第4章 選んだあとの距離 第2話 現地実技 4/7
さらに別の場所。
そこでは講師たちが
一際厳しい視線を向ける
候補生の姿があった。
その三人の候補生の動きは、
他の候補生たちとは、わずかに違っていた。
ビリジーナは、区画に入るなり足を止めなかった。
奇跡は使わない。
だが、立ち位置を変えない。
負傷者の間を縫うように歩き、状態を一人ずつ確認していく。
呼吸。意識。脈。
声をかけ、周囲の者に的確に指示を出す。
「この人は後。
今はこっちを先に」
言い切りだった。
迷いがない分、反発も招く。
「後って何だ、危ないんだぞ!」
荒い声が飛ぶ。
だが彼女は、それを受け止めるように、決して視線を逸らさなかった。
倒れない。
場を崩さない。
自分が揺れれば、流れが崩れることを理解している。
その姿は、奇跡を使わない聖女の“理想像”に近かった。
一方で、ジェンメリアは違った。
声が聞こえた瞬間、身体が先に動いている。
倒れかけた者に駆け寄り、反射的に魔力を流し込む。
「待って、出力──」
誰かの制止は、間に合わなかった。
淡い光が弾ける。
熱が引き、咳が収まる。
奇跡は成功した。
だが、彼女の呼吸は荒く、額に汗が浮かんでいる。肩が小さく上下していた。
それでも、止まらない。
次へ。
さらに次へ。
助けられるなら、助ける。
越えてはいけない線を、理解した上で踏み込んでいる。
才能がある者ほど、引き返せない。
それを、彼女自身が一番よく分かっていた。
そして、テリカ。
彼女は、すぐには動かなかった。
喧騒の中で、一歩引いた位置に立ち、全体を見ている。
人の流れ。
声の集まる場所。
神官の位置。
運び込まれる患者の順。
奇跡は使わない。
だが、完全に引いているわけでもない。
「ここは詰まってる」
「運べる人、三人欲しい」
必要な言葉だけを選び、場を動かす。
自分が前に出るよりも、全体が回る配置を優先している。
奇跡を使えば、救える命はある。
だが、使わなければ、救われ続ける流れが残る。
その計算を、彼女はもうしていた。
誰も気づかない。
だが、講師たちは見ていた。
三人の少女は、同じ場所に立っている。
同じ空気を吸い、同じ悲鳴を聞いている。
だが、選んでいる未来は、すでに違っていた。
その差は、現場ではまだ「個性」として処理されている。
誰も、明確な線を引かない。
泣き声も、怒号も、咳も、すべてが混ざり合う中で、違いはまだ埋もれている。
だが、現場の外では、その判断は必ず言葉にされる。
評価という形で。
責任という形で。
候補生たちが知らない場所で、すでに記録は動き始めていた。




