第七話:桜は人を惑わせる 後編
更新に時間がかかってしまいました。すみません。
「お恥ずかしい姿を……本当にごめんなさいなさい!」
天宮さんは土下座している。やり過ぎではないだろうか。
「いえ、良いものを見させていただきました。なぁ剛」
「えぇ、今までに見たことのない天宮さん、美しかったですよ」
謝罪している天宮さんの顔は酔っている時のそれよりも真っ赤だった。
天宮さんの痴態、もとい新しい側面を垣間見た後も俺たちは花見を続けていた。
しかしそろそろ終えるべきだろうか。
別にこのまま夜までいて夜桜を見るのも一興だが、陽子を夜まで外にいさせるのは危険な気がする。
まぁなんにしろ酒も食い物も減って来たから終わらざるをえないか。
周りにはまだたくさん人がいて、バカみたいに騒いでいる。
一気飲みをする人、川へ飛び込む人、爆睡する人(天宮さんもさっき爆睡してたし)といろんな人がいる。
ああ、平和だなぁ。
でもきっと平和なんてものは唐突に破られる。
だからとりあえず気を緩めないようにしなければ。いつ未来人が襲ってくるか分からんからな。
「あの、奥村さん? やっぱり……怒ってますか?」
天宮さんが泣きそうな目でこちらを見ている。
「いえ、むしろ楽しかったです。疲れましたけど」
本音だ。
「本当に申し訳ございません……」
「まぁでも確かに恥ずかしい姿ではありましたね」
「ううっ……」
天宮さんは俯いてさらに赤くなった。
うん、気緩めていんじゃね?
今は目の前の天宮さんの表情を網膜に焼き付け、永久保存だ。
いやぁ、天宮さんにもあんな面があるんだなぁ。
また今度酒を飲ませよう。
「あ、剛と楓だ」
俺は声がした方向、すなわち俺の背後へ振り返った。
そこには昔の馴染みがいた。今ではただの……
「……女菊か」
「久しぶりー! 元気にしてたぁ?」
「……」
この女、俺にあんなことしたくせに今更『元気にしてたぁ?』はないだろ。ふざけるな。
あの日の忌まわしき記憶は高二になった今も忘れねぇぞ。
そういえば剛は昔から女菊のこと好きだったな。
どんな反応なのだろうか。
「よ、よぉ、め、女菊」
「おひさー剛ー」
メッチャガタガタだよ。
久しぶりに会ったからって緊張するかよ。
俺は苛立ちしか感じないというのに。
「……帰れよ」
「え?」
「帰れって言ってんだよ」
「おい楓、何言って……」
「そいつが何やったか忘れたのかよ!」
あの日、俺は裏切られた。
いつまでも続くと信じていた絆が切れた瞬間。
あの日、あのバレンタインの日。
「女菊がやったこと?」
「こいつはあのバレンタインの日……俺を陥れた」
そう、あの日。
いつもと大差のない放課後。
いつもと違うのは男子の反応。
バレンタインデー。
俺と剛はモテなかったので、毎年幼馴染みの女菊からしか貰えていなかった。
でも、あの日だけ。
あの日だけはあいつは俺を裏切った。陥れた。
「甘いチョコしか食えない俺に……ビターチョコを渡しやがったんだぞ!」
普通の人には大したことではなくても、俺にとっては死活問題なのだ。
ビターチョコを食べると、俺は3日間鼻血が止まらなくなる。
だから甘いチョコしか食べれない。
それをあいつは知っていてビターチョコを俺に渡した。
これは嫌がらせ、もしくは自殺の境地に立たせようとしてるに違いなかった。
「あぁ、なんだあれか」
女菊は笑いながら言った。
「ごめんね? 実はあのビターチョコ、剛にあげるやつだったのよ」
「……へ?」
何がなんだかわからない。どういうことだ。
「剛がビターチョコ欲しいっていってたからビターチョコ作ったのよ。でも、渡す時に入れ替わってたみたいなのよね」
尚も笑いながら言った。
「あぁ、だから俺のチョコはあんなに甘かったのか」
剛は何故だか照れながら言った。
……つまりだ。
あれは悪意があってやったのではなくて、過失、ということなのか。
「わざと、じゃなかったのか?」
「当たり前じゃない! 私がわざわざそんなことするわけないでしょっ」
確かに。
よく考えれば分かることかもしれない。
別にいざこざがあったわけでもないのだから、俺が女菊に恨まれる理由はなかった。
なのにわざわざ嫌われるようなことをするだろうか。
……なるほど。
つまりは『すべて俺の勘違いだった』ということか。
「女菊」
「ん、何?」
「……本当にすいませんでした」
女菊は悪いことしてないのに、一方的に俺が嫌ってしまった。
心の底から謝ろう。
「いいよ。私も悪かったんだし」
満面の笑みで女菊は言った。
「んじゃあ、仲直りしたところで花見再開だー!」
剛が急にテンション上げ始めた。
「残念ですか森野さん、食料も飲み物も無くなってしまいました」
天宮さんがお開きを告げた。
飲食物無しじゃ花見何て出来ないからな。基本『花より団子』だしな。
「あれ、真理ちゃんじゃん」
女菊は天宮さんを見ながら言った。
「お久し振りです」
「わー奇遇ねー」
女菊と天宮さんが物凄くフレンドリーに話している。
「あの、お二人はどのようなご関係で……」
剛が恐る恐る聞いた。
天宮さんはフフッと笑い答えた。
「森野さん、奥村さん。彼女はホルダーですよ」
「……えーーーー! んなばかな!」
俺と剛はハモってしまった。
寝ている陽子を隣りにして、俺たちは今日最大級の大声を出してしまった。
次こそは早目の更新を…