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 第3章 覚悟を測る 第4話 何も起こらない場所 1/6

 


 第三講義室は、訓練場とはまるで違っていた。

 広い。

 静かだ。

 何も起こらない。


 石造りの壁に囲まれた空間には、装置も人形もない。

 あるのは、机と椅子、そして前方の講壇だけだった。


 候補生たちは、ばらついた足取りで席に着く。

 誰もが疲れている。

 だが、それ以上に──混乱していた。


 奇跡は使っていない。

 それでも、身体は重い。

 指先に、まだ熱が残っている気がする。


 あの訓練で、何を間違えたのか。

 あるいは、間違えていないのか。

 答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。


 講壇に立ったのは、イザベラだった。

 手元の端末を操作しながら、淡々とした声音で告げる。


「先ほどの機械式訓練において、魔力残量の低下が確認された候補生が、複数います」


 室内が、わずかにざわめいた。


 そんなはずはない。

 使っていない。

 祈っていない。


 その思いが、誰の胸にも浮かぶ。


「ここでの訓練用魔力は、講師側の魔力供給によって動作しています」


 イザベラは、候補生たちの反応を見ない。


「設計上、あなたたちが魔力を消耗する理由はありません」


 言い切りだった。

 だからこそ、否定の言葉が、喉に詰まる。


「それでも、実際には魔力が減った」


 短い沈黙。

 イザベラは、視線を上げる。


「この時点で、原因を“精神的疲労”や“緊張”で済ませようとするなら、あなたたちは、いずれ自分の身体を壊します」


 誰かが、息を呑んだ。


「奇跡を使ったから魔力は消耗する。

 それは、半分だけ正解です」


 イザベラは、淡々と続ける。


「使っていない“つもり”でも、身体は、勝手に魔力を流す」


 候補生たちの表情が、わずかに強張る。

 思い当たる感覚が、確かにあった。


 集中した瞬間。

 成功した直後。

 正しく動けた、と確信した時。


 身体の奥が、熱くなった。


「聖女の魔力は、意志だけで制御されるものではありません」


 講壇の横に、簡易的な魔力循環図が投影される。

 人の身体。

 血管に似た流れ。

 中心に、淡い光の核。


「呼吸、感情、姿勢、判断。

 それらすべてが、魔力の流れに影響します」


 イザベラは、そこで一度、言葉を切った。


「“正しくあろうとする意志”は、最も魔力を消費する状態の一つです」


 沈黙が、落ちる。

 誰も反論できない。

 あの訓練で、正しく動こうとしていなかった者はいない。


「だから、知ってもらいます」


 イザベラは、静かに告げた。


「自分の身体が、いつ、どこで、どれだけ魔力を使っているのかを」


 


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