第4章 選んだあとの距離 第1話 歓迎されない場所へ (前半)
その年、候補生は多かった。
「残っていた」という意味で、だ。
訓練校が始まって
この段階で二桁の人数が残る年は──
ほぼ、無いに等しい。
彼女たちは才能があったからではない。
優しかったからでも、正しかったからでもない。
彼女たちは、まだ、壊れていなかった。
ここは奇跡を教える場ではない。
「使っていい場所」
「使ってはいけない場所」
それを身体で覚えさせるための場所。
理解できた者だけが、次へ進む。
そして、理解してしまった者ほど──、深く傷つく。
いまは、現実を知る前と、知った後の境目。
『聖女は、常に歓迎される存在』
彼女たちは、まだ信じている。
だからこそ、行かせる──。
小会議室の扉が閉まると、外の足音は完全に遮断された。
蝶番が鳴ることもなく、扉は最後まで静かに閉じ切る。そのわずかな気圧の変化さえ、部屋の空気を引き締めた。
石壁に囲まれたその部屋には、簡素な机と三脚のランプ、そして一枚の地図だけが置かれている。
余分な備品はない。
会議というより、判断のためだけに用意された空間だった。
ランプの淡い光に照らされ、地図の中央が浮かび上がる。
その上には、二つの赤い印。
疫病都市。
拒否地区。
マルコは椅子に腰を下ろしたまま、地図から視線を離さない。
背もたれには寄りかからず、両足を床にしっかりとつけた姿勢のまま、赤印を見つめ続けている。
肘は机に置かず、指先だけがわずかに組まれていた。
長い沈黙が流れた。
誰も、その時間を短くしようとはしない。
沈黙もまた、この場の手順の一部だった。
やがて、マルコが静かに口を開く。
「……十四、名……」
数字そのものを確認するような、低い声だった。
言い切るでもなく、問いかけるでもない。
「入校時より減っていますが、それでも例年より多いですね」
イザベラは即座に応じる。
視線は地図ではなく、手元の端末に落ちている。
画面には、候補生の一覧と脱落理由が整然と並んでいた。
「途中離脱、体調不良、適性外。
想定範囲内の脱落です。むしろ、この段階で十四名残っている方が異例です」
指先で画面を滑らせながらも、声色は変わらない。
「だよな」
ラファエルは椅子の背にもたれながら苦笑した。
片足を少し前に投げ出し、腕を組む。だが視線だけは地図に向けられている。
「例年なら、現地に連れて行く頃には十人を切ってる。
今回は……多い」
“多い”という言葉に、誰も否定を挟まなかった。それは、喜びを含む評価ではない。
人数が多いということは、判断の遅れが増える。
責任の所在が曖昧になる。
そして。
現場で誰かが必ず取り残される。
空気が、わずかに重く沈む。
「だからこそ、段階を踏みます」




