最推しがオヤジになりまして
◆ 第1章 わたしの夜は、あかりから始まる
夜の十時を過ぎると、
わたしの部屋は急に静かになる。
歌配信を終えたばかりの喉は、まだ少しだけ熱を帯びていて、胸の奥に残る余韻が、今日もちゃんと歌えたのかどうかを曖昧にしていた。
机の上のマイクをそっと横に寄せ、ノートパソコンの前に座り直す。
ここからが、わたしの“本当の夜”だ。
スマホが震えた。
画面には、見慣れた名前。
「あかり 配信予定:まもなく開始」
胸の奥が、ふっと軽くなる。
「……今日も、会える」
そう呟くと、一日の疲れが、少しだけ溶けていく。
配信が始まると、画面いっぱいに白い髪がふわっと揺れた。
薄紫の瞳が、まるでこちらを覗き込むように輝いている。
「わたしだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるね〜〜〜!!」
この頃のあかりは、まだ一人称が“わたし”だった。
その声は明るくて、軽くて、でもどこか、夜の静けさに溶けるような柔らかさがあった。
コメント欄が一斉に流れる。
「教祖きた!」
「今日もかわいい」
「パン助かる」
「わたし草」
あかりは笑いながら、ゲームを起動する。
「今日はね、ちょっと練習したんだよ。だから……たぶん……きっと……うまく……できる……はず……?」
結果は、もちろん壊滅的だった。
ジャンプはタイミングがずれ、敵には正面から突っ込み、落ちなくていい穴に落ちる。
でも、その全部が愛おしい。
わたしは歌い手だから、歌の難しさも、表現の難しさも知っている。
だからこそ、あかりの歌の凄さがよくわかる。
ゲームがどれだけ下手でも、パンの話でどれだけ暴走しても、歌い始めた瞬間、世界が変わる。
今日も、その瞬間が訪れた。
「じゃあ……一曲だけ、歌うね」
空気が変わる。
画面の向こうの光が、ほんの少しだけ強くなる。
あかりの声が、夜の部屋に静かに降りてくる。
わたしは息を呑んだ。
歌い手としてのわたしは、その技術の高さに震える。
ファンとしてのわたしは、ただただ幸せになる。
「……好きだなぁ」
思わず、声に出してしまった。
配信が終わると、部屋はまた静かになる。
でも、さっきまでの静けさとは違う。
あかりの声が、まだ耳の奥に残っている。
わたしはベッドに倒れ込みながら、天井を見つめる。
「今日も、かわいかったな……」
そう呟くと、胸の奥がじんわり温かくなる。
わたしの夜は、いつもこうして終わる。
あかりの声で始まり、あかりの声で満たされて、あかりの声で眠りにつく。
この日常が、ずっと続けばいいのに。
そう思いながら、わたしは目を閉じた。
――このときのわたしは、まだ知らなかった。
最推しが、気づけばオヤジになっていく未来を。
◆ 第2章 ラップ事件の前兆
翌週の夜、わたしはまたパソコンの前に座っていた。
歌配信を終えたばかりの喉は少しだけ乾いていて、冷たい水を飲みながら、あかりの配信開始通知を待つ。
スマホが震える。
胸の奥が、またふっと軽くなる。
「あかり 配信開始」
画面が切り替わると、白い髪がふわっと揺れた。
「わたしだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるね〜〜〜!!」
コメント欄が一斉に流れる。
「教祖きた」
「今日もかわいい」
「パン助かる」
「わたし草」
あかりは笑いながら、ゲームを起動する。
「今日はね、ちょっとだけ練習したんだよ。だから……たぶん……きっと……うまく……できる……はず……?」
もちろん、できなかった。
ジャンプはずれ、敵に突っ込み、落ちなくていい穴に落ちる。
でも、その全部が愛おしい。
わたしは歌い手だから、歌の難しさも、表現の難しさも知っている。
だからこそ、あかりの歌の凄さがよくわかる。
ゲームがどれだけ下手でも、パンの話でどれだけ暴走しても、歌い始めた瞬間、世界が変わる。
今日も、その瞬間が訪れた。
「じゃあ……一曲だけ、歌うね」
空気が変わる。
画面の向こうの光が、ほんの少しだけ強くなる。
あかりの声が、夜の部屋に静かに降りてくる。
わたしは息を呑んだ。
「……やっぱり、好きだなぁ」
そう呟いたとき、胸の奥がじんわり温かくなる。
歌が終わり、あかりがコメントを拾い始めたときだった。
画面に、見慣れない流れが生まれた。
「教祖、ラップできる?」
「ラップバトルしよ」
「パンで韻踏んで!」
わたしは思わず笑ってしまった。
あかりにラップなんて、絶対無理だ。
あかりは困ったように眉を下げる。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜わたし、ラップとか無理だよぉ……」
コメント欄は容赦ない。
「やれ」
「やれ」
「やれ」
「パンで韻踏め」
「教祖ならできる」
あかりはしばらく黙り、画面の向こうで小さく息を吸った。
「……じゃあ……ちょっとだけ、やってみる……?」
その瞬間、コメント欄が爆発した。
「きた」
「教祖覚醒」
「パンラップ助かる」
わたしは胸が高鳴るのを感じた。
あかりが何かに挑戦するときの、この空気が好きだ。
でも、結果は――
「Yo……よ……よ……パン……パンは……その……ふわ……ふわで……あの……えっと……」
テンポは崩壊し、韻も踏めず、語彙は迷子。
あかりは途中で笑い出してしまい、ラップは完全に瓦解した。
コメント欄は大爆笑。
「草」
「かわいい」
「ラップ向いてなさすぎ」
「逆に好き」
わたしも笑いながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
「……かわいいなぁ」
そう呟いたとき、ふと気づいた。
あかりは、挑戦した。
苦手でも、恥ずかしくても、リスナーのために。
その潔さが、たまらなく好きだった。
配信が終わり、部屋が静かになる。
でも、さっきまでの静けさとは違う。
あかりのラップ未遂が、耳の奥に残っている。
わたしはベッドに倒れ込みながら、天井を見つめた。
「……あかり、ラップは向いてないよ……」
そう呟きながらも、胸の奥はじんわり温かかった。
このときのわたしは、まだ知らなかった。
この“ラップ事件”が、最推しがオヤジになっていく第一歩だったことを。
◆ 第3章 時間が流れて、気づけば
ラップ未遂事件から、三週間ほどが過ぎた。
わたしの生活は相変わらずで、仕事に追われ、歌配信をし、夜になればあかりの配信を待つ。
ただ、あの日以来、わたしの胸の奥にはずっと小さな引っかかりがあった。
――あかり、ラップ苦手だったよね。
あのときの、テンポが崩れ、言葉が迷子になり、最後は笑いながら諦めた姿が、妙に可愛くて、忘れられなかった。
でも、あかりはその後、ラップの話題を避けていた。
コメント欄がいじっても、
「むりむりむりむりむりむりむりむり!!」
と全力で拒否していた。
その拒否の仕方がまた可愛くて、わたしは毎回笑ってしまっていた。
ある夜、配信が始まった。
「わたしだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるね〜〜!!」
あかりはいつも通りで、ゲームは下手で、パンの話になるとテンションが上がり、歌えば世界が変わる。
でも、その日の配信には、ほんの少しだけ違和感があった。
あかりの声が、いつもより少しだけ低く聞こえたのだ。
気のせいかもしれない。
でも、わたしは歌い手だから、声の変化には敏感だ。
「……あかり、なんか、変わった?」
そう思った瞬間、コメント欄がざわつき始めた。
「教祖、声低くない?」
「今日テンション違う?」
「なんか男前」
あかりは笑って首を振る。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜そんなことないよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜わたしはわたしだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
でも、その笑い方が、どこか“吹っ切れた人”のように見えた。
さらに一週間後。
配信が始まると、あかりは開口一番こう言った。
「わいだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
わたしは思わず固まった。
「……え?」
コメント欄も爆発した。
「わい!?!?」
「ついに来た」
「教祖の素が出た」
「わたし→わい進化完了」
あかりは照れくさそうに笑う。
「なんかね、最近こっちのほうがしっくりくるんだよね」
その言い方が、妙に男前で、妙に可愛かった。
わたしは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
変化って、こんなふうに静かに訪れるんだ。
その日の配信の終盤、あかりはコメントを拾いながら、ふとこんなことを言った。
「わい、なんか最近……新しいことしたくなるんよね」
その言葉が、わたしの胸に引っかかった。
新しいこと。
挑戦。
変化。
あかりは、また何かを始めようとしている。
でも、そのときのわたしはまだ知らなかった。
その“新しいこと”が、オヤジギャグラップという未知の才能を開花させる。
第一歩だったことを。
◆ 第4章 オヤジギャグラップの萌芽
あかりが一人称を「わい」に変えてから、さらに二週間ほどが過ぎた。
わたしの生活は相変わらずで、仕事に追われ、歌配信をし、夜になればあかりの配信を待つ。
ただ、最近のあかりには、どこか“吹っ切れた”ような雰囲気があった。
声のトーンが少し低くなった気がする。
笑い方が豪快になった気がする。
コメント欄のいじりにも、前より堂々と返すようになった気がする。
気のせいかもしれない。
でも、わたしは歌い手だから、声の変化には敏感だ。
その日の配信は、いつもより少し遅れて始まった。
「わいだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるよ〜〜!!」
コメント欄が一斉に流れる。
「わい草」
「教祖の素が出てきた」
「今日も男前」
「パン助かる」
あかりは笑いながら、ゲームを起動する。
「今日はね、ちょっと新しいことしたくてさ〜〜〜」
その言い方が、妙に意味深だった。
わたしは胸の奥がざわつくのを感じた。
新しいこと。
挑戦。
変化。
あかりは、また何かを始めようとしている。
ゲームが終わり、あかりがコメントを拾い始めたときだった。
「教祖、ラップの練習してる?」
「またバトルしよ」
「パンで韻踏んで!」
「オヤジギャグでラップすれば?」
わたしは思わず吹き出した。
あかりにオヤジギャグラップなんて、絶対無理だ。
あかりは困ったように眉を下げる。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜わい、そんな……オヤジじゃないもん……」
コメント欄は容赦ない。
「もうオヤジだよ」
「やれ」
「やれ」
「やれ」
「ギャグなら得意でしょ」
あかりはしばらく黙り、画面の向こうで小さく息を吸った。
「……じゃあ……ちょっとだけ……やってみる……?」
その瞬間、コメント欄が爆発した。
「きた」
「教祖覚醒」
「パンラップ助かる」
わたしは胸が高鳴るのを感じた。
あかりが何かに挑戦するときの、この空気が好きだ。
あかりは深呼吸をして、画面の向こうで姿勢を正した。
「じゃあ……いくよ……初めての……オヤジギャグラップ……!」
コメント欄がざわつく。
「草」
「やめとけ」
「期待してる」
「パンで韻踏め」
あかりは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
そして――
「Yo!メロンパンはメロンじゃないけど、うまいから許しメロン!」
わたしは固まった。
コメント欄も固まった。
一瞬の静寂。
そして――
「草」
「天才」
「なんでうまいんだよ」
「教祖、才能あった」
「パンで韻踏むな」
あかりは照れくさそうに笑う。
「あれ……?わい……なんか……いけてる……?」
わたしは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
あかりは、本当に、どんなことでも楽しんでしまう人だ。
そして、その楽しさを、ちゃんとリスナーに届けてくれる人だ。
配信が終わり、部屋が静かになる。
でも、さっきまでの静けさとは違う。
あかりのオヤジギャグラップが、耳の奥に残っている。
わたしはベッドに倒れ込みながら、天井を見つめた。
「……あかり、なんでそんなに可愛いの……」
そう呟いたとき、胸の奥がじんわり温かくなった。
このときのわたしは、まだ知らなかった。
この“オヤジギャグラップ”が、最推しが本格的にオヤジ化していく序章だったことを。
◆ 第5章 覚醒、オヤジギャグラッパー
あかりが初めてオヤジギャグラップを披露してから、さらに一ヶ月が過ぎた。
わたしの生活は相変わらずで、仕事に追われ、歌配信をし、夜になればあかりの配信を待つ。
ただ、最近のあかりは明らかに変わっていた。
声が少し低くなった。
笑い方が豪快になった。
コメント欄のいじりに対して、前よりも堂々と返すようになった。
そして何より――
ラップの話題を避けなくなった。
むしろ、ちょっと楽しそうにすら見える。
その日の配信は、いつもより早く始まった。
「わいだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるよ〜〜!!」
コメント欄が一斉に流れる。
「わい草」
「今日も男前」
「パン助かる」
「教祖、今日ラップする?」
あかりは笑って肩をすくめる。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜なんでみんなそんなにラップさせたがるんよ〜〜〜〜〜わい、別に得意じゃないよ〜〜〜〜〜」
コメント欄は容赦ない。
「いや得意だよ」
「オヤジギャグの天才」
「パンで韻踏む女」
「今日もやれ」
あかりはしばらく黙り、画面の向こうで小さく息を吸った。
「……じゃあ……ちょっとだけ……やってみる……?」
その瞬間、コメント欄が爆発した。
「きた」
「教祖覚醒」
「パンラップ助かる」
わたしは胸が高鳴るのを感じた。
あかりが何かに挑戦するときの、この空気が好きだ。
あかりは深呼吸をして、画面の向こうで姿勢を正した。
「じゃあ……いくよ……今日の……オヤジギャグラップ……!」
コメント欄がざわつく。
「草」
「期待してる」
「パンで韻踏め」
「教祖、頼む」
あかりは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
そして――
「Yo!クロワッサンは層が命だけど、わいの人生はそうでもないけど、まあええわ今日もサクサクいくで〜〜〜!!」
わたしは固まった。
コメント欄も固まった。
一瞬の静寂。
そして――
「草」
「天才」
「なんでうまいんだよ」
「教祖、才能あった」
「パンで韻踏むな」
あかりは照れくさそうに笑う。
「あれ……?わい……なんか……今日めっちゃ調子いい……?」
わたしは胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
あかりは、本当に、どんなことでも楽しんでしまう人だ。
そして、その楽しさを、ちゃんとリスナーに届けてくれる人だ。
その後も、あかりはラップを続けた。
「Yo!食パンは白くてふわふわだけど、わいの脳みそはスカスカやで〜〜〜!!」
コメント欄爆笑。
「Yo!あんパンの中身はあんこだけど、わいの中身はやる気だけ〜〜〜!!」
コメント欄爆笑。
「Yo!メロンパンはメロンじゃないけど、うまいから許しメロン!!」
コメント欄爆発。
わたしは笑いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
あかりは、気づけば、オヤジギャグラップを完全に自分のものにしていた。
配信が終わり、部屋が静かになる。
でも、さっきまでの静けさとは違う。
あかりのラップが、耳の奥に残っている。
わたしはベッドに倒れ込みながら、天井を見つめた。
「……あかり、なんでそんなに可愛いの……」
そう呟いたとき、胸の奥がじんわり温かくなった。
このときのわたしは、まだ知らなかった。
あかりがこのあと、ラップバトルで相手を圧倒するほどの“オヤジギャグラッパー”に進化することを。
◆ 第6章 ラップバトルと、最推しの覚醒
あかりがオヤジギャグラップを披露するようになってから、さらに数週間が過ぎた。
わたしの生活は相変わらずで、仕事に追われ、歌配信をし、夜になればあかりの配信を待つ。
ただ、最近のあかりは明らかに“強く”なっていた。
声のトーンは低くなり、笑い方は豪快になり、コメント欄のいじりにも堂々と返す。
そして何より――
ラップを怖がらなくなった。
むしろ、ちょっと楽しそうにすら見える。
その日の配信は、いつもよりざわついた空気で始まった。
「わいだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるよ〜〜!!」
コメント欄が一斉に流れる。
「教祖、今日バトルあるぞ」
「ラップ仕掛けマン来てる」
「今日こそ勝て」
「パンで韻踏め」
わたしは思わず身を乗り出した。
あの“ラップ仕掛けマン”。以前、あかりにラップバトルを挑んで、あかりをテンポ崩壊させた張本人。
今日も来ている。
コメント欄に、ひときわ目立つ一文が流れた。
「教祖、今日こそ勝負しようぜ」
あかりは一瞬だけ固まった。
でも、すぐに笑った。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜また来たん……?わい、ラップ苦手なんよ……でも……まあ、やるか」
その“潔さ”が、わたしはたまらなく好きだった。
コメント欄が爆発する。
「きた」
「教祖覚醒」
「パンラップの時間」
「今日こそ勝て」
あかりは深呼吸をして、画面の向こうで姿勢を正した。
「じゃあ……いくよ……今日の……オヤジギャグラップ……!」
相手のラップ仕掛けマンがコメント欄で挑発する。
「Yo Yo 教祖 今日も落ちるんだろ?」
「パンで韻踏めるわけないだろ?」
あかりは笑った。
「落ちるのはゲームだけやで〜〜〜!!ラップは落ちへん!!」
コメント欄爆発。
そして――
あかりは、まるでスイッチが入ったように、言葉を紡ぎ始めた。
「Yo!クロワッサンは層が命だけど、わいの人生はそうでもないけど、今日のわいはサクサクやで〜〜〜!!
パンの耳より聞いときや〜〜〜!!」
コメント欄が一斉に叫ぶ。
「強い」
「今日の教祖やばい」
「韻踏んでる」
「パンで韻踏むな」
相手が返す。
「Yo Yo 教祖 それギャグじゃん」
あかりは即座に返す。
「ギャグで勝てるなら最高やろ〜〜〜!!メロンパンはメロンじゃないけど、うまいから許しメロン!!ついでに勝ちももらっとくで〜〜〜!!」
コメント欄が爆発した。
「草」
「天才」
「なんでこんなに強いんだ」
「オヤジギャグで勝つ女」
「パン教ラップ部発足」
わたしは笑いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
あかりは、本当に、どんなことでも楽しんでしまう人だ。
そして、その楽しさを、ちゃんとリスナーに届けてくれる人だ。
相手は完全に沈黙した。
コメント欄は勝利宣言で埋まる。
「教祖勝利」
「パンの勝ち」
「オヤジギャグの勝利」
「ラップ仕掛けマン敗北」
あかりは照れくさそうに笑った。
「あれ……?わい……なんか……ラップ……いけるようになってきた……?」
わたしは胸の奥が熱くなるのを感じた。
あかりは、気づけば、本当にラップがうまくなっていた。
しかも、オヤジギャグという唯一無二の武器で。
配信の最後、あかりは照れながら言った。
「……あれ?わい……オヤジかも〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
コメント欄爆発。
わたしは笑いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
どんな姿になっても、どんな進化を遂げても、わたしはこの人を推し続けるんだろうな。
そう思った。
◆ 最終章 最推しがオヤジになりまして
あかりがラップバトルで勝利した夜、わたしはベッドに倒れ込んだまま、しばらく動けなかった。
笑いすぎてお腹が痛い。でも、それ以上に胸の奥が熱くて、なんだか泣きそうだった。
あかりは、本当に、どんな姿になっても魅力的だ。
歌えば世界を変えるような声を持っていて、ゲームは壊滅的で、パンの話になると暴走して、リスナーにいじられても笑って返して、挑戦すれば全力でぶつかって、失敗しても堂々としていて、そして今は――
オヤジギャグでラップをする。
そんなVTuber、他にいるだろうか。
翌日の夜、わたしはまたパソコンの前に座っていた。
あかりの配信開始通知が鳴る。
胸の奥が、またふっと軽くなる。
画面が切り替わり、白い髪がふわっと揺れた。
「わいだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!今日もパンの時間、はじめるよ〜〜!!」
コメント欄が一斉に流れる。
「教祖、昨日のラップ最高だった」
「今日もやれ」
「パンで韻踏め」
「オヤジギャグの天才」
あかりは笑って肩をすくめる。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜わい、そんなにオヤジじゃないよ〜〜〜〜〜でも……まあ、やるか」
その“潔さ”が、わたしはたまらなく好きだった。
あかりは深呼吸をして、画面の向こうで姿勢を正した。
「じゃあ……いくよ……今日の……オヤジギャグラップ……!」
コメント欄がざわつく。
わたしは息を呑んだ。
そして――
あかりは笑いながら言った。
「Yo!パンは膨らむ発酵のFlow!でも財布は膨らまない、Oh No!メロンパンの皮はサクサクだけどわいの人生はザクザクやで〜〜〜!!」
コメント欄爆発。
「草」
「天才」
「なんでそんなに強いんだ」
「パンで韻踏むな」
「教祖最強」
わたしは笑いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
あかりは、本当に、どんなことでも楽しんでしまう人だ。
そして、その楽しさを、ちゃんとリスナーに届けてくれる人だ。
配信の最後、あかりは照れながら言った。
「……あれ?わい……オヤジかも〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
コメント欄爆発。
わたしは笑いながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
あかりがどんな姿になっても、どんな進化を遂げても、わたしはこの人を推し続けるんだろうな。
歌い手としてのわたしは、あかりの歌に救われた。
ファンとしてのわたしは、あかりの笑顔に救われた。
そして今、オヤジギャグラップで笑わせてくれるあかりに、また救われている。
最推しがオヤジになっても、わたしは最推しをやめない。
むしろ――
もっと好きになってしまった。
わたしの夜は、今日もあかりで満たされていく。
そして、明日もきっと、その次の日もきっと、わたしはこの人を見続ける。
最推しがオヤジになりまして。
でも、
それでいい。
だって、
あかりはあかりだから。




