第4章 選んだあとの距離 第2話 現地実技 3/7
訓練区画に入ると、すぐに声が飛んできた。
「こっちだ!
人手が足りない!」
倒れている者。
咳き込む者。
すでに、動かない者。
そこは、いつもの人形患者とは、違う。
目が合う。
声が届く。
手を、掴まれる──!
その瞬間、候補生の一人が反射的に奇跡を使った。
熱が下がり、呼吸が整う。
淡い光が消えると同時に、周囲から安堵の声が上がった。
だが、次の瞬間。
「こっちもだ!」
「こっちも早く!」
奇跡を使ったことが、場を変えた。
人が集まり、期待が集まり、視線が集まる。
別の候補生は、立ち尽くした。
奇跡を使えば、救える。
だが、使えば──。
他が、見えなくなる。
講義の言葉が、遅れて浮かぶ。
配置。
持続。
選ばなかった命。
一人の候補生は、あえて奇跡を使わなかった。
代わりに、声を出す。
「この人を運んで!
順番を作って!」
誰かが反発する。
「おい聖女だろ!?
奇跡を使え!」
現地の人々の声に、候補生たちの胸が痛む。
ここの者に奇跡を使わない選択は、理解されない。
別の場所では、別の候補生が奇跡を途中で止めた。
出力を抑え、持続を短くする。
一人は救えた。
だが。
全員は無理だった。
さらに別の場所には、講師たちが一際厳しい視線を向ける候補生の姿があった。
その三人の候補生の動きは、ほかの候補生たちとはわずかに違っていた。
焦りに呑まれず、しかし躊躇もない。奇跡を使うか否か、その選択の間にある“間”が、ほんのわずかに短い。
その視線は厳しい。
だが、講師たちは何も言わない。
ただ、見ている。




