第四話:愛らしい名の山男
更新が遅れてすいません…
夕飯が食べ終わった俺は、テレビでバラエティ番組を見ていた。最近のバラエティは金をかけてるだけあってなかなか面白い。
ブラウン管をボーッと眺めていたら突如俺の携帯電話がなった。
着信だ。誰からだろう。どうせ剛辺りから…
『天宮真理様』
ピッ。
「…はいもしもし」
「もしもし、奥村さんですか?」
「一応奥村です」
「はい、では学校裏の公園に来てください。 出来る限り早く」
「うーい」
ピッ。
10秒で会話終了。
何やら急いでるみたいだったが何があったのだろうか。愛の告白なら嬉しいのだが。
「陽子ー、俺出かけてくるから先風呂入っといてな」
「はぁーい」
陽子の明るい声を聞いた後、俺は急いで靴を履いた。
昔、母親に買ってもらったマウンテンバイクで公園へと急ぐ。
またこの前みたいに未来人が来たらどうしよう……
いくら『レアリア』とやらを持ってるとしてもそんな生死を掛けた戦いを好き好んでやる俺では無い。
極力戦いは避けたいものだ。
そんな弱気な事を考えてるうちに目的の公園に到着。
なかなか広い公園だが、今は空が真っ暗な時間なので陽気に遊ぶ子供はいなかった。なので目的の人物もすぐ発見出来た。
しかし、よく見ると天宮さんの隣りには剛もいる。
剛も呼び出されたのだろうか。
公園入口にマウンテンバイクを停め、その2人に歩み寄る。
「こんばんは、剛。天宮さん」
「ばんわ〜」
「こんばんは、奥村さん」
「何故剛がいるんだ?」
「何故って……だって俺が天宮さんを呼んだんだもん」
「はぁ? 何故」
「天宮さんにはもう話したが、もう何日も考えたんだよ。 俺にもレアリアがあるハズなのに発動しないとはこれいかに、ってことを」
まぁ確かに謎だ。
剛もレアリア使い(本来はホルダーと呼ぶらしい)とやらなら俺や天宮さんのようにあの厳つい武器を出すことが出来るハズだ。
なのに何故出ないのだろうか。
「それは恐らく守りたいものがハッキリして無いんじゃないですか?」
天宮さんの声が夜の公園に響く。
「……どういうことですか?」
剛が眈々とした調子で尋ねる。
「レアリアは何かを守る力です。 奥村さんなら妹さんのように何かを守りたいと思う強い気持ちに反応して力は目覚めるんですよ」
へぇ〜なるほど……ってなんで天宮さんは俺の守りたい人が陽子だって知ってるんだ?
「じゃあ天宮さんにも守りたいものってあるんですか?」
「ありますよ」
「それはなんですか?」
すると何故か天宮さんの顔が見る見るうちに赤く染まった。
「ど、どうでもいいことじゃないですかそんなの!」
「いやいや、我々としては興味深いものですよ。 なぁ楓」
「あぁ、もう気になって今日の夜は寝れそうにありません」
天宮さんは怒りながらも顔を赤く染めている。
しかしまぁ……
怒っている顔も美しいなぁ……
「ま、まぁそんなことは置いといて……森野さん。 早く守りたいもの見つけてくださいよ」
「うーん、守りたいものですか……」
それから剛は30分間考え続けた。
その間俺と天宮さんはホットココアを飲みながらのんびりと話していた。
「天宮さん、未来人についてもう少し教えていただけますか? ニュースとかの情報だけじゃちょっと……」
「わかりました」
そういうと天宮さんは一回咳払いをして、淡々と話し始めた。
「未来人は理由は分からないのですけどこの世界を壊そうとしています。確認された数は13人です。全員未来の兵器か何かを操り破壊を繰り返します。この前戦った敵も何か力を使っていたでしょう?」
「たしか手からなんか発射しましたね」
「そう、そのような力を皆持っているんです」
そして人差し指を俺に向けて強く言った。
「で、奴等に対抗すべく世界が考えたのが『レアリア』なんですよ」
「はぁ〜なるほどなるほど」
「わかっていただけたでしょうか?」
天宮さんが微笑みかけてきた。
「あの、もう一個質問いいっすか?」
「どうぞ」
「何故守りたいものがハッキリしてないとレアリアは発動しないんですか?」
天宮さんは少し俯きながら応えた。
「レアリアを……悪用する人がでてくる可能性を恐れたんです。 私利私欲に使う人がいたら、それは世界の平和には繋がらないと思います」
はぁ、なるほど。
だからか。
確かに守りたいものがあれば私利私欲のことなんか考えてらんないな。
……てことはもしかしたら『守りたいものがある人』にレアリアの能力がついたのではないか。
そんな話をしていたら剛が急に叫んだ。
「女菊!」
俺と天宮さんは突然叫んだ剛を汚物を見るような目で見つめた。
「……なんだその女菊って」
「俺の守りたい人だよ!」
「お前とはどんな関係だ?」
「幼馴染みだよ! お前も知ってる」
俺の肩を力強く掴んで剛は叫んだ。剛さん、近い近い。
「もしかして女菊って……あの安澄女菊か?」
「そうだよ! 昔よく一緒に遊んだろ」
確かに俺は女菊という人物を知っている。小学校低学年の頃は剛と俺と女菊で遊んだものだった。
とても仲が良かった。
そう、その頃は。
「あんな奴、何故今更守ってやる必要がある……あいつは俺達を騙したんだぞ!」
俺は夜の公園にも関わらず怒鳴ってしまった。
「それでも俺は好きだった! そして、今もその思いは変わらない」
淡々とした調子で剛は語り始めた。
「確かにあのバレンタインの日、あいつは俺達を騙した。でも、それはアイツが不器用だったから。過ちは正せるハズだ!」
希望に満ちた目。だがどこか儚げだった。
「無理だ。もうあの頃の俺達には……」
もう戻れない。
あの頃のトラウマのせいで。
女菊の悪意のせいで。
幼かった自分のせいで。
「なんでなんだよ! アイツはそんな悪いことをしたか?」
あぁ、したさ。
幼かった頃の俺には十分なくらいな。
だってアイツは……
「あの〜お2人とも、お話中悪いんですけど……敵ですよ」
非日常への移り変わりを天宮さんが告げた。
俺と剛と天宮さんの視線の先にいたのは、1人の男。
「コイツァ……」
「すげぇ……」
先程の口論など忘れてしまう程俺と剛は驚嘆した。
何故ならその目の前に立っている男……いや、正確には10メートル程離れているのだが、なんと目の前に立っているように錯覚させる程デカい。
肩幅は山のように広く、背もやはり山のように高い。
まさに山男。
「おい、お前らレアリア使いだろ」
山男が物凄く低い声で言った。
「そうですけど……だったらどうするんです?」
天宮さんが淡々と答える。どこか挑発するように聞こえる。
「殺すだけだ」
するとその山男は猛虎のごとく突っ込んで来た。
あの巨体であのスピード、かなりヤバそうだ。
俺らはなんとか避けることが出来た。
そして山男は公園の木に突っ込んだ。
山男の体当たりを食らった木はポッキーの如くへし折れた。アレを食らったらマジ死ぬな。
「天宮さん、俺に戦わせてください」
「大丈夫ですか奥村さん?」
「まぁ任せてくださいって」
実はここのところ特訓をしていた。
レアリアの使い方を知るため。
まぁ死にたくないからな。
そして結構使い方が分かって来た。
「行くぞ山男」
「山男じゃない、ゴンだ」
その巨体でなんて愛らしい名前なんだ。笑えるよ。
「行くぞゴン!」
「こい奥村!」
俺の名前が何故かバレてる。
あぁ、さっき天宮さんが俺の名前を呼んだからか。
俺は叫ぶ。
自分の武器の名を。
「ジオフリード!」
天に掲げた手の中にあの暗い色をした巨大な槍が現れた。
「そいつがお前のレアリアか……」
「あぁ。 そしてこいつの名前はジオフリード。 今からお前を倒す武器の名だ」
「ははっ、やってみな!」
「言われなくても!」
━━アタッカースタンス
途端、槍はさらに巨大化した。
約3.5メートル。俺の身長の2倍程ある。
その槍は暗さを増し、夜の公園に異彩を放っている。
「くらえぇ!」
俺はゴンに突っ込んで行く。
ジオフリードの使い方は分かったが戦い方はまだ知らないのでとりあえず突っ込む。
「そぉらよっと」
ゴンは背中から斧を出した。
大きさは俺の身長の半分程。ゴンには少し小さめに見える。
俺の槍がゴンの斧に接触する。
そしてなぎ払われる。
「そんな温い攻撃で俺を倒そうと?」
「こんなもんじゃねぇさ」
アタッカースタンスは超攻撃型。破壊力に長けたスタイルだ。
「ほら、まだまだ行くぞ!」
再び突っ込む。
「同じ手で来るとは俺もナメられたものだな……死ね!」
ゴンは大きく斧を振りかぶった。
━━同じ手じゃねぇさ。
ゴンが斧を振りかぶった刹那、俺はゴンの真上に跳んだ。
「何ィ!?」
そのまま重力に任せた攻撃をだした。
恐らく腕の一本は持っていけるだろう。
だが予想は外れた。
ゴンの右肩に突き刺したジオフリードはそのまま貫くことなく刺さっていた。
傷は浅い。
「甘く見たな奥村。俺は生まれつき体が丈夫なんだよ!」
そんな理由あるかー!
何か他の理由があるはずだ。こいつにジオフリードが貫通しなかった理由が。
一体……
「奥村さんが未熟だからですよ」
後ろの方から天宮さんの声が聞こえた。
「まだレアリアを完璧に使いこなせていません。 だから貫けないんです。 奥村さんがそれを使いこなせていれば恐らく今の一撃で山男さんの右腕は落ちていたでしょう」
確かに……ってか実践経験が少ないから使いこなせないのは必然なのでは。
「まぁ見ててください。私が戦い方を……」
「待って下さい天宮さん」
天宮さんの後ろで剛が言った。
見ると剛の両の手は輝いている。
「森野さん……あなた」
「えぇ、やはり俺の守りたい人は女菊です。女菊のために……戦います。戦わせて下さい」
「……わかりました」
天宮さんが左に退く。
そして剛は俺のところに来た。
「楓、俺の最強っぷりを刮目せよ」
俺の肩を2回叩くと剛は誇らしげに言った。
まだ武器がわからないのになんという自信だ。尊敬するぜ。
剛が天に両手を掲げる。
剛の手の中で増した光が夜の公園を眩く照らす。
「来い……俺のレアリア!」
そして剛の手の中に現れたのは刀。
銀色に輝くその刀は光り輝いていて俺のや天宮さんのとは違った存在感を放っていた。
長さは1.8メートルと言ったところだろうか。
内1.3メートルは刃。
鋭く空間をも切り裂きそうなものだった。
「こいつが俺のレアリア……」
剛が目を見開いて刀を見つめる。
「そう、それが森野さんのレアリアです。名前は後で……」
「決まりました! こいつの名前は『大赦燐』です!」
決めるの早!
俺のジオフリードでさえ3日懸かったのに……
ちなみにジオフリードはカッコ良さそうなカタカナを考えただけで意味は無い。
「行くぞ山男ぉ! 試し斬りだぁ!」
剛はなんのためらいもなく突っ込んで行った。
ここら辺が俺と剛の違いなんだろう。
初めての実践で躊躇なく敵に突っ込むなど俺には出来なかったことだ。
突っ込んで行った剛はゴンの斧と刃を交えていた。
恐らくこのままでは剛の大赦燐が折れるだろう。見た目からもわかるがパワーが圧倒的に違う。
スパッ。
なんとゴンの斧が斬れた。
「んな……」
「まだまだ行くぜぇゴンさんっ!」
そのまま剛はゴンの懐へと入った。
そして脚・腹・腕を斬りつけた。
ゴンの身体から鮮血が吹き出す。
「そしてくらえ! 奥義・百過猟嵐!」
奥義まであるよ……
そして剛は一度ゴンから離れ、刀を肩口へ寄せた。
そして再度突っ込んだ。
ポスッ。
剛の大赦燐が消えた。
手の中から突然。
そのせいで剛はゴンの腹を殴る形になった。
「なんか知らんが運が悪かったみたいだな!」
ゴンは叫ぶとともに右拳を振り下ろした。
しかしゴンの拳が剛へ届くことはなかった。
「ご苦労様です森野さん」
剛に向けそう言い放った天宮さんの手には大層な斧・ストンベルダが握られていた。
これでゴンの右腕を切り落としていたのだ。
「ぐあぁぁっ! 俺の右腕がぁぁ!」
ゴンは右腕を押さえ叫んでいる。
「森野さん、力が目覚めて良かったですね。 今日からは奥村さんのように鍛えてくださいね。 じゃないと今みたいに急にレアリアが消えかねませんから」
「……すいません」
剛は結構覇気を失っていた。
急にレアリアが消えたことによる驚きなのか、天宮さんの手を煩わせたことによる不甲斐なさなのか。
ていうか何故天宮さんは俺が密かにトレーニングしてたのを知ってるんだ。
「この……許さんぞ天宮ぁ!」
ゴンが怒声を上げる。
残った左手にはいつの間にか斧が握られていた。
先程剛が斬ったはずだが。
「その斧の能力ですか」
「そうだ。 この斧はいくら破壊されようとも再生が可能だ。 さらに!」
ゴンは左手に持った斧を掲げると何やら力を込め始めた。
するとその斧はみるみる内に大きくなり、ゴンと同じ大きさになった。
「はははっ! これで先程までとは破壊力が段違いだ! 粉々になってしまえぇ!」
ゴンが斧を振りかぶる。
目標は天宮さん。
「危ない天宮さん!」
俺は叫んだ。
「大丈夫ですよ奥村さん。 それより危険ですから離れていてください」
俺は天宮さんからとてつもなく危険なオーラを感じ取った。
そして天宮さんがストンベルダを後ろに大きく引き、構えた。
━━ヒューヂパニッシュメント
すると公園に波紋のように衝撃が伝わり、木々を吹き飛ばす。
天宮さんが放ったその一撃で全てが決まったようだ。
ゴンの身体が二つに裂かれ、上半身だけがもがいていた。
「テメェ……いつかぶっ殺してやる……全身バラバラにしてやる……」
ゴンが掠れた声で天宮さんに言う。
するとゴンは黒い炎に包まれていった。
跡形が無くなるまでそんな時間はかからなかった。
……天宮さんを怒らせると怖いかもしれません。
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「最後の黒い炎も天宮さんの力なんですか?」
剛が天宮さんに問い掛ける。
「えぇ、私の斧には切った対象物を燃やす力があります。 その炎にはまた種類がありますが」
天宮さんは肩の埃を払うようにしながら答えた。
「しかし天宮さん」
俺は気になって止まないことを聞いてみることにした。
「この公園……どうするんすか?」
見渡せばそこは荒れ地と化した元公園。
木はなぎ倒され、地面は抉れ、砂場は砂が無くなっている。
「あぁ、これは本部の方がなんとかしてくれますよ、きっと」
「きっと、ですか」
俺と剛は笑ってしまった。
「では、ここは本部とやらに任せるとして、帰りますか。 うちにはかわいい妹がいるので早く帰らないと」
俺たちは皆して笑っていた。
夜の公園に3人の笑い声が響いた。
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