別れは突然
季節が過ぎる――
冒険者になった夏休み。
モデルとして王都中央で出向き、事件に巻き込まれ第二、第三王子と関わることになった冬休み。
勇者様と呼ばれる男の子と下層ダンジョンに落とされて大冒険をした春休み。
再び、王子様たちと王都の事件に巻き込まれて、なぜか演劇舞台の上にあがる中等部3度目の夏休み。
そして、私の家の不正を直接正すことになった冬休み。
様々な事件が起きた。走馬灯でわかっていたこともあったし、知らなかったこともあった。
私は最善に全力で努力して行動した。
「というわけで、来週は卒業式です。皆さん、気を抜かず頑張って登校しましょう!」
努力をすれば、結果が必ず出るわけではない。それでも、努力しないと得られない結果というものがある。
私は必死に生きた。
これからも必死に生きると思う。
HRが終わり、私は立ち上がり、一瞬だけ教室を見渡した。
騒がしいクラスメイトたち。結局、卒業まで誰も喋ってこなかった。時折、ほかのクラスの子は話しかけてくれた。
生きる上である程度のコミュニケーションは必要だ。
このクラスとももうお別れ。私はカバンを掴んで教室を出ようとした。
「ねえリリスさん、卒業式は僕と一緒に壇上に上がろうよ」
突然だった。フィリス君が話しかけてきた。
それを皮切りに、一斉にクラスメイトが話しかけてきた。
「そうだよ、せっかくの卒業式なんだから写真取ろうよ!」
「リリスさんってすごくかわいいでしょ? お化粧どんな風にしてるの?」
「なあなあ、舞台やモデルしてるなら、有名人とも知り合いなんだろ? サインくれよ」
心がしぼんでいく。私はこんな世界で生きていたんだ。
「ちょ、まってよ。リリスさんは僕たちのグループなんだからさ。ほら、キースと三人で冒険者ギルドに行ったんだよ?」
全然そんな記憶はない。やめてほしい、私はもう、あなたたちと――
その時、教室の扉がバンッと開いた。
「……なんだ、この有象無象どもは? リリス。準備はできたか?」
「ちょっと、アーシェ君、早いですよ」
第三王子アーシェ君。王都の事件で知り合った。彼は修行と称して、一年間冒険者として帝国へ留学する予定だ。
私は、その仲間兼護衛として同行する。
「だ、誰だよ君は! 僕は中央の第二王子様とも知り合いなんだぞ!」
「……貴様が嘘つきフィリスか。社交界では有名だな。嘘ばかりついて、周りの令嬢が呆れ返っている、とな。まあどうでもいい。そこをどけ」
フィリス君はそれでもどこうとしなかった。
「……はぁ、リリスの苦労が目に浮かぶ……、よろしい、ならば、第三王子として、ここにいる生徒に命ずる。――どけ」
アーシェ君が王子の証である、ペンダントを掲げ、威圧をかけた。
道が開く。フィリス君がヨロヨロと地面にへたり込む。
私には関係ないこと。彼は友達でもなんでもない。
「兄貴も待っている。早く行こう、リリス」
「はいはい、わかりました」
私は教室を出た。いつも通りの一歩。でも、私にとって、すべての始まりの一歩。
卒業式は出る必要がない。
私の家はもうなくなった。
私はただのリリス。
すべてのしがらみから解き放たれ、仲間とともに冒険の旅に出る。
恋は……まだわからない。
人生なんて、どうなるかわからない。
自分で道を切り開くことができるんだ。
***
キース。
卒業式一週間前。
俺は心に決めていた。卒業式の日に、リリスに土下座をして謝って、再び友達になってほしい、と告白をするんだ。
愛の告白なんて出来る段階じゃない。そんなことは百も承知だ。
あの日から、俺は心を入れ替えた。バカなことはせず、ひたすら真面目に学園生活を送ってきた。
だから、いきなりフィリスがリリスに絡むなんて思わなかった。
フィリスは嘘つきだってみんな知っている。それでも、顔と家柄の良さでクラスの人気を保っていた。
フィリスのことなんてどうでもいい。
今、教室に現れた第三王子と名乗る男が気になって仕方なかった。
正確には、リリスとの関係だ。
深い信頼がある間柄だ……。
いや、俺だってこれから頑張ればいい。高等部に上がったら、仲直りしたリリスと登下校して、一緒に弁当を食べて、ギルドも入ろう。
それで、それで……。。
リリスが王子と一緒に教室を去った。
なぜかその後ろ姿に違和感と胸騒ぎを覚えた。
……高等部に進学……本当にそうなのか?
この学園の生徒たちの進学率は99%だ。
ならリリスだって。
俺はいてもたってもいられなくて、職員室に駆け込んだ。
担任の先生にリリスの進路を聞くために。
「リリス君? 本当は言っちゃだめだけど、もう最後だしね。彼女は帝国の最高学府帝国貴族学園に留学するよ」
頭の中が真っ白になりそうだった。
リリスが高等部に進学しない……。
それが判明しても、俺の胸騒ぎが消えない。
最後だし? 最後ってどういうことだ?
あと一週間あるなら、どうにか連絡先を――
「あっ、リリスさんは――」
逸る気持ちが抑えられなくて、俺は担任の言葉を聞かずに職員室を駆け出した――
リリスの家があった場所は覚えている。
俺は走った。が、家があったはずの場所に何もなかった。
ただ、一人の男が立っていた。
くぼんだ目もと、ボサボサの頭、リリスの兄?
「あ、あの、リリスのお兄さんですか? あのリリスはどこに?」
「……リリス、ごめん。俺が悪かった。リリス、どこにもいかないでくれよ……」
リリスの兄はおれの腕を掴んで泣きだしてしまった。
リリスはもうここにいない。
そして――
「――リリスはもう学園に来ない……? え、それじゃあ、俺は」
リリスに会えないのか? もう二度と謝れないのか?
「そんな……お別れも、謝ることさえも……、俺は、俺は……」
泣き崩れる、兄を見ていたら、俺も子供みたいに泣きじゃくってしまった……。
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「『本当の恋心を見つけた』と婚約者に言われた私は……」
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