第六話:桜は人を惑わせる 前編
正直、失敗したと思ってます。
でも後悔はしてません。
「花見だー!」
声高々に剛は言った。
今日は剛の言ったように花見である。
俺と剛と天宮さんと陽子の4人で来ている。
この間の水族館はあの研究者っぽいのが邪魔したからあまり楽しめなかったが、今回は問題無い、と思う。
とりあえず未来人が襲って来なければ楽しくなること間違い無しだ。
剛が謎のつてで一番いい場所を取ってくれたから、ほらこんなにも大きな桜の木が目の前に。
「わー綺麗」
陽子は目の前の大きな桜の木を見ながら言った。
「ではとりあえず乾杯しましょうか」
そう言って天宮さんは皆に紙コップを配り始めた。
「えーっとお飲み物は……」
「天宮さん大丈夫です! ここにあります!」
そう言って剛が出したものは年季が漂うボトルのような、ってまさか……
「剛、それって……ワインか?」
「ご名答! 20年ものの赤ワイン。これは高いぜー」
「ちょっと死んでこい。俺らは良いとして、陽子は流石に無理だ」
陽子はまだ10歳、つまり酒を飲める年齢までは今の倍の年齢が必要だ。
まぁ俺らも飲んで良い年齢ではないが、まぁ耐性はとりあえずはあるからな。
「大丈夫だよお兄ちゃん。私も子供じゃないんだし」
「いや、十二分に子供だよ」
体型とかも含めて。
大人ってのはこの清楚で美しく且つナイスバディな天宮さんみたいのを言うんだぞ。
お前は美しくじゃなくてかわいいだから、残念でした。
「お兄ちゃん私飲みたい。実はとってもお酒飲んでみたいの」
「とは言っても……」
「お兄ちゃんの机の一番したの引き出しの中にあるもの、天宮さんに黙っといてあげるから」
「よーし陽子も飲め飲めー」
「やったー!」
ちくしょう陽子の奴、いつの間に俺の秘蔵物を見つけたんだ。
まぁよりアブノーマルな本は別の場所に隠したから見つかって無いだろうから、まぁよしとしよう。
「よーし陽子ちゃんも飲め飲めー」
剛は俺と陽子の紙コップにワインを注いだ。
紙コップにワインとは、なんともアンバランス、そしてミスマッチ。
「天宮さんもどうぞ」
剛は天宮さんのコップにワインを注ごうとした。
しかし、天宮さんはコップを引いた。
「あの、私、実は、お酒、ダメで、飲むと、大変なことに……」
「大丈夫ですよー。ほら飲んだ飲んだー」
断る天宮さんを気にせずに剛はワインを注いだ。天宮さんは物凄く焦っているように見える。本当に大丈夫だろうか。
「えーでは、なんとなく桜が綺麗でおめでたいので、乾杯っ!」
「乾杯ー」
皆紙コップを突き上げた。
そして一気に飲み干した。
ああ、確かにこれは美味い。ちょうどいいくらいの酸味だ。
これならいくらでも飲めてしまうんでは無いだろうか。
高い酒だからたくさん飲んでおこう。
そして次の瞬間、吹き抜ける風の音と共に天宮さんが倒れた。紙コップを持ったまま。
「天宮さん大丈夫ですか!」
俺は天宮さんを揺すりながら声を掛ける。
顔が真っ赤だ。もしかして熱だろうか。
「……にゃあ」
「にゃあ?」
おかしいな、今天宮さんの口からおかしな言葉が聞こえた気がしたぞ。清楚で美麗で端麗で真面目な天宮さんが、まさか、ね。
「天宮さーん、大丈夫ですかー」
「奥村さぁん……私……暑いにゃあ……」
聞こえた。
今何か聞こえたぞ。
天宮さんの口から出るはずのない言葉が。
まさか幻聴か?若気が至りに至って幻聴まで聞こえるようになったのか?ならマズい。
よし、再確認だ。
「あの、天宮さん、今なんて言ったんですか?」
「だぁかぁらぁ……暑いからぁ……脱がしてぇにゃあ……」
これは……
「剛」
「なんだ」
「脱がしていいと思うか」「ダメだ」
だよな、うん。
正直な話、今の俺の理性はやばいことになっている。
現状を理解した俺自信もかなりやばい。
抱きたい。
出来るなら今すぐ抱いて、人目を気にせず色々とやってしまいたい。
だがダメだ。
それはなんというか、この小説が青少年の読めない内容になるし、それにだ。
陽子が見てるからダメだ。
天宮さんと同じくワインを一杯飲み干した陽子は全く酔ってる様子は無く、むしろ俺と天宮さんを見てニヤニヤしてる。
すっげぇニヤニヤしてる。
「剛」
「なんだ」
「俺はどうすればいい」
「とりあえず落ち着かせろ。でないと俺もやばい」
「わかった」
平静を装った顔をしている剛は、確かに物凄くやばそうだ。
拳に力が入ってるなんてもんじゃない。
恐らく天宮さんがもう1アクション起こしてしまったら俺同様剛もアウトだろう。
「あの、天宮さん」
「にゃあ?」
つらい。
そしてこの天宮さんの赤面した顔、少し着崩された衣服。
やばい、鎖骨のラインが丸見えですよ!
てか谷間が丸見えですよ!これはマズい!
「あ、あの、ですね、天宮さん? と、とりあえずちゃんと、ふ、服を着ましょう」
「やぁだぁ! 暑いにゃあ!」
そういうと天宮さんはさらに前のボタンを外していった。
……ってマズい!
これは本格的にマズい!
俺はボタンを外している天宮さんの両手を掴んだ。「ダメです天宮さん! ここは公共の場所です!」
「はーなーしーてーにゃー! 暑いにゃあ!」
「じ、じゃあ何か冷たい飲み物買ってきますから。剛、大急ぎで水」
「わかった」
剛は全速力で駆けて行った。
急げ剛。全てはお前の脚にかかっている。
目の前には白い天宮さんの胸が見えている。
純白のブラジャーまで見えている。
ああ、ここが自室でなくてよかった。自室ならば俺は歯止めがきかずに青少年が読めない内容になっていただろう。
てかどうしよう。
「はーなーしーてーにゃー!」
めっちゃ天宮さん暴れてるんだけど。
このままでは剛が来るまで保たない。どうにかしなければ。
た、助けてドラ〇もん!
「はーい、天宮さん落ち着いてー」
陽子がどこからともなく団扇を出し、天宮さんを扇ぎ出した。グッジョブマイシスター!
次第に天宮さんも落ち着いて来て、どうにか動きが止まった。
「あ、ありがとう陽子」
「公共の場所だからね」
この際その団扇がどこにあったのかなんて聞かないさ。
「楓ー、水買ってきたぞ!」
剛が全速力で帰って来た。
めっちゃ息切らしてるじゃん。大丈夫か剛。
「ああ、ありがとう」
俺はゼエゼエ言っている剛から水を受け取った。
「はい、天宮さん。水です」
俺が天宮さんの前に水を差し出すと、天宮さんはそれを静かに飲み出した。
とりあえずは落ち着いたみたいで良かった。
「……眠いにゃあ」
「え?」
すると天宮さんはなんと俺に抱き付いてきた。
そしてそのまま押し倒されてしまった。
天宮さんの豊満な胸がモロにあたる。やべぇすっげぇ柔らかい。
「あのー、天宮さん?」
「……すぅ」
天宮さんは小さく寝息をたてていた。
「ちくしょう、楓め、一人だけ良い思いしやがって……」
まだ息を切らしている剛は俺を睨みながら言った。
「天宮さん寝ちゃったね」
陽子は倒れている俺を見ながら言った。
覆い被さっている天宮さん、少し重いんだけど。
胸が大きいからだろうか。
「じゃ、お兄ちゃんは天宮さんを起こさないようにね」
……え?
ってことは俺この状態から動くなと?
いや確かに幸せな体勢だよ。
顔の真横で天宮さんが寝息たててるんだもん。
しかも胸あたってるんだもん。
でも公共の場所でこの体勢はいささかよろしくない気がする。
「剛さん、私色々作ってきたから食べましょう」
「いいねぇ。おっ美味そう」
ちょっと、俺放置か。
いや確かに幸せな体勢だけど。
ちょっと……マジかよ。おーーい、誰かー。
助けてくれー。
その後、俺は1時間公衆の面前で天宮さんに押し倒された体勢のままだった。
一応前編です。
第七話に続きます。