第3章 覚悟を測る 第1話
朝の訓練を終えた候補生たちは、
いつもと同じ動きで訓練場を後にした。
息は乱れていない。
魔力の立ち上がりも、
体の切り替えも、
もはや意識の外にある。
誰かが声をかけなくても、
列は自然に整う。
水を飲むタイミングも、
装備を外す順番も、
ばらつきは少ない。
──こなせるようになった。
それが、全員に共通した感覚だった。
初日の緊張は薄れ、
失敗への恐怖も形を変えている。
間違えないように、
遅れないように。
周囲と同じ動きをしていれば、
大きく外れることはない。
そう信じられる程度には、
彼女たちは訓練校に慣れていた。
集合を告げる合図が鳴ると、
候補生たちは講義室へ向かう。
そこに焦りはなく、
期待も、
警戒も、
ほとんど表に出ていない。
これから何が行われるのか。
それを、誰も深く考えようとしなかった。
ここでは、いつも
「必要なこと」が行われる。
そう思い込めるだけの実績が、
すでに積み重なっている。
だが、秩序が整い始めた場所ほど、
わずかな歪みは、見えにくくなる。
正しく動けるようになった者ほど、
正しくない選択肢を、
意識の外へ追いやってしまう。
この日の予定も、
特別なものではない。
少なくとも、
候補生たちにとっては。
まだ誰も知らないだけだ。
今日の流れが、
これまで積み上げてきた「慣れ」を、
そのまま通してはくれないことを。
静かな足取りで席に着きながら、
候補生たちは、それぞれに思う。
──今日も、きっと大丈夫だ。
そう信じられるうちは、
まだ余裕がある。
その余裕がどこで、
どう崩れるのかを、
静かに示し始める。




