表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔女の最期

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/02/06

 強い魔力。

 誰のものだ?

 大悪魔である私を召喚できるなんて。


 そんな疑問は目にした光景と共に消えた。

 納得の後にくる一つの疑問。


「これはこれは。聖女様」


 数え切れないほど戦った相手だ。

 相手の力は嫌というほど知っている。

 だからこそ、その目的が分からない。


「立ち合いたいというわけでもなさそうだが?」


 まずは一番低い可能性を消す。

 いや、一番高い可能性だろうか。

 いずれにせよ、聖女は頷いた。


「あなたと契約をしたい」

「問題発言だな」

「そうね。私もそう思う」


 直後、彼女の背後にある揺りかごに気づいた。

 寝かされているのは赤子だ。

 まだ、生まれたばかりの。


「あなたの子か?」

「ええ。魔女の娘よ」

「……なるほど」


 全てを理解する。

 今になって呼ばれた部屋を見れば彼女には似つかわしくない古い塔の一室。

 いや、牢獄と言うべきか。


「異端審問か?」

「そうね。私は魔女。愚かにも聖女だと勘違いした魔女」


 悲痛な声だ。

 自らに言い聞かせるように繰り返された魔女という言葉が彼女の身体に残る数え切れないほどの傷をなぞる。


「誰の子だ?」

「知らない。色んな人がいたから」


 ざまぁみろと思った。

 少しだけ。

 何せ、彼女には散々苦しめられたから。


「けどね。魔女でも我が子は殺せない」


 最も苦しむであろう言葉を吐いた。

 けれど、彼女は揺るがない。


「だからね。あなたと契約したいの。この娘を私の代わりに育ててほしいの。私は明日。魔女でないと証明をしないといけないから」


 証明方法は水か。

 あるいは火か。

 いずれにせよ、本物の聖女なら奇跡が起こるだろう。

 もっとも奇跡なんて揉み消せば良いだけだが。


「悪魔は契約を断れない。そうでしょ?」

「そんなことはない。支払われた魂による。契約する価値のない魂ならば契約はしない」

「なら、あなたは断れない。だって私の魂は……」


 私は頷いた。


「さようでございますね。聖女様」



 *



 魔女は縛られて川に投げられたが浮かんできた。

 鎖をつけて再度沈めたが鎖が千切れた。

 ならばと火炙りにかけたが突如豪雨となり火は消えた。

 業を煮やした者が槍を持ち出したが今度はそこに雷が落ちた。

 遂に審問官は叫んだ


『石を投げろ。皆で』


 私はその光景を塔の上から見守った。


「何故、そこまでして奇跡を……神様を否定するのかね。」


 抱いた子供は母親が悲鳴もあげずに死んでいくのを見つめながら笑うばかりだ。


「理解できないね。本当に」


 長年の宿敵の最期。

 そして。


「……これはどういうこと?」


 突如、私の隣に立った女性の霊。

 呆然としたまま自分の体の方を見れば凄惨な光景。

 私は抱いていた赤子を彼女に放る。

 慌てて彼女は抱きとめた。


「ナイスキャッチ」

「説明して。どういうこと?」


 睨みつける彼女に答えた。


「あなたの魂はもう私のもの。つまりは奴隷。それをどう使おうが自由。私、子育てなんてしたことないから、あなたに押しつけるってわけ」


 固まる彼女に私は告げた。


「早く行きな。赤ちゃんにはあの光景は少し刺激が強いから」


 弄ばれる宿敵の骸を眺める。

 そんな私を尻目に新しい奴隷は一礼して飛び去った。

 大切な我が子を抱いたまま。


「バカだね。人間ってのは。自分達の守り手さえも殺しちゃうんだから」


 私の。

 大悪魔の声は果たして人間に届いただろうか。


 塔の上で一人、ため息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
めちゃくちゃ面白かったです! 宿敵だったはずなのに死んだ聖女の魂を幽霊として呼び出したのは「おお……!」となりました。なんだかんだで幽霊が困っていたら助けてあげちゃう悪魔さんだったらいいなあ……と思い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ