ゲームは光に反応してボタンを押すゲームだ。ボタンは体の真横、斜め上、頭の上など、足を動かさずに手の届くところに全てある。全9ヶ所。


 今回の順番は俺からだったが、タイミングがまったく合わずに低得点に終わってしまった。


「すみません……」


「任せて。見切った」


 俺と入れ替わりにボタンの下に入った水沢さんからは、魔力のような物が流れ出ていた。



《水沢沙織さん、スタート》


「おっ……おお……。千手観音……」


 俺は体を仰け反らせて驚いた。彼女のボタンを叩く腕が残像を残す。



《出ました! パーフェクト! 先ほどとは逆に、和海君のミスをさわさが補った!》


 俺達はハイタッチを交わした。あと2ゲーム! 良い調子だ!




《次のゲーム。単純かつ明解! エアホッケー》


 司会の人が言ったとおりだ。ゲームセンターにあるエアホッケー、これを2対2でやるだけ。相手はただの芸人だが、毎週このゲームでゲスト相手に経験を積んでいるので侮れない。



[カッシャン!]


 水沢さんの手をすり抜け、パックがこちらのゴールに飛び込んだ。


「ごめん。反射神経使うのは苦手で……」


「強いですね。奴ら……」


 しかし俺は思い出した。俺達が着ているのはジャージ。ジャージと言えば学校。男子共はいつもジャージの胸元から俺の胸を覗こうとしてきやがる。


「水沢さん、ジャージのジッパーをもっと下げて」


「えっ? ……なるほど」


 今回は俺よりもボリュームのあるGカップグラビアアイドルの力を示してもらうことにする。



[カッシャン!]



《これで同点! 次に得点した方が勝ちです!》 


 芸人達の顔はあせっている。しかし、その視線はどうしても前かがみになった水沢さんの谷間に釘付けだ。



「くらえっ! スピンショット!」


 俺は手首を使って右に切るようにパックを叩いた。パックは左に高速回転をしながら、左に飛んでいく。


 芸人が余裕を持ってそのパックが跳ね返る位置に手を持っていった。しかし……普通パックは45度で壁に当たれば45度で跳ね返るが、俺はパックに高速回転をかけている。パックは45度で壁に当たり、30度の角度で跳ね返った。


[カッシャン!]


 芸人の脇をすり抜けて、パックは相手のゴールに飛び込んだ。


「いやったぁ!」


「やっほーう!」


 俺達は抱き合って喜んだ。この事は後で千夏の逆鱗に触れるのだが、その時は何も考えずに喜んでいた。




《最終ゲーム! 商品を狙ってダーツをしてもらいます!》


 今回もルールは簡単。回転する円状の的を狙ってダーツを投げる。その的は、今まで獲得した得点に応じて商品がもえらる面積が変わるのだ。今回は、4分の1の面積に当てると高反発マットレスがもらえるようだ。


「水沢さん、ここは先輩から投げるのが常識かもしれませんが、先に俺にやらしてもらえませんか?」


 与えられたダーツは二本。先に投げた水沢さんが失敗しようと俺は投げる事が出来る。だが、残念ながら水沢さんは期待出来ないので、プレッシャーのかからない最初に俺は投げたいのだ。



《一投目、神野和海君、どうぞっ!》

 

「日本男児憑依モード。モデル、宮本武蔵」


 宮本武蔵は食事中、飛んでいるハエを箸で掴んだと言う。俺にその力が宿り、動体視力が強化される!


「止まって見える! そこだっ!」


 俺は水平にダーツを持った構えから、腕を横に振って投げた。


「和海君!」


「……当然だ」


 矢は、的の4分の1の範囲の、高反発マットレスゾーンの見事真ん中に突き刺さっていた。



《おめでとうございます! 商品獲得! 高反発マットレス二枚です!》


 喉から出た手でマットレスを掴むことに成功した。スタジオも大盛り上がりで、ゲストとしての仕事も完璧。俺達は安堵の表情で司会の人のそばへ行こうとした。


「ん?」


 俺達の足が止まった。ADさんのカンペに『水沢ダーツ投げて』と出ている。俺も水沢さんもそれで気が付いた。まだ水沢さんの手にはダーツが一本残っていた。


「あっ! そうでしたぁ! えぇーい!」


 またマットレスが二枚もらえる訳は無い。水沢さんはギャルのような動きに終始し、殆ど的を見ずに適当に投げた。


 俺も適当に彼女を応援する振りをしていたのだが、観客席のどよめきと、スタッフの人の静けさのギャップを感じて思わず周りを見回す。



《お…おめでとうございます! ヨーロッパ旅行、ペア旅行券まで獲得!》

 

「へっ?」


 俺が的を見ると、ダーツの矢は幅1センチ程の金色のゾーンに刺さっている。


「うそぉ……」


「マジ?」


 俺達は素に戻って的を凝視していた。あれはほぼジョークでどんなゲストが来たときも入れられている特賞だ。番組が始まって当てたゲストはいないと台本に書いてあった。



 この時の番組視聴率は16.9%。これはかなりすごい数字だったとの事だ。





 俺達は無事番組を追え、控え室に戻る。前を歩いているマネージャーの穂乃花さんもベタ褒めだ。ちなみに俺達の事務所は大きくないため、穂乃花さんは俺と水沢さんのマネージャーを兼任している。



「すごかったねー和海君。なんて言うか……妖精? トランポリンから羽が生えて飛んで行ったのかと思った!」


「水沢さんこそ、ボタンが光る前に手を持って行っていたでしょ! 予知能力でもあるんですか? おまけにダーツはあんな狭いところに投げ込むし!」


 不仲だったのが嘘のように俺達は称えあいながら通路を歩く。これをきっかけに仲良くなれるかもしれない。俺はそんな事を僅かに考えていた。



「あっ! ごめぇーん。ちょっと忘れ物しちゃったぁ。和海君も沙織ちゃんも、先に控え室戻っていてぇ」


 穂乃花さんが俺達に手を合わせてそんな事を言った。俺が気になったのは、普段天然な穂乃花さんだが、今のセリフは妙に不自然と言うか、棒読みだった気がした事だ……。


「分かりました。先戻って着替えてますね」


 俺と水沢さんは両手を合わせている穂乃花さんを置き、目の前の角を曲がった。少し広めの通路に変わり、突き当たって後二つほど角を曲がれば控え室だ。この原色のジャージを早く脱ぎたいもんだ。


「このジャージ、ダサいですよねぇ。俺が青、水沢さんが赤なんて、テツ&トムじゃないんですか…ら…」


 足元の感触が少しおかしかった。柔らかく、下に向かって湾曲していくような感じだ。それは突然[バリン]と言う音と共に割れた。俺と水沢さんは地面に吸い込まれる。


[バッシャーン!]


 建物が崩れたと思った。しかし、なぜか下は水。地下水か? と思った俺だったが……


「うわっちぃぃっぃぃぃ!」


「うわっはぁ! あっつぅぅぅぅいぃぃ!」


 もう、何がなんだか分からなかった。マグマか? マグマの噴火に巻き込まれたのか? 嘘かと思うかもしれないが、その時は本気でそう思った。頭の中に走馬灯まで浮かんでいた。


「あちちちちっ!」


 目の前に先ほどまで歩いていた廊下の床が見えた。俺は這い上がろうとするものの、結構高い位置にある。服が水を吸って重くなり、飛び上がれない。


 それでも何とかよじ登り、上半身を外に出した。その時俺の目の前に足が見える。俺は顔を上げてそれが人間だと確認した。


「た…たすけ…」


「頑張って! 和海君!」


[ドッボーン]


「あっちぃぃぃ!」


 俺は突き落とされる瞬間見た。今俺を押した人は、超人気コンビ芸人の『ナランティ・ナイン』の岡本だ。


 同じく水沢さんも突き落とされた。今彼女を突き落としたのは元祖巨乳グラビアアイドルで今は女優の『雛野亜希子』だ。このメンバーって事は……『むちゃイケ』か? あの超人気番組のあれか? 確か熱湯コマーシャルってコーナーがあった気が……


 熱さでそれ以上は何も考えられなく、俺は再度死ぬ思いで熱湯の中から這い出た。同時に水沢さんも転がるように出てきた。


「はい! さわさと神野和海君の時間は……15秒! まあまあですねー。二回飛び込んだのが良かったのかなぁ?」


 目の端にカメラも映った。しかし、俺は撮影よりもこの熱さを何とかしたい。笑顔になっている場合じゃなかった。


「氷っ!」


 少し離れた所に氷の山があった。そうだ! この番組は熱湯の横には氷、氷水の横にはお湯をいつも置いてあったんだった!


 俺は大きなかき氷の山に飛びつき、手足を冷やす。しかし、長袖のジャージを着ているためにそれはままならない。


「あっつい! さらしが……」


 ジャージも熱いが、胸を締め付けているさらしがお湯を吸って、それが体に直接当たっているために死ぬほど熱い。今すぐにでもジャージを脱ぎ、さらしを外して捨てたいがそれだけは出来ない! 


 お腹の方から氷を入れてみるが、胸までは届かない。ジャージのジッパーを下げて胸元から氷をジャンジャン入れたいところだが、カメラに俺の胸の谷間が映ってしまうかもだ。しかし、そのリスクを冒してもやりたいほど我慢出来ない……


「あっつぅぅぅい。我慢できなぁぁい!」


 俺がジッパーに手をかけた時、水沢さんが色っぽい声を出した。そして、自分のジャージのジッパーを下げ、胸の谷間を露出した。すぐにカメラがそちらを向く。


「胸が熱くてぇ! 氷、氷……。もっと氷くださぁい!」


 水沢さんも俺と同じようにジャージの中が熱くてたまらなかったようで、小さな手で氷をジャージの中に入れている。


「俺が手伝ってあげるわ!」


「あきませんって! 岡本さん!」


 ナラナイの岡本が自分の手で氷をすくって水沢さんの胸元から入れようとしたが、相方の田部がそれをはたき落した。


 カメラを含めて全員の目がそちらを向いている隙に、俺は胸元を豪快に開けて氷を叩き込んだ。


 ……また水沢の目立ちたがりのおかげで助かったぜ




「それじゃぁ、コマーシャルの時間です!」


 周りの事態が収拾したとき、俺の体も緊急事態から解き放たれていた。


 水沢さんと放心状態の俺は、簡易トイレのような箱に押し込められる。手にはいつの間にかポスターをそれぞれ持たされていた。


「さあ、どうぞ! 15秒間です!」


 岡本がカチンコを鳴らすと、慌てて水沢さんが自分の持っているポスターを確認して口を開く。


「えっとぉ、新しい写真集がでまーす。結構きわどいのとかあって恥ずかしいです! みんな買ってねぇ!」


 笑顔の水沢さんは肘で俺の体を突いてきた。


「えっ! 僕っ? えっと……」


 俺は自分の持っているポスターを確認する。


「あれっ? またドラマ出るの?」


 そこで俺達の前に目隠しが下りた。箱の外ではナラナイの笑い声が聞こえる。


 俺が持っていたポスターは10月からのドラマの予告だった。まだ仮ポスターで、出演する人達の顔写真が貼り付けてあるような物だったが、その中に俺の顔もあって驚いた。



 まったくこの熱湯コマーシャルについては知らされていなかったが、その後のトークはナラナイの二人が上手に進めてくれ、爆笑で幕を閉じた。




 スタッフの人達が撤収した後、全身ずぶ濡れで顔を見合わせている俺達。すると、後ろの廊下の影から穂乃花さんが顔を出した。俺達が振り返ると、申し訳なさそうな顔をしていた穂乃花さんは頭を引っ込めた。


「し……知ってたなぁ! 穂乃花さん!」


「あっ! さっきの忘れ物って……マネージャーまでカメラに映らないようにって、台本どおりねっ!」


 俺達が詰め寄ると、穂乃花さんは誤りながらも「でもね……」と口にする。


「あなた達、あの『むちゃイケ』に出たのよぉ。そこで個人の宣伝をさせてもらえるなんてすっごい事なのよぉ!」


 俺はそれを聞くと何も言えなかった。いや、むしろ高校生や二十代に圧倒的支持を受ける『むちゃイケ』に出た事はすごい。俺の学校の奴らも恐らく大騒ぎとなるだろう。


 水沢さんの方も「これで写真集の売れ行きが一万部は変わる」と言われ、十分満足な顔をしていた。





 後日――



「それじゃ、ヨーロッパ旅行は沙織ちゃんのって事で…」


「ふざけないでよ! どうして私が年下から譲ってもらわないといけないのよ!」


 水沢は社長の胸倉を掴んで怒っている。社長は眉尻を下げて口を半開きにし、困った様子だ。


「だって、俺は女と二人で旅行になんて行ったら、彼女に殺されるもん!」


「和海君。彼女がいるって言うのは余り大っぴらに言わないで……。出来たら……」


 そう俺に言う社長の胸倉を放し、水沢は俺の前に立った。


「売り出し中の俳優が彼女いるとかバラしてんじゃないわよ!」


「んな事言われても……、俺は仕事より彼女が大事だし。旅行は水沢さんが彼氏と行ってきなよ!」


「和海君。私に彼氏がいないのをバカにしてる訳? それって」


「えぇ……。22歳なのにいないの? あ、最近別れたんだったら仕方が…」


「私は高校生デビューしてから本気でアイドル目指しているのよ! ちょっとでも障害になる彼氏は作らない主義なのっ!」


「そんな……まるでAKB48みたいな事言って……」


「とにかく、私は旅行なんていらないっ! 旅行券は和海君が使いなさい!」


「んん……まあ、そこまで言うなら、千夏と一緒に言ってくるかぁ……」


 俺が頭を掻きながらそう言うと、水沢は社長の机を思いっきり叩いた。社長は飛び上がって目を白黒させている。


「やっぱり気に入らないわ。どうして私がダーツで当てたのに、和海君が彼女と一緒に旅行へ行くのよ。私には彼氏がいないってのに……」


「もう……めんどくせーこの人」


 俺のこの一言で、またまた俺と水沢さんの戦争が勃発した。やっぱりこの人とは超絶気が合わない!


 二人で言い合いをしばらくしていると、ようやく社長が恐るおそる仲裁に入ってきた。


「ま…まあまあ。旅行券の期限は半年あるから、しばらく保留って事で……」


「ふんっ!」


「ふんだっ!」


 俺達はお互いから顔を反らし、部屋から出て行く。


[ガシッ]


 並んで競争のように部屋を出ようとした俺達は、見事にドアに引っかかった。


「年上に先を譲りなさいよ!」


「そっちこそ年下に譲れよ!」


「レディファーストよ!」


「アンタをレディーって認めるなら、俺は男を辞めちゃうね!」


 見ていた社員達全員がためいきをついたのが聞こえてきたが、俺達はいつまでもそこでじたばたとしていた。





 数日後、俺の自宅に大きな荷物が届いた。俺は胸を躍らせてその箱を開いた。もちろん中身は『高反発マットレス』だ。


「わぁ! すっごぉーい。体が浮いているみたーい」


 俺の部屋でそれに寝転んだ千夏も非常に気に入ったようだった。


「これちょうだーい!」


「だ…駄目だ! いくら千夏と言えども……我慢してくれ。俺は肩こりがひどくてだな……」


 俺は自分の乳を持ち上げ、肩を回して見せる。


「ぶぅーだ。それじゃあ、同じものをお父さんに買ってもらうもーんだ!」


 千夏は寝転びながら舌を出してみせてきた。


「お……おまえ、俺がこれを手に入れるためにどんなに頑張った事か……。まったくお嬢様って奴は……苦労知らないから……」


「あっ! そうだ!」


 千夏は手をぱちんと叩いて体を起こした。


「なんだ?」


「あのね、正也クンが和海君に頼みたい事があるって言ってたらしいよ」


「はぁ? 正也が? でも、メールでは何も書いてなかったけどなぁ?」


 しかし、そう言えばここ最近正也からのメールが少しおかしかった。一言で表すなら『諸行無常』メール。そんな感じの意味不明な文章のものが多かった気がする。


「うん。私も本人から聞いたんじゃなくて、久美ちゃんから聞いたの。直接会って話したいらしいよ」


「直接ぅ? ……また告白か? いや、それはしょっちゅうされてるしな……なんだろ?」



 なんだか嫌な予感がした。


 正也の存在だけでもろくでも無いってのに、そんなあいつの頼みごと……。



 うるさいセミの声は少しも衰える様子も無く、俺の夏休みは8月の半ばに入る。



高反発マットレスは実際に存在する物です。

テレビで見て欲しいと思ったのですが…値段も小説の中の金額に近いものだったと思います…

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