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私はもう恋なんてする必要もない――平凡でバカだと言われた庶民なので、何も言わずにいなくなりますね  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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2/6

凡人の限界


「うん、そうなんだ。僕は貴族ではあるけど、高位冒険者を目指しているんだ。笑わないでくれよ? これは僕たちだけの秘密だからね」


 夢のような時間だった。私は今までフィリス君とこんなに沢山話せたことはなかった。


「おい、フィリス、こいつに言っていいのかよ? 冒険者目指してるのを親にバレたら面倒だろ?」


「あははっ、リリスさんは真面目な子って知ってるから大丈夫だよ。だってほら覚えてる? 初等部の遠足で同じ班になった時――」


 夢はいつか覚めるもの。私はしどろもどろで話していたと思う。時間があっという間に過ぎ去った。


 どうんな風に別れたか覚えていない、どんな風に家に帰ったか覚えていなかった。






「おいリリス、お前俺が言った宿題やったのかよ? どうせ馬鹿だからやってないだろ」


 恋に浮かれていた私は、家に帰り、兄から浴びせられる罵声、失笑、冷笑で目が覚めた――


 兄の声を聞くと、反射的に手で頭を守ろうとしてしまう。兄は私のその姿を見て、不機嫌な表情へと変わり、私のスネを蹴った。痛いけど、声を出すと更に罵倒される。


「いいか、これはお前のためにやってるんだ。まったく、こんな時間に帰ってきて、お前は馬鹿だから、勉強しないとこのさき生き残れないんだよ」


 私たち兄弟はあまり頭が良くなかった。両親はそれを心配して私塾に連れて行ってくれたが、私は知恵熱を出して倒れてた。兄は勉強が出来なくて、塾の生徒に馬鹿にされいじめられていた。


 兄は力だけは強い。魔法の人並み以上に使える。でも、勉強は苦手。自分よりも出来ない私に教えることで優越感に浸っている。


 両親は将来、兄を冒険者にさせようとしている。


 両親には感謝している。どんなに嫌味を言われようが、こんな私を学園に行かせてくれて、食事を出して、家にいさせてくれる。

 

 それでも、家よりも学園にいた方がまだまし。この家にいると、心がおかしくなりそうだった。


 比較的裕福な商家の娘の私は、この先どこかの貴族の妾になる選択肢しかないらしい。両親が話しているところをこっそり聞いてしまったんだ。


『あんな愚図は貴族に売るのが一番だ』

『そうね、あそこの男爵家の三男ならちょうどいいわね。はぁ……まさか私の子があんなに頭が悪いなんてね……。もしかして病気なのかしら?』

『兄の方はまだましだ。冒険者にしてお金を入れさせよう。どこかで養子を迎えよう。そうすれば俺達も幸せになれる』

『ええ、中等部卒業したら嫁がせるようにするわ』


 うちと取引がある、とある男爵家の三男。今年で50歳近くのおじさん。……近所でも有名な変人で、お風呂にも入らず、徘徊していて……、私、そんな人のお嫁さんに……。



 だからどんなに勉強しても意味がない。私の将来は暗黒の未来しかない。……だから、本当は恋なんてしても……無意味なんだ。


「……うん、わかった。勉強する。だから、ぶたないで」


「べ、別にぶつつもりはねえよ。……わかればいいんだ」


 兄の視線の向かう先は青痣がついた私のスネ。罪悪感を覚えるならそんなことをはじめからしなければいいのに。


 兄は気が弱い。本当は誰かに暴力を振るうのさえ、苦手なはずなんだ。どこで私たちは間違えてしまったんだろう?




 ***





「ご、ごめんなさい、わ、私、でも、誰にも言って……」


「はっ? あんたが言いふらしたってみんな言ってのよ! ほら、早く土下座しなさいよ!」


 教室、ほぼ全員のクラスメイトの視線が私に向かっている。それがとても怖い。だって見に覚えないのない罪を被せられそうになっているから。


 私と家と同じ、商家で育ったフリーダさん。気が強い性格で、自分の思い通りにことが進まないと機嫌が悪くなる。


 可愛くて、話も面白いから大勢の友達がいる、私とは正反対な存在。


 そんなフリーダさんが私を責める。理由は、私がフィリスさんの「冒険者になりたい」という秘密をクラスメイトに言いふらした、からだ。


 私は誰にも話していない。だって、話せるような友達はいない。いつもクラスで一人で魔物図鑑を読んでいるんだ。


「じゃあなに? この私が嘘ついてるっていうの? その秘密はあんたとキースしか知らなかったんでしょ? ねえ、キース、そうでしょ?」


「あん? あ、ああ、そうだなリリスと俺しか知らねえよ。ていうか、お、俺が言うはずねえだろ? フィリスは親友だぜ」


 あれ? ちょっとまって? 今朝、キース君って、隣のクラスの豪農の娘のセリアさんと楽しそうにフィリスさんのことを話していたような気が……。私、影が薄いから、全然気が付かれていなかったけど……。


 キース君はセリアさんのことを狙っているって誰か言っていた。


「あ、あの、キース君、セリアさんと――」

「はぁっ!? てめえ俺のせいにするのかよ!!」

「ひぃっ……」


 大きな声は怖い。お兄ちゃんに殴られる時と一緒だから。男の人の圧が怖い。

 キース君は私の目を見ない。


 フリーダさんに肩をどんっ、と押された。


「はぁ……、マジでムカつくわ。あんた、中等部卒業したら、あの豚と結婚するんでしょ? わたし、親から聞いたんだ。ははっ、マジでお似合いね! ほら、早く、フィリスに謝りなさいよ! あんたが悪いことしたんだしょ!


「わ、わたしは……」


 段々と教室の雰囲気がおかしくなっていく。みんな、半笑いで私を見ていた。キース君が喋ったことはわかっているのに、面白がって見ているだけなんだ。


 怖い。人の悪意が怖い。だって、怯えている私を見て楽しんでいる。これがこの人たちにとっての娯楽なんだ。


 と、その時、何も言わずにみんなの話を聞いていたフィリス君が席を立った。

 フィリス君はゴミを見るような目で私を見た。


「もういいよ。言い訳をする君には幻滅だよ。……二度と話しかけてこないで」


 と言って、私の頭にぶどうジュースをかけた――



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