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第4章 選んだあとの距離 第2話 現地実技 2/7
疫病都市は、遠くから見ても分かった。
城壁の外に広がる仮設区画。白布で覆われた建物が、無秩序に並んでいる。煙が低く漂い、空はどこか霞んでいた。
空気に濁りがある。候補生たちは、馬車を降りると同時に布で口元を覆った。
薬草と消毒薬の匂いが混じり、喉を刺す。
微かな咳が、あちこちから聞こえた。
すぐに現場へ入るものだと、誰もが思っていた。
だが。
最初に案内されたのは、区画の端に設けられた簡素な礼拝所だった。
イザベラが先に中で待機していた。
その隣にいたのは、数名の神官だった。白衣は擦り切れ、目の下には深い影がある。
疲労は隠されていない。
「……聖女候補の方々、ですね」
声に、期待はない。
感謝もない。ただ、確認だけがあった。
「奇跡を行使される場合は、必ずこちらの指示に従ってください。
勝手な判断での治療は、混乱を招きます」
候補生の何人かが、戸惑ったように視線を交わす。救いに来たはずなのに、歓迎されていない。
その空気を、講師たちは訂正しなかった。必要な手順を終えただけだ、と言わんばかりに。
「では──。
現地実技訓練を開始する」
短い宣言だった。
「指示は出さない。
奇跡の行使は、各自の判断に委ねる」
それだけだった。




