第3章 覚悟を測る 第2話 未来に読まれる言葉 4/4
【追加報告】
当該事案以降、使用者は奇跡行使の際、著しい遅延を示すようになった。
残存点数に余裕がある場合でも、行使を躊躇する傾向が確認される。
講義室の空気が、少しずつ冷えていく。
イザベラは、ただ、事実として問いを投げる。それは、答えを求めるような口調ではなかった
──この人物は、その後どうなったと思いますか?
誰も手を挙げない。
「聖女認定は、されました」
一瞬、安堵が走る。
「──ですが。
前線には立っていません」
その言葉で、候補生の中にざわめきが広がる。
「奇跡の失敗はありません。
暴走も、失神もない。
規定違反も、虚偽記載もない」
イザベラは、少しだけ言葉を区切った。
「それでも、この人物は、“判断が遅れる聖女”と記録されました」
候補生たちに静寂が訪れる。
「ログは、正しく書かれていました。
ですが、書かれていないものがありました」
画面に、同じログが再表示される。
ただし、ある部分だけが淡く強調されていた。
『判断に迷いはなかった。』
イザベラは、はっきりと言った。
「これは事実ではありません。
迷いはありました。
ログには書かれなかっただけです」
候補生たちは、息を詰める。
「次に見せるのは、別のログです」
【記録番号:B-042】
今度の文章は、少し違っていた。
対象三名。
救命可能人数一名。
私は、最も近くにいた子どもを選択した。
兵士二名は救命できなかった。
判断理由として“子どもを見捨てられなかった”と記す。
室内に、明確な動揺が走る。
イザベラは冷静に告げる。
「この人物は、規定上“感情的判断”と評価されました。
減点もされています。
講師からの注意も受けました」
画面が切り替わる。
【後日記録】
当該人物は、その後も前線に立ち続ける。
奇跡行使の精度に問題なし。
判断速度も、平均以上。
候補生たちの視線が、画面に釘付けになる。
イザベラは、その様子を見渡しながら、きっっぱりと言った。
「どちらが“正しい聖女”か、答えは出しません。ですが、これだけは覚えておきなさい。
ログは、あなた方を守りません。
評価者が、あなた方をどう扱うかを決めるだけです。
そして──」
イザベラは、最後に付け加えた。
「ログは、あなた方が“どんな人間であり続けるか”を、後から追いかけてきます」
画面が暗転すると、しめの言葉はなく「今日はここまで」と講義が終了する。
候補生たちは、立ち上がれずにいた。
自分が書いたログが、未来のどこへ繋がるのか。
その重さだけが、胸に残っていた。
「午後から実技訓練を行います。
遅れない様に集合してください」
候補生たちが講義室を出る際、イザベラは淡々と告げた。
「タブレットを回収します。
確認しますので、午後に備えてください」
候補生たちは、どこか落ち着かない様子で端末を提出していく。
自分の判断が、文章として誰かに読まれる──。
その事実が、今さら重くのしかかっていた。




