第11話 「バーター出演」
少しマンネリになってきたかと思い、ガラッと展開を変えてみました。
「変なもん同士っちゅーこっちゃな!」
そこでスタッフ、演者達から大爆笑が巻き起こった。
収まったところでMCの視線が俺達に向く。
「さて、次の二人は……これも意外やねぇ……。ただ単にサドっ気があるおねーちゃんに苛められてるだけやろ?」
「もう! よーすけさん! そんな訳ないでしょー! 仲の良い姉弟って感じですよぉ」
「ほんまかいな! けど、君もええよなぁ。俺もGカップのおねーちゃんが欲しかったわ。ほんで次の二人は、『さわさ』の相性でおなじみ、Gカップグラビアアイドルの水沢沙織ちゃんと、極悪先生のドラマで世間を騒がした、神野和海君です!」
拍手が巻き起こり、椅子から腰を浮かした俺達は頭を下げる。
ここは某テレビ局のスタジオ。今日は『まんま御殿やん!』の収録に来た。いつもはゲストを12人程呼んでMCとのトークが繰り広げられるおなじみの番組だが、本日は『友達』と言うテーマに合わせて、実際の友達同士を6組集めてのトークバラエティが行われる。
さて、先ほど大御所コメディアンかつMCである『明石よーすけ』さんが紹介してくれた通り、俺の友達として出演しているのは……水沢沙織……さん。事務所の先輩だ。なぜか畑中楽斗でも無いし工藤勇樹君でも無い。
いつの間に仲が良くなったのかって? とんでもない。初めて会った時に超悪印象を持った俺だったが、当然そのまま気持ちは新鮮に保存されてある。今回、事務所の意向で『友達』として二人で番組出演だ。勘の良い奴は気が付いただろうが、抱き合わせ出演って奴だ。通称、バーター。
◆ ◆ ◆
「はぁ? 水沢さんと? 無理っすよ! 第一、エピソードが何も無い! とても友達を演じるのなんて無理ですよ!」
「頼む! 和海君!」
うちの事務所の社長は座ったまま思いっきり頭を下げる。額が机にぶつかって[ゴチン]と音が鳴った。この社長は腰が低くて俺は結構好きだ。
「私からもお願い! 沙織ちゃんはよーすけさんに結構気に入られてるからぁ、司会のよーすけさんが何とかしてくれるとおもうのぉ……」
マネージャーの穂乃花さんも俺に向かって手を合わせてくる。
「でも、土曜のゴールデンでしょ? やばいっすよ……。視聴者にバレたら……」
「大丈夫よぉ。毎日お昼からやっている長寿番組知っているでしょぉ? あれも、もうみんな友達つながりじゃないって気が付いているしぃ……。ねっ? ねっ?」
……確かに、あの番組では友達として電話しているのに「初めまして」と言った俳優がいたらしいけど。
この時までずっと頭を下げていた社長が、ようやく顔を上げて俺に言う。
「水沢君はグラビアの売り上げが頭打ちだ。ゴールデン番組でよーすけさんと絡めるのは大きい! バラエティアイドル路線で道が切り開けるかもしれない!」
「でもなぁ……。それに水沢さん、よーすけさんに気に入られてんでしょ? なら、俺以外の人を使ってくださいよ。事務所には他にもタレントはいるんだから……。俺はとにかくやばいっすよ。番組中に喧嘩始めるかもしれないし……」
「ちがうのよぉ」
穂乃花さんはそう言った後、社長の顔を見た。社長も神妙な面持ちで俺に話す。
「今回……出演依頼が来たのは……和海君、君なんだ。バーターとして出すのは、水沢君の方だ」
「……えっ! なっ……なんで? 水沢さんの方が年上で芸歴も長いのに?!」
「芸能界は……年功序列じゃないのよぉ……」
穂乃花さんは口に手を当てて小声で俺に言った。
「おまけに……」
社長はそう言った後、社長室のドアが閉じられているのかをもう一度確認してから続ける。
「水沢君はあの性格だ。自分が後輩のバーターだと知ったら……出ないって言うに決まっているし、今後の彼女のやる気にも大きな影響を及ぼすだろう。ここは……出演依頼が来たのは水沢君で、今売り出し中の和海君がバーター出演と言う事に……したいんだ」
「えぇ……」
俺は頭を抱えてうつむく。別にプライドとかが問題じゃない。俺は芸能界にそれほど執着が無いから気にしない。ただ、あの乳がでかいのが取り柄なだけの超性格悪女が嫌いなんだ……。
俺はそうしてしばらく考え込んでいたが、社長や穂乃花さんはじっと黙っていてくれた。
「分かりました。やります。……仕事っすからね」
「えらいっ! 和海君! 今度『あずきバー』を買ってあげよう!」
「私もぉ、今度ケーキバイキングに連れて行ってあげるよぉ! 一時間でケーキを20個食べれば元が取れる計算で……」
気が重かった。別にあずきバーが甘すぎて辛いとか、ケーキを一時間で20個も食べるのが大変だって言う意味じゃない。それよりも、あの水沢と仲良くする方が俺には難しい……。
もちろん、水沢には彼女の方がバーターだってのは絶対の秘密だ。
◆ ◆ ◆
番組はスムーズに進む。さすが現在トップのコメディアン、明石よーすけだ。一見無駄話をしているようだが、全て笑いに変わる。誰かがつまらないエピソードを喋って危ない雰囲気になっても、見事自分へと話を持っていって爆笑で終える。すごい才能と経験だ。確かにこの人に任せていれば安心かもしれない。
「ほんで、さわさと和海君は一緒に何をして遊ぶわけ?」
よーすけはまったく違う方向を見ていたと言うのに、突然話が飛んできた。
隣に座っている『さわさ』こと、俺の先輩である水沢沙織が少しもったい付けたように答える。
「普通にぃ、服をみたりとかぁ、他にぃ、あっ! 下着を買うのにも付き合ってもらったりするんですよっ! 選んでもらったりとかぁ!」
「ほんまかいな! 和海君、どんなのが好きなんや?」
俺に答えを求められる。下着……知るわけがない。買い物だけでも話が盛り盛りだってのに、一緒に下着を男女で見に行くだってぇ……? 確かにすごい仲が良さそうな友達同士に思えるが、実際は水沢沙織が下着を買うのに付き合うくらいなら、外で通行人の数をカウントしていたほうが有意義だっつーの……。
「えっと……、む……紫のとか……?」
「ほいで?」
「ほ…ほいで? えっと……セクシーなのとか……」
「この間なんてぇ、すっけ透けのを、どうだって言うんですよぉ!」
更に水沢が追加で盛ってきやがった。もう富士山より高くなったこの話を俺はどうして良いのか分からない……。
「和海君、本当は自分が着たい物をさわさに勧めてるんちゃうのんかぁ?」
「え……そうそうそう……」
俺はよーすけの言う事だから取り合えず頷いてしまった。するとなぜかスタジオ内が静まった。どうしてだ? ……ん? 自分が着たい物? 女性用下着をか?
「……って、違いますって!」
あせった俺は立ち上がって強く否定した。すると、完全な乗り突っ込みになってしまったようで、よーすけや演者達も爆笑した。
「まあ、俺も和海君の下着やったら選んだってもええかなって思うわ。それじゃ、新しいテーマで……」
よーすけは次の話へ番組を進めた。
俺は胸を撫で下ろすと、隣に澄まして座っている水沢を睨む。
(買い物程度にしてくれよ! それでも一緒に行った事無いっつーのに!)
水沢は顔を正面に向けて微笑みながらも、俺に小声で返してくる。
(そんな話、盛り上がらないでしょ!)
(盛り上がるも何も、零からどうやって話を出せば良いんだよ、あんた!)
(適当に言えば良いのよ! 私は必死なんだから、細かい事言わないで! さっきは結局、うけたから良いでしょ!)
水沢は器用にMCの話も聞いていたようで、突然拍手をした。
……そうか、適当に……言ってもいいんだな……。後悔するなよ……あんた……
「ほいで、さわさと和海君も何かあるんちゃうの?」
俺達に話が振られた。今は『仲の良い友達とは言え、少しおかしいなと思う部分』をばらすコーナーだ。
「ありますよぉ!」
水沢が即答する。俺の方は水沢の情報として乳がでかいって事しか知らないってのに、こいつは何を答えようとしているんだ?
「和海君って、ピーマンが苦手なんですよぉ。もうちょっと男らしくなれって感じぃ!」
笑いが起こった。よーすけも「ぴ…ぴ…ピーマン食べられへんのかいな」と声を裏返して笑っている。
み・ず・さ・わ・めぇぇぇぇ! 俺はピーマンどころか、蜂の子まで食べれるってのに! 苦手な物と言えば、親父に子供の頃に食べさせられた『かぶと虫の幼虫』と『タガメ』だけだってのにぃぃぃ!
「ち…違うんですよ! 水沢さんの料理って、ピーマンを丸ごと焼いただけなんですよ! 切って無いから中は種だらけだし、それでも頑張って半分食べたんですけどねっ!」
俺が思いつくまま答えると、更なる爆笑が起こった。よーすけさんも「さわさって料理できないにも程がある」と言ってお腹を抱えて笑っている。
笑いの中心である水沢は、両手で顔を隠して体を振り、恥ずかしがっているそぶりだ。
「――っ!」
その時俺は見た。手のひらの影に隠れて俺を見たその顔を……。おっ…鬼だ……。スタジオに鬼がいる……。
しかし、俺の方も負けるわけにはいかない。この鬼を何とか懲らしめないと。
「しかしなんや、和海君はさわさの家に遊びに行くほど仲ええんかいな」
「そうなんですよぉ。仲良しって感じぃ!」
[バシッ]
「ごほっ!」
カメラには女の子が可愛く友達を叩いたように映ったかもしれない。しかし、俺は背中に強烈な『張り手』を食らって三秒ほど呼吸が出来なくなった。
「和海君って女の子みたいに可愛いのに、頑張って男っぽく振舞っているってイメージじゃないですかぁ。でもぉ、私の家に来たとき化粧ポーチ持って来てたんですよぉ」
「あらら、和海君はお姉系めざしとるんか?」
……の水沢めぇ! 俺がいつそんなもん持ち歩いたってんだよ!
「違いますって! あれは写真撮影の仕事があったから、一時的に肌を大事にしてたんです。それよりも、その時に見つけたんですけど、水沢さんの部屋におかしな物があったんですよ。ほらっ! なんていうか……ポンプ? 胸に当てて大きくするって言う道具? 水沢さんも努力しているんだなぁって思いました!」
「ほんまかいっ! さわさって、それ使ってボイン手に入れたんかいな! 効果あるんやなぁ!」
「ちがーう! あれは洒落ですって! 昔、友達が冗談でくれたのを捨てるに捨てられなくてぇ! やだぁ、もうぅ、和海君ったらぁ!」
水沢は俺の手を掴んで笑う。その握力、まさに万力の如し。
握り潰されるんじゃないかと危機感を持ちながら、俺も水沢に顔を向けて笑う。
一時間番組だが、撮影は二時間を超える。
俺達のいがみ合った部分は、見事MCのよーすけが笑いに変えてくれた。そして、ようやく番組の収録も終わりを迎えた。
「ほんじゃあ、今日のまんま御殿賞は……、和海君に秘密をばらされた、さわさ、水沢沙織ちゃんですっ!」
全員が拍手をして水沢を称える。水沢は営業スマイルだが、俺の距離から見ると頬がひくひくと動いているようだ。
カメラも止まり、ゲスト達は楽屋に向かう。みんな今日の収録について、友達同士らしく和やかに話をしながら帰っていくようだ。
[ドンッ]
俺は番組用セット裏の目立たない通路で、水沢に胸を押されて背中をぶつけた。
「いい加減にしてよ! 話を作ってんじゃないわよっ!」
「そっちが始めたんだろっ!」
「器具なんて使わなくてもっ! 私の胸は天然で大きいのよっ!」
「あ、そうですかぁ? 垂れてるから器具で吸って大きくしたのかと思いましたぁ」
「たっ…垂れてなんかないわよ! ろくに女の胸を見たことも無いくせに、適当な事を言ってんじゃないわよ!」
「しょっちゅう見てますよーだぁ! 綺麗なお椀型なのを毎日のように見てるんですよーだぁ!」
「私のもお椀よっ! ちょっと…だけあれだけどっ! ほぼ、お椀なんだからっ! ほらっ! 触ってみなさいよっ!」
水沢は、ただでさえ胸元が開いている衣装を更に開いて谷間を見せてきた。
「あー。俺ってぇ、この間のロケで牛の乳搾り行ってきたんですよぅ。もうおなか一杯って感じぃ?」
「う……牛、乳牛と一緒にするなっ! ほら触ってみろっ! Gカップの割りにすごく…」
俺の手首を掴んで自分の胸を触らそうとしている水沢。顔をしかめてそれを拒否する俺。そこに、番組のMCだった明石よーすけが通りがかった。
「なにしてんの? さわさと和海君……」
よーすけの視線は、水沢の胸に突っ込まれそうな俺の手を見ている。
「いや……あの……」
俺はまったく言い訳が思い浮かばなかった。
「か…和海君がぁ、今日の衣装には青の下着の方が似合うって言ってぇ、私は今付けている赤の方が良いと思うってぇ……そんな話なんですぅ!」
水沢の言葉に、よーすけは首を傾げながら答える。
「どうせ……色なんて見えへんやろ?」
「チラッと見えた時がセクシーなんですよぉ!」
「なるほど。そらあるかもしれんわ。ところで和海君」
よーすけは俺に話しかけてきた。新人の俺はこんな大御所に下手な事は言えないので、気をつけないといけない。
「下着と言えば……君はお姉系目指しとるんか? 確かに、君には女の子の下着似合いそうやなぁ」
よーすけは妙に俺の胸から腰周りを見てくる。
「どうや? 今度下着でも買いに連れてったろか? 俺は女の子にしか興味無かったはずなんやけど、君ならちょっと仲良く出来そうやで!」
豪快に鳥肌が立った。こんなおっさんとデートなんて死んでも嫌だ。しかし、正面きっては断っては後々大変な事になるかもしれない。俺はとりあえず時間稼ぎとして笑ってみた。
「えっ……えへへ……」
「おっ! さすが噂の和海君! かわいいなぁ……」
逆につぼを刺激したようだった。よーすけは俺の手を掴んでこようとする。
「よーすけさん! 何言ってんですかぁ! こんな美女を差し置いてぇ!」
そのよーすけの手を、水沢が横から掴んだ。
「私も下着選んでくださいよぉ! ほらっ! こんな下着っ!」
そう言うと、水沢は胸を更に開いた。赤い下着がガン見えだ。
「ちょっと! さわさ! こんなとこであかんって! 分かった、分かった! ほんま二人は仲えーなぁ!」
よーすけは嬉しそうな表情ながら、この場をスタッフに見られると変な噂が立つと思ったのか足早に去っていった。
……水沢は、芸能人にありがちな自分に注目を集めたいタイプなんだな。今回は助かったけど。
よーすけを見送った水沢は、胸のボタンを締めながら俺に言う。
「次の収録ではちゃんとしてよねっ! 毎回二人で貶め合うパターンなんて、何度も通用する訳が無いんだからっ!」
「はぁ? 次? ……毎回?」
俺は水沢の言葉が引っかかった。
「あれ? 聞いてないの? 次も私と和海君でバラエティ番組出るのよ。和海君はおまけのバーターなんだからっ、私を立てなさいよっ!」
「えぇぇぇぇぇ……聞いてねーよぉぉぉ……」
……翌週の収録に続く。って、続いて欲しくねぇぇぇぇ!
先週の収録の後、それが放送される前に俺は千夏にひたすら事情を説明した。もちろん、番組の流れで事実のように話してしまった『俺が水沢の家に遊びに行くほど仲が良い』って部分だ。
実は、相当疑われた。多分、これが洵花や久美だったらそれ程疑われなかったと思う。しかし、今回は千夏に一度も名前を言った事が無かった水沢沙織だったから余計怪しかったのだろう。でも聡明な千夏だったから、俺が昔「事務所の先輩で気に入らない乳おばけがいる」と言ったのを覚えてくれており、何とか誤解はとけた。
「うっそぉ? 和海って、あの餅乳グラビアアイドルのさわさと一緒の事務所なの? 今度サインもらって来てくれよ!」
そんな正也の頼みは門前払いしてやった。誰があんな奴に頭を下げるものか。
むかつく……マジむかつく……。
あっ! 一句できた!
『むかつくぜ ああむかつくぜ むかつくぜ』 和海、怒りの一句。
その句を胸に抱えたまま、俺は今日の収録に望む。
本日出演の番組は『東京バラエティパーク』。芸能人に頭や体を使わすゲームをやらせると言う人気番組だ。
「π」
《正解!》
「あっれぇ。円周率とか学校で習ったでしょ?」
「ちっ……」
「セシルマクビー」
《正解!》
「あれぇ? その学校で流行ってると思うんだけどなぁ、このブランド」
「ふん……」
俺と水沢は、正面にある画面いっぱいに映し出された問題に答える。一応、協力をしてやるクイズなのだが、当然俺達は各々勝手に答えている。結果は良いほうに転がり、かなり良い線まで言っているようなのだが、そんなの関係ない。俺は奴よりも先に答え、自慢、蔑み、嘲笑を送る。もちろん先にそれを始めたのは水沢の方だ。
俺達は営業スマイルでにこやかに並んで立っているが、水面下で押し合い、肘のぶつけ合いをしている。
(私は先輩よ! おまけに22歳で年上よ! 分かってんの、和海君!)
(もっちろん! だから立ててあげてるじゃないですか!)
[ピンポン]
「きゃぁ!」
俺は水沢の前にあるボタンを押して、知らん顔をする。
「え……えっと……。ばら……バラ……漢字で書いたら『薔微』?」
《不正解! 正解は『薔薇』でした!》
俺は踏もうとしてきた水沢の足を軽やかに避けた。
[ピンポン]
「げっ! ……えと……えと……確かこんな風な漢字だった気が……『檸壕』?」
《惜しい! 正解は『檸檬』でした!》
「水沢さん、すいませーん! はずしましたぁ!」
俺は謝る振りして水沢の腕に抱きつく。そして、そのまま関節を逆に捻る。しかし、水沢も空いている手を俺の肩に置いて励ましている振りをしながら、俺の肩を強烈につねりあげてくる。
「う……うっふっふ……」
「あ……あっはっは……」
一見和やかに見えるテレビ番組だが、実はこんな陰惨な場面が隠れているんだぜ。……って、俺らだけか?
《前半は良かったんですけど、後半ペースダウンしてしまいましたね! 少し問題が難しかったですかぁ?》
「でも、水沢さんがいたからこんな高得点で終えられたと思うんですよ!」
(俺一人ならもうちょっといけたかもなぁ)
「さっすが和海君! 現役高校生は頼りになりますぅ!」
(見た目だけじゃなくて、脳みそまでちゅーと半端って感じぃ)
《評判どおり、本当に仲良しですね! さて、次のゲームに行く前に、今回の商品を発表します!》
「わー、なんだろー。でも、もし貰えたとしても、お世話になってる水沢さんにあげようかなぁ」
「何言ってるのぉ! こういうのは年下にあげるものよぉ。和海君にプレゼントしちゃうっ!」
俺達は死んだ魚のような目で睨みあっていたが、カメラが向いたとたんキラキラお目めになって司会者を見る。
《今回はすごいですよっ! 噂の、『高』反発マットレスです!》
「うっ……」
「あっ……」
俺達の目の前に現れたのは、何の変哲もなさそうなマットレス。しかし俺はこのマットレスを知っている。某航空会社の飛行機、ファーストクラスシートに採用されたと言う『高反発素材』を詰められたマットレスだ。その寝心地は宙に浮いているかの如くらしい。値段は約20万円。俺はある理由から物凄く欲しい一品だが、とても手が出ない。
「と…年下に譲ってくれるんですよね?」
「何言ってんの。普段お世話になっているからって、私にくれるんでしょ?」
「なんも世話になってませんぞ、水沢さん」
「あんた、今まで偉そうにしていて、今さら年下ぶるつもり? 和海くん」
何度も言うが、もちろんカメラを向けられている時の俺達の顔は超笑顔だ。
司会の人が商品の説明をしている間、ぶつぶつ二人で言い合っているのも音声さんは拾えてないだろう。
「まさか水沢さん。あのマットレスの価値を知っているんですか?」
「当たり前よ。あれは俗に釣り糸と言われるテグスを詰めたマットレス。安眠を保障するだけでなく、腰痛、肩こりにお悩みの方も是非と言う一品よ」
「……今までの事を謝りますから、俺に譲ってくれません?」
「答えはNO! 私の肩こり舐めてんの? 胸が大きい女は肩がこるのよ!」
「くっ……。それは……よーく分かってますよ。ほんと、身にしみるくらい……」
女の体の時の俺の肩こりは半端じゃない。肩をもぎ取って投げ飛ばしてやりたいくらいだ。しかし、運が悪いことに商品を取り合う相手も巨乳完備の水沢だ。
「私のメロンの事を考えて譲りなさい」
「こっちだって、グレープフルーツが…」
《これが、なんと今回は2枚! 一人一つずつ持ち帰ってもらえます!》
「なにぃ!」
「うそっ!」
スタジオに出てきた物は1枚だったが、今確かに司会の人は2枚と言った。まさか……マジで?
「水沢さん。俺は何が何でもあれが欲しい」
「和海君。あれは私の十年来の悩みを解消してくれる物かもしれないのよ」
俺達はそっと握手を交わした。先ほどまでの、相手の骨を砕けとばかりの握り合いではなく、実にソフトに手を合わせる。