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第八話:春の終わりの部活見学

時間がかかってしまいましたが

今回は自信があります!

 「ふう、疲れた」

 今日もようやく授業が終わった。

 皆さん、お忘れかもしれないが俺は神命高校に通う高校2年生だ。一応学校に毎日足を運んでいる。

 窓の外を見ると、綺麗なピンク色の桜も葉桜に変わり、少し味気が薄くなってきた。



 「天宮さん、お疲れ様です」

 ホームルームが終了した直後、俺は真っ直ぐに天宮さんの席へ向かった。

 「奥村さん、弓道部行きませんか?」

 突然の天宮さんのお誘いに俺は戸惑った。

 いや、天宮さんに対して俺は最早心の下僕なのだから行かないわけないのだが、問題は何故弓道部に行くかだ。

 「なにか用でもあるんですか?」

 剛が腕を組みながら聞いた。というかお前いつからいたんだよ。

「いえ、まぁ行けば分かると思いますので、森野さん、奥村さん、行きましょう」



 抗うこともせず俺たちは雨宮さんに導かれるまま弓道部へと出向いた。



 実はこの神命高等学校は武道が盛んな学校で、結構頻繁に優勝をもぎ取ってくる。空手や柔道や剣道や合気道、そして弓道部。中でも弓道部は素晴しい成績を収めてるらしく、なかなか人気がある。なのでうちの学校の弓道場もかなり広い。

 

 目の前で見るとそうとう広い。

 敷地内にあるとはいえ、校舎の裏側にあるので帰宅部の俺には無縁の場所だったので、間近で見たのは初めてかもしれない。

 深い緑に囲まれたこれは、一際目立つ異彩を放っていた。俺たちなどお呼びでないかのごとく。


 「では、入りましょうか」

 天使の微笑を受け取った俺たちは弓道場の扉を開けた。

 道場というだけあってなかなか重い扉だった。決して俺が非力なわけではないはずだ。きっと剛が非力なんだ。

 

 「頼もーーう!」

「お二人とも、道場破りじゃないんですから……」

 天使の苦笑を受け取った俺たちは神聖なる地へと足を踏み入れた。



 目の前に映っている光景はやはり普段の俺たちには無縁の、ピンと張った糸のように緊迫していて、気が緩む隙が無かった。

 俺は弓道のことはサッパリわからないが、今弓を構えている人は、命のやり取りでもしているかのように張り詰めていた。

 張り詰めた空気を破るようにして、その人は矢を放った。

 彼女の放った矢は見事に的のど真ん中に命中した。


 「スゲェ……」

 驚きの余り感嘆の声を漏らした。

 あの女、きっとそうとう弓道が上手なんだろうなぁ。サッパリわからないけど。


 パチパチパチ。

 静かな道場内に小さな音が広がる。ふと横を見ると天宮さんが拍手をしていた。

 パチパチパチ。

 俺と剛もつられるように拍手をした。


 先ほどまで張り詰めた空気の中心にいた女性がこちらでへ振り返った。

 「あら、ありがとう」

 こちらに振り返ったその女は、やけに見知った顔だった。

 肩まで伸びた月明りのような金の髪、若干小麦色めいた肌、控え目な胸。

 あれはまさに……


 「……また女菊」

 「なによ『また』って」

 「読者的には『また』なんだよ」

 「意味分かんない」

 「わからない方がいいさ」


 先ほどから矢を射っていたのは女菊だった。

 がさつな口調の女菊には余り弓道は似合わない気がするんだが。まぁ胸が無いぶんやりやすいのかもしれない。


 「安澄さん、お見事でした」

 「真理ちゃん、ありがとー」

 手を振りながら女菊は答えた。

 弓持ったまま手を振るって危ないんじゃないのか?


 「女菊、お前部活何時までだ」

剛が女菊に歩み寄りながら聞いた。

 「6時だけど」

 「よし、待とう」


 剛の安易な口約束によって俺たちは女菊を待つことになった。

 弓道場の隅にある和室のようなところでそこらへんに転がっていたお茶を啜っていた。弓道場の中で唯一気の休まりそうな場所だ。

 「弓道を見ながらお茶を飲む……風流ですなぁ」

 「どこらへんがだよ」

 「なんか総じて和っぽいじゃん」

 「まぁわからないでもないが」

 他愛もない会話を剛としていた。


 しかし弓道とは疲れそうだ。

 あんな張り詰めた空気の中で矢を射るなんて、正直俺には無理だ。集中力がもたない。というかもとより集中力なんて皆無に等しい。

 その点においては女菊は凄いのかもしれない。

 がさつな口調の癖に、妙なところだけ卓越した能力を持ってるな。









――――――――――――――










 時間も6時になり、ようやく部活も終了らしい。

 お茶もすっかり無くなり(弓道部にあったお茶だけど)、流石にだらけて来ていた。天宮さんは終始正座をして弓道を見ていた。何が天宮さんをそこまでさせるのだろうか。


 「お待たせ。さぁ、帰りましょ」

 和室で寝っ転がっていると、女菊がいつの間にか制服に着替えてきた。

 「じゃあ行きましょう天宮さん」

 「はい」


 再びあの重い扉を開け外へ出て見ると、外はもう暗くなっていた。部活終わりの時間はこんなに暗いのか。ただでさえ木に覆われているので暗いというのに。




 「そういえば女菊はどんなレアリアなの?」

 帰路の途中で唐突に剛が女菊に聞いた。

 「ヒ・ミ・ツ」

 女菊はその金髪を空に舞わせながら可愛らしく振り返った。

 「まぁ次未来人が来たときに見せてあげ……」



 そして、空気が変わった。

 暗い夜道、俺たち以外に誰もいない道。そのはずなのだが、気配を感じ取った。

 


 「……祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色。浄写必衰の理を表す……」

 夜の冷たい風に乗って、どこからとも無く平家物語の冒頭が聞こえてきた。

 四方八方確認するが誰も見当たらない。


 「これはまさか、未来人!」

 「素晴しいほどのタイミング……」


 背後に気配を感じ振り返った。


 そこには黒い長髪の青年がいた。

 格好は袴で、なんとも風情のある格好であった。

 平安時代の貴族を思わせるような風貌だった。

 しかし平家物語が出来たのは鎌倉時代初期のはずだ、平安時代とは関係ないのだろう、と下らんことを考えていた。


 「なんか未来人って感じの格好じゃないな……」

 「むしろ古い」

 「森野さん、奥村さん、来ますよ!」


 天宮さんの声に反応し、その未来人の方向へと身構えた。女菊も身構えている。


 「俺の名前は比良。ということで、死んで」

「最後まで平安キャラ突き通せよ……」


 そういうと比良と名乗るその似非貴人は何やら懐を漁り始めた。

 何か出すつもりなのだろうか。なんだ、何が出てくる。




 見えたのは闇の中でも一際目立つ黒光りする銃だった。銃撃戦とかで使われそうなそうとう大きなものだ。



 「もうキャラ設定関係ねぇな!」

「とりあえず死ね!」


 比良は銃口を俺たちに向け、撃ってきた。

 指を弾くような高い音を響かせると共に、地面にひびが入っていた。弾丸が見えない。


 「おい、弾が見えないのは反則!」

 「知るかぁ!」

 やべぇめっちゃ撃ってくるよ!

しかもあの銃は弾切れが無いようだ。さすが未来の武器。って感心してる場合じゃねぇ!ピンチだ!


 「ちょっと、アレじゃ近づけないんだけど!」

 「大丈夫ですよ」

 天宮さんは落ち着いた様子で答えた。何故そんなに落ち着いていられるのですか、天宮さん。明鏡止水ですか。

 「女菊さんを見ていればわかりますよ」


 女菊を見ると、なにやら先ほどの弓を持ったような姿勢で立っていた。その先には銃を乱射している比良。


 「逃げろ女菊!」


 女菊の手の中が光り出した。しかし、俺たちがレアリアを出す時の光とは少し違った、暖かい光。

 これが、女菊の出すレアリアの光か。




 「目覚めよ……アルベリーボウ!」




 女菊の手の中に弓が現れた。

 弓のサイズは至って平凡なものだが、色と形が若干異質である。

 弓は全体的に桃色、というか桜色。女々しさを感じさせるような、少し儚い色だ。

 そして何より目に付くのが、ハートだ。弓にはハートの形の装飾がたくさん施されている。両端にも、そして頂点にも。

 まぁ昔から可愛い物好きの女菊には似合うかもな。


 「何それ、弓? そんな旧時代的な武器で俺の超先天的銃に勝とうって言うのかい?」

 重そうな銃を軽々と回しながら比良は言った。かなり挑発的だ。その挑発的な行動には絶対的な余裕が感じ取られた。まだ奥の手があるのかもしれない。用心しなければ。

 「古臭い武器かどうかは、身をもって知ることになるわ」


 そういうと女菊は持っている弓の弦を引いた。

 するとそこに白く輝く矢が現れ、女菊はそれを指で持った。


 「いくわよ……瞬きしてると死ぬわよ!」


 女菊が白い矢を射った。よく見ると一本では無く、無数に射っている。まさしく雨のようだ。


 比良はもといた場所から微動だにせず、女菊の白い矢を全て撃ち落としている。


 お互い一歩も動かずに撃ち合っている。この張り詰めた感覚は弓道場で感じたものに似ている。



 すると、比良が何やらまた懐を漁り始めた。

 見えたのは、同じ形のもう一つの銃。もしやこれが奥の手か。


 「女菊! そいつはもう一丁銃を持っているぞ!」



 しかし、俺の声は遅かった。


 俺が言ったときに比良は既にもう一丁の銃を撃っていた。先ほどの銃とは種類が違うようで、今回のは銃弾がはっきりと見える。だが、見えたが故に絶望感は高まった。

その銃弾は黒いエネルギーの塊のようなもので、女菊の白い矢の壁をいともたやすく破っていった。

 こうなったら俺が止めるしかない!



「間に合え、ジオフリー……」




 スパン。


 黒い光弾は女菊の前で突如真っ二つになった。一体何が起こった。



 「この似非貴族が……女菊に手ぇ出すんじゃねぇ!」


 そこには大太刀を持った剛がいた。いつの間にレアリア出したんだよ。



 「何、弓の次は刀? 古臭い武器が流行ってるの?」

 比良は両手に持った二丁拳銃を西部劇のガンマンのように回している。


 「大丈夫か女菊」

 「あ、うん、ありがとう……」

 「じゃあちょっとぶっ潰してくるよ」


 比良の方へ向き直り、切っ先を向けた。

 「もうお前は……死ね」

 「戯言を。死ぬのはお前だ!」


 そういうと比良は巨大な黒い光弾を撃った。さっき女菊に撃ったやつよりも遥かにデカい。5メートルはあるだろう。威力もかなりのものだろう。



 だが、不思議と大丈夫な気がした。


 剛ならやってくれる、と。



 「やっちまえ剛!」




 すると剛は逆手に刀を持ち、構えた。


 「くらえ、奥義・百過猟嵐ヒャッカリョウラン!」




 次の瞬間、剛は比良の背後にいた。目にも映らぬ速い斬撃で、黒い光弾は微塵になっていた。

 そして比良の身体には斬られた跡と刺された跡が無数についていた。


 「馬……鹿……な……」

 比良は倒れながら掠れたような声を漏らした。

 「テメーにはわからんだろうなぁ。大事なものを守るときの力が」


 消えてゆく比良を見下すようにして言った。







 「今回俺ら何もしてませんね、天宮さん」

 「手を出す必要がなかったんですから。それにほら」

 天宮さんはフッと指を剛と女菊のいるところに向けた。


 「剛かなり強いじゃない」

 「え、そう?」

 「ちょっとカッコよかったわよ」 「マジで! よしっ!」


 あぁ、成る程。剛の強さがアピールされたな。これで剛も恋の成就にもう少しかね。



 桜も全て葉桜になった、春の終わりの風は少し暖かかった。

次からはさらなる上達を目指します!

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